バケツ頭のオッサン提督の日常   作:ジト民逆脚屋

55 / 130
戦闘終了!!やっと!やっとだよ!やっと終わったよ!
次回か次次回辺りからチャットネタを開始します!
宜しければ、活動報告の募集をご覧ください。


オッサン、決着

霧島は疾駆した。

体を走らせ、力を通し、目の前の化け物を捉えようとした。

 

ーーこれは・・・後で要調整ですね・・・!ーー

 

しかし、化け物に追い付けない。

技も力も通じる。だが、動きが重い、遅い。

己が纏う鉄人が己に着いてきていない。

経験と調整の不足、この二つが霧島の脳裏に過った。

海上での戦闘経験は、五百蔵と磯谷の二人よりもあると自負している。しかし、イェーガーを纏っての戦闘は、これが初めてだ。

 

ーー副長たる者、これしきはね除けずして何とするーー

 

化け物の動きは、俊敏だが単調だ。

恐らく、あの睦月を制御に使っていたのだろう。先程までの、キレが無い。

膨れ上がった醜悪な肉塊が、己の瞬発に任せて動いているだけだ。

しかし、それが厄介極まりない。

例え、掴んで投げに移ったとしても、即座の瞬発で手指を外されてしまう。

完全に本能で動く獣だ。

 

ーー提督と義兄さんは!?ーー

 

視線を巡らせ、二人の位置を確認する。

五百蔵も磯谷も、撤退する吹雪達との間に立ちはだかる様に立ち回っている。

 

吹雪達の護衛には比叡が付いた、夕石屋が仕掛けを発動させている。ならば、一先ずの心配は要らないだろう。

 

「ふっ!」

 

霧島はロミオ・ブルーの右腕、その手首を射出し、腕のリーチと掴みに威力乗せた。

腕の伸ばしと手首の射出、この二つで深く掴み一気に投げる。

 

化け物の瞬発と豪腕の射出の連続、夕石屋の二人が一斉に仕掛けを発動させ、五百蔵と磯谷が駆け込む。

三人が勝負を懸けて、疾駆した。

 

 

 

 

 

 

ーーうっへへへぇ、吐きそーう!ーー

 

夕石屋の二人は迫る嘔吐感の中、踊り仕掛けを発動し続けていた。

化け物に破壊された機材からのフィードバック、流れ込んでくる情報の津波が二人の神経を焼いていた。

 

焼かれて焼かれる、掻き毟る様な熱と痛みが走る。

普通の艦娘なら、負荷に耐えきれず壊れる。

その熱と痛みの中、二人は踊った。

 

ーーあ・・・ちょっと出た・・・ーー

 

少し、咽が焼けた。口と鼻に酸味が広がる。

だが、二人の踊りは止まらない。

ぐねぐねうねうねと踊り、鉄腕を防壁を海中から召喚する。

 

ーーお?おおぉぉ!ーー

 

吹雪達が目的を果たして、此方に戻ってきているのが見えた。

五百蔵と磯谷も、それを守る様に立ち塞がっている。

霧島の動きが早くなった。勝負に出た。

なら、自分達がやる事は一つだ。

 

「「うっひょおおぉぉ!在庫一掃セールじゃああぁ!」」

 

戦場に仕掛けられた設備を一斉に起動した。

 

 

 

 

 

 

三体の鉄人と大量の鉄腕と防壁が化け物を打撃しているのを背後に、吹雪達が睦月を取り戻し帰ってきた。

 

「お願いします!睦月ちゃんを!」

 

戻るなり、吹雪が夕石屋の二人にすがり付く様に叫んだ。

それに対し二人は笑い応えた。

 

「「任せなさい!夕石屋に不可能は無いのです!」」

「頼むぜ」

「お願いします!」

「「ソッコで治療決めてやりますよ!」」

 

吹雪が二人に頭を下げ、サムズアップをした夕石屋が治療の為に睦月を運ぶ。

それを見届けた後、木曾が思い出した様に口にした。

 

