「逆脚屋!ちょっとリヨ化してロマンを助けてよ!」
「は?浪漫?」
「リヨ逆脚屋になって、ソロモン叩いてよ!」
「は?ソロモン?七十二柱の?」
「リヨ化しろよ!」
「うるせぇ!会話しろよ!」
リヨ逆脚屋。なんか凄く理不尽な攻撃仕掛けて来そうとか言われたよ。
つうか、ソロモン、英霊化して大丈夫なの?ねえ?
という訳で、年末年始特別企画『Gateinバケツの人達』始まります!
嗚呼・・・門が開いちゃったよ・・・
その日は、何時もと変わらぬ平々凡々として平和な一日であった。
「あら、キノコが安いですね」
北海で居酒屋兼鮮魚店を営む
「今日の御通しは、和え物にしましょうか」
「いらっしゃい、洋さん。今日は白菜もおすすめだよ」
「あら、それも頂こうかしら」
「毎度!」
町の市場で何時も通り買い物をし、夜の居酒屋の準備をする。
そんな何も無い平凡な一日、それは突如として破られた。
騎士、飛竜、ゴブリン、オーク。およそ、ファンタジー作品でしか見た事の無い者達が、唐突に現れた『門』から湧き出し襲撃を始め、町を人を蹂躙する。その筈だった。
『洋様万歳! 洋様ニ勝利ヲ!』
ただ蹂躙する。その筈だった異形の軍勢は、何処からか現れた蒼褪めた軍勢によりその進軍を止められた。
異形の軍勢を率いる指揮官は困惑していた。
この町の住民はやけに逃走に慣れており、一人の死体も作る事無く自分達から逃げ出した。否、それよりもだ。
目の前に居る蒼褪めた軍勢、奴等が問題だ。その顔色からは、とても生者とは思えない。
それに
ーー奴等は何だ? 何故、死なないーー
槍で突き刺し馬蹄で踏み砕き、剣で斧で斬り倒し、棍棒で殴り倒しても死なず立ちはだかる。
突き刺された者は、槍に肉を裂かれ骨を砕かれながらも兵士を馬から引き摺り降ろし、斬り倒された者は首を喪い血を撒き散らしながらも相手を拘束する。
その異様で異常な光景に、最初は余裕を見せていた軍勢だが、徐々に焦りが見え始めた。
その時、膠着した睨み合いの中で蒼褪めた勢の中を、見た事の無い衣装に身を包んだ一人の女が悠然と歩いて来た。
「皆様、本日は御越し頂き誠に有り難う御座います」
柔らかな笑みと共に告げられた言葉、何を言っているのかは解らないが、それに指揮官は幾らか毒気を抜かれた。
自分達は、皇帝の命に従いアルヌスの丘に開いた『門』とは別の『門』の向こう側を征服に来た。
その筈なのに、目の前の女は何も焦る事無く当然の如く、何かを喋り続けた。
「私、この町の代表の一人を務めております。鳳洋と申します。本日はどの様な御用向きでしょうか?」
何を言っているのかは解らないが、用件を聞かれている気がした。
だが、指揮官は誇り高き帝国兵。異郷が蛮族の女の言葉なぞ聞くに値しないと、再度突撃を命じた。
「あの女が指揮官だ! 討ち取れ! 打ち取った者には褒美をくれてやる!」
褒美の言葉に、目の色を変えて洋へと突撃を開始した兵士達だが、目の前の女は頬に手を添えているだけで、何をする様子は無い。
「あらあら、どうしましょうか? 五百蔵さんと港さんが来るまで少しありますし・・・ ここは一つ、大人しくして貰いましょうか」
女の声と共に、先程の倍以上の人数の蒼褪めた軍勢が女の影から湧き出し、兵士達を飲み込んだ。
「なっ!」
指揮官は訳も解らぬままに、蒼褪めた軍勢に飲み込まれた。
意識を失う直前の言葉
「はぁ、見た目だけの虚仮脅しでしたか」
何故か理解出来たその嘆息と共に吐かれた言葉に、指揮官は驚愕に目を剥き、意識を失った。
紅茶姉¦『洋』
おかみ¦『あら、どうしました? 金剛さん』
紅茶姉¦『皆を呼び出してどうシマシタ?』
おかみ¦『いえね、〝お客様〟がいらっしゃったので、お出迎えをしたのですが・・・』
紅茶姉¦『ふむン、〝お客様〟デスカ?』
おかみ¦『ええ、〝お客様〟です』
表示枠で横須賀に居る金剛と会話しつつ、洋は考える。
ーーこの方達、どうしましょうか?ーー
洋個人として、この兵士達はどうでも良い。しかし、中世の戦場で見られる武装に身を包んだ者達、このまま解放するのは問題がある。
それに
ーーこの何でしょう? この『門』は不愉快ですねーー
矢でも撃ち込んでみようか?
洋は虚空から弓を引き抜くと、矢をつがえ狙いを定める。
弓柄が撓り、弓弦が引き絞られていくと平行して、空気が罅われる様に張り詰める。
狙いは一つ、『門』の向こう側に感じられるとても不愉快な何か。
限界まで引き絞られた弓弦を放つ瞬間、洋の眼前に表示枠が一つ飛び出した
タテセタ¦『洋、ヤリ過ギダ』
おかみ¦『港さん』
タテセタ¦『流石ニソレハ私モ看過出来ナイゾ』
おかみ¦『・・・仕方ありませんね』
洋は仕方なく弓を下ろした。その時、『門』から安堵の気配がしたのは気のせいだろう。
洋は不快な気配を放つ『門』を睨み、溜め息混じりに言った。
「何にせよ、この子達を返しに行かねばなりませんね」
洋は表示枠を開き、金剛へと連絡を入れた。
おかみ¦『金剛さん。少し、頼みたい事があるのですが』
紅茶姉¦『何デスカ?』
おかみ¦『人を運ぶ車輌を幾つか用意出来ますか』
紅茶姉¦『ふふン、御安い御用デスネ。良いデショウ』
おかみ¦『感謝します』
攻め入ってきた軍勢は蒼褪めた軍勢により拘束され、身動き一つ取れない。
もっとも、意識を刈り取られているので身動きなど取れる筈が無いのだが、洋にはそれすらも腹立たしい様だ。
先程から、苛立ちを隠そうとしている。
「上等の装備、人数。それを揃えて突撃を繰り返すだけの体たらく、笑い話にもなりませんね」
自分達なら、どうしていただろう?
部隊を分け、突撃隊と浸透打撃隊に別れる?
力に任せた殲滅戦?
それとも・・・焦土戦術?
「先ずは、情報。それも無しに戦いは始まりません」
そう洋が言うと、彼女の影から数人が現れた。
その何れもが蒼褪めた肌色に染まり、洋に対して敬礼で並ぶ。
「では、情報を宜しくお願い致しますね」
『オ任セヲ』
蒼褪めた軍勢は、再度敬礼をすると共に、『門』の中へと歩みを進めた。
「ああ、腹立たしい。町中に現れねば瞬時に砕いてやるものを、ああ、本当に口惜しい」
その憤怒の呟きは誰に届く事も無く、ただ『門』だけが聞いていた。
町の住民の意見
「嘗めんな! こちとら、襲撃され慣れとんじゃい!」
だそうです。