「アナタのシアワセはなんですか?」
何時だったか誰かにそう聞かれた気がする。
いや誰かではなく、何時でも自分で自分に質問しているのかもしれない。
それは置いておいて、様々な答えが帰ってくるのは容易に想像できる。
有る者はこう言うだろう。
「今日のメシが食える事さ」
また有る者はこう言う。
「金さ!!アレ買って、コレ買って、豪邸に住んで毎日遊んで暮らすのさ!」
また有る者はこう言う。
「家族だね、育ててくれた両親に、愛する妻、かわいい我が子!コレに変える事は出来ないね!」
私にはどの幸せもすべて輝いて見える……
幸福には様々な形が有るが誰しもその幸福というゴールに向かっている。
けれどあの日以来私はそれができなくなってしまった……
有る良く晴れた冬の日の朝。
とある一人の若者がこの世を去った。
若者はこの街の名士だった。
広い家に住み、両親との仲もよく、仕事もみなから頼られる事も多かった。
芸術関連に対し広い視野を持ち、特に自然に対する写生や写真が好きで良く賞なども貰っていた。
そしてついには先日、今までの功績を認められ、この街の市長に史上最年少で当選した。
その次の日の出来事だった。
誰もがその早すぎる死を悲しんだ。
順風満帆だった彼の死に街は大きくわいた。
「ねぇ?知ってる?彼って実は親と仲が良くなかったらしいわよ?」
「嘘よ、彼の家が実はお金に困ってたのは知ってるけど……」
「彼を嫉んだ暴漢の仕業よ!!」
誰もが根も葉もないうわさをした。
当たり前だ、彼の人生には僅かな汚点すらないのだ、死ぬ理由が見つからない。
誰もがその理由を探し求めた。
不思議というのを人は酷く嫌う、彼が死んだ理由が欲しいのだ。
「ねぇ!聞いてるの?」
私は目の前の婦人の言葉を軽く流した。
「ええ、聞いてますとも」
私は読んでいた新聞をたたみ、テーブルのすっかり冷めたコーヒーを口に含んだ。
「ねえ、あなた彼とは知り合いだったのでしょう?」
五月蠅い婦人が再びこちらに話しかける。
「ええ、彼が死ぬ日の夜に会いましたよ?」
その言葉に婦人が目を輝かせる。
「ねぇ!彼のその時の様子を教えてよ!!彼の死因が知りたいのよ!!」
何を夢中になることが有るのか?私には非常に理解しかねる思考をしているようだ。
「それなら新聞をどうぞ。他殺説から自害説、さらには陰謀説まで存在しますよ?」
私はさっき折りたたんだ新聞を婦人に渡した。
どの面も彼の死因や、過去に付いてのくだらない憶測が書かれている。
「私は真実が知りたいの!!」
婦人が大きな声を出す。
「お静かに……此処は静かな時間とコーヒーを楽しむ店ですよ?」
私は目の前の婦人をたしなめる。
真実か……「彼はもういない」コレは確かなのに何を彼女は求めているのか、私にはわかりかねます。
再びコーヒーを口に含む。
「ねぇ!早く教えて!!」
理解力のないご婦人ですね……
「貴方は彼の最後にどのような関係が?」
私はソーサーにカップを戻しつつ婦人に尋ねた。
「そんなのないわ!!私はただみんなの知らない事を知りたいだけ」
野次馬根性と言いますか……なんと言うべきか……ずいぶん自分勝手なご婦人だ……
「そうですか……お気の毒ですが私は新聞に書いてある以上の事は何も知りません」
私はコーヒーを飲み干すと立ち上がった。
「それでは失礼」
料金を払い店を出る。次の仕事が迫っている、ゆっくりしていられない。
「ちょっと!!……あれ?誰と話してたんだっけ?」
婦人がおかしな顔をしながら自分家に帰っていく。
「おや?降ってきましたか……」
黒い空から白い雪……
私は屋根から屋根へと音もなく飛び交う。
「外套とシルクハットが濡れるのは避けたいですね……」
どちらも支給された仕事着だ、汚すのは後々面倒だ。
しかし仕事のノルマはこなさなくては。
「お邪魔しますよ?」
私は音もなく橋の下に降りた。
そこにいたのは身なりの悪い男。
足を患い仕事を失い家族に逃げられ、遂には家からの追い出されてしまった。
たった一人の男。
「……あんたが俺のお迎えかい?」
何日もまともに栄養を取っていなかったのだろう、男の視線が合わない。
「そうですね。あなたは良い行いをたくさん積んだようなので私が派遣されました」
何時もなら名刺を出すのだが目の見えない男には不要だろう。
「そうかい……じゃあ、最後の一杯だ」
そう言って男は酒瓶を手探りで取り出した。
「お前さんも一緒に来てくれ」
比較的きれいなコップを同じく手探りで取り出す。
「ほら、飲めよやっと手に入れたんだ、俺の息子と同い年の酒……」
酒が注がれ良い香りがする。
男は私にその酒を渡す。
「いただきます」
クイッと飲む。
「ああ……うまいな」
「そうですね」
「市長が死んだらしいな」
「そうですね」
「……お前さんの仕業か?」
「そうですね」
「そうか……それは光栄だ……」
それっきりその男は動かなくなった。
「さて、行きますか」
私はそう言って橋の下を立ち去ろうとした。
「あ!アナタ今何をしたの!!」
昼間の婦人がそこに立っていた。
記憶は消したはずですが……偶然通りかかったみたいですね。
「彼を殺しました」
私は事実を述べた。
「この!!人殺し!!」
錯乱する婦人、無理もありません。
「違うのです、私は彼をシアワセの中で終わらせたのです」
「幸せの……中?」
「そうです、物語はエンドマークで終わる、けれど生き物はそうではありません。栄光や幸福を感じてもそこで生命は終わらないのです、最後は決まって醜く終わっていく……彼らは生前の行いが認められ、幸せの中で死ぬことが出来たのです。市長は大きな栄光の中で、彼は何時か飲もうと願った酒の味の中で、これらは本人が望んだこと。貴方たちが騒ぐことは何一つ無いのです。貴方も幸福の絶頂で終わりたいなら善行を積みなさい?それでは私は次の仕事が有るので……」
そう言って男は夜の雪の中に消えて行った。
実は先日、夢を見まして。
内容は忘れたのですがすごく幸せな夢でした。
もちろん目覚ましに起こされたのですが……
もし私があの時起きずにそのまま死んだとしたら……
幸福の絶頂で死ねたらどれだけ素晴らしかったかのか?
病んでませんよ?100歳まで生きる予定なのでそういうのは無しです。
見たいアニメとかゲームとかあるし……
別にこの作品は自殺を推奨するものではありませんからね?
そこだけ注意をお願いします。