バケツ頭のオッサン提督の日常   作:ジト民逆脚屋

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なんか、あきつ丸ラブストーリーだけで百話目に逝きそう・・・



この気持ちを何と言えば良いのだろう? 配点¦(ビックリだよ!)

「いやぁ、それにしても神通ちゃんが来てくれて助かったよ~」

「いえ、こちらこそ申し訳ありません。客人を迷わせてしまうとは・・・」

「いいヨいいヨ~」

 

磯谷穂波と神通は、式場への道をゆったりとした足並みで歩んでいた。

位置取りとしては、神通が前で先導し磯谷がその後ろを付いて歩いている。

 

「それにしても、何故この様な場に? 失礼ながら、案内の者が居た筈ですが?」

「ん~、ちょっとエロバニーの誘惑?」

「はあ?」

 

気の抜けた返事に思わず気の抜けた返事を返す神通だが、その目は油断は無く辺りを警戒している。

横須賀鎮守府提督というゲストにもしもの事があれば、御三家近衛師団の名誉に関わる。

神通は近衛の名誉に賭けて、辺りを警戒していた。

 

それに対し、磯谷は

 

ーーう~ん、どうしてこう、尻は丸くてエロいのかーー

 

神通の下半身を凝視していた。

他の神通とは違いスカートは長めで露出は少な目、腰には刀で背筋は真っ直ぐブレは無し。

 

ーーこの気持ち、どう表現するべきか・・・!ーー

 

凝視する下半身、特に尻とそこから伸びる両足、自分と比較するのはどうかと思うが、全体的な肉量が違う。

よく走る者の肉の付き方、比叡やあきつ丸、天龍が近い。

零から百、スタートと同時に最高速を出してくるタイプだ。

 

霧島や五百蔵、摩耶達は違う。

あれはどちらかと言えば、スタートがゴール。常に最高速、常にエンジンが掛かっている。

木曾と鈴谷、榛名達はその中間、安定した加速型。

 

ーーエロい? 違う。これは丸くてエロい、まロい・・・!ーー

 

答えを出した磯谷、神通の尻を更に凝視する。

神通も気付いてはいるが、一応はゲスト。問答無用で張り倒すのはやめにして、少しだけ〝見るな〟というニュアンスの気配を出してみる。

 

ーーまロさが上がった、だと・・・!ーー

 

何をどうねじ曲げて受信すればそうなるのか?

磯谷の気配センサーは本人と同じくアホであった。攻撃的意思に対し、尻のエロさが上がったと認識した。

 

神通は戦慄した。あまりに凝視してくるものだから、ちょっと強目に〝見るな〟オーラを出したら更に見てきた。意味が解らない。

何と言うか『初体験』『未確認生物』『想定外』等々が頭を過る。

割りと長く近衛師団に務めているが、この磯谷は初めて遭遇する存在だ。

 

ーーこの世界にはまだこの様な生命が存在したのですか・・・!ーー

 

直接の主から、真面目な勤務態度や前準備等で完璧と言われる神通、実はUMAや未確認飛行物体等をメインに取り上げる雑誌や番組が好きだったりする。

何時かは世界中にある、そう言ったスポットを巡る旅をしたいとも思っている。

しかし、近衛師団団長である身では暫く叶いそうもない。

 

しかし、その不思議存在好きの神通の前に現れた未確認生物〝磯谷穂波〟。

無人とは言え往来で衣服を脱ごうとする理解不能な行動と謎受信する脳、間違いなく新手の人型UMAだ。そうでなければ、変態だ。変態があの横須賀鎮守府の提督になれる訳が無い。

だとすると

 

ーー横須賀はUMAを提督に据えたのですか!ーー

 

流石、〝豪運〟の金剛が在籍する鎮守府。

 

「ねえねえ、神通ちゃんどうしたの?」

「いえ、なんでもありませんよ」

 

落ち着きなさい神通。相手は人型、人型UMAは知恵に優れると今月のUMA特集雑誌〝アトランティスだぎゃあ!〟に書いてあった筈。

落ち着きなさい、落ち着くのです神通。

捕獲はもっての他、相手はUMAでも客人、ノー捕獲で何としても観察するのです。

 

ーーそれにまだ〝希望〟はありますーー

 

