「懐かしの!」
「我が家!」
帰ってきました、北海鎮守府!と大荷物を抱えて叫ぶ二人。
提督の五百蔵冬悟と秘書艦娘の吹雪だ。
横須賀鎮守府での休暇生活から、普段通りの通常生活へと戻ってきた。
「ここが、吹雪ちゃん達の」
「北海鎮守府なんですね、冬悟さん」
否、普段通りではなく、新しい面子が二人増えた。
五百蔵冬悟とケッコンカッコカリ(ガチ)をした戦艦娘榛名と奇跡の生還を果たした駆逐艦娘の睦月だ。
「いやぁ、何だろうね。何だか本当に久しぶりな気がするよ・・・」
「そうですねぇ・・・」
感慨深げに呟く五百蔵、吹雪も懐かしそうだ。
格納空間から、鉄腕ちゃんが出てきてガチャガチャはしゃいでいる。
夕石屋の調査の結果、鉄腕ちゃんは吹雪の艤装に連結されている間は、吹雪の意思を反映した動きを見せる。
時たま、不可思議な動きをしているが、基本は吹雪の意思を反映している。その筈だ。
「さて、オープンザドアと・・・」
五百蔵がドアの鍵を開け、引き戸を開く。
カラカラと軽快な音を立て、簡易な硝子戸が開かれた先には
「ポポッ!」
「ヲヲヲッ!」
アホのヲガタとほっぽが菓子を食ってた。
休暇前に片付けた筈の執務室兼五百蔵の居室は、菓子の空き箱や袋、ほっぽかヲガタか分からないが、誰かが持ち込んだ謎のオブジェが散乱し、どう見ても子供の秘密基地になっていた。
「なんじゃこれええぇ?!」
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
ズーやん¦『何だろ?大丈夫かなって、表示枠開いたら、いきなりお説教シーンとか・・・』
邪気目¦『まあ、帰ってきて扉を開けたら、一秒で家が秘密基地とか説教案件だろ』
元ヤン¦『つーかよ、話に聞いてた通りに、普通に深海棲艦居るんだな・・・』
船長¦『あ、叔父貴のアイアンクローが入った』
「ポポポ!ポアアア!トーゴバカ!」
「ヲヲヲッ!ヲヲン!トーゴワレル!」
表示枠で、横須賀悪ガキ隊が実況する横で、五百蔵がアホの子二人にアイアンクローをかましていた。
北海鎮守府が休業中の間、二人はプレハブ小屋を自分達の秘密基地にしていた。
いくら五百蔵が休暇前に管理を頼んでいたとは言え、やり過ぎである。しかも、反省の色無し。
だからこその、アイアンクローだった。
「おン?確かに、管理を頼んだぞ。ああ、頼んださ、頼んだともさ。だがな!何で!家が!お前らの!秘密基地に!なってるんだ!」
「ポアアア!ポアアア!トーゴバカ!ワレル!」
「ヲヲン!ヲヲン!トーゴワレル!バカ!」
正座をしているほっぽとヲガタが、アイアンクローの痛みと圧迫でじたばた足掻く、五百蔵はその様子に更に力を強く籠める。
にゃしぃ¦『姫級とフラグシップ級にアイアンクロー・・・』
空腹娘¦『睦月ちゃん、慣れだよ』
にゃしぃ¦『慣れ・・・?!』
空腹娘¦『あと、ここの人達は、大概そう言う人達だから』
にゃしぃ¦『やだ・・・ 一瞬で慣れる要素が飛んでった・・・!』
睦月は驚愕した。自分達の敵である深海棲艦が、しかも姫級とフラグシップ級が普通に鎮守府に居て、菓子を食べて提督のアイアンクローで悶絶しているこの状況に。
鎮守府がプレハブなのにも驚いたが、吹雪の話だと、自分達艦娘には艦娘用の寮があるらしい。それもプレハブらしいが・・・
聞いた話だと、深海棲艦との友好の為の施設という名目の鎮守府らしいが、しかし、この状況。呉時代の教官や仲間が聞いたら、どう思うだろう?
