バケツ頭のオッサン提督の日常   作:ジト民逆脚屋

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はい、背骨が痛い逆脚屋ですぅ!
今回で、横須賀騒動終わらすつもりが、終わりませんでしたぁ!後、新キャラ登場しますぅ!


活動報告にちょっとした募集を載せています。宜しければ、ご応募お願い致します。


吹雪の決意

「提督・・・」

 

三体の鉄巨人がぶつかり合う音が響く雨の中、吹雪が祈る様に言葉を紡いだ。

先程、再起動を果たしたチェルノ・アルファを駆り、再び戦場へと舞い戻った五百蔵冬悟、機体の各所から黒煙を上げながらも、轟音を轟かせ霧島駆るロミオ・ブルーと共にタシット・ローニンを取り押さえようとしている。

それを、食い入るように見詰めていた。

 

「提督・・どうか・・どうか・・」

「吹雪ちゃん・・」

 

その吹雪を心配そうに見詰め寄り添う榛名と先程の剣劇の負荷から呼吸を乱し踞る木曽。

やがて、ある程度息を整えた木曽が口を開いた。

 

「吹雪、あの睦月か?お前のトラウマの原因は」

「・・・!」

「当たりか」

「木曽さん!貴女!」

 

抗議の声を上げようとした榛名を手で制し、木曽は続ける。

 

「吹雪、俺はお前の過去に何があったのか、それをよくは知らない」

 

木曽は、空を見上げ大きく息を吐いた。

そして、一度目を閉じて雨露に冷やされた空気を取り込む様に息を吸い、ゆっくりと閉じた目を開けて吹雪と榛名を見据えた。

 

「良いか?吹雪。お前の過去を俺は知らない。だが、これだけは言える」

 

ああ、確信を以て言える

 

「吹雪、お前は睦月を殺していない」

 

木曽は続ける。

 

「良いか?俺が見た限りでは、睦月は死んでいない」

「それ、は・・・?」

「死人にしては血色が良い、それに、死人なら何かしら腐敗なりある筈だ。それが無い」

「でも・・・」

「良いか?吹雪。何度でも言うぜ、お前は睦月を殺していない」

 

そうだとも

 

「睦月はあそこに居て、あのバケモンに捕まってる。そんな風に考えれば筋は通る」

「睦月ちゃんが・・・生きてる・・・」

 

先程まで暗かった吹雪の瞳に光が戻り始める。

吹雪は、口の中で転がす様に自分の言葉を紡いだ。

 

 

ーー睦月ちゃんは、生きているーー

 

 

「だから、吹雪。瞳を開けろ手を伸ばせ、瞳を閉じて手を引っ込めていたら、何も掴めねぇよ」

「木曽さん」

「そうですよ、吹雪ちゃん。生きて掴み取りましょう」

「榛名さん」

 

そう言って、吹雪に笑い掛ける木曽と榛名。

 

「さて、それなら何とかして、アレから睦月を引き剥がさねぇとな・・・あ?」

 

立ち上がろうと、脚に力を入れた木曽だが、その体は前のめりに倒れていった。

おかしい、木曽は思った。確かに、自分の体はかなりの負荷が掛かっている。

しかし、立ち上がれない程ではない筈だ。現に、足には立ち上がる為の力が入っている。

そう思案し、木曽は気付いた。

自分の体を浮かす浮遊感にも似た感覚、下から無理矢理押し上げられたかのような力の掛かり方。

木曽は見た。自分が座っていた場所、アスファルトで舗装された地面が下から持ち上げられているのを。

 

ーー敵か!ーー

 

水溜まりが眼前に迫る中、吹雪が此方に手を伸ばしているのを、榛名がその吹雪を庇うように前に出ているのを、木曽は見た。

 

「吹雪!榛名!」

 

木曽は即座に、脚に込めていた力を込め直し方向転換を計った。目標点は榛名と吹雪と地面の穴との間、利き脚を前に出して地面を蹴り・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おい!鈴谷早く行けって!』

『天龍こそ!』

『いいから、二人共進めよ!』

 

出そうとしたが、聞き慣れた声を聞き、一気に脱力し顔から水溜まりに突っ込んだ。

 

『いいから、その無駄にデカイケツ退けろよ!』

『はぁ?!天龍、セクハラじゃんそれ!』

『狭いんだから、早くデカケツ退けて行けよ!』

『天龍と摩耶こそ、そのデカチチもげばいいじゃん!』

『『んだと、デカケツ!コルァ!』』

 

「あの、三人共何をしてるんですか?」

「榛にゃん、おっひさ~」

 

