横須賀鎮守府では、五人の男女が会合をしていた。
五百蔵冬悟、榛名、磯谷穂波、金剛、鳳洋の五人である。
五人は机に広げられた幾つかの書類を前に、眉を潜めていた。
「まさか、ね。第三世代の娘が、ここまでとはね」
磯谷が数枚の書類を手に取り、愚痴を溢す。それは、『夕立』『時雨』『舞風』『朝潮』の四人の駆逐艦娘の資料であった。
「解っただけでも四人、しかも一人は不明ときたか」
「青葉ちゃんも頑張ってくれたけど、相手は大本営のタヌキ共」
「そうは簡単にはいきませんか」
頭を悩ませる三人に対し、金剛と洋の二人は懐かしいものを見る目で書類を眺めていた。
「長門に那珂に大和デスカ」
「よく、この三人を選びましたね」
「その三人は凄いの?」
磯谷が問うと、二人は顔を見合わせて笑った。
そして、一頻り笑った後に磯谷へと優しい声で言った。
「ああ、本当に懐かしいものデス」
「ふむ、那珂さんは説明が難しいですから、長門さんと大和さんの説明をしましょうか」
二人は三人に向き合い、二枚の資料を並べた。
そこには『夕立』『朝潮』の二人の情報が並んでいた。
「先ずは、夕立の根幹にある長門デスネ。彼女が行使した力は単純無比、言ってしまえば冬悟、穂波、貴方達デス」
「俺と磯谷嬢?」
「まあ、そのままではありません。あくまで、一番近いものが御二人という事です」
二人の言葉に、五百蔵と磯谷は首を傾げた。
自分達が一番近い。その言葉に二人は己達の共通点を探す。
ーー提督?ーー
ーーぐらいじゃないですか?ーー
ーーあとは・・・ーー
ーーあ!ーー
暫し、二人で悩んだ後、二人同時に同じ答えに行き着いた。
「「イェーガー!」」
その答えに、洋と金剛は満足気に頷いた。
「その通り、長門の力は『人型超巨大艤装の展開と行使』デス」
「彼女には何度も助けられました。最大で60メートル級の人型艤装を展開して、敵を凪ぎ払う様は壮観でした」
「そうデシタネ。彼女はその力の通りに単純明解、何時だって真っ直ぐに敵に向かって行きました」
「その力を、この夕立が?」
五百蔵の問いに、洋が答える。
しかし、その顔には幾等かの苛立ちにも似た感情が窺えた。
「ええ、資料を見る限りですが、彼女は長門さんの力の一部を行使しています。従来の艤装を元に人型を形成、上半身のみで大きさも自分の二倍強といったところですね」
「洋、落ち着きナサイ。彼女達に非はアリマセン」
「・・・そう、ですね」
「彼女達はどの様な形であれ、望まれて生まれマシタ。例え、そうでなくとも、長門は笑って力を貸した事デショウ」
資料に添付された写真には、小柄な少女とその背後に屹立する半身のみの犬顔の鎧武者があった。
その写真を指先で一撫でして、洋は続ける。
「彼女に使われている技術はほんの一部のみ。『本体』は私と共に在ります」
「大演習でぶつかる事があっても、摩耶と天龍に任せれば良いデショウ」
「お姉様、木曾さんと鈴谷さんは?」
「鈴谷は全体の指揮、木曾は霧島と組んでモライマス」
紅茶姉¦『良いデスネ? 霧島』
副長¦『はい、問題ありません』
鉄桶嫁¦『無理はしない様に頼みますよ。霧島』
副長¦『気にしないで、榛名。私は副長、横須賀の武力の象徴、そう簡単には倒れません』
鉄桶嫁¦『いや、あの、木曾さん・・・』
副長¦『木曾も第三特務、覚悟は出来ているでしょう』
木曾の運命を決める会話が表示枠で進む中、磯谷が一枚の資料に目を通して疑問する。
その資料は、宿毛泊地に所属する朝潮型駆逐艦娘『朝潮』の資料であった。
「ねえねえ、金剛ちゃん」
「ふン? どうかシマシタカ穂波」
「この朝潮ちゃんの資料なんだけど、おかしくない?」
磯谷が指差す資料の項目、それは朝潮の体重の欄であった。
そこには、三人が呆気に取られる数値が羅列されていた。
「・・・身長は吹雪ちゃんとそう変わりませんが」
「体重が、俺とほぼ同じ?」
「いや、これ間違いでしょ」
朝潮の体重、それは巨漢の五百蔵冬悟とほぼ同じ数値105㎏と刻まれていた。
因みに、五百蔵の体重は113㎏である。
磯谷が青葉に連絡して、間違いかどうかを確かめようとすると
「いや、その朝潮は大和の技術が使われていますから、間違いではアリマセン」
「「「へ?」」」
「大和さんも解りやすい力です。『超質量による防御と怪力』それが、彼女の力です」
宿毛の大和の力、それは単純な単純な質量による絶対防御と怪力であった。
つまり
「この、朝潮ちゃんも、あの大和ちゃんと同じなの?」
「まあ、そうなりマスネ。しかし、100㎏程度なら問題は無いデショウ」
「そうですね。確か、大和さんの体重は幾つでしたか?」
「私達と戦列を組んでいた時は、数トン級デシタネ」
「ああ、そうでした。私が敵陣の真ん中に射出して、質量爆弾の真似事もしましたね」
「あの時のまるゆの顔を覚えてマスカ?」
「・・・凄い顔してましたね」
空から数トン級の何かが降ってきて着弾して陣形崩されたら、その着弾した何かが2メートル級の大女で、鉈と自分より巨大なパイプレンチ振り回して大暴れされて自陣が壊滅した。
当時の生存深海棲艦が残した言葉である。
「穂波、どうかシマシタカ?」
「うん・・・なんて言うか、ね」
「桁が違うなと」
「思いまして・・・」
そうデスカ?と金剛が首を傾げるが、三人は頷く事しか出来ない。
そんな微妙な空気が流れる中、洋が那珂の資料を手にした時、部屋に立て掛けられた時計が昼を伝えた。
「良い時間ですね」
「那珂の話は、テラスでシマショウカ」
「「「はあ」」」
最早、頷く事しか出来ない三人を引き連れて、比叡が管理する喫茶へと向かう五人であった。
宿毛の大和
世界初のドロップ艦娘とされている。
能力はぶっちゃけ『超人学園』の『ぬらりひょんのすけ』から
あ、新年か年末に洋さんの目の前で門が開いちゃう予定です。
では、次回は皆のアイドル那珂ちゃんのお話かな?