バケツ頭のオッサン提督の日常   作:ジト民逆脚屋

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イエァ!予定通りに終わらなかったよ!

活動報告の募集は継続中です。宜しかったら


吹雪、取り戻す

五百蔵は、打撃を続けた。

片腕のみでの打撃だ。左腕は、先程のダメージで細かな動作が難しい。

だから、右腕のみで打撃を続けた。

自慢の重装甲も限界が近い。取れる手段がそう多くは無いというのが、問題だろう。

しかし、それは自分一人の場合だ。

 

「うおっとぅっ!」

「いい加減にっ!」

 

霧島と磯谷、この二人が今は居るし、磯谷がタシット・ローニンの右腕、その肘から先を斬り落とした。

これは、大きい。

只でさえ、相手は打撃が通り辛く瞬発力の高い変則的な動きをしてくるのだ。

その動きを制限出来た。これは、大きい。

 

しかし、打撃出来る場の少なさが問題だ。

タシット・ローニンの胴には、子供が納められている。

下手に打撃すれば、彼女の命は無い。自分と同じく取り押さえようとしている二人も、それを分かっているのだろう。

磯谷は展開したブレードを納め、霧島は投げではなく手足を押さえようとしている。

自分だってそうだ。打撃を当て、体勢を崩し取り押さえる。

それを繰り返しているが、相手はうねる様なくねる様な動きで、それらを抜けてくる。

何とかして、あの子供を離さないとならない。

このままでは、じり貧になる。

 

五百蔵と霧島、磯谷が焦りを覚え始めた時

 

 

「「38番!64番!セット!」」

 

機械式の巨腕が二対、寸分違わぬ号令と共に海中から飛び出してきた。

 

 

 

 

 

 

ーーうひょぉー!こいつは効くぜぇー!ーー

 

明石と夕張、夕石屋の二人は機械式の巨腕を制御しながら、二人揃って思った。

二人が行っているのは、横須賀鎮守府の防衛機構に直接アクセスし、その機構を自分達で制御するという事。

コードまみれの艤装を背負い、横須賀鎮守府防衛機構にアクセス、各防衛装置から送られてくる情報を処理し、装置を操作する。

言うは簡単だが、この方法は二人にしか出来ない。

鎮守府中に敷設された防衛装置からの情報、その膨大な数量の目や手から送られてくる情報を二人で制御処理操作を行う。

特異とされるこの二人だからこそ、可能な行動。

 

多重に流し込まれてくる情報の中、二人は思い出す。

自分達が建造された時の評価『混ざりもの』を。

先代の明石と夕張が引退し、次代として建造された自分達の評価は散々だった。

建造時に何があったのかは分からない。しかし、結果自分達は混ざって建造された。

自分達は、明石であり夕張でもあり夕張であり明石でもある混ざりもの。

 

捨てられ拾われ、二人揃って踊るは横須賀鎮守府

白に斬り払われる鉄腕の数々、その数が増えてきた。

鋼鉄の嵐に迫る四人の姿を確認した。

緑黒、青、銀灰の三体の鉄巨人が白から離れた。

ならばと、二人は思考を加速させる。

 

ーーイケイケゴーゴー!ヒャッハー!ーー

 

「「25番から140番!セット!」」

 

莫大量の鉄腕が、白を捉えた。

 

 

 

 

 

 

「う、おおお!?夕石屋の奴等、やる気だな!」

 

白を飲んだ鋼の濁流を見ながら、天龍が感嘆した。

吹雪は鈴谷に導かれながら、緑黒の鉄巨人へと駆け寄る。

 

「提督!」

「吹雪君!?何を!」

 

吹雪が見たチェルノ・アルファは、満身創痍、その言葉に尽きた。

機体の至るところから黒煙と火花をあげ、重装甲には罅が入り凹み、左拳はひしゃげている。

残った左肩のタービンは排熱口が赤熱し、適時開閉している胸部の二対の排熱口も開きっぱなしで陽炎をあげている。

中の五百蔵の声も疲労の色が濃い。吹雪の耳にだけ聞こえる音にノイズが走る。

 