・・・・・・やめた。録な事にならない。
多分、〝不幸だわ・・・〟とか〝空はあんなに青いのに・・・〟とか言って、フリーズするのが目に見えている。
「はい、では、二人共。荷物を片しましょうか」
「「あ、はーい」」
ズーやん¦『榛にゃん、超すげえ。この状況スルーだよ・・・!』
鉄桶嫁¦『慣れですよ、磯谷司令で慣れてます』
元ヤン¦『ああ、それか。この妙なデジャブ感は』
にゃしぃ¦『え?それで良いんですか?』
邪気目¦『良いの良いの、穂波だし』
ほなみん¦『何だー!私がどうしたのさ!』
わかば¦『標本・・・』
約全員¦『ヒィ!』
何だか凄い流れになってきたなぁ、と吹雪が表示枠を見ていると、新しい表示枠が五百蔵の顔横に出てきていた。
タテセタ¦『スマナイ、冬悟。帰ッテキテ早々ダガ、ほっぽトヲガタヲ見ナカッタカ?』
鉄桶男¦『港さん?二人なら、家を秘密基地に改造して潜んでますよ』
タテセタ¦『ほっぽ?ヲガタ?』
ポポポ¦『ポポッ!ネーチャ、チガウ!』
ヲヲヲ¦『ヲヲヲッ!コーワンセイキサマ、コレチガウ!』
タテセタ¦『ホウ?ソウカ、違ウカ。新説ダナ』
鉄桶男¦『てか、港さんもだが、ほっぽとヲガタも表示枠持ってんのね』
タテセタ¦『横須賀ノ金剛ノ所ノ変ナ二人ガ持ッテキタ』
港が五百蔵と話し込んで力が弛んだのか、二人がアイアンクローから抜け出し、そろりそろりと逃げようとしている。
しかし
「ポポ!シラナイノガイル!」
「ヲヲヲ!シラナイヒトイル!」
アホなので、好奇心が勝ったのかは知らないが、榛名と睦月と鉄腕ちゃんに興味を示して立ち止まり、指差し騒ぎ始めた。
「シラナイヒト!シラナイヒト!ポポポ!」
「ヲヲヲ!シラナイヒトイル!シラナイヒトイル!」
「え?あの」
ポポポヲヲヲガチャガチャと、ほっぽとヲガタと鉄腕ちゃんが榛名と睦月の周りを回る。
「シラナイヒトシラナイヒト!」
「ヲッヲッヲッヲッ!」
「吹雪ちゃん、これどうなってるの?」
「あと少しすれば、飽きて終わると思うよ」
吹雪に疑問するも、飽きれば終わるで終わってしまった。
睦月が悩みその隣で、榛名が何かに気付いた。
「あ」
「シラナイシラナイヒト!ポポポ」
「ヒトヒトシラナイシラナイ!ヲヲヲ」
「ソウカ、知ラナイ人二会ッタラ、ソノ周リヲ回ルノカ。初メテ知ッタナ」
大きな人影が二人を覆い。ゆっくりと、両手の鉤爪で二人が摘まみ上げられていく。二人の顔色が高度を増す度に、色白の肌が青くなっていく。
ゆっくり、ゆっくりと上がっていき、最高度に達すると
「ヤア、ほっぽ、ヲガタ」
額に青筋浮かべた港さんが、にこやかな笑顔で二人にアイサツした。
「ネーチャ・・・」
「コーワンセイキサマ・・・」
「話ヲシヨウジャナイカ、二人共」
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「イヤ、本当二失礼ヲシタ」
「ポポ、シツレイシマシタ」
「ヲヲ、シツレイシマスタ」
港さんに襟首を摘ままれたまま、二人が頭を下げる。
否、下げるというよりは、ぐったりして頭が下がっているだけだった。
「後程、家ノ者達二片付ケニ来サセル。エエト・・・?」
「榛名です。港湾棲姫様。何時も、家の夫がお世話になっております」
「ン?アア、ソウ言ウ事カ」
いきなり、初対面でぶちかます榛名と荷物整理の途中で固まる五百蔵。それを、難なく受け止める港。
吹雪と睦月は、寮に荷物を運んでいる。睦月が車椅子の為、それほど捗らないと思ったが、鉄腕ちゃんが大活躍していた。榛名も、折を見てそれを手伝いに入る。
「冬悟、頑張レ」
「何を?港さん。俺、何を頑張るの?」
「アノ、金剛ノ妹ダカラナ。ウン」
昔を懐かしむ様に目を閉じ、ぐったりとしたヲガタを放り捨てた片手で、顎を撫でる。
ーーアノ、金剛ノ妹ダカラナ。ウンーー
内心で言葉を反芻する。
「アノ、金剛ノ妹ダカラナ。ウン」
「何で二回言ったの?ねえ?」
「マア、気ニスルナ。マタ、後デ来ル。ア、後、大使館ニモ顔ヲ出シテオケ。中々二、頑張ッテイルゾ?」
港が笑い、嬉しそうに目を細める。五百蔵も若干そうだが、洋にしろ金剛にしろ港にしろ、若者が何かを成そうとしているのを見ると、嬉しくなる傾向がある。特に、金剛が一番解りやすい。
「そうですか、頑張ってるみたいですな」
「アア、ソウダ」
港が逃げようとしたヲガタを掴み、頭を揺する。再び、ぐったりしたヲガタを肩に担ぐ。
ズーやん¦『あ、そうだ。オジサン、今度の休みにそっち行っていい?』
鉄桶男¦『構わんが、そっちは大丈夫かな?』
邪気目¦『今は暇だしな。夏と冬は、穂波関係で忙しくなるけどな・・・』
鉄桶男¦『どゆこと?』
元ヤン¦『オヤジ、あれだ。夏と冬に祭りがあるんだ・・・』
船長¦『俺らは、それに駆り出されるんだ・・・』
ほなみん¦『お陰様で、シャッター前です!』
約全員¦『見返りよこせ!』
何だか知りたくない事実を知ったオッサンであった。
嘘次回予告
裏切りの瑞鶴
「何故?どうしてなの?瑞鶴」
「私はもう、貴女達とは違うのよ」
「瑞鶴うぅ!」
「大鳳、龍驤、瑞鳳、葛城・・・ 貴女達に言った言葉に嘘は無いわ。貴女達は、私の最初で最後の友よ・・・」
次回予定予告
北海鎮守府と町を、爆発するカブが走り回る!
吹き飛ぶ畑、お湯で増えるカブ?
駆ける睦月の車椅子!始まる鉄腕ちゃん無双!
影が薄れる一方のオッサンと榛名!
そして、最後の切り札が!
「このカブ、美味しいですよ!」
不思議カブ、絶滅の危機!
予定は未定