鉄血のズイズイダンス~裏切りのズイ~
ある意味、前回の続き
鉄桶男¦『さて、どういう事なのか説明をしてもらおうか』
ほなみん¦『いや、その・・・怒りません?』
鉄桶男¦『はっはっは、それは君の出方次第だよ?磯谷嬢』
表示枠に、にこやかな顔の五百蔵が居る。それを目の前に、磯谷が冷や汗を流しながら言い訳を考えている。
磯谷の目が右へ左へと泳ぎ、何か良い言い訳を出そうとして、口が訳もなく動いている。
鉄桶男¦『はぁ、磯谷嬢』
ほなみん¦『は、はい!』
鉄桶男¦『俺はね、何も怒っている訳じゃない』
ほなみん¦『え?』
鉄桶男¦『怒ってはいない。だが、呆れているだけだ』
ほなみん¦『もっと酷いじゃないですかヤダー!』
何故、五百蔵が磯谷に呆れているのか?
それは、つい最近の横須賀での騒動が原因である。
今年の夏に開催される『近しき親交の為の同人誌好事会』通称『近親同好会』に出品する作品の原稿を、提督の仕事を放り出して描いていたという事実が解り、磯谷が鎮守府から逃走、それを捕まえる為に審問官兼拷問官の若葉が街に解き放たれたが、街の住人達により磔にされた磯谷を比叡が発見し、事なきを得たという話に呆れていた。
鉄桶男¦『いやね、趣味を持つなとは言わない』
ほなみん¦『はい・・・』
鉄桶男¦『だけどね、それにかまけて自分の仕事を疎かにするのは、どうかと思うなぁ俺』
ほなみん¦『いや、ほんと、すみませんでした・・・』
表示枠の向こうで、磯谷がDOGEZAに変形したのを見て、五百蔵が軽く頭を掻く。
五百蔵としても、もう少し厳しく叱っておきたいのだが、重要性の高いものや、優先度の高いものは全て終わらせて、残るは重要性も優先度も低い仕事だけ、仕事を完全に疎かにはせずに、趣味に走っていた。
叱る者は叱るのだろうが、五百蔵は叱り辛い。
やる事はやって、その上で趣味に走っている。
長々と説教するのも得意ではない。DOGEZAに変形しているし、
鉄桶男¦『取り敢えず、次からはきっちりとしなさい』
ほなみん¦『hai!』
ズーやん¦『あ、終わった?』
元ヤン¦『穂波、次はガチ若葉な』
説教が終わったところで、鈴谷が興味無さげに割り込み摩耶が軽い死刑宣告をして、話は進んでいく。
邪気目¦『んで?今年の夏の近親はオッサンも手伝い?』
鉄桶男¦『ああ、暇ならね』
船長¦『叔父貴が来てくれたら、列のはけ具合が捗りそうだな』
鉄桶男¦『え?何、そんなに人来るの?』
ズーやん¦『いやぁ、これが来るんだよ・・・』
鈴谷の顔から生気が抜け、目からは光が消えていた。
天龍、摩耶、木曾に関しても同じだった。
五百蔵は絶句した。
自分達は何故、その様な修羅の国に放り込まれねばならないのかと、五百蔵は絶句した。
ズーやん¦『あ!でも、大丈夫だよ』
邪気目¦『オッサンが店番で居れば、バカやる奴も居ないだろうからな』
元ヤン¦『オヤジを相手にバカやる奴が居たら、見てみてえよ』
船長¦『流石、叔父貴だな!』
横須賀悪ガキ隊からの謎の厚い信頼に、堪らず苦笑する五百蔵。
ーー俺、そんなに悪人面かねぇ?ーー
五百蔵が眼鏡を外し、目頭を軽く揉む。
少し、表情が軟らかくなった様な気がする。気のせいかもしれないけど。
ほなみん¦『あ、金剛ちゃんの画集。原画で出すよ』
約全員¦『は?』
磯谷の言葉に、全員が固まった。
元ヤン¦『おい、アホ』
ほなみん¦『アホはやめよう!』
邪気目¦『うるせえ!は?原画?総長の?』
ズーやん¦『ほなみん、バカじゃないの?』
船長¦『総長の画集を原画で出してみろ。プロの画商の殺し合いになるぞ』
ほなみん¦『いやいや、いけるって!』
悪ガキ隊¦『遂に、脳までカビたか・・・』
売り子の悪ガキ隊からの猛烈なバッシングに、磯谷が必死の抵抗を見せている表示枠を横目に、五百蔵は着々と書類を片付けていく。
