「ん~? エロが足りない」
「いきなり何を言っているんですか?」
横須賀鎮守府執務室、そこには提督の磯谷穂波と秘書艦の比叡が居た。
横須賀鎮守府は巨大だ。全鎮守府中、最大級の工厰を有し、技術力も高い。他鎮守府では手に負えない艦娘達の治療を請け負ったりもしている。
敷地に関しても広大で、工厰責任者でもある明石と夕張、通称『夕石屋』の二人と量産されたAMIDA達により、気付いたら建物が増えている等ざらにある。
「いやね、比叡ちゃん。最近、エロが足りないって思ってさ」
「・・・自室あるエロゲのタイトルが10単位で増えていましたが、それに関して一言」
「バーチャルエロは足りても、リアルエロが足りない!」
ーーもう、この人は・・・ーー
そんな横須賀鎮守府のトップがこれだ。
こうして、執務机にだらけている姿だけ見れば、近所の高校生若しくは大学生が軍服を着ているだけなのだが、あの豪運の金剛が認めた提督、これでも有能なのだ。
なのだが、普段がいまいち締まらない。
仕事をサボってゲームをしたり、駆逐艦達と遊んだり、副業の同人誌作家にと、本当に提督なのかと疑いたくもなる。
だが
「んじゃ、足りないエロは後で補充するとして、比叡ちゃん」
「何です? 司令」
「この、時雨ちゃんさあ。ほんとにラバウルに居るの?」
「と、言いますと?」
「いやさぁ、金剛ちゃんと洋ちゃんも解らない。青葉ちゃんが探っても塵一つの情報も無い。おかしくない?」
「確かに、それもそうですね」
「ブラフ、誤情報、隠蔽、どれをやっても塵一つ欠片一つくらいの情報は出るよ? なのに一つも無い」
「有るのは、在籍しているという情報のみ」
「影は有れども形は無い。流石の青葉ちゃんもお手上げだってさ」
はははと笑い、磯谷は書類を机に放り出す。
ラバウルの時雨、現在存在が明らかになっている第三世代艦娘の一人なのだが、情報がまるで無い。
有るのは、ラバウルの泊地に在籍しているらしいという不確かな情報のみ。写真に写った姿には、時雨という艦娘が持つであろう快活さは感じられず、どこか影がある。
そういった写り方をしていると言えばそれまでだが、磯谷の勘が違うと囁いている。
「あ~、エロい事がしたい。こう、薄い本にも描けないくらいのエロい事がしたいよ、比叡ちゃん」
「街にでも出たらどうです?」
「街はね~、顔が売れ過ぎてハニトラが凄い凄い。ホントもう、私の好みを知ってるよね~」
うへへへ、だらしない笑みでにやけだした磯谷に比叡は嘆息する。
磯谷は、性に関して開けっ広げというか寛容というか何というか、兎に角好色で有名だ。着任式での挨拶で『私が好きな事はエロい事!』といきなりかましてきたくらいだ。
ロリ、ショタ、熟女から中年、何でも来いのバイセクシャル、それが磯谷穂波だ。
「大本営もさ、私の好みに合わせてハニトラ仕掛けてくれて、本当に有り難う御座います! 全部美味しく頂きました、御馳走様です!」
「イェーガーの建造技術を寄越せ、でしたか」
「そうそう、前に五百蔵さんに建造技術の開示を要求したら見事に突っぱねられて、使者が吹雪ちゃんを人質にしようとして、ちょっと人間の原型が無くなるくらいに殴られたから、私に来たんだろうけど」
「司令相手に、ハニトラ仕掛けたのが間違いでしたね」
イェーガーの建造技術、恐らく、大本営が今一番欲しがっている技術の一つだろう。軍上層部の一人が暴走し、あの鳳洋が居を構える町に、態々使者を送り五百蔵に直談判をしたのだ。しかし、その結果は散々に終わり、その幹部は鳳洋と金剛が懇意にしている元帥の怒りを買い、立場を失うだけに終わった。
その際、使者が吹雪を人質に建造技術を引き出そうとしたが、何を勘違いしたのか五百蔵の手が届く範囲でそれをしてしまい、顔面を叩き潰され両足を踏み潰されて、大本営へと送り返された。
吹雪曰く、その時の五百蔵からは今まで聞いた事の無い様な恐ろしい音が聞こえたらしい。
班長¦『おい、嬢ちゃん居るか?』
ほなみん¦『ん? どったの、班長』
班長¦『シゲがエウレカの新武装で話があるってよ』
ほなみん¦『マジで!! やった!』
執務室から飛び出していく磯谷を見送り、比叡は左手の薬指を撫でる。
有能で浮気性でどこか抜けている、だけど皆が信頼する『提督』から送られた指輪ともう一つ。
「まあ、悪くは無いですね」
情けなくてお馬鹿で好色な『磯谷穂波』から贈られたもう一つの指輪を懐から出して眺め、比叡は呟いた。
「さて、食堂に行きますか。そろそろ、御姉様がティータイムに訪れるでしょうし」
比叡が立ち去り、無人となった執務室。その机の上にはラバウルの時雨の資料ともう一組、別の資料があった。
『ホライゾン・ブレイブの修復並びにイェーガーの遠隔操作技術の確立』
夕石屋から報告された資料に記載された内容。これが磯谷穂波の才能により、日の目を見るのはまだ後の話である。
門が開く前に、書きたい話があるので少しそちらの方を優先的に書きます。
洋さんの前で門が開く話は、新年に・・・!
次回は、横須賀鎮守府の本当にヤバくて優しい娘の若葉のお話かな?