地面の穴から、鈴谷が暢気な挨拶と共に這い出てきた。

 

「あ~、狭かった」

「まったくだ」

 

続いて、天龍、摩耶の順で横須賀悪ガキ隊の残り二人が這い出てきた。

三人は往々に肩を回したり首を鳴らしたりと、ストレッチをして吹雪を見た。

 

「お!ふぶっち、元気出た?」

「え?」

「おう!吹雪、調子はどうだ?」

「あの?」

「うるせぇよ二人共、見りゃ分かんだろうがよ!」

「あ、あの~」

「「「どうした?」」」

「木曽さんが・・・」

 

吹雪が指差す方向、自分達がアスファルトの隠し扉を押し上げた方向に、熊が居た。正確には、顔面から水溜まりに突っ込み、尻を高く上げた体勢で倒れているので、スカートが捲れ木曽のパンツが見えていた。熊さんパンツである。

 

「ブッハ!木曽!」

 

天龍が吹き出し

 

「熊!熊さん!」

 

鈴谷が指差し

 

「ダハハハ!木曽!」

 

摩耶が笑う

横須賀悪ガキ隊のコンビネーションここに極まれり。

 

「・・・お前ら、どうやって来た?」

 

木曽が倒れた体勢のままで、三人に問う。心なしか、声がくぐもっている。

その木曽の問いに、摩耶が答えた。

 

「おう、AMIDAの連中が使ってる隠し通路があってな。夕石屋の二人締め上げて、ルート聞き出して来た」

「・・・そうかよ・・・」

 

弱々しく返事をする木曽に、天龍が首を傾げる。

先程から、木曽が尻を高く上げ熊さんパンツを丸出しにしたまま動かないのだ。

 

「木曽、どうしたよ?」

「体が、動かん・・・」

 

どうやら、負荷が限界を超えたようだ。

恨めしげに、木曽が呟く。

 

「大体、お前ら、何、しに来た?」

「おやおや~、キソーそんな事言って良いのかな?」

 

鈴谷がニヤニヤしながら、木曽に近寄っていく。

 

「何が、だよ・・・」

「折角、良いの持ってきてあげたのにさ~」

 

鈴谷の合図と共に、天龍と摩耶が隠し通路から引き上げて木曽の目の前に持ってきた物、それは

 

「俺の、艤装、か・・・!」

 

装甲繊維で編まれたマントに新品の軍刀、大型の魚雷発射管と主発動機、紛れもなく重雷装艦娘『木曽』の艤装であった。

 

「さあさあ、キソー?第二ラウンドやる気はあるかにゃ?」

「当然、だ!」

 

意思を固く、決意を満たし、魂を燃やす。

それが、自分達軽巡洋艦娘の生き方だ。

魂を炉にくべろ、心を燃やせ、命ある限り走れ。

やってやろうじゃねぇか。

 

木曽の第二ラウンドが始まろうとしていた。

 

そして

 

 

「それで、ふぶっちはどうする?」

「私は・・・」

 

木曽が艤装を装備していく隣、鈴谷は吹雪に向かい、その目を覗き込む。不安と恐怖が入り交じり、その奥に少しの希望が灯った目だ。

ならばと、鈴谷はゆっくりと語り掛ける。

 

「ねぇ、ふぶっち。嫌な事や怖い事からは、逃げてもいいんだよ」

「鈴谷さん・・・」

 

だけど

 

「逃げた先には、何も無いんだ」

「鈴谷さん、それは!」

「榛にゃん、お願い」

「・・・分かりました」

 

そう、逃げてもいい。だけど、その先には何も無い。

嬉しいも悲しいも楽しいも辛いも、その時の大切は何も無くなってしまう。

だけど、逃げてもいいんだ。

鈴谷は吹雪を見据える。

 

「ふぶっち、何も無くなってしまうけど、逃げてもいいんだよ」

「鈴谷さん、私は・・・」

 

ーー私はーー

 

「逃げ、ません」

「吹雪ちゃん・・・」

「私は、もう、逃げません!」

 

怖い、正直に言えばそうだ。だが、自分が戦うよりも怖い事がある。

 

「私は、あの子から、睦月ちゃんから逃げません!」

 

あの子を、また喪う。それだけは、嫌だ。

戦うのは怖い、また、同じ様にあの子に銃口を向ける事になるかもしれない。

だけど、もう逃げないと決めたから、例えもう一度、銃口を向ける事になっても、構わない。

同じ事になるなら、その後悔を背負い生きていく。

 

もう、守られてばかりは嫌だ。

 

