あ、〝死神〟の正体が分かるよ。
「え? クーデター」
何に間に合わない、何が始まる?
その問いに
「・・・んで、お嬢様よ。何に間に合わないんだ?」
「あれ? 私、無視された?」
様な気がするが、天龍は気のせいだとして、神宮三笠に改めて問う。
そのすぐ側では、DOGEZAが器用に頭だけを上げて周囲を確認していた。
「磯谷嬢、君さ、どうなってるのかね?」
「あ、よかった、私、見えない子じゃなった。私って体柔らかいんですよ。どんな体位だってOKよ!」
「司令、何か喋りましたか?」
比叡の言葉に即座に黙る磯谷。どうやら、まだ発言権は得られていない様だ。
貼り付けた笑みを浮かべる比叡と、それを宥めようと必死に脳をフル回転させている磯谷を横に、天龍は神宮からの答えを待った。
「あー、うん。割りと説明がめんどくさいし、かなり込み入った事情なのよね」
先程より呼吸が安定し、顔色も健康な常人のそれに戻りつつある神宮が神通の手を借り、背凭れを倒していた椅子から身を起こす。
「取敢えずだけど、皆。戦闘の準備だけはしておいてほしいわね」
「何でかな?」
戦闘の準備をしておけと言う神宮に対し、鈴谷が目を細目ながら問う。
それに対して神宮は、僅かに眉を下げて言った。
「貴方達の中の誰かが、〝人類最強の剣士〟と戦う事になるかもしれないからよ」
「おい、まさかだが」
「そのまさかです。天龍」
天龍が眼帯で塞がれていない目を見開き、神通が神宮の代わりに彼女の言葉に答える。
最悪だ。天龍の背に冷たいものが流れる。
「天龍、アタシらがおいてけぼりな訳なんだが?」
そう言い、摩耶が愕然とする天龍の肩を叩くと、天龍は整えた髪を掻き乱し、大きく息を吐いた。
「御三家近衛師団三団長中、二人は艦娘だ」
「そうか。・・・うん? 二人は?」
「そうだ。一人は篁、神通が神宮、そして斑鳩の一人は人間だ」
艦娘は人間よりも遥かに身体能力に優れる。軍事の主力となる存在だ。当然の事である。
そして、近衛師団は何よりも実力を重んじる。完全なる実力主義、そこに人間、艦娘の差は無いとされているが、人間が艦娘に勝つ事は難しい。
「そうよ。今回のクーデターの主犯は斑鳩。もっと正確に言うなら、斑鳩近衛師団の一部と団長」
「まさか、そいつが」
「人類最強の剣士、荒谷芳泉だ」
そう、人間よりも艦娘は身体能力に秀でる。完全なる実力主義である近衛師団であれば、その差は更に歴然としたものになる。
そして、その近衛師団で人間が団長になるという事が何を意味するのか。
「生身同士であれば五分ですが、今の彼は機動殻を使用しています」
「〝死神〟はどうしてる?」
「流石ですね。天龍」
「うるせぇ。いいから答えろ、神通。〝死神〟は今どうしてる? そして、味方か?」
天龍が頻りに口にする〝死神〟という単語に、神宮、神通、天龍の三人以外は首を傾げる。
来ている等の所在を確認する言葉ではなく、天龍は動向と立場を確認している。
それは天龍が、その〝死神〟がこの〝播磨〟の何処かに居ると確信しているという事に他ならない。
しかし、彼女をよく知る面々には疑問がある。
何故、天龍は〝死神〟の動向を聞き出そうとしているのか。
その様子には焦りと一縷の願望が見える。
頼むから関わってくるな、敵であってくれるな。
普段の天龍からは想像が出来ない様子に、鈴谷達に〝死神〟とは一体何者なのかという興味が湧いてくる。
「ねえ、天龍。〝死神〟って誰さ?」
「ああ、待て。それは後だ。早く答えろ、神通」
〝死神〟の正体を問うてくる鈴谷を掌を上げて制して、天龍は神通に答えを促す。
「安心しなさい。彼女は味方です」
「・・・そうか」
安心したように息を吐く天龍。
取敢えずではあるが、一先ず危機は去ったと言いたげな表情を浮かべている。
だが、天龍以外の面々には〝死神〟とは何なのかが判らない。
「天龍、いい加減に教えろ。〝死神〟ってのはなんだ?」
木曾がはっきりと答えない天龍に、多少の苛立ちを込めて話しかける。
「話を切っちまって、悪いな。んで、〝死神〟だが、簡単に言おう。近衛師団最強は奴だ」
そして、その〝死神〟の名前は
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「あ、あのですね。あきつ丸さん」
