短編集の世界   作:ホワイト・ラム

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どうもみなさん。
今回はまた新しい作品です。
前とはつながってないのでお気になさらず。


『壁』の向こう

ガチャ!ギィ……

部屋の古ぼけて錆びたドアが何時もの様に嫌な音を立てながら開く。

今は何時かは知らないが、同室の奴らは皆起きていた。

「お前ら朝だぞ!!」

扉を開けた職員が汚れきった俺達の部屋の床に食事を置く。

さあ、戦いの始まりだ……

個人に渡す皿なんてない、ただ一つの大きな器に盛られた何が入っているか解らない謎の物体を俺達はお互い必死になって腹に収める。

食いたくない奴は食わなきゃ良い、けどここの食事はコレだけでこんな得体のしれないモノでも食べなきゃ飢え死にしてしまう。

そんなの俺はごめんだ。だから他のヤツの様に他人を押しのけて必死で得体のしれないモノを夢中で胃の中に押し込む。

食事と呼べるかわからない代物だが文句をいった所で俺達の待遇は変わらない。

結局の所食うか食わないか、だ。

 

腹が有る程度ふくれた俺は自分達が収容された小屋から出る。

監視はいるが俺達が小屋から出た所で何のペナルティは無い、むしろ俺にとってはあんな小屋に押し込められて一日を過ごす方がよっぽど苦痛だ。

何時もの様に目的もなく小屋の周りを歩き続ける。

「よう!!ジャック!!相変わらずシケたツラしてんなぁ?」

前方から掛けられた声に俺はさっそく頭が痛くなった。

まさか、イキナリこいつに会うとは……

「なんだよ、エスキート……俺は今忙しいんだぜ?」

イヤイヤながら俺はそいつに返事を返す。

コイツはエスキート、俺がここに来る前にここに来たヤツだ。

此処の奴らにはちょっとしたルールが有る。

俺達はなぜここに呼ばれたのか誰も知らない、そして誰も自身の名前すら憶えていないのだ。だから一番の新入りが来るとその前の新入りが名前を付ける事になっている。

名前のない俺達を判断するためだそうだ。

さっきも言ったようにコイツは俺の前に来たやつ、この取ってつけた感満載のジャックはコイツの命名なのだ。

正直言って俺はこいつが嫌いだ。

先ず頭が全体的にゆるいし、いちいちうるさいし先輩ヅラするのも気に食わない。

「なぁなぁ!!今日も『壁』まで行こうぜ!!」

また始まった……

『壁』ね……あんなもの見ても何も変わらないし、いったい何が面白いのか俺には全くりかいできねぇ……

俺達の住むここは無限にどこまでもいける訳じゃない。

どの方向にしろひたすら歩き続けたら『壁』に当たる、壁といっても小屋の壁の様なしっかりしたものではない。

鉄の柱が地面に突き立てられ、針金のような物でその間を縫っているのだ。

フェンスといった方が正しいかもしれない。

しかしそのフェンスが非常に曲者なのだ、何しろ壁と違い見えるのだ、外が。

俺達は基本生まれてから一生この壁の中で暮らす、長い間いるとどんなところにも飽きてしまう、俺達が欲しても決して手に入らない『自由』が壁の外に見えるのだ。

エスキートはそれにどっぷりはまっている、暇さえあれば『壁』の外を見て手に入りもしない、俺達が知りもしない『自由』に思いをはせるのだ。

 