ふと、五百蔵は気付いた。
鉄桶男¦『あ~、磯谷嬢?』
ほなみん¦『何です?五百蔵さん。今、私の脳が如何に綺麗かを説いてるとこですけど』
ズーやん¦『オジサンも何か言ってあげてよ!』
邪気目¦『このア穂波、頭の中に脳じゃなくてトコロテン詰まってやがる!』
元ヤン¦『しかも、青海苔入りに見せかけたカビ入りトコロテンだ!』
ほなみん¦『何をー!?』
鉄桶男¦『いや、まあ、うん』
ほなみん¦『否定!味方!私、味方が欲しい!』
無理じゃないかなぁと思いつつ、五百蔵は眼鏡のレンズを拭いた。
鉄桶男¦『なあ、磯谷嬢。そのイベントは大規模なの?』
ほなみん¦『はい!夏には、参加者の体温で上昇気流が発生して局地的豪雨になった事もあります!』
ズーやん¦『あれ?オジサン、眼鏡掛けてたっけ?』
鉄桶男¦『ああ、最近細かい文字が読みづらくてね・・・』
元ヤン¦『オヤジ・・・』
邪気目¦『オッサン・・・』
船長¦『叔父貴・・・』
ーーインテリヤクザーー
全員がそう思った。
四角いレンズの縁なし眼鏡。しかも、レンズは細目ときてる。
落ち着いたデザインと言えば、そうなるだろう。
しかし、相手は強面の五百蔵冬悟。
どう見ても、インテリヤクザになる。
ーーあの眼鏡を選んだのは誰だ?ーー
吹雪、違う。吹雪なら、もう少し直接的に来る。
睦月、違う。睦月なら、まだ選ぶ。
本人も、若干強面なのを気にしている。
だとすると、残るは
鉄桶嫁¦『私のチョイスです!』
約全員¦『やっぱりな』
インテリヤクザ眼鏡は、榛名のチョイスだった。
鉄桶嫁¦『何です?私のセンスに何か?』
ズーやん¦『いやぁ、文句は無いよ』
元ヤン¦『文句は無いが、どうなんだ?』
邪気目¦『いや、もういいや。オッサン、話の続き』
鉄桶男¦『ああ、何と言うか、義姉さんの絵は凄い人気がある訳だね?』
船長¦『ああ、そうだぜ』
話が脱線したが、天龍が無理矢理流れを元に戻し五百蔵の問いを、木曾が肯定した。
それに五百蔵は頷き、続けた。
鉄桶男¦『しかも、原画という事は数はあまり無いね?』
ほなみん¦『はい、一冊のみとなります!』
元ヤン¦『オヤジ、どうし・・・あ!』
邪気目¦『あ?ああ!』
鉄桶男¦『はい、正解。プロの画商が殺し合いをしてまで欲しがる画集、それが一冊のみ出品される。なあ、そんな騒ぎを起こして、イベント参加出来るの?』
約全員¦『あ!』
五百蔵の指摘に全員が、はっとする。
ほなみん¦『あ、マズイ・・・』
ズーやん¦『ほなみん、告知はしてないよね?』
ほなみん¦『・・・・・・』
元ヤン¦『おい?』
ややあって
横須賀¦『ほなみん 様が退室されました。ほぼ確実に告知の取り消しに向かったものと思われます。承認しますか?はい/いいえ』
全員が、溜め息混じりに『はい』を押した。
ズーやん¦『・・・それじゃ、私も行ってくるよ・・・』
元ヤン¦『アタシも・・・』
邪気目¦『木曾・・・』
船長¦『ああ・・・俺らも行くか・・・証拠隠滅に・・・』
表示枠が消え、北海鎮守府執務室に静寂が訪れた。
書類を片し、時計を見る。
「ああ、こんな時間か」
結局、昼も食べずにおやつ時。
榛名、吹雪、睦月の三人は女子会と称して、町に出掛けている。
ーーなんか、最近一人が多い気がするーー
思いつつ、表の自販機で缶コーヒーを買い、台所の戸棚に買い置きの菓子があった筈と手を伸ばすが
ーーですよね~ーー
そんな買い置きの菓子など、この北海鎮守府で存在出来る筈も無く、綺麗さっぱり消えていた。
すなわち、戸棚の中には何も無い。空である。
仕方がないので、缶コーヒーを飲み干し、再び仕事に取り掛かる五百蔵であった。
次回?
にゃししししししししししししししししししししししししししししししししししししし!