その、自分が知る限りで最も硬く重厚な巨人の姿に、吹雪は情けなさを覚えた。

 

ーーごめんなさい、私のせいでーー

 

自分のせいで、これ程までに損傷した。

これは、自分が背負う後悔だ。

だからこそ、吹雪は真っ直ぐに五百蔵を見詰め、宣言する。

 

「提督、私はもう、逃げません・・・!」

「・・・吹雪君、いいのかい?」

 

五百蔵はチェルノ・アルファの視覚素子から送られてくる吹雪の表情を見る。

それは、ノイズまみれで掠れた映像だったが、五百蔵はその表情に嬉しさを覚えた。

 

「はい!」

「そうか・・・」

 

あの、弱々しく落ち込んでいた子が、過去に背を向け耳を塞いでいた子が、漸く顔を上げ耳を塞ぐのを止め過去に向き合った。

我が子の成長を喜ぶ親というのは、こういう心境なのだろう。

ならば、自分に出来る事は

 

「そうか・・・なら、行こうか・・・!」

「はい!」

「五百蔵さん!」

「来ました!」

 

タシット・ローニンが、夕石屋の二人が展開した鉄腕を打ち破り、此方に向かってきた。

 

「「待てやコラー!」」

 

ぐねぐねと謎の踊りを踊りながら叫び、新たな仕掛けを発動させる夕石屋。

逆関節の脚をしならせ、加速を始めたタシット・ローニンの足下から、防壁が斜めに突き出した。

加速を始めたばかりの脚、その脛にあたる部分を強打されバランスを崩し、水飛沫を撒き散らし倒れる。

 

「「おらー!逃げんなぁー!」」

 

鉄腕で取り押さえにかかるが、残る左腕を瞬発させ鉄腕を斬り払う。

その動きに、通常の関節の制限は無かった。

肩はズレ歪み、肘は伸びて鞭の様に撓り、次々と飛び掛かってくる鉄腕を斬り払う。

骨の無い身体だからこそ出来る異形の技だ。

しかし、その技をもものともせずに、その腕を掴む者が居た。

 

「漸く、隙を見せたな・・・!」

 

霧島が撓る腕を掴み、体を回しながら捻り上げる。

霧島は考えた。この敵には、極める事の出来る関節が無い。なら、限界まで伸びた肉を捻り極めるしかない。

だから、極めて、体を回し巻き込む様に投げた。

 

タシット・ローニンは、理解が出来なかっただろう。

突然、腕が動かせなくなったと思ったら、自分の視界が急激な移動を見せた。

その癖、ふわりと、浮き上がる様に体に何の抵抗も負荷も感じない。

タシット・ローニンは訳も分からぬまま、何の抵抗も出来ずに背中から海面に落とされた。

タシット・ローニンは理解出来なかった。

ダメージは無い。なのに、体が痺れた様に動かない。

瞬発し、斬り裂く筈の体が動かない。

 

それでも強引に体に力を通そうと、全身に力を込めるが

 

「やらせるかぁぁっ!」

 

左肩に熱が刺し込まれる。突然、刺し込まれた熱に戸惑い力が抜けてしまう。

罅割れた装甲に隠された複眼が見たのは、銀灰の巨人ストライカー・エウレカがブレードを左肩に刺し込み、片方の手で胸部装甲を引き剥がそうとしていた。

 

「こんの・・・野郎!」

 

裂帛の気合いと共に、胸部装甲を引き剥がし投げ捨てる。

グロテスクな肉塊に半ば埋まっている少女、睦月の周りの肉にブレードを突き立て、睦月を引き剥がそうとした。その時

 

「う、うわぁあぁあぁあ?!」

 

タシット・ローニンの体が異常な跳ね回りを見せ、磯谷が弾き飛ばされた。

そして、睦月も肉塊から投げ出されていた。

 

