そして一つの亜種聖杯戦争が閉幕した。
かのアインツベルンの術式を模した劣化聖杯は敗北したサーヴァントの魂を収め、世界の内側の大体の願いはかなえるであろう。
だが、その亜種聖杯を前にした魔術師、ロッコ・ベルフェバンの行動は、聖杯戦争の知識を持つものからすれば奇異なものに映ったであろう。
彼は、魂の杯の前に、英霊召喚の魔方陣と、聖遺物を敷設しているのだ。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
老魔術師の口から洩れた言葉は、間違いなく「召喚の呪文」
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」
聖杯戦争が「終結した」現在、最も唱える必要がないはずの呪文。
「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
しかし、確かに彼らは欲していた。サーヴァントという奇跡を。
「誓いを此処に。 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。」
これから始まる戦いの中で「本当の目的」を果たすために必要な、珠玉の力を。
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
老魔術が詠唱を完了すると同時に、魔方陣が激しく発行し、同時に魔力の奔流が風となって彼の後方へ吹き抜けていく。
だが、ベルフェバンは片時も魔方陣から目を離さない。失敗するわけにはいかない、この召喚だけは。
この亜種聖杯戦争、参加した5人は共通の目的を持っていた。この戦いの勝者こそ、この英霊を召喚する権利を得る、という。
本来ならせーのでサーヴァントを自害させてさっさと目的を達成すればよかったこの儀式は、しかし「召喚される新たな、半受肉したサーヴァントのマスターとなり、今後の栄誉まで約束される」という点から、あれよあれよというまに本気の聖杯戦争になってしまい、ベルフェバンも老体に鞭打ち、召喚したサーヴァントとともに戦場を駆ける羽目になった。
・・・幸いにも「戦えればそれでいい」という系統のサーヴァントであったため、中身の魔力をすべて英霊召喚に廻せたのは大きい。
触媒についても、「その騎士が魔女を真っ二つにしたときに使っていた短剣」を降霊科の倉庫から引っ張り出してきたのだ。
これで、かの騎士を召喚できぬはずがない。それでも、万一、をおそれ老魔術師は陣をにらみ続けた。
そして・・・
「問おう・・・貴方はなぜ私を召喚した?」
黄金の髪、蒼き瞳、銀の甲冑に身を包んだ、見た目麗しき騎士。
その口から出たのは当然疑問であるが、一方の魔術師は成功を理解し、歓喜した。
これで、世界は救われる、と
時間をさかのぼること数か月、ロンドン時計塔、現代魔術科教室にて。
一人の長髪の男性が、教室の黒板の前に立ち講義の準備を始めた。彼こそこの現代魔術科のロード、エルメロイ二世。
現代魔術科はその名の示す通り、この今の時代においての魔術の在り方を模索する、通常の魔術とは逆を行く学問である。そんな部署のロードたる彼は一般的に言えば決して地位が高い方ではない。無いのだが、彼が教えた弟子は必ず大成する、という評判もまた有名であった。
「本日の講義は、現在この世界の海を脅かしていう存在、深海棲艦というものの歴史、および現状について行う。」
深海棲艦・・・突如として世界の海にあらわれた、人類種の天敵。目的、どこから来たのかなどは一切不明だが、人類に対して敵対行動を取り、人類側からの攻撃はほぼ受け付けず、世界の海運をズタズタにした存在である。
というのが、一般的に出廻っている話だ。
手元の資料を開き、エルメロイは講義を開始する。
「そもそも、彼女ら・・・船は女性らしいのでこう表現するらしい。その出自は第二次世界大戦末期、旧大日本帝国海軍で計画されていた、人型船舶計画である。」
人間、どうしようもなくなると神頼みなどをしたくなるものだ。それがたとえ軍人や指導者でも・・・いや、なまじ先が見えてるからこそすがりたくなるのかもしれない。かの第三帝国の長は、アーサー王伝説に傾倒し、円卓の数と同数の勲章を作成したり、実際に聖遺物の探索をしたという。
