二人は小学校五年生です。
八幡が四年間いじめられ、五年目に差し掛かろうという三月頃に
失声症になり、離婚、それから一月後の四月に順の両親が離婚という形です。
なぜこの時期かというと、原作のここさけでの冒頭シーンで桜が咲いていたからです。
分かりにくくてすいません。
これは、心が叫びたがってるんだが軸です。
八幡が順の家に越してきたので、高校生になれば揚羽高校に入学します。
(雨……か)
八幡は車の中で目を覚ますと、外の天気が変わっていることに気が付いた。季節は梅雨に差し掛かり、近頃雨が多くなってきた。
(引っ越しの日にこれじゃ大変だろうな……)
そう今日は引っ越しの日、初めて新しい家族と顔を会せるのだが、八幡はたいして緊張などしていなかった。それはなぜか本人にもわからないが、父の選んだ人なら平気だろうという安心感は確かにあった。
「八幡?起きたのか?」
父さんが質問を投げかけてくるが、答えを返せない、返そうとはするが声帯がうまく震えず声が出せない。仕方なく八幡は窓を三回叩き返事をする。
「そうか、おはよう、よく寝ていたな。」
……仕方がないだろう。日常生活ならスマホで会話出来るが、運転中はそうはいかない。会話のない車内など、ただ気まずいだけなのだから寝るしかない。こういう時、この病気がとても不便なものに思えてくる。
「そろそろ、新しい家に着くが……緊張とかしてないか?大丈夫か?」
頷くだけで、大丈夫だ、という意味の返事をする。
「そうか……八幡は強いんだな……父さんなんか新しい娘と会うってだけで、嫌われないか心配で仕方がないのにな……」
やはり父親という生き物はいつも娘という存在に嫌われないか心配しながら生きているのだろうか……そう考えると父親になるのが嫌になってきた。
『大丈夫だよ、きっと』
スマホで書いて信号に引っかかったタイミングで見せる。
「そうかな……まあ八幡がそういうなら大丈夫か」
俺の頭を少し強引に撫で、運転に集中する。
少し照れくさいが、安心してくれたなら何よりだ、と八幡は思う。そうこうしているうちに車は住宅街へ入っていった。緑が多くとてもいい雰囲気だな、と八幡は思った。
「この辺のはずなんだが………お、あれかな?」
そこにはクリーム色の大きくきれいな家があった。一台の車が止まっていて、家主がいるのだとわかる。表札には成瀬と書いてあった。車を止め終わった後、お互いに傘を差し玄関へと向かう。父さんがチャイムを鳴らそうとすると、ドアがその家主によってあけられた。
「思ったより早かったのね。上がって?」
髪が肩にも届かないショートヘアな女性が言う。八幡はこの人が自分の新しい母親なのだと理解した。目が合ったので会釈をした。
「あら、その子が八幡君?賢そうな子ね。でも、私たちはこれから家族になるんだからそんなに他人行儀じゃだめよ?」
その女性、泉さんが頭を撫でながら軽く注意してくる。とても心地よく撫でなれている手だな……と八幡は思った。
『はい、これから気を付けますが、慣れるまでは多少は目をつむっていただけるとありがたいです。元々人見知りですし……』
スマホを泉さんに見せると泉さんは驚いたような顔で俺を見る。
「しっかりしてるわね……びっくりしちゃった。でも、家族に敬語は駄目よ?」
と、改めて注意をされてしまった。この人はしっかりとした人だなと思うと同時に改めて家族になるんだ、と再確認が出来た。
『うん、わかったよ。母さん』
それを見た泉さんは笑顔のまま、頭を撫で、リビングへ案内してくれた。リビングを開けるとソファーや机などが目に入ると同時に、こちらに背を向けて椅子に座っている少女が目に入る。少女は肩までのショートヘアで、黄色いパーカーを着ていた。
「順、挨拶しなさい。」
泉さんが声をかけると、ビクッとし、立ち上がる少女。両手をお腹の前で繋ぎ、下を見続ける少女に父さんは、戸惑いながらも声をかける。
「こんにちは、順ちゃん。えっと……新しいパパになるんだけど……よろしくね。」
少女はそれでも下を見続けていた。そんな態度に泉さんはイライラしたような素振りで髪をかき上げる。
「順!ちゃんと挨拶しなさい!」
泉さんが怒鳴ると、その少女はその場を走り去っていった。とんとん、二階へ上がったようだ。正直俺はこの反応に少々腹を立てたが、少し気持ちがわかるような気もした、今日初めて会った人を家族と認識するのは多少なりとは嫌悪感を示すものだ。
「もう……あの子ったら……ごめんなさい、嫌な気持ちをさせたわね。ちょっと呼んでくるから、ソファーにでも座って待ってて頂戴。」
この申し出を俺は首を振って断りスマホで伝えたいことを打つ。
『俺に行かせてください。』
これは俺がこの家の家族になるための課題だと思った。あの少女、成瀬順と仲良くならなければ、俺にはこの家にいる資格はない。
「でも………」
泉さんが反対しようというところで、父さんが言葉を重ねる。
「いいじゃないか。八幡、頼んだぞ。」
父さんはそれだけ言うと、泉さんを強引に椅子に座らせる。泉さんはまだなにか言いたそうだったが、何とか理解してくれたようだ。
