今回から本編となります。
特別編は、ちょっとネタに詰まったので・・・
ではでは、『バケツ頭のオッサン提督の日常』始まります!
人間を拾った中間棲姫のお話『凪中日記』も宜しくお願い致します!
オッサン、二人
「あ~、やっと終わった・・・」
「お疲れ様です、冬悟さん」
各方面から送られてくる書類の山と格闘する事数時間、五百蔵冬悟は眼鏡を外し目頭を軽く揉む。
どうにも、最近は細かい文字が読み辛いらしい。
そんな五百蔵に、榛名が珈琲を淹れて持って来た。
白いカップから湯気と珈琲の香りが昇り、五百蔵の眠気と倦怠感を幾らか覚ましてくれる。
「ああ、すまないね。榛名さん」
「いえ、榛名は大丈夫です。ですが、冬悟さん」
「ん、何?」
「凄い量ですよね、書類」
榛名が見る机の上、そこには所狭しと積み上げられた書類の山があった。
五百蔵が代表を務める北海鎮守府は、軍に属しているが軍施設と言い切るには微妙な立ち位置にある。
北海鎮守府があるこの町は、遥か昔から深海棲艦と馴染み深くあり、人間と深海棲艦が共に生きる端から見れば異様な町なのだ。
町に大戦期の英雄が居を構えているとは言え、鎮守府という『人間側の』軍施設を設営するのは、容易な事ではない。
お互いに不用意な刺激を与えぬ様に、協議に協議を重ね軍施設としての機能は最低限に、設営の建前としてお互いの友好の為の施設という事で設営されている。
「まあ、報告とか色々あるしね」
「色々で、これですか」
「うん・・・」
その北海鎮守府代表である提督の五百蔵、現秘書艦の榛名、吹雪、睦月には役割がある。
『深海棲艦の動向の調査と報告』
深海棲艦の動向を調査し、最悪の事態を未然に回避する為、それを逐次報告する。
それが北海鎮守府の役割だ。
と言っても、この海域の深海棲艦は戦争自体に興味が無い上に、「センソウ? ナニソレオイシイ?」とか言い出す様な者しか居ない。
大体、菓子に釣られて人間の仕事を手伝ったり、菓子に釣られて争いを始めたり止めたりする者が主なので、調査も報告もあったものではない。
この海域の深海棲艦を束ねる港湾棲姫の港も「戦争? 何故ソノ様ナ無意味ナ事ヲシナクテハナラナイ?」と首を傾げている。
なので、既に形骸化した役割であるのだが、大本営や他鎮守府と泊地から送られてくる質問書に報告書、挙げ句の果てにファンレター擬き、大量に送られてくるそれらに返答するのが、五百蔵の仕事だ。
ーー意外にも、ヲガタのファンが多いんだよなーー
空母ヲ級のヲガタ、通称『アホのヲガタ』
空母としてフラグシップ級の実力があるのだが、如何せん頭が悪い。
常に北方棲姫のほっぽと行動を共にしており、アホな行動が目立つ。
その
アホなので色々考えない行動に発言、根拠も何も無い占いの内容、その癖妙に高い的中率、人間受けする容姿。
それらが上手い具合に絡まり捻れ回って、ヲガタ人気に火を着けている。
因みに、行動を共にするほっぽとチビレ級のレナにもファンレターは来ている。
来ているが、内容が内容なものや完全に事案発生案件なものが主だったりするし、レナは文字が読めない。
こちらの言葉はある程度理解してはいるみたいだが、その言葉が何を意味しているのかを理解していない節がある。
先程も、届いた手紙をかじりバンバン手形を付けて、五百蔵に判読不能になった元手形を渡して走り去って行った。
他の手紙には見向きもしなかった事から、五百蔵が封筒に苦戦しながら詰め込んでいる手紙の何かがレナの琴線に触れた様だ。
元ヤン¦『オヤジ、榛名。居るか?』
五百蔵と榛名が書類を封筒へと詰め込む中、摩耶の表示枠が二人の顔前で開いた。
鉄桶男¦『居るけど、どうしたの?』
鉄桶嫁¦『何かトラブルでも?』
元ヤン¦『いや、アタシもなぁ。おい、鈴谷』
ズーやん¦『いやぁ、オジサン。突然だけどさ、お小遣いちょうだい』
鉄桶男¦『え?』
鉄桶嫁¦『鈴谷さん、貴女何を?』
ズーやん¦『いやいや、ふぶっちとムッキーの服を買ってたら、手持ちが足りなくなっちゃって』
船長¦『叔父貴、すまん』
邪気目¦『オッサン、すまん』
空腹娘¦『提督、すみません』
にゃしぃ¦『提督、ごめんなさい』
鉄桶男¦『う~む、仕方ない、か?』
鉄桶嫁¦『冬悟さん冬悟さん、流されてます!』
横須賀悪ガキ隊は長期休暇の後、北海鎮守府に出向という形で籍を置く事になった。
理由としては所属艦娘『吹雪』『睦月』の教導という事になっている。
元ヤン¦『オヤジ、すまん。アタシも今は手持ちがな』
ズーやん¦『帰ったら返すから、お願いします!』
空腹娘¦『提督、私このパーカー欲しいです!』
にゃしぃ¦『吹雪ちゃん、落ち着いて!』
鉄桶男¦『はいはい、取り敢えずそっち行くから、それからね』
約全員¦『うーい』
表示枠を閉じ、軽く髪を整えてから五百蔵は愛用している濃緑色のコートを羽織った。
見れば榛名も、外出の準備を終えている。
「それじゃ、行こうか。榛名さん」
「ええ、行きましょうか。冬悟さん」
靴を履き、扉を開けてみれば雪がちらつき始めた冬の空が広がっていた。
「ありゃ? 雪か」
「傘、は逆に危なそうですね」
「風が出てきそうな空だしねぇ」
「車は、皆が乗って行ってますし」
「大人しく、歩きますか」
呟き、二人は雪がちらつく空の下を歩き出した。
六人が居る町迄は距離があるが、徒歩で行けない距離ではない。
荷物が無ければ歩きで、荷物があるなら乗り物で、という微妙な距離。
鎮守府の敷地内から繁華街へと続く道、ちらほらと散歩中の住人が見え始める中、長身の二人は嫌でも目立つ。
五百蔵は213㎝、榛名は185㎝、周囲から頭一つ二つ抜き出た二人が、身振り手振りで夕飯の予定を話をしながら町へと向かう。
「うぅむ、今日はどうするか?」
「頂き物のジャガイモがありますし、肉じゃがでもしましょうか」
「ああ、なら、他の具材も買わないと」
「帰りは皆、荷台に乗ってもらいましょうか?」
「幌、掛けてくれてると良いんだけどな~」
二人は嫌でも視線を集め、白い息を吐きながら雪の中を、ゆっくりと歩いて行った。
次回
オッサン、挑戦