「それは日本海軍でも同じだったらしい。軍の指導者たちは、彼らが【オカルト】と考えているようなものにまで手を出していた。その中の一つが、人型船舶計画。通称艦娘計画だ。」
人間に、船舶の付喪神の「概念」を下し式神とすることにより、人型の生きた船舶とする禁断の計画である。
「当時日本は資源不足に常に頭を悩ませていた。石油・兵站はもちろん、武器や船、戦車をつくる金属も不足していた。ブッディズムの神殿、テラ、というらしいが、そこの鐘をすら供出させているほどだった。だから、付喪神をおろし、戦艦の装甲という概念で、実際には金属を使わずに防弾性能を得る、という案はとても魅力的に見えたのだろう。」
だが、そんな無茶がまかり通るはずがない。
「第一に、当時の海軍で使用されていた船は全く歴史のない【現代のもの】であり付喪神足りえなかった。第二に、式神をおろす対象が人間の、しかも女性に限られていたのだが・・・式神とは、いわば新しいOSをインストールするようなものだ。人格が上書きされる、といって過言ではない。もとが「紙人形」や「動物」であればまだよかったのであろうが、先ほど言った様に命令を聞ける人間の、しかも女性に限られた。」
OSのインストール、などとほかの学科の魔術師がきけば眉をひそめるか、もしくは全く理解できなかったであろう。しかしここは現代魔術科。学生の大半はネットサーフィンを楽しめるし、ロードに至ってはPCゲームで世界の強豪と覇を競ってるような人物である。
「魔術師に表社会の倫理観は薄い。しかし、当時の軍部には「女性とは銃後で男を支えるもの」という意識が強く、これもまたネックとなって計画はとん挫し、日本の敗戦をもって闇に葬られた、はずであった。」
だが、とロードは忌々しげに口をゆがめながら言葉をつづける。
「これに目を付けたやつらがいる。アメリカ・スノーフィールドという地域に拠点を持つ魔術使いの集団だ。」
彼が「魔術使い」という表現を使ったことには意味がある。その集団は魔術師の一般的な目的「根源への到達」を放棄し、魔術の神秘を現代の生活における道具として使っている・・・という風に、少なくともロンドン時計塔には認識されているということだ。
「彼らはアメリカ合衆国政府とのコネクションを作るために、『弾丸で撃たれても死なない兵士』を売りつけようとした。当時、対テロ戦争を行いながらも『兵士の戦死』でいちいち世論に反発されることに、政府はうんざりしていたからな。」
ゴーレムのように露骨に科学技術以外のものを表舞台に出せば、魔術教会が黙っていない。「人間の姿のまま」しかし、一般的なホムンクルスと違い現代戦闘で負傷しない強靭さを兼ねそなえたもの・・・それに、艦娘が適合していたのだ。
「人間の女性にしか概念を下せないことは、最初から自我のないホムンクルスを製造、使用することでクリアし、すでに大戦も過去の話となり、使われた兵器たちも多少なりとも信仰を集めたことで、一般的使い魔からはかなり格が下がるにせよ概念としての力も得た。・・・しかし、彼らは致命的失敗を犯した。」
艦娘が「船舶の付喪神」を使用するのには、艦の装甲という概念を使用する他に、「人と共にあった道具として、人に使われることになれた霊をおろす」意味合いがあた。しかし、スノーフィールドの魔術師たちは東洋の陰陽道を軽視し、船舶の武装としての概念のみを下してしまった。
「結果、兵器としての破壊衝動、戦争における負の感情、戦争の犠牲者の怨念をも招きよせてしまったテストベッド達は、人のコントロールを離れ破壊衝動のままに行動を始めた・・・ホムンクルスの生産プラントを強奪したうえで、だ。」
なまじ知性があったため「味方を増やす」ということの必要性を知ったせいかもしれない。魔術師も、軍も、すぐに追手を派遣した。しかし・・・
「船として、魔術師たちが活躍できない海の上を主戦場とし、式神として、人間サイズの大きさで軍艦と同レベルのスピード、火力を発揮する、科学と魔術のハイブリット兵器に、通常の軍隊は対応できなかった。まだ数の少ないうちにそれこそ核弾頭でも使えばよかったのだろうがな。その使用が議題に上がった時には、すでに彼女らは独自に増殖できるほどに、複数の拠点を構えていたのだ。」
本来は、万が一仲間に何かあった時の対処として脳に刻み込まれていたホムンクルスの知識を、彼らは最初に強奪したプラントとともに「戦力増強」に使用した。
「魔術教会も対応しようとしたが、先ほど言ったように何せ相手は