バケツ頭のオッサン提督の日常   作:ジト民逆脚屋

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うぇあ!ジプシー・デンジャーも予約開始です!



あ、活動報告に、首領金剛の話書いたりしてますです


オッサン、再起動

快音が聴こえる。金属と金属がぶつかり合う音、削り合う鋭い音が聴こえる。

激痛の中、五百蔵は目を覚ました。全身に走る鈍い様な掻き毟る様な痛みと疼く様な熱、それらを吐き出すかの如く深く息を吐き、肺の中を入れ換える。

吐き出した息にも熱がある様に感じる。体が重い、しかし、五感は確りとある。

 

快音が続いている。

霞む目を動かし、機体内のコンソールを確認する。

どのコンソールもノイズが走りながら、機体の各所の状況を伝えている。

全身にアラートが鳴り響いているが、特に左腕が酷い。

出力も機能も平時の半分も稼働していない。

 

[おはようございます。お目覚めですか?]

 

チェルノ・アルファからのアナウンスが届く。

 

[只今、当機は余力状態で稼働中、リアクター出力低下、左腕大破により出力低下、右肩部熱放射タービン喪失、頭部装甲破損、各部装甲閉鎖、パイロット保護を最優先としております]

 

アナウンスは続いていく。

 

[左腕機能並びに右肩部熱放射タービンの復旧は不可能となっております。頭部装甲第三層まで破損、メインカメラ視覚素子に異常発生、第二第三サブカメラを再配置、衝撃による装甲ダメージにより防御力低下]

 

アナウンスと共に、コンソールに機体の状態が羅列されていく。

画面に映るデフォルメされた機体図が赤く染まっていく。

無事な箇所は右腕のみ、他の箇所はほぼ全てが赤く染まっていた。

 

[当機の現在の稼働率は約40%、些か厳しいですが戦闘行動可能と判断します]

 

快音が止み、次は轟音が響き始めた。

重量物同士がぶつかり合う音、聞き慣れた音だ。

 

[ダメージ箇所の復旧を続行]

 

アナウンスを聴きながら、呼吸を続ける。

打撲による熱が酷い。投げ出された時の衝撃で内臓がミックスされた様な錯覚を覚える。

立ち上がる足に力が入らない。四肢が分離したかの様に感じる。

頭が鈍い、瞼が重い。目を開けていられない。

意識が落ちていく。

 

[パイロットの意識レベル低下]

 

意識が泥濘に沈んでいく中、五百蔵は声を聞いた。

 

『提督!』

 

小さく弱々しい声が五百蔵に届いた。

 

『提督!しっかり!しっかりしてください!』

 

自分は今、何をしている?

何をしようとしていた?

目の前で、愛する者が叫んでいるのに、何をして何をしようとしていた?

 

『冬悟さん!』

 

愛する者を守る。その為の図体の筈だ。

それが何だ、この体たらくは?ふざけるな。

 

[パイロットの意識レベル上昇]

 

ふざけるな、この図体は守る為にある。

ならば、倒れている暇はない。

立ち上がれ、拳を握れ。

さあ、第二ラウンドだ。

 

[チェルノ・アルファ再起動、リアクター出力再上昇、機体出力戦闘モード、パイロット保護を最優先、右腕『Roll of Nickels』装填]

 

拳は握った、さあ、行くぞ

後は、振るうだけだ

満身創痍の鉄巨人が唸りをあげて立ち上がる。

 

「てい・・・とく・・・?」

「おはよう、吹雪君。手間を、かけたね」

「冬悟さん!」

「榛名さんも、申し訳ないね」

「よう、叔父貴、いけるのか?」

「ああ、木曽君も手間をかけさせたね」

「気にするなよ、自分でやった事だ」

 

後は、取り戻すだけだ。榛名、吹雪、木曽に手を振り、復活した鉄鎚が愛する者達を背に

 

「いってくる」

 

一気に加速した。

 

 

 

 

 

 

 

霧島は、やりづらさを感じていた。

実力としては、簡単に倒せる程度の相手でしかない。

そんな格下の相手に、不本意な苦戦を強いられていた。

 

「この・・・・!」

 