「睦月ちゃん!」

「マズイ!」

 

駆け寄る吹雪と五百蔵、弾き飛ばされながらも手を伸ばす磯谷、タシット・ローニンの腕を極めていた霧島の腕が伸ばされ、睦月に届こうかという時、霧島の腕が弾かれた。

 

「な?!」

 

そこには、膨張し白の装甲を飲み込み始めた肉塊があった。

それには、タシット・ローニンの面影は全く無く、グロテスクな黄緑の体液を撒き散らす肉塊の化け物が、そこに居た。

 

ーーなんだ?こいつはーー

 

霧島は迷わず、その肉塊に手指を掛け投げに入った。

今度は動きを止める投げではなく、確実に仕留める投げだ。

しかし、その手指は呆気なく弾かれた。

 

瞬発する化け物、その動きは先程の比ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

吹雪達は疾走した。白の化け物から投げ出され宙を舞う睦月に向けて疾走していた。

 

「睦月ちゃん!」

 

高さは問題ない。投げ出された勢いと体勢が問題だ。

このままでは、海面に叩き付けられた時、最悪の事態が予想される。

 

木曾と天龍、鈴谷は見た。自分達と睦月の間の距離を。

そして、自分達の経験から、ある一つの答えを出した。

 

ーー間に合わないーー

 

自分達がこのまま速度を上げても、睦月には届かない。

諦めと焦燥、その二つが三人の心を侵食していく。

だが、吹雪は諦めていなかった。

 

ーー手を伸ばせ!届かせるんだ!ーー

 

吹雪は全力を脚に込めた。背の主機の出力を全開にし脚の推進機に叩き込む。

後の事はどうでもいい。兎に角、手を届かせる。

推進機の限界以上の出力、その力の爆発を利用し、吹雪は跳んだ。

 

「と、どけぇぇぇっ!」

 

推進機から何かが割れる音がした。だがそれでも、構わない。

今、届かなければ意味が無い。

吹雪は手を、その身を睦月に伸ばした。

 

「睦月ちゃん!」

 

睦月の手に吹雪の手が届いた。

海面は直ぐそこに迫っている。

吹雪は迷わず、睦月を抱き込み背から落ちる事を選んだ。

背から落ちれば、主機は壊れる。最悪、自分も大怪我だ。だが、睦月は助かる。

吹雪に迷いは無かった。

 

ーー大丈夫!私が守るんだ!ーー

 

海面が迫る。睦月を抱き締める。来るであろう痛みと衝撃に吹雪は覚悟を決めた。

しかし、それらは来なかった。

 

「ギリギリセーフ!」

 

木曾、天龍、鈴谷の三人が吹雪と睦月を寸でのところで受け止めていた。

 

「よっしゃ!」

「ギリギリ!ギリギリセーフだよ!」

「危うかったな」

「皆さん・・・」

 

四人が安堵の表情を浮かべる。吹雪達の手は届いたのだ。

安堵するも束の間、吹雪は睦月の顔を覗き込み顔色と脈を確かめる。

顔色は悪いが、脈は確かにある。

 

「睦月ちゃん!お願い、目を、目を開けて・・・」

「吹雪、どうやら脈はあるみたいだ。早くここを離れた方がいい」

「そうだな」

 

木曾と天龍が辺りを警戒しつつ、歩を進めようとした時、天龍が叫んだ。

 

「木曾!右だ!」

「な!」

 

叫んだ天龍と反応した木曾の二人を、長い蛇の様な白い何かが薙ぎ払った。

二人は寸でのところで近接装備の刀を抜き、その一撃を防いだ。しかし、不意討ちに反応しきれず鈴谷、吹雪、睦月の三人から離されてしまう。

二人は自分達を薙ぎ払った何かの正体に気付いた。

刀から通じる鋭い衝撃、打撃ではない、これは斬撃だ。

 

「嘘だろ?!」

「何で?!」

 

二人は驚愕した。二人だけではない。吹雪も鈴谷もだ。

それは、切り口から黄緑の体液を流しながら、主が居ないままに現れた。

 

