「そんじゃ、ボーカルは摩耶か」
「ベースは私ね」
「ドラムは俺か」
落ち着いた喫茶店の中、奥のボックス席にて六人が夏の近親と同時に開催される打合せをしていた。
「演奏曲はどうする? 俺は『夏狐』が良いな」
「『夏狐』も良いけどよ。木曾、あれは和楽バンドだろ。アタシ達に三味線弾ける奴は居ねえよ」
「ふぶっちとムッキーは?」
「私はラッパですね」
「タンバリンです」
ーーあれ? これ、コミックバンドじゃね?ーー
ボーカル、ベース、ギター、ドラムと来てからの、ラッパとタンバリンである。ラッパとタンバリンである。
鈴谷が考える通りに、正しくコミックバンドになった瞬間だった。
「・・・ま、まあ、あれだな。今すぐ決めなきゃいけない事でも無し、今はコーヒーブレイクを楽しもうぜ」
木曾が取り直し、コーヒーカップを口に運ぶ。
ブレンドの香りが素晴らしいと思いながら、ふと吹雪のカップを見ると白かった。
否、カップが白いのは普通だ。いや、中には木製とか金属製のカップで出す店もあるから、白以外にもある。
だが、吹雪のカップはコーヒーの黒若しくはカフェオレのベージュが入っている筈の真ん中が白い。
白いだけではなかった。盛り上がっている。白く盛り上がっていた。
ーーえ? 何、それーー
白くてふんわりしたものが、カップの真ん中で盛り上がっている。
木曾が呆気に取られていると、天龍が気付いた。
「お、吹雪。ウインナーコーヒーか。洒落たの頼むじゃねえか」
「はい!この店は上のホイップクリームが甘いのですよ」
「あ、それ、この間、提督が作ろうとして失敗した奴だね」
「うん、提督が間違えて生クリーム乗せて何だか凄い何かになった奴だよ」
ーーどじっ子か、叔父貴! アリだな!ーー
榛名が居れば、即刻DOGEZAに変形する案件を考えつつ、横を見てみると見知らぬ男達が近付いて来ていた。
「ねえ、君達。何処から来たの?」
「ピッ!」
「あ?」
見るからにチャラそうな金髪が喋ると同時に、摩耶がソッコで威嚇した。
摩耶の男の趣味は、木曾と榛名の二人と似通っている年上趣味だったりする為か、チャラ男は気に入らない様だ。
単純に睦月を驚かせたのが、一番の理由だったりもするが。
木曾や天龍に摩耶に任せては、下手をすると喧嘩になりかねないと判断した鈴谷が対応した。
「ん~?何、ナンパ? 正直、間に合ってんだけど」
「いやいや、そんな事言わずにさ。どう? 俺達と」
「はっ、話になんねぇな」
天龍が鼻で笑うと、チャラ男共の眉がピクリと動いたのを鈴谷は見逃さなかった。
鈴谷としても、正直話にならないと思っている。
榊原班長然り五百蔵冬悟然り、この程度で顔色を変える様な男は周りには居ない。
ーーさて、どうしよっかな~ーー
鈴谷が考える横、吹雪の腹から可愛らしい音が鳴った。
「何? お腹空いてんの? 何か奢ろっか」
ーーあ、これ使えるかもーー
鈴谷が内心でほくそ笑み、摩耶がカウンターに居るマスターに目配せをすると、マスターは調理場へと歩いて行った。
「それじゃあさ、ふぶっち。この子に大食いで勝てたら良いよ」
「え、マジで?」
「マジマジ」
鈴谷がニヤニヤと笑い、摩耶が哀れな者を見る目で男達を見て、木曾が溜め息を吐き天龍は我関せずとコーヒーを啜り、睦月は呆気に取られ吹雪はいつの間にかサンドイッチを食べていた。
「ふぶっちふぶっち」
「も?」
「この人達が、ご飯奢ってくれるってさ」
「も?!」
途端に、目を輝かせ始める吹雪と悪い笑みを隠す鈴谷に、木曾が携帯を弄るふりをして、鈴谷の表示枠にアクセスする。
船長¦『おい、大丈夫なのか?』
ズーやん¦『ん、大丈夫大丈夫。もしもがあっても、総長から上限無制限の魔法のカード借りてるから』
元ヤン¦『なんだかなぁ』
にゃしぃ¦『でも、もし吹雪ちゃんが負けたら・・・』
ズーやん¦『大丈夫大丈夫。だって、私ふぶっちが負けたら良いよって言っただけで、何が良いか言ってないよ』
邪気目¦『睦月、こう言う奴にはなるなよ』
「それじゃ、何で勝負しようか?」
相手は小柄な少女と余裕の笑みを見せて、メニュー表を広げるチャラ男共の前に、一枚のビラが置かれた。
そこには、『一時間以内に食べ終えたら一万円! レッツチャレンジ北海ドリア2㎏!』とあった。
ビラの隅には、バケツをひっくり返した様な頭のロボが描かれていた。
「これでいこうよ?」
「俺達は良いけど、大丈夫? 食べきれなかったら、食べてあげようか?」
「それでいきましょう!」
チャラ男が舐めた態度で接してくるが、吹雪は華麗にこれをスルー。最早、ビラのドリアの事しか認識していない。
それが気に触ったのか、チャラ男共の眉がまた動いた。
この時点で、悪ガキ隊からの評価は0になった。
「んじゃ、吹雪対チャラ男の一本勝負は、ドリア2㎏を食べきった方の勝ちという事で、恨みっこ無しな」
頷く二人がマスターが構えるカウンター席に着いた。
待ち構えるは、湯気を立てる北海ドリア2㎏!