「な、なんでありますかな? 啓生殿」
瑞鶴と仁田は、離れた場所で顔を赤くして向かい合う篁とあきつ丸を見ながら、ニヤニヤと笑っていた。
先程まで、人類最強の剣士の凶刃に曝されていたとは思えない状況だが、誰が敵なのか分からない現況は下手に動かない方が良いとして、逃げ込んだ貨物庫の一室に隠れている。
そこで一度体勢を整えようと、仁田は損傷を負った機動殻の応急修理を施し、瑞鶴は横須賀鎮守府に連絡を入れようと不調の表示枠の設定を弄っていた。
(いやはや、若様のお話の御相手がまさかまさか)
(私達も聞いた時は驚いたわぁ・・・)
瑞鶴と仁田は思いの外気が合うのか、作業を進めつつ会話を続ける。
勿論、二人に聞こえない声量でだ。
(しっかし、あれよね。御三家ってのは、面倒ね)
(御三家に雇われている身としては同意し辛いですけど、確かにそうなんですよねぇ)
(神宮との婚姻とか、何考えてんだか)
(そこはまあ、なんでしょうね。三笠御嬢様にしては妙なんですよね)
仁田は機動殻背部の跳躍器のガス残量を確認する。
かなり無理をした加速したが、予想よりはガスの消費が少なく済んでいる。
武装面に関しては、大楯を失ったのは痛い。残る武装は短槍と、両腕の徒手格闘用追加装甲である手甲のみ。
銃が欲しいところだが、補給に動く訳にもいかない。
(妙って何?)
(あ~、何と言いますか、三笠御嬢様は思慮深いと言うか、神通団長が完璧と言うか、うむぅ?)
(まあ、この婚姻に素直に首を縦に振る奴じゃない訳ね)
(そうですね。絶対抵抗します)
神宮三笠の性格を考えれば、今回の婚姻に素直に従う訳が無いのだ。
しかし、今回は素直に従い、三師団三団長を警護に引き出し、一鎮守府をVIP待遇で招待したりと、好き勝手している。
まあ、勝手に決められた婚姻、自由にしたいのだろうと仁田は考えていた。
(分からない事だらけで、誰が敵なのか分からない)
(うーん、めんどくさいなぁ)
(そうか)
(そうなんです、よ・・・!?)
「って、うおおお!」
仁田と瑞鶴が飛び退き闖入者を確認する。
誰もこの一室には居なかった筈だ。なのに、今の声の主は当たり前の様に現れた。
「何があったでありますか?!」
格納空間から新しい刀を取り出したあきつ丸が、騒ぎを聞き付け駆け付ける。
「まったく、仁田。お前は判断は早いが、考えが浅いな」
「・・・いや、あの、だ、〝団長〟、どうやってここに?」
「自分の装備からここまで距離を取るとは、若様をどうやってお守りするつもりだ?」
冷たい声を聞いた篁があっと声を上げる。
右手にはドラムマガジンの短機関銃、左手には単発式の狙撃銃を携えた白を基調とした装甲服。
顔はフードに隠れてよく見えない。だが、フードから僅かに覗く肌は病的に白い。あきつ丸も色白だが、目の前の女はただ白いというよりは、血が通っていない程に青白い。
ーーちょっと、先生級とか勘弁しなさいよ・・・!ーー
瑞鶴の背に冷たいものが流れる。はっきり言って、自分達はお話にならない。
というよりは、空母艦娘が屋内という閉鎖空間で十全に戦える訳が無いのだ。
しかしそれは、目の前の白女も同じだ。
ーー空母式の艤装? 艦娘なの?ーー
白女の腰部にはかなり簡略化されているが、空母艦娘の艤装である航空甲板があった。
恐らく、艦載機で索敵を、両手に持った銃で戦うのだろうと推測出来る。
「あんた、何者?」
瑞鶴は格納空間から剣状矢を取り出し突き付ける。
白女はそれを意に介さず、あきつ丸の背後に居る篁へと一礼する。
「申し訳ありません、若様」
「あ、いや、僕なら仁田さん達が助けてくれたから、大丈夫ですよ」
「・・・左様で御座いますか」
篁の言葉に白女はフードを取った。
フード内に押し込められていた艶のある金髪が流れ落ち、顔が露になる。
「艦娘という事は、〝閣下〟が治める横須賀鎮守府の者だな? 若様を助けていただき感謝する」
「別に良いけど、あんた名前は?」
「これは、失敬。私は篁近衛師団団長」
グラーフ・ツェッペリンだ。
ついにベールを脱いだ近衛師団最強〝死神〟グラーフ・ツェッペリン。
ニチアサ系爽やかイケメン仁田君マジ焦り!怒られる?!
そして
荒谷の目的とは?
次回
「やらねばならんのだ!」
「子供犠牲にした未来に、何の意味があると?!」
激突、剣士対暴獣?