理由は数あれど、大きな原因は一つ、胸部に納まっている駆逐艦娘『睦月』だ。

彼女は恐らく、吹雪のトラウマに関係している。ここで、彼女ごと仕留める訳にはいかない。

彼女が居なければ、一気に片はついている。だが

 

「ちっ!」

 

舌打ちを一つ、あの胸部の裂傷は五百蔵が付けたもの、五百蔵も彼女に驚いて、不意を討たれたのだろう。

そうでなければ、この程度の相手にあの様なやられ方はしない。

アレもそれが分かっているのか、こちらが装甲を掴もうと手を伸ばせば、彼女を前に出してくる様に体を捌いてくる。

実に鬱陶しい事この上ない。

 

こちらは防戦一方、やはり、最初の不意討ちで警戒させてしまったか。

とにかく、霧島が伸ばすロミオ・ブルーの腕を斬りつけるように捌いている。

厄介な、霧島は面倒を覚えた。

 

このタシット・ローニンは実に面倒で鬱陶しい相手だ。

力も技も何もかもが、自分より格下。

その癖、自分の腕をここまで捌いている。正直、捌かれようが無視して掴み、投げる事は出来る。

だが、それをすると睦月に危険が及ぶ。

生死は不明だが、霧島が知る限り死人にしては血色が良いので、死んではいない筈だ。

 

タシット・ローニンが米神を刺すように刃を振るってきたので、肘の内側に手刀を打ち込む。

左腕を切り落とすつもりで強く打ち込んだが、打ち込んだ手がグニリと肘にめり込んだ。

そう、厄介な事はこれだ。こいつはやけに柔らかい。

脆いのではなく、柔らかい。強靭で柔軟、そして、重い。

 

先程の不意討ち、そのまま投げ倒すつもりで当て身を行ったが、予想外の重量と自分の体勢の不十分で投げる事が出来なかった。投げなかったのが正解だったが。

あの細い体のどこに、あの重量を押し込んでいるのか分からなかったが、今の手刀で分かった。こいつには、骨が無い。

こいつが纏っている装甲は防御の為ではなく、自分をあの型に押し込む為の矯正器具として纏っている。

こいつは、全身の全てが恐ろしく強靭で柔軟な筋肉のみで構成されている。

生半可な打撃は通用しないだろう。五百蔵とは相性が最悪だ。

 

「面倒な・・・!」

 

このタシット・ローニンを投げる為には、腕、上半身の力だけでは崩せない。足を払う必要がある。だが、こいつの足は、鳥と言うか獣と言うか、関節が逆向きで一つ増えている。

しかも、足捌きが独特で、奇形の足も相まって払い辛い。

崩さずに投げる事も出来るが、その為には、深く手指を噛ませ、組付かないと無理だ。投げに移る途中で、手指を掛けた箇所が千切れるか、抜けてしまう。

さて、どうしたものかと、思案しつつ、タシット・ローニンが繰り出してくる腕刀を捌いていると、大型船の汽笛にも似た轟音が轟いた。

 

「義兄さん!」

「面倒をかけたね!霧島君!」

 

轟いた轟音に、霧島もタシット・ローニンも思わず振り向いた。

タシット・ローニンは、驚愕していた。もう動けないと判断して、後は仕留めるだけの相手が復活してきたのだから。

 

そして、驚愕に振り向いたタシット・ローニンの頭部に、チェルノ・アルファの左肘が振り下ろされた。

体重と助走の勢いを乗せた肘は、タシット・ローニンの頭部装甲を砕き黄緑の体液を撒き散らす。

それだけでは終わらず、落ちた頭に右拳が打ち込まれ、威力に頭が跳ねる。

砕けた装甲を散らしながら、タシット・ローニンが頭を上げようとするが、打ち込まれた左肘がそのまま残っており、頭が上がりきらない。

そこに、思い切り振りかぶった右拳が打ち下ろされた。

 

「さあ、第二ラウンドだ!そして、その子を返して貰おうか・・・!」

 

横須賀の戦いは、佳境に移った。




次回は、吹雪&磯谷&木曽、横須賀悪ガキ隊パートで、最終ラウンド!

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