バケツ頭のオッサン提督の日常   作:ジト民逆脚屋

57 / 130
第一シーズン終了?
次回から第二シーズン!



オッサン、後片付け

「報告は以上です」

「うん、ご苦労様」

 

横須賀鎮守府執務室に二人の人影があった。

一人は横須賀鎮守府提督磯谷穂波、一人は横須賀鎮守府重巡洋艦艦隊諜報班班長『青葉』であった。

磯谷は青葉から受け取った書類の束を捲りながら、溜め息を吐く。

その表情はポジティブな彼女には珍しい陰鬱としたものだった。

 

「ねえ、青葉ちゃん。私、有給取っていい?」

「比叡さんの許可があればいいのでは?」

「ダメだ~それ~」

 

椅子に沈み込む様に倒れる。軽く足を伸ばしてぐるぐる回り、書類を放り出す。

机に放り出された書類に並ぶ文字の羅列

 

『陸軍新型戦車[鉄蛇]強奪』

 

「青葉ちゃ~ん」

「司令か~ん」

「「くっそめんどくせぇ!!」」

 

二人しての魂の叫びであった。

 

「大体さ、何?このスペック?!現存のイェーガー全部持ってきて、やっとどっこいじゃん!!」

「陸軍バカですよこれ!!バカですよこれ!!これ本当に造ったんですか?!」

 

二人でバカバカ叫びながら、書類を見て笑う。笑うしかない、このスペック。

 

装甲、チェルノ・アルファが紙装甲

パワー、イェーガー全部足してもムリ!

スピード、何とかなる?

サイズ、100mクラスとか何それ?バカじゃないの?

 

簡単に書くとこんな感じ。

実に、頭の悪い設計、その上、戦車のくせして車輌型ではなく、マジもんの蛇型なのだ。

100mクラスの鉄の蛇だ。

こんなもん、どうやって強奪されたんだ!

 

「しかもですよ!あきつ丸さんの話だと、この強奪されたのは二号機だそうです!」

「二号機強奪キタコレ!」

「更に!二号機だけ警備が薄かった!」

「ヤッタゼ!」

 

二号機は強奪される運命。

二人で一頻り笑って騒いだ後、揃って溜め息を吐いた。

馬鹿馬鹿し過ぎて笑えない。

 

「はぁ~、青葉ちゃん」

「なんです?」

「睦月ちゃんの容態は?」

 

笑えなくなったから、本題へと入った。

先の横須賀騒動で化け物から救出した駆逐艦娘の睦月。

その容態についてだ。

 

「夕石屋の話によると、意識が戻らないそうですね」

「そっか」

「他にも問題はあるみたいですが、目下の問題はそれらしいですよ」

 

手術も終わり、経過観察も『ある一点』を除いて良好。

しかし、意識が戻らない。

吹雪と榛名、鈴谷や木曾に天龍、摩耶。変わり変わりで看病しているが、一向に意識が戻る気配は無い。

 

「五百蔵さんは?」

「全身打撲に左腕に罅が入ったそうです」

「・・・それだけ?」

「それだけです」

「あの人さ、時々人間じゃないんじゃないかって思うんだけど・・・」

「後、左肩の亜脱臼」

「人間辞めてないかな?」

 

眇になりながら、書類を捲り目を通していく。

その数ある中から、興味深いものを青葉に聞いた。

 

「ねえ、青葉ちゃん。この宿毛の話」

「ああ、それですね。なんでも、艦隊が移動中に亀とサイを合わせてグッチョングッチョンにキモくした生き物が突っ込んできて、宿毛の大和さんが鉈で殺したとか」

「流石としか言い様がないね」

 

宿毛の大和、据わり目にくわえタバコに作業着姿の大和。

流暢な土佐弁を喋り、射撃が下手で得物は鉈や斧にハンマー等の超近接仕様の艦娘。

その大和が出会した怪生物、知る者は『突撃級』と呼ぶ生物だが、二人は知るよしも無い。

 

「んでさ、陸軍はアレかな?爬虫類系が流行り?」

「この『機竜』が爬虫類系かは別として、蛇に竜ですから長物が流行りですかねぇ」

「でもさ、機竜ってSFじゃん。陸軍疲れてる?」

「音速飛行が当たり前の機械の竜ですからね。過労でしょう」

「でもあれ、造れるの?今の技術で」

「無理ですね。私は技術畑の者じゃないですが、あれを飛ばす飛翔器の再現は不可能ですよ。あの御方の協力を仰がない限りは」

「そっか~」

 

書類を放り出して、窓の外を眺める磯谷。

陽気の中、工厰の鎚音が微かに聞こえてくる。ついでに、榊原班長の怒声も聞こえてくる。

工厰の復旧も早く済みそうだ。

 