「そう言えば、叔父貴を投げ飛ばした奴はどうなってる?お前らが、工厰から出てきたって事は対処済みか?」

 

木曾の言葉に、比叡が何処か気まずそうに答えた。

 

「えっとぉ、お姉様の散歩コースに出現しまして・・・」

「そのまま、か・・・」

 

納得いかねぇ、木曾は思いつつも、まあ、そうなるか・・・とも思った。

横須賀鎮守府総長、その豪運にかかれば、化け物も不運に死ぬしかないのだろう。

理不尽極まりない幸運だ。

 

「それなら、残りはあそこの化け物一体か」

「油断すんなよ、天龍。まだ何か居るかもしれねぇからな」

 

摩耶が天龍に喚起する。

敵はあの二体とは限らない。各員が準備を進める中、榛名が駆け寄って来た。

雨に濡れそぼっていたが、自分達よりかはマシだろう。雨水以外に海水も被ってるし、特に天龍と木曾。

 

「吹雪ちゃん!皆さん!御無事で?!」

「榛名さん!」

「おおーう、榛にゃん。無事無事ー」

 

駆け寄って来た榛名に吹雪と鈴谷が応じ、榛名がずぶ濡れの吹雪を抱き締めた。

 

「榛名さん?」

「良かった・・・無事で良かった・・・!」

 

涙ながらに呟き抱き締めを強くする榛名、その榛名の背に手を回し胸に顔を埋め抱き返す吹雪、互いに震えていた。

無事を喜ぶ震えと振り返してきた恐怖による震え、二人は違う震えの中、互いの無事を喜んでいた。

 

「よしよし、それじゃあ、ふぶっちと榛にゃんは・・・」

 

鈴谷が二人に退却を指示しようとした時、激音が連続で鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

磯谷は思った。

 

ーーもーう、嫌ぁー!ーー

 

ロミオ・ブルーの時もそうだったが、私はグロテスクはNGだ。

某傘の名前の会社が暗躍するゲームはギリギリ大丈夫だが、宇宙最強のエンジニアが生き残りたいゲームはアウトだ。

基本はアニマルのフォレストやポケット怪物が好きだ。

怪物猟師も嫌いじゃない。

 

ーー若葉ちゃんはグロゲーバッチコイだけど!ーー

 

だが、エロはもっと好きだ。何て言うかこう、好きだ。

エロゲーギャルゲーバッチコイは私だ。

 

「磯谷嬢!」

 

おや?グロテスクな塊が突っ込んできたので、軽く避けて二、三度斬り付ける。

手応えが重い、先程より肉の密度が上がっている。

肉というより、分厚い革を斬り付けてる。そんな手応え。

とっとと終わらせたい。

終わらせて

 

『テーバイ神聖隊VSスパルタホモ軍団 ~女なんかいない!正気になれ!~』

『今川さんを夜這い!朝駆け桶プレイ!』

 

をプレイするんだ!

あ、戦国繋がりで『トシーとマツ』もやりたい。

それに、吹雪ちゃんとご飯行って、鈴やん達と買い物するんだ!

おっと、いけない!睦月ちゃんを忘れるところだった。

皆でゲーセン行こう!

 

だから

 

「こぉーんチクショォー!」

 

磯谷は未だ暴れ続ける肉塊に対し、ストライカー・エウレカの主駆動系を唸らせ加速、腰を下ろし拳を打ち込む。

一発目は動きの縫い止め、二発目はこちらを意識させる、三発目からは拳部のメリケンサックを展開し殴る。一発ではない。ストライカー・エウレカの駆動系と自分の体力が許す限りの連打を叩き込む。

 