さあ、二人の勝負の行方や如何に?
「では、スタート」
摩耶の合図と共に、二人が同時にスプーンを手にした。
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
船長¦『んでよ、大演習だが』
元ヤン¦『十中八九、大本営が何か仕込んでるだろうな』
邪気目¦『吹雪と睦月絡みか』
ズーやん¦『ほなみんも、そこら辺を徹底的に洗ってるみたいだけど、相手が相手だから中々厳しいみたいだね』
船長¦『呉は、どう動く?』
邪気目¦『呉なら、大本営の言う事は無視しているみたいだ。彼処の提督もやり手だからな』
元ヤン¦『昔剃刀今昼行灯の安藤、だったか』
ズーやん¦『そうそう、あんまりに切れ者過ぎて、本営から左遷されたって話』
邪気目¦『何にせよだ。本営のタヌキ共が何か仕込んでる事は確定だ。他の第三世代については、何か分かってるのか?』
ズーやん¦『大湊に舞風、佐世保に夕立。後、ラバウルの時雨もそうっぽい』
元ヤン¦『確定情報は少ない、か』
ズーやん¦『あ、後ね。宿毛の朝潮もだけど、宿毛は警戒しなくて良いかも』
船長¦『何で、警戒無しなんだよ?』
ズーやん¦『だってさ、宿毛の総長、思い出してみ?』
邪気目¦『ああ、そうか。何かあったら、大本営が地図から消えるな』
盛り上がる喫茶店内の中、悪ガキ隊が大演習についての打合せを続ける。
何やら、どちらが勝つかで賭けになっているが、吹雪が圧倒的過ぎて賭けになっていない。
「ドリア下さい!」
元ヤン¦『なあ、これさ。公開処刑じゃね?』
ズーやん¦『うん・・・』
船長¦『おい、二人目が倒れたぞ』
邪気目¦『三人目も怪しいな』
ズーやん¦『あ、逝った』
「はい、時間です」
チャラ男共、ドリア2皿
まあ、普通に頑張った計4㎏
吹雪、ドリア15皿とサラダ3皿にチキンカツレツ6皿
一体、何処に消えた計約30㎏ちょっと
何か違う何かが混ざっているが、吹雪の一人勝ちである。
「おぷ・・・」
「それじゃ、支払いよろしくねと言いたいけど、無理っぽいし私が払うよ」
鈴谷がそう言い、財布から黒いカードを取り出し支払いを済ませる。
「おぷ・・・」
「んじゃあな、次は身の程を知れよ」
「ご馳走さまでした!」
最後のドリア(2㎏)を当たり前の様に平らげた吹雪が後に続き、喫茶店に残されたのはブルブルと震えるチャラ男共とマスターのみであった。
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「買えた買えた。ん? 吹雪と睦月に天龍は何処行ったよ?」
「三人ならさっき、『装甲勇者王アキツシマン』の144/1買いに行ったよ」
「そっか」
「ん~? 何何、摩耶寂しいの?」
ニヤニヤ笑いながら摩耶に近付く鈴谷に、摩耶のアイアンクローが炸裂した。
「あああああああ! わ、割れる~!」
「オヤジ直伝のアイアンクローだ。舐めた口聞いてると、マジで割るぞ」
「何やってんだ? お前ら」
「あ、キソー」
木曾が大きい荷物を片手に現れた。
「お、またボトルシップか?」
「俺の趣味だからな」
「よーう! 待たせたな」
「お待たせしました」
「しました」
木曾に続いて、天龍、吹雪、睦月が戻ってきた。
手には、四角い物が入ったビニール袋を提げている。どうやら、お目当ての物は買えた様だ。
「よっしゃ、んじゃ、荷物軽トラに置いて、春華楼行くか」
「「「「「さんせー!」」」」」
この後、春華楼北海支店は開店以来の大繁盛となり、たった六人の客に食材全てを使いきる事となった。
最後の料理を作り、それが厨房から運び出されたのを見届けた料理長は倒れたが、その顔は満足気であったという。
余談ではあるが、春華楼北海支店には後に多額の投資がなされ、付近の店舗と協同で出店を出店し、それもまた大繁盛となる。
その影に、黒いコートを翻し紫煙を燻らす姿があったとか無かったとか何とか・・・
「料理長! もう無理です!」
「馬鹿を言うな貴様ら! 貴様らの職務は何だ?!」
「しかし!」
「しかしも駄菓子も無い! 男なら、一度決めた道を貫け! 広東風蟹玉上がり!」
「豚と筍の黒酢炒め上がり!」
「持ってけ! ウェイター!」
そして
「最後、三不粘上がり」
「やりましたよ料理長! ・・・料理長?」
「やりきった・・・ もう、悔いはない」
「料理長おおお!」
こんな戦いがあったり無かったり
次回予告?
オッサン&榛名With穂波&金剛&洋は語る?
宿毛の大和と朝潮の特異性が明らかに?
若しくは
「あら?」
ヤベーよ、洋さんの前で門が開いちゃった・・・
この場合、帝都でのゾルザルボッコで若葉が大活躍するよ。