窓の外から視線を外し、仕事を再開しようとした時、執務室の扉が勢いよく開かれた。

いきなりの事に青葉と磯谷が固まり、そちらを見ると

 

「お!居たぞ!穂波だ!」

「よっしゃ!」

 

天龍と摩耶、横須賀悪ガキ隊の二人だった。

二人は執務室に入るやいなや、天龍が磯谷を脇に抱えついでとばかりに摩耶が青葉を肩に担いだ。

 

「えと?」

「天岩戸だ」

「は?」

「おら!一発芸しろよ!」

「何が?!」

「まだ早ぇよ天龍」

「そうか!おら、行くぞ!」

「ちょっ?!何?何なのいったい?!」

「「天岩戸じゃぁぁぁぁ!」」

 

磯谷と青葉を運び、執務室を後にする二人。

執務室には嘘か真か分からない情報が書き記された書類が机にあるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「洋、貴女は優しいデスネ」

「何の事ですか?金剛さん」

 

横須賀鎮守府屋外テラス、そこに和装と洋装の二人が席につき、話をしていた。

 

「先の騒動でもし何かあれば、自分の軍勢を投入する準備をしていた癖ニ」

「おや、バレてましたか」

「ここは私の家デスヨ」

 

紅茶を一口啜り、話を続ける。

 

「そう言う金剛さんこそ、あの介入は過保護じゃないですか?」

「ふふん、私散歩コースに入ったのが悪いのデス」

 

笑いながら、もう一口紅茶を飲む。

陽気の中、二人はゆっくりと語りだした。

 

「もう、私達の時代ではありません」

「そうデスネ。今はあの子達の時代デス」

 

 

『天岩戸!天岩戸だよ!』

『だから何?!どういう事!』

『一発芸だ!』

『何で私まで!?』

 

 

「あの子達は、もう・・・!」

「まあ、良いじゃないデスカ。あれが、あの子達のやり方デスヨ」

 

先頭を行く天龍達四人を見送り、金剛は黒い手袋を嵌めた左手を陽気に掲げる。

その中の一本、動かない喪ってしまった薬指、その義指を撫で、洋に向き直る。

 

「この戦いはあの子達、今を生きる子達の戦いデス」

「私達、過去の遺物、負の遺産が進んで関わるべきでは無いですね」 

「そう言う事デスヨ」

 

過去が現在に必要以上に関わるべきではない。

その言葉が、金剛が燻らす葉巻の煙と共に揺らいで消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

病室に三人の男女が居た。一人は左腕を吊り下げた天を突くような大男五百蔵冬悟、一人は黒いパーカーにヘッドフォンの少女吹雪、一人は巫女装束に似た服装の榛名。

其々が、病室にあるベッドで眠る少女睦月を見詰めていた。

 

「睦月ちゃん・・・」

「吹雪君、大丈夫だ。直に目を覚ますさ」

「はい・・・」

「吹雪ちゃん、少し休みましょう」

 

睦月はまだ目覚めない。

 

「おらぁ!」

「は?」

 

静かな病室に、磯谷と青葉を担いだ天龍と摩耶が飛び込んできた。心なしか、担がれた二人がぐったりしている。

担いでいない手には、パーティーグッズや菓子類を詰め込んだ袋を提げている。

吹雪達三人は固まった。意味が分からなかった。

 

「よっす!吹雪、騒ぐぞ!」

「え?」

「うっす、叔父貴と榛名!騒ぐぞ!」

「え、ちょっ?」

「君達、病室で何を?」

「天岩戸だ!」

 

訳が分からない。

 

「あ~、もしかして天照の天岩戸か?」

「そうそう、それ!」

「騒いでりゃ気になって、目ぇ覚ますって!」

「あ、あの?」

「ほれ、吹雪」

 

摩耶が玩具のラッパを差し出した。

吹けという事だろうか?

 

「おい・・・!」

「叔父貴、俺らはバカだから難しい事は分からん」

 

天龍が鼻眼鏡を付けながら続ける。

 

「けどよ、塞ぎ込んでも意味ねえよ。笑わして目ぇ覚まさしてやろうぜ」

「・・・提督、榛名さん。私、吹きます!」

「「は?」」

 

吹雪が息を吸い込み、ラッパを一気に吹き鳴らす。

友の目覚めを願って

 

 

 

 

 

 

 

少女は暗闇の中に居た。

迷い佇み、暗い暗い汚泥に満たされた暗闇に佇んでいた。

 

バシャリと、重い汚泥を蹴立てる音がした。

少女はその音から急いで逃げ出した。

 

「ハァ、ハァ!」

 

足が重い、前に進めない。後ろから白い化け物が迫ってくる。

走る、走る。どこまで走ればいいのだろう?

