バケツ頭のオッサン提督の日常   作:ジト民逆脚屋

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一月かかってこれか・・・


おい、見ろよ 配点¦(泣かしたぁー!)

クーデターの絵図を描いた。七色のライトに照されながら現れた色の白い少女、神宮三笠は言った。

五百蔵は何を言っているのか、数瞬理解出来ずに隣の榛名と固まり、霧島や悪ガキ隊に吹雪と睦月も心なしか苦い顔をしている。

 

だが、ある一人は違った。

 

「ふむ、成る程」

 

比叡だ。彼女は形の良い目を弓にした笑みで、神宮三笠が立つステージの背後を見る。

丁度一人、〝小柄〟な人間なら一人余裕をもって隠れられるスペースがある。

そして、神宮の周囲に浮かぶ表示枠のデザイン。

間違いなく、〝彼女〟は居る。

そうでなければ、あのセンスの持ち主が二人居るという事になる。

しかし、神宮を見る限りは服飾等のセンスは悪くない。だから、居る。

絶対居る。

だから比叡は一つの賭けをする事にした。

 

「司令? 居るんでしょう?」

 

今の心境で出来る限り優しく呼ぶ。

これで出てこなければ、取る手は一つしかない。

 

「どったの? ヒエー」

「成る程、そうですか」

 

呼び掛けに応える気配は無い。

いや、一瞬だけ神宮の背後で動きがあったが、それだけで終わった。

 

「そうですか、司令。貴女は、そういう人だったのですね」

 

言うと比叡は俯き両手で顔を覆う。

両手で顔を覆う比叡、その両手に隠れた瞳から涙が零れ落ちようとする瞬間、

 

「誠に申し訳ありませんでしたああああああああああああ!!」

 

DOGEZAが神宮の立つステージ背後から射出され着地、スキール音を立て火花を散らし滑走し、比叡の前一メートルでドリフトし停まる。

この間0.5秒、DOGEZAを修める者であれば当然であると同時に、感心する程に見事なDOGEZAがそこにあった。

 

「そんな、ヒドイわ。穂波・・・!」

「・・・ゴメンね、三笠ちゃん。でもね、私は比叡ちゃんへの愛は裏切れないの」

「嘘だったの? 私に言ってくれた言葉は嘘だったの?!」

「ゴメンね」

 

いきなり始まる愛憎劇(昼ドラ擬き)を口を横にした表情で見る面々。

行方知れずの三人の内の一人である磯谷穂波と神宮三笠の謎演技、しかし片方はDOGEZAのままである。

何故なら、DOGEZAとは相手に許しを得て初めて頭を上げる事が許されるのであり、それ以外で頭を上げる等の動きも許されない。

即ち、今の磯谷は微動だにせず神宮に尻を向けて、額を床に擦り付けて喋っている。

 

「司令、いつ喋って良いと言いましたか?」

「すいません!」

「おや、私が謝罪を求めていると?」

 

マジギレだ・・・! 

比叡の他、特に磯谷が鈍い汗を滝の如く流した。足元のDOGEZAが小刻みに震えている。

この時点でDOGEZAとしてはアウト、最早失意対前屈を更に小さくしたものでしかない。

 

「ヤベーよ、ヒエーがマジギレだよ」

「どうするよ?」

「穂波を犠牲に比叡の怒りを墓地に」

「アタシらの安全を確保」

「ターンエンドです」

「いや、そうだけどそうじゃないよ?」

 

上から鈴谷、天龍、木曾、摩耶、吹雪、睦月の順である。

 

「いや、でもよ睦月。これは何があったか分からんが、穂波が悪いぜ?」

 

と天龍が言えば

 

「いや、そうだけどそうじゃないよ天龍さん」

 

睦月は、そう否定する。

天龍も解っている。重要なのは磯谷ではなく、いや、自分達のトップが御三家の目の前でDOGEZAしているのだから重要ではない訳ではない。

訳ではないが、そんな事よりも遥かに重要な事を神宮三笠は言った。

 

自分がこのクーデターの絵図を描いた。

彼女はそう言ったのだ。それが何を意味するのか解らない天龍達ではない。

自分達は最初から、神宮三笠の手のひらの上に居た。

今回のこれは、結婚式ではなくクーデターだった。何を目的としたものかは解らないが、目の前のふざけたセンスの少女は、何食わぬ顔で自分は動かず、情報だけを流して周囲を動かしたという事だ。

無論、彼女の意思を理解して動いた者も居るだろうが、それでもこの少女は異常だ。

 

一体、何時からだ。何時から自分達は、この少女の手のひらの上に居た。

うすら寒い感覚の中、神宮三笠が口を開いた。

 

「ブッフ!!」

 

吐血であった。

 

「お、御嬢様!」

 

皆が一斉に引き、何事かと見れば、神通が駆け寄りゆっくりと仰向けに倒れていく神宮を抱き上げている。

顔色が先程よりも更に白くなっており、蒼白という具合だった。

 

「御嬢様! お気を確かに!!」

「あ゙~、大丈夫大丈夫、ちょっとはしゃぎ過ぎただけだから」

 

口から鼻から赤い血をだらだら流しながら、神宮が神通に返事を返すが、顔色を無くし鼻から胸にかけて真っ赤に染まった状態ではそれを信じろという事が無理がある。

神通は慌てず神宮の口元を拭き、着替えを用意する。

 

「ふむ、俺は出ていよう」

「では私はお手伝いしましょう」

 

着替えの気配に五百蔵は部屋から出て、榛名は手伝いを申し出る。

神通がテキパキと神宮の着替えを行いつつ、椅子に座らせ彼女の腕に点適用の針を挿していく。

 

「神通、いつもすまないわね」

「御嬢様、それは言わずにお願い致します」

「完璧だわ、貴女・・・!」

 

榛名は着替えを手伝いながら神通の手際を見る。

 

ーー手慣れてますねーー

 

神通の手際は明らかに手慣れたものであり、それを受ける神宮も慣れた様子で着替えさせられ、腕に挿される針を受け入れていく。

 

「いやぁ、ご免なさいね。自分の、足で、歩くのって、一週間ぶりで、つい、はしゃいじゃった」

 

点滴から薬剤を受け、先程よりかは顔色が良くなり肌色が戻った神宮だが、それでも言葉に力は無く途切れ途切れで、ようやく喋っていると言った感じだ。

 

「もういいかね?」

「ああ、オヤジ。入ってくれ」

「失礼するよ」

 

五百蔵が部屋に入ってくるのを確認しつつ、摩耶は神宮の言葉を考える。

 

一週間ぶりに自分の足で歩いた。

この言葉は事実だろう。現に、神宮は点滴の管に繋がれ呼吸器も装着していた。

神通の慣れ具合から、ああ言った作業が日常的とも言えるだろう。

 

「御嬢様、少しお休みになられては?」

「あ~、いや、時間無いし、さ。早く、しないと、始まっちゃう」

「始まるって何が?」

 

誰ともなく呟いた言葉に、神宮ではなく

 

「え? クーデター」

 

DOGEZA(磯谷)が答えた。

 




次回

今回の裏側説明会?

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