怪物は戸惑っていた。連打など、簡単に無視して瞬発出来る筈の体が動かない。

感覚はある。しかし、動かない。

麻痺、その感覚が全身を蝕む。

これは、目の前の銀灰色の巨人の拳が原因だ。

拳が打ち込まれる度に、麻痺の度合いが強くなっている。

銀灰色の巨人の関節から陽炎が上がり始め、連打が鈍り始めた。

 

怪物は好機と見て麻痺が及んでいない箇所を瞬発させ、銀灰色の巨人の首をはねようとしたが

 

「霧島ちゃん!」

 

視界の急速な回転、引き上げられる様な押し上げられる様な力が襲う。

急速な回転、頭上に海面が迫る。

怪物は肉を締めてダメージに備えた。

しかし

 

「その程度で、どうにかなると?」

 

衝撃が突き抜けた。

 

 

 

 

 

 

霧島は思う。

 

ーー投げ技はいいーー

 

何故なら、打撃を通り辛い相手も頭から落とせば、簡単に死ぬから。

霧島も打撃は得意だ。しかし、持って生まれた対格差や筋肉量や骨格がある。

どうやっても、打撃が通らない相手がいる。

だから、投げる。

 

投げは、相手を少し崩してその方向に誘導すればいい。

そうすれば、すぐに決まる。

どんな相手も、重心は存在する。

だからそれを崩せばいい。

 

だから、投げた。

 

化け物が肉を締めて耐えようとしたが、意味は無い。

その程度の締めで、どうにかなるような投げ方はしていない。

 

海面に垂直になるよう落とす。

これにも、脳のようなものはある筈。

だから、頭から落とす。

 

化け物のサイズと投げの威力に見合った水柱が上がる。

 

「義兄さん!」

 

死ななかった。霧島は内心、舌打ちをしつつ五百蔵を呼ぶ。

衝撃で動けない化け物に、鉄鎚が降り下ろされた。

 

 

 

 

五百蔵は駆けた。

投げ落とされ、身動きがとれない化け物に左腕を叩き付けた。

肉の弾力が左の鉄鎚を弾き返してくる。ダメージを負った左の装甲と腕が軋む。

だが、その反力を無視して、もう一度叩き付ける。

 

[右腕『Roll of Nickels』起動準備、右腕各部装甲閉鎖、右拳部関節固定、弾頭装填、テスラコイル発動、着火カウント5]

 

アナウンスと共に、五百蔵は拳を振り上げる。

押さえ込んだ左腕の下では、化け物が何かに気付き脱出しようともがく。

しかし、五百蔵は更に加重を掛けて逃がさない。

 

[カウント4 3 2 1]

 

 

 

 

[0『Roll of Nickels』射出]

 

右腕内部、スプリング機構に装填された弾頭にテスラコイルの膨大な発電量を用いて着火、腕部薬室内で圧縮された爆発の威力が拳を射出する。

 

チェルノ・アルファの右拳が水蒸気の輪を抜け、化け物に着弾した。

その瞬間、戦場から音が消え、海が空気が地面が震えた。

化け物は着弾点を中心に、潰れひしゃげ炸裂した。

拳が直撃した頭部と上半身は跡形も無く消し飛んだ。

 

固定された拳の関節が解放され、上腕の排気口から莫大量の白い蒸気が噴き出す。

 

「霧島君、磯谷嬢。敵は?」

「残敵無し、反応もありません」

「終わりですね!」

 

後に残るのは、炸裂した肉片と原型を留めていない肉塊のみ。

戦闘終了だ。

 

「五百蔵さん?」

「義兄さん?」

「磯谷嬢、霧島君。すまんが手を貸してくれ」

「え~と、まさか?」

「そのまさかだ」

 

[チェルノ・アルファ活動限界、リアクター出力低下、予備動力起動]

 

「帰りましょう。義兄さん、司令」

「ああ、そうだね」

「五百蔵さん、重い・・・」

 

磯谷と霧島に肩を貸してもらい、何とか工厰へと歩いていく五百蔵。

ここに横須賀騒動は終結した。




次回
後片付け

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。