分からない

もう化け物が直ぐそこまで迫っている。

 

「誰か、助けて・・・!」

 

白い刃が少女に降り下ろされる。

しかし、その刃は、汚泥から生えた鉄腕に砕かれた。

 

「え?」

 

化け物は分からなかった。見れば、自分の全身を様々な鉄腕が拘束し、黒い人型の何かが纏わりついている。

身動きがとれない。

 

「邪魔ですよ」

 

突如掛けられた声、化け物はその声の主を見る事は出来なかった。

異常な力で降り下ろされた鉄鎚により、頭を、体を潰されたから。

 

「久しぶりです、睦月ちゃん」

「ふ、ぶき、ちゃん?」

 

化け物の残骸が汚泥に飲み込まれる。僅かに足掻く様な動きを見せるが、人型の何かと鉄腕により問答無用に汚泥に引き摺り込まれた。

残るのは、巨大な二本の鉄鎚を持った吹雪と追われていた少女睦月だけ。

 

「良かった、今度は届いたんだ」

「吹雪ちゃん、何を」

 

言っているの?

その言葉は睦月の口から出る事は無かった。

何故なら

 

 

『ふ、吹雪君?!』

『よっしゃ!吹け吹け吹雪!』

『おい!穂波起きろ!』

『ふぇ?何?何なの?!』

『何か一発芸やれよ!』

『あ、あの皆さん、ここは病室ですよ!』

『榛にゃん榛にゃん!はい、榛にゃんとオジサンのタンバリン』

『鈴谷さん!』

 

 

暗闇の向こう、明るい向こうから騒がしい声や音が、聞こえてきたから。

 

「これは?」

「ねえ、睦月ちゃん。お願いがあるの」

「え、あの吹雪ちゃん。これ、どうなって」

「睦月ちゃん『私』を助けて」

「え?」

「さあ、行って。行って、『私』を助けて」

 

私は届かなかったから、手を伸ばせなかったから。

 

「ふ、吹雪ちゃんも行こうよ」

「ううん、私は行けない」

 

黒い吹雪が睦月の背を押す。

睦月は黒い吹雪に手を伸ばすが、その手は届かなかった。

 

「吹雪ちゃん!」

 

黒い吹雪が寂しげに睦月に手を振り、睦月は暗闇の中から明るい向こうへと追い出された。

 

「バイバイ、睦月ちゃん。『私』をお願い」

 

 

 

 

 

 

「ハイ!ハイ!ハイハイハイハイ!」

「プオー!」

 

騒がしい声や音が病室に響く。

その中で、睦月は目を覚ました。

 

「う、ん・・・?」

「プオー・・・睦月ちゃん!」

「え?あれ?吹雪ちゃん?何でラッパ吹いて?」

「おう!起きたか!」

 

鼻眼鏡天龍と吹き戻し摩耶にパーティーハット鈴谷が、素早く反応する。

側にはタンバリンオッサンとタンバリン榛名が居た。

 

「おい!穂波!夕石屋呼べ!睦月が起きたぞ!」

「総長も呼ばないと!」

 

騒がしい周囲を他所に、吹雪が睦月に抱き着いた。

 

「良かった・・・」

「吹雪ちゃん・・・」

「良かった・・・睦月ちゃん、生きてた・・・良かった・・・!」

「・・・ごめん、ごめんね・・・吹雪ちゃん・・・!」

 

二人は泣いた。泣いて喜んだ。

自分のせいで、失った、もう会えないと思っていた相手。

その相手が、傍に居るのだ。

気を効かせたのだろう。いつの間にか、病室には二人だけになっていた。

 

「睦月ちゃん、私色んな事があったよ」

「うん」

「色んな人に会ったよ」

「うん」

「二人で、皆に会いに行こうよ」

「うん」

「それで、皆で遊ぼう」

「うん、そうだね・・・!」

 

二人は泣きながら笑い、未来を語った。

不幸はもう無い。後は、先の幸いを望むだけだ。

 




宿毛の大和

沖にある小さな小島で発見された大和。流暢な土佐弁で喋る。何時でも作業着姿で愛用の煙草はわかば。

他の大和と違い、射撃が壊滅的に下手。
なので、初めから持っていた峰がハンマーになっている変わった鉈や斧を使う。
現状における最高戦力の一人。



機竜

機械式の竜。
伝説上の生物を機械で再現した兵器。
これ一体で海域一つを解放する事が可能と言われている。
しかし、その建造技術は第一次侵攻時に失われており、現在はロストテクノロジーとなっている。

鉄蛇(ティシェ)

最新型の特殊戦車。通称、蹂躙戦車
巨大な蛇型で、膠着した戦線に穴を開ける為に試験的に建造された。
二号機が強奪された。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。