神通は新型人型UMA〝磯谷穂波〟を観察する為、尻を凝視されながら相手を観察する事にし、磯谷は

 

ーー熱烈歓迎熱視線・・・!ーー

 

なんか知らんが、更に神通の尻を凝視していた。

 

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 

吹雪は許されるなら、ヘッドホンを付けて耳を塞いでいたかった。

 

ーー五月蝿いよ~・・・ーー

 

仁田善人の案内により到着した式場、そこで聞こえる音は吹雪が最も苦手とするものだった。

ガヤガヤと多重に重なり聞こえる人の声、街や鎮守府では気にもならない音だが、この様な場で聞こえる声はどうにも粘ついた質感を持つ様に感じるので、吹雪は苦手としている。

 

ーー折角、美味しそうな料理が一杯あるのに・・・ーー

 

食欲が湧かない。見た事の無いタワーの様なケーキ、色鮮やかなサラダ、丸々とした鶏に豚の丸焼き、新鮮な魚介類をふんだんに使ったカルパッチョ、正直今すぐ飛び付きたいが、肝心の食欲が湧かない。

 

「吹雪ちゃん、大丈夫?」

「む~、五月蝿いよ~」

「ありゃりゃ? ふぶっちダウン?」

「おいおい、大丈夫かよ?」

「水飲むか? 果実水もあるぞ?」

「オヤジと榛名は何処に行ったんだ?」

「義兄さんなら、少し挨拶回りに」

「タイミングが悪いですね」

「つーか、穂波にあきつ丸に瑞鶴は何処に行ったんだ?」

 

睦月を始めに続々と集まり出すメンバー、少し離れた所で五百蔵と榛名の話し声と音が聞こえる。

聞き慣れた声と音、そしてもう一つ

 

ーー何だろう? この音?ーー

 

聞き慣れない、甲高い何かを高速で斬り裂く様な音が微かに吹雪の耳にだけ届いていた。

 

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 

仁田善人は奇妙を感じていた。

何か変だ。近衛師団隊士としての本能が言っている。

五百蔵達を式場へ案内し、隊士詰所に行き装備を受け取り、装備と現在の警備状況を確認すると、不可思議な違和があった。

 

ーー斑鳩の隊士が多い?ーー

 

近衛師団は大きく三つに分けられる。篁、神宮、斑鳩の三つだ。大元の所属である師団は変わらないが、派閥の様なものだと仁田は考えており、その三つの内一つ、斑鳩の隊士が妙に多い。

別に、斑鳩の隊士が多いからと言って問題がある訳ではないが、何か変だ。

仁田は自分の装備である機動殻の通信を入れ、直接の上司である〝死神〟へと連絡をするが応答が無い。

 

「団長、何処で何やってるんだ?」

 

変だ。篁の近衛団長である〝死神〟は所属に煩い。

この様な大舞台の警護で、何処かの派閥だけが多いと必ず何か言っている筈なのに、何も言っていないだけでなく応答すら無い。

 

ーーなんだ? この胸騒ぎはーー

 

仁田は一度首を振り、バイザーの位置を調整、気分を入れ替える。

例え、奇妙を感じても胸騒ぎを覚えても、自分は近衛師団隊士だ。

 

主を護る。

何が起きても、これが変わることは無い。

 

だが、願わくば

 

「こんなめでたい日だ。何も起こらないで欲しいなぁ」

 

呟きを一つ残し、主である篁啓生が居る式場へと向かう仁田に、通信が入った。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

あきつ丸と瑞鶴は近衛師団団長を名乗る荒谷芳泉に連れられ、無人の廊下を歩いていた。

 

「荒谷殿、式場から随分と離れるのでありますな」

「ええ、何分警護が難しい場所でして、一番〝人通り〟が少ない場所を選んだら」

「こうなった、でありますか。それさ中々」

 

難儀でありますなぁ。

あきつ丸は普段と変わらぬ態度で慇懃に荒谷達近衛を労うが、言い方と言うか態度と言うか、あきつ丸自体の雰囲気で煽っている様にしか聞こえず、隣を歩く瑞鶴は内心で滝の様な冷や汗を流していた。

 

ーー煽んなっての、この馬鹿蜻蛉丸・・・!ーー

 