「ほら!!一緒に行こうぜジャック!!」

そう言ってエスキートが俺の腕を掴む。

こうなったらもうおしまいだ、コイツは自分が満足するまで絶対に手を離してくれない。

俺はコイツのつまらない空想を一日中、壁の外を眺めながら聞く事になった。

「なぁなぁ!!あの山の向こうには何が有ると思う?あの丸いのが付いた奴はどうしてずっとジッとしてるんだ?なぁなぁ!!ジャック!!お前どう思うよ?」

まるで子供みたいにうるさく騒ぐエスキート。

なぜ俺に聴くんだ?物心ついた時から俺達はずっとここにいる。

もちろん壁の中だけで生きてきた、ソレ以外なんて知る訳がない。

「なぁなぁ!!あ……カラスだ……いいよなアイツら……自由に飛べて、翼なら俺達にも有るのに……」

そう言ってエスキートは自分の両腕の翼を羽ばたかせる。

俺達の両腕には翼が有る、ここの職員には生えてない所を見ると俺達は特殊なのかもしれない、しかしまともに飛ぶことのできない翼に何の価値もない。

夢を見せるだけで逆に残酷な気もする。

「なぁ……もう帰ろうぜ?こんな事してて何の意味が有るんだよ?」

エスキートに俺はそう聞いた、自分でもわかるくらい冷めた声だと解った。

俺のその質問に対してエスキートは悲しそうな顔をしてゆっくり口を開いた。

「俺はさ、今生きてんのかって偶に解らなくなるんだよ……」

何時ものコイツに似合わない元気のない、俺がさっき出した声よりも冷えている。

「はぁ?何言ってるんだよ?生きてるに決まってるだろ!?毎日起きて、飯食って」

「そうじゃ無い!!そうじゃ無いんだよ!!」

エスキートが大声で叫ぶ、俺は思わず体を引いてしまった。

「悪い……ちょっと気が立っててな……なぁ、ジャック?毎日渡されるだけの飯食って、決められた場所だけで生きてさ、それって本気で生きてるって言えるのか?全部が全部市職員どもの掌って嫌じゃないか?『壁』の外見て見ろよ!!見た事もない物に食った事ないモン!!まだまだ世界は広いんだぜ!?こんな『壁』の中でホントに一生終わっていいのかよ!?まだまだまだまだ!!知らないことがいっぱいあるんだよ!!それを知りたくないのか!?」

まるで何かに憑りつかれたように一気にエスキートはまくし立てる。

「なぁ?俺と一緒に外に出ないか?」

エスキートの言葉に俺は非常に心を揺さぶられた。

俺だって知ってる、『外』に興味はある。

「けどよぉ!!一体どうすんだよ!!俺もホントは外に行ってみてぇよ!!こんな所で与えられるだけの生活嫌だよ!!けど怖いんだよ!!外に行くのがさ!!それにたとえ外に行ったとしても何もなかったら!?ここは安全だし俺達は結局外には出られない!!他のヤツみたいに早々諦めてここでずっと暮らしちゃダメなのかよ!!」

さっきのエスキートに触発されたのか、自分でも驚くような声が出た。

半分はもちろん無意識だった。隠してた本音まで出ちまった。

「ジャック……俺それ聞いて少し安心したよ。おまえまだ心、死んでなかったんだな」

そう言ってエスキートは俺の頭に手を乗せてゆっくりなでた。

なんでだろうな?涙が少し出た。

自分への情けなさか、自分の無力を呪ったのか、どっちもなのか……

「なぁジャック。此処には滅多に他の奴らは来ねぇ……好きなだけ泣けよ、それはお前の心がまだ生きてる証拠だ。泣き止んだらさ、一緒に『外』に付いて話そうぜ?な?」

俺はただ無言でうなずいて泣いた。

 

 

 

神様ってのはひょっとしたらホントにいるのかもしれない。

俺は目の前の光景を見て、そんな事を思っていた。

「いやだぁ!!」

「離してくれぇ!!」

「何処に行くんだ!!」

次の日の朝の事だ、職員たちが俺達を集め始めた。

行先は『壁』の間から外に見えていた丸い物が取り付けられた乗り物だ。

殆どの奴らが恐怖に涙している、そりゃそうだ。

安全に生きてこれた場所から無理やり引き釣りだされたのだ。

昨日までの俺のも同じく他の奴らみたいに泣きわめいたかもしれない。

けど今の俺は違う、生かされるだけじゃダメなんだ。足を止めめちゃダメなんだ。

何が有るか解らない、楽園から俺達は追い出された、帰る事は出来ない。

けど、俺はこんな日をずっと待ってた気がする。

そう思うと今度は不思議と顔が笑顔になった。

俺はまるで子供の様にワクワクした気持ちで、一緒に乗ったはずのエスキートを探し始めた。

 

 

 

そこで画面に映っていた(・・・・・・・・)ジャックの姿がブチンと消える。

「はぁい。皆さんわかりましたか?こうしてニワトリたちは牧場から出荷されます」

女教師が生徒たちに話しかける。

「せんせー!!ジャックたちはこれからどうなるんですかー!」

一人の生徒が手を上げて質問する。

「それはねぇ?この後首を絞められて、血を抜かれて全身の羽を毟られて炙られた後変わり果てた姿になって工場から出荷されまーす。ホントはこのビデオそこまで有るんだけど校長が見せるなってうるさいの。見たくなったら自分でさがしてね?」

間もなくしてチャイムが鳴り授業がおわる。

「ねぇさっきのビデオ……」

「うん……別にあんなことしても鶏肉嫌いは直らないよね?」

生徒たちは口々に感想を言う。

 




実はこの前、昔好きだったアニメのリメイクが映画化される事に成りまして。
ネズミが主人公で敵がイタチなんですけど、見てる時はネズミに感情移入して応援するんですけど、実際イタチがネズミ襲ってても何もしないなってなって。
今回は私達の生活で、黙殺されている側の生き物に感情移入させようと思い作りました。
最後に言いますがコレは動物愛護を目的としたわけではありません。
寧ろ私はケン○ッキーとかメッチャ好きです。
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