宜しいので? 若様
うん
しかし、若様
大丈夫だよ。僕も篁だから
・・・畏まりました
うん、ごめんね。でも、父上の守ろうとしたものを守らないと
若様
どうしたの?
強く、なられました
ありがとう。でも、僕が強くなったのは・・・
如何なされました? 若様
なんでもないよ
若様
うん?
強く、なられました
ありがとう
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
潮風が頬を撫で、髪に絡み付いてくる。
海に浮かぶ都市を行く人々の顔は往々にして明るく、これから起こるであろう吉事に胸を踊らせているのが、はっきりと分かる。
その中、豪奢な礼服に身を包み上流階級である事が分かる人々の中に、明らかに浮いている者達が居た。
「・・・」
「・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・」
「「「「ヤベェ、場違い感が半端じゃねえ」」」」
横須賀鎮守府並びに北海鎮守府の面々である。
「一応、総長セレクトの礼服着てきたけどよ」
「こう、なんだ? 着られてる感が半端じゃねえな。摩耶」
「オメェもだよ。木曾」
ドレスを着た摩耶が呻く様に呟き、何故かパンツスタイルの木曾が茶化すが、はっきり言って服に着られている感が滲み出している。
「くそ、着慣れない服がここまでとは」
「情けないにゃ~、キソーも摩耶も。ほら、この私、鈴谷さんを見習いなよ」
二人が鈴谷の声に振り向くと、これまたドレスに着られた鈴谷が居た。
「お前も着られてるじゃねえか」
「いやぁ? 摩耶のドレスよりマシだと思うよ」
「OK OK、表出ろや」
「残念、ここが表です~」
「よっしゃ、ぶっ潰す」
「いや、お前ら。何やってんだ?」
「止めんな、天・・龍・・・?」
長手袋を嵌め直して拳を鳴らし、鈴谷に肉薄する摩耶だったが、直ぐ後ろから掛けられた天龍の声に振り向くと、固まった。
全員が天龍?を見て固まった。
そこには、シックな藍色のドレスを見事に着こなし髪を整え淑女然とした天龍?が呆れ顔で立っていたからだ。
「おう、なんで疑問系だよ。あァ?」
「あ、これ天龍だ」
「ああ、ちゃんと天龍だ」
「しっかり、天龍だな」
「喧嘩売ってんのか?」
天龍?ではなく、ちゃんと天龍である事が判明し、安心する横須賀悪ガキ隊であったが、ここで疑問が生じた。
何故、天龍がここまでドレスを着こなしているのか?
その答えは直ぐに分かった。
「教導院時代にな、こういう場に駆り出される事が多かったんだよ」
「ふ~ん、そうなんだ」
「それよりも、叔父貴達は何処だ?」
「あ? オヤジ達なら、ほれ」
摩耶が指差す先、悪ガキ隊とは違う意味で浮いている者達が居た。
「・・・ヤクザ?」
五百蔵冬悟を始めとした北海鎮守府と横須賀金剛三姉妹である。
普段は強面でありながら何処か間の抜けた印象で実際抜けている五百蔵だが、それには例外がある。
確りとした格好、所謂フォーマルな格好をした時にそれらの印象は覆され、先程のヤクザめいた印象となる。
今の印象は、ヤクザの若頭と愉快な取り巻きの女達といったものだ。
だがそれは、何も知らぬ者達の印象であり、この場に知らぬ者は居なかった。
横須賀鎮守府筆頭秘書艦である比叡と、同じく横須賀鎮守府所属にして副長の霧島、そして元横須賀鎮守府第一特務の榛名と、その嫁ぎ先の北海鎮守府提督五百蔵冬悟と所属艦娘の吹雪と睦月。
其々が場に見合った格好をし、横須賀悪ガキ隊の元へと歩んでいた。
「やあ、探したよ」
「叔父貴、何処行ってたんだよ」
「いやねぇ、ちょっと合流場所間違えてさ、違う所に行ってた訳でね」
「人に遭難するところでした・・・」
「にゃしぃ・・・」
「義兄さんが見えなければ、遭難していましたね」
人の流れに遭難しかけた残りメンバーとなんとか合流し、式会場へと向かう最中、近付いてくる人影が一つあった。
「北海鎮守府提督五百蔵冬悟様ですね?」
「はあ、そうですが、貴方は?」
「申し遅れました。私、近衛師団所属の
「ああ、これはどうも」
握手を求めてにこやかに手を差し出してくる仁田に五百蔵は、普段通りの見掛けによらない柔和な対応で握手を返す。
この仁田善人なる人物、中々に曲者だと思うのは自分の経験からか。
生来、五百蔵冬悟は目付きや顔立ちで損をしてきた。
面倒だと思う事もあったが、自分の事だ。慣れる慣れない以前に、諦めに似たものだ。
だがこの仁田善人は、五百蔵冬悟が経験してきた反応のどれもが無い。
「いやはや、中々の体躯ですな。五百蔵様並の体躯は近衛でも見たことがありません」
「伸びたものでして、自然とこうなっていきまして」
「それはそれは、水のやり過ぎですかな?」
「ははは、かもしれません」
二人揃ってただの天然かもしれない。
趣味が合うのか。いつの間にか、園芸の話に移り始めている。
とは言え、五百蔵の趣味の園芸は、食費削減の為のガチ園芸であるのだが。
出会って早々に趣味の話に花を咲かせる二人を他所に、もう少し本腰入れて畑手伝うかと、考えていた天龍が突然後方にあるビルへと振り向いた。
「お? どうしたよ天龍」
「・・・ いや、なんでもねぇ」
「なになに? 漫画みたいに〝殺気・・・!〟みたいな?」
「それで済みゃいいんだがな」
「吹雪ちゃんもどうしたの?」
「何だろ? 何か聞こえたような」
ーー頼むぜ。
内心で祈る天龍の背後、吹雪と二人が振り向いたビルの影に一人の白い影があった。
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
さて、どうしたものか。
正装のあきつ丸は瑞鶴と考える。
結婚式場に入ったは良いものの、肝心要の他メンバーが見当たらない。
キョロキョロと辺りを見渡すのはマナー違反なので、二人はしてないが、このままではどうにもならない。
さて、どうしたものか。
取り敢えず、ウェイターが持ってきた果実酒を舐める。
林檎、所謂シードル。洋酒に詳しくないあきつ丸でも分かる程度には、良い酒なのだろう。洋酒独特の酒精の嫌な風味が無く、林檎の風味と微炭酸が口に巡る。
「あきつ丸、よく呑めるわね」
「おやぁ? 瑞鶴殿は酒は苦手で?」
「空母艦娘で下戸は居ないわよ。酒を奉納する事もあるんだし。私は洋酒が苦手なだけ」
壁を背にしグラスを揺らす瑞鶴に対し、あきつ丸は既に三杯目に入っている。
呑まねばやってられないとでも言うのか? この拗らせ揚陸艦娘は。
「失礼。横須賀鎮守府所属あきつ丸様と瑞鶴様ですね?」
「そうでありますが」
「私、近衛師団団長
我等の主が御待ちです。此方へお越しください。
次回
裏切り者は誰だ