俺は二階へ向かい、成瀬順を探す。部屋が四つあり成瀬順はひと際大きい部屋の大きな窓の窓枠で体育座りでうつむいていた。近づくと窓の外に先ほど通ってきた道路と二つの車が見つかった。さらに近づくと彼女の鼻をすする音が聞こえてくる。泣いているのだ。
『初めまして、だな。俺は比企谷八幡だ。』
これだけスマホで打ち、少女の肩を軽く叩き、気付かせる。少女は驚きこちらを向く。俺は、この時初めて少女の顔を確認した。黒く大きな目、ぱっつんの髪の毛、きれいな肌、俺はこの少女に見惚れてしまう。しかし、いつまでもそのままではいけないので先ほどのスマホを少女に渡す。少女はそれを確認すると、俺に返しポケットから出したガラケーで文字を打ち込む。
『こちらこそ初めまして。順は成瀬順です。順って呼んで』
その画面を俺に見せてくる、とりあえずはこれで第一ステップクリアだ。
『そうか、なら順は誕生日はいつなんだ?どっちが上かははっきりとさせておきたいしな。』
順は読み終わり、自分の携帯を打っていく
『12月2日だよ?八幡君は?』
『なら俺が兄貴だな、8月8日だ。』
順は読み終わると急に笑顔になり、急いで文字を打ち始める。
『ほんと!?やった!!お兄ちゃん欲しかったんだ!お兄ちゃんって呼ぶね!!』
同級生からお兄ちゃんってのは少し恥ずかしいが、まあ順に呼ばれるのは悪くないな……と思いつつ、この少女のことを理解していく。
(感情がよく顔や行動に出るんだな……明るい性格みたいだ。)
『好きに呼んでくれ。まあ、ここからが本題なんだが……さっきはどうして逃げ出したりなんかしたんだ?』
これを読むと順の顔は暗くなる。やはりストレートに聞きすぎたな……と思ったが順の指は動き出した。
『実はね、お父さん……っていうのが少し苦手なんだ……』
これを見せてくる順の手が震えている。
『なあ、もしよければ何があったのか聞かせてくれないか?辛いなら無理にとは言わないけど……』
順は泣きそうな顔でそれを教えてくれた、父親の浮気のこと、それを母親に言ってしまったこと、出ていく間際父親に言われた「お前のせいじゃないか」という言葉、そして、玉子の呪いから始まった、母親との亀裂。すべてを聞き八幡はこの少女のことを理解していく。
(なるほど……これがお喋りが出来ない理由か……順は全部自分のせいだと思い、自分の言葉を封印したいと強く望み、そして玉子という存在を作り出し、それのせいだと自分を納得させている。)
自分には何もできない。八幡はそう思い、情けなくなった。せめて、自分のできることをしよう。そう思い、スマホに文字を打ち込んでいく。
『そうか……それは辛かったよな…でもな、順のせいじゃないと思うぞ?父親の浮気が原因だしな……って言っても無理だよな……だからさ、せめて、俺にだけは甘えてくれよ、俺はかわいい妹にこんなことを一人で抱え込ませたくない。だから泣きたいときとか、辛いときは俺に言え、何でもしてやるから』
これは紛れもない本音で、嘘偽りのない言葉だった。順はスマホを手に、ぽろぽろと震えながら涙を流す。俺はそれを小町にやってやっていたように頭を撫でながら黙って見ていた。
一通り泣き終わった順は携帯を手に文字を打ち込む。
『ありがと、お兄ちゃん。』
笑顔を見せながら、携帯を見せてくる順にドキッとしてしまう。
『お、おう……さ、下に行こうぜ。』
順に背を向け、廊下へ歩いていこうとしたところを、服を掴まれ止められる。疑問に思い振り返ると順は文字を打っていた。
『お兄ちゃんは?お兄ちゃんはどうして声が出なくなったの?』
それは、八幡にとっては触れられたくない過去であり、もしも、話を聞いた順に軽蔑されるのが怖く話したくなかったが、
『お兄ちゃんは順のこと聞いたけど、順はお兄ちゃんのことを知らないよ?順、そんなの嫌だもん………』
これを出されては引くに引けなかった。八幡は感情を表に出さないように、淡々と、いじめにあっていたこと、両親に相談をしなかったこと、小町を守れなかったこと、全てを順に伝えた。
順は読み終わった後、少しだけおどおどとしながら、八幡の頭を撫でた、八幡は吃驚しながらも無言で受け入れた。
(順も「なんで相談しなかったのか」とかいうのかな)
今まで言われてきたことの中で一番多かった言葉だ。正直聞き飽きた。しかし、順の打った文字は予想とは違っていた。
『お兄ちゃんは、小町ちゃんを心配させないために黙ってたんだよね?お兄ちゃんは<頑張ったね>。』
<頑張ったね>これは誰にも言われたことがなく、一番自分が欲しかった言葉だ。八幡は泣いていた。いじめを受けても、声を失っても泣かなかった少年が泣いた。
それを少女は、成瀬順は優しく抱き寄せる。少女は彼が泣き止むまでそれをやめなかった。
いつの間にか雨はやみ、日差しがさしている。このまま二人はお互いに泣きつかれ、眠りに入ってしまうのだった。
二話です!
順の誕生日が12月2日というのは声優さんからの誕生日から取りました!
公式ではありません。
そしてこれからは
二話 八幡サイド
二話 順サイド
のように視点を変えて同じ場面を書くつもりですので
ご理解をよろしくお願いします。