相手は気にした風ではないが、それでも近衛師団の団長なのだ。何かあっては、只の揚陸艦娘と空母艦娘では太刀打ち出来ない。

第一、あの天龍が団長は化け物と言ったのだ。

自分達なぞ、艤装を格納空間から取り出している間にやられるだろう。

瑞鶴は何時爆発するか分からない爆弾と歩いている気分だ。

 

ーーまあ、先生より強いって事は無いだろうけどーー

 

と言うか、そんなの居たら困る。

あんな歩く天変地異クラスに湧かれても、どうしようもない。

 

ーー先生は先生一人で充分ーー

 

と、呑気に考えていた瑞鶴だったが、隣のあきつ丸が見た目にこやかに荒谷と話している。

あくまで、見た目はである。

 

「しかし、中々に歩くのでありますな」

「申し訳ありません。〝鉄血〟と呼ばれる横須賀鎮守府憲兵隊長は歩く事はお嫌いですかな?」

「その様な名で呼ばれても、自分はか弱い女でありますから、こうも連れ歩かれるというのはねぇ」

 

つべこべ言わずに歩け。それとも、横須賀鎮守府憲兵隊長はこの程度で音を上げるのか?

ハハハ、自分は〝廊下の感想〟を言っただけでありますよ。近衛師団団長ともあろう方が少~し器が小さいのでは?

 

煽んなー!

瑞鶴は聞こえてきた副音声に対して叫び出したかった。

和やかムードかと思ったら全然違って、握手をしつつも机の下では大乱闘だ。

どうにかしてくれ誰でもいいから。

 

瑞鶴は呻き声をあげそうになりながらも、それを耐えた。

そして、ある一つ違和を覚えた。

 

ーーこの廊下、さっき通ったよね?ーー

 

見覚えのある絵画と花瓶、飾り。位置も記憶にあるものと同じ、一体何がどうなっている?

あきつ丸と荒谷の舌戦を聞きながら、表示枠を透過設定で開こうとする。だが、表示枠は開かず反応すら無い。

瑞鶴は焦った。しかし、あきつ丸は気付いていた様で、余裕の態度で副音声による殴り合いを続けている。

 

「・・・大変、お待たせ致しました。この先の部屋にて、私共の主が御待ちです」

「ああ、やっとでありますか」

 

重厚な扉、この先に篁啓生と神宮三笠が居る。

あきつ丸はゆっくりとドアノブに手を掛け、万感の想いを込め、扉を開いた。

 

「あ・・・」

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

「いや~、失礼ながら篁啓生君って、女の子みたいだよね?」

「え゙?」

 

神通はUMAの観察もとい、磯谷穂波の案内を続けていた。

いたのだが、このUMAがまたとんでもない事を言い出した。

 

ーーそれは若様が気になされている事・・・!ーー

 

篁啓生は男らしい見た目でない事を気にしている。

どうにかならないかと、筋肉を付けようとトレーニングに励んだり、食事量を増やしたりしたが、まったくと言っていい程に効果は無かった。

ならば内面をと、神通と〝死神〟の二人で協力してみたが、篁啓生、礼儀作法等は先代から教え込まれていたので、これも失敗。

 

如何ともし難い状況が続いたが、何時の頃だったか。

おや?と思う事がしばしばあった。

話を聞いてみると、士官学校に来ている艦娘に剣を教えてもらっているという。

 

その艦娘の名前までは聞かなかったが、きっと文武両道の素晴らしい艦娘なのだろう。

一度会ってみたいものだ。

 

「まさか、リアル男の娘を見るとはね~」

「は、はぁ・・・」

「ねえねえ、あれが式場?」

「え? あ、はい。そうですよ」

「やった! ありがとね神通ちゃん!」

「いえ、こちらこそ御客人を迷わす不手際、お許しください」

「いいヨいいヨ~。あ、ヤバイ。もうすぐ時間だ」

「では、私は警護がありますので、これにて」

「うん、それじゃあね~」

「はい」

 

手を振り式場へと向かう磯谷、その背を見る神通。

そして、磯谷が一歩を踏み出した瞬間

 

「へ・・・?」

 

白刃が振るわれ、赤が散った。




裏切り者レース
仁田善人 除外

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