「私が、皆を守るんだ!」

「よっしゃ!よく言ったぜ、吹雪!」

 

黙って木曽の艤装のセッティングをしていた天龍が吹雪に駆け寄り、背中を強く叩く。

勢いよく叩きすぎて吹雪が軽く噎せたが、天龍はさして気にせず笑う。

 

「それだけ言えりゃぁ上等だ!」

「天龍さん」

「ああ、上等だ」

「摩耶さんも」

「んじゃさ、行こっか、ふぶっち」

 

鈴谷が吹雪の手を引く。

そこで、艤装のセッティングを終え、艤装の身体サポートにより負荷から復活した木曽が疑問した。

 

「んで?どうやって、あの怪獣大決戦の中に入る?」

 

吹雪、鈴谷、榛名、天龍、摩耶の五人は、目の前の海で繰り広げられる怪獣大決戦を見た。

どう考えても、あの中に入るのは自殺行為だ。

自分達では、あの中に入った瞬間にミンチになる。そんな戦いが繰り広げられていた。

 

「おい、どうすんだ?」

 

と、摩耶が

 

「隙見て突っ込むか?」

 

天龍が言えば

 

「い、いや?行けますって・・・多分」

 

吹雪が早速弱気になる。

 

「ふ、吹雪ちゃん、あまり無理しなくても良いのよ?」

 

弱気になった吹雪を榛名が擁護する。

木曽は体の状態を確認しながら「魚雷でもぶちこむか・・・ダメだな」とか、考えている。

その混乱の最中、鈴谷が

 

「あ、ほなみんだ」

 

と、言った。

瞬間、横須賀鎮守府提督磯谷穂波駆るストライカー・エウレカが、空から降ってきた。

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府工厰前には、カーキ色の鉄巨人と黒のスーツに身を包んだ麗人が居た。

 

私は 歌うの

あなたは 歌うの私を

 

「は、ははは、すげぇ・・・!」

「あれが、横須賀鎮守府艦隊総長か」

 

ねぇ お願い

私を 呼んで

鉄火の中 咲く

私を 呼んで

 

「あのデカイのが、意図も簡単に・・・」

 

麗人の透き通る様な唄が雨の中に響く海、その場にカーキ色の鉄巨人が力なく倒れ伏していた。

外的損傷は無い、周辺に戦闘の痕跡も無い。

まるで

 

「あれが、『豪運』の金剛・・・!」

 

まるで、何かしらの『不運』がカーキ色の鉄巨人『ホライゾン・ブレイブ』を襲い、糸の切れた人形の様に崩れ落ちていた。

麗人は、懐から葉巻を取り出し、形の良い唇でそれを挟み、横から差し出された火を葉巻を灯した。

 

「ふぅん?私の散歩コースにいきなり入って来たら、いけまセンヨ?」

「お姉様、こいつは敵です」

 

麗人、金剛に火を差し出した比叡が、惚けた様子の金剛に指摘しつつ、携帯灰皿を差し出す。

金剛は紫煙を吐き出し、灰をそれに落とした。

 

「敵デスカ・・・? 明石、夕張、居ますカ?」

「「はい!総長、夕石屋居ます!」」

 

金剛に呼ばれた明石と夕張が二人揃って返事をする。その挙動に一切のズレは無かった。

 

「どうやら、私の家に土足で入って来たお客様が、もう一人居るみたいデス」

「「はい!たった今、磯谷提督をデリッククレーンで射出しました!」」

 

二人揃ってのその返事に、金剛は満足げに紫煙を燻らせ、目を弓形に細める。

 

「ふふ、では夕石屋?これから使用する資材を計算して、後で提出シナサイ」

「「では!!」」

「ええ、今回使用した資材と被害額は私が支払いマス。好きにシナサイ」

 

金剛の言葉に、夕石屋の二人は揃って体を左右にくねらせ至福の表情を浮かべる。

 

「「では!ではでは!!私達はこれで!」」

「いってらっしゃい」

 

工厰に向けて駆け出す二人を見送り、金剛は比叡に向き直る。

 

「比叡、貴女も行きなサイ」

「はい、お姉様」

 

比叡は一礼すると、静かに自分の戦場へと向かった。

それを見送り、比叡から渡された灰皿に葉巻を押し付け、また歩き出した。

 

「ふふん、ファミリーが増えるのは良いデスネ」

 

これから起こる幸いを確信した様に歌う金剛が歩き去った後には、何も無くただ崩れ落ち水面を漂うだけのホライゾン・ブレイブがあった。

 




尻切れ蜻蛉感が凄い・・・
文才が欲しい

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