「ほなみんが斬った腕・・・!」

 

磯谷が斬り落としたタシット・ローニンの右腕、その肘から先が異形の蛇になって、吹雪達に襲い掛かった。

風雨を払い、極厚の刃の薙ぎ払いが吹雪と鈴谷に迫る。

木曾と天龍は、素早く体勢を立て直し三人に元に走る。

 

「鈴谷!二人を連れて逃げろ!」

 

天龍が叫び、鈴谷が吹雪を庇う様に伏せる。横薙ぎの一撃は空を斬り、蛇は空振りの勢いに体勢を崩した。

その隙に、鈴谷は吹雪の手を引き逃げようとするが

 

「え?」

「こんな時に!?」

 

吹雪の推進機が止まった。先程のジャンプ、その負荷がここに来て吹雪の足を止めてしまった。

がくりと、膝を落とす吹雪。驚愕に染まる鈴谷、砲と魚雷の照準を合わせ、蛇を狙い撃とうとする木曾と天龍、

背後から死が迫る。それでも吹雪は、諦めず死に立ち向かった。

 

「あ、ああああっ!」

 

過去の恐怖、後悔、それらを振り払い吹雪は連装砲の引き金を引いた。

 

ーー私が守るんだ!ーー

 

放たれた砲弾は真っ直ぐに蛇の頭部に向かい、その刃を弾いた。

 

「ふぶっち!」

「あ・・・」

 

だが、その覚悟を嘲笑う様に蛇は刃を降り下ろした。

刃は真っ直ぐに吹雪に落ちてくる。

木曾の魚雷も天龍の砲も、鈴谷も間に合わない。

ゆっくり、ゆっくりと流れる景色、その中で吹雪は睦月を庇い刃に背を向ける。

もしかしたら艤装だけで止まるかもしれない。

もしかしたら自分で刃が止まるかもしれない。

そんな望みを胸に、来る刃に歯を食い縛った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶっ殺されてぇかぁ!!」

 

吹雪に向かい落ちていた刃は、一気に飛び込んできた摩耶の鉄拳に砕かれた。

否、唯の鉄拳ではない。自分の左腰を囲う改二艤装、船体を模した主機を使った巻き込み式ラムアタックだ。

倒れる蛇、着地する摩耶、水柱を背に摩耶は朗らかに笑った。

 

「よう!遅れたな!」

「摩耶さん!」

「摩耶!」

「おう!吹雪、どうしたよ?」

 

「「後ろー!!」」

 

笑う摩耶の背後、刃を砕かれた蛇が立ち上がり、尾を叩き付けようと振り上げていた。

しかし、摩耶は笑みを崩さない。

何故なら

 

「気合い、入れて、いきます!」

 

尾を振り上げた蛇の姿が見えなくなる程の弾幕が、吠声と共に蛇を飲み込んだ。

 

「比叡さん!?」

「あ、吹雪ちゃん!大丈夫でしたか!」

 

蛇に弾幕を叩き込みながら、比叡が吹雪に駆け寄って来た。

背の×型のアームの先端に重機関銃を四つ束ねた大型の箱状の銃器『オートキャノン』

それを各アームに一つ、両手に二つの計六つの超弾幕、

既に蛇は形すら残っていなかった。

 

「は、ははは、比叡、やり過ぎじゃね?」

「お姉様の家に土足で入り、吹雪ちゃんに刃を向けた。これでも、最大限に譲歩したのですが・・・」

 

ーー怖い・・・比叡、怖い・・・ーー

 

冷たい目で言い放つ比叡に、全員がそう思った。

 

「さてと、早く戻ろう。睦月を夕石屋の二人に看せねぇと」

 

天龍が安堵の息を吐き、陸に目を向けた時、鉄鎚の一撃が化け物を捉えていた。

 




次回、次回こそ、横須賀騒動を終わらせるんだ!

次回『Roll of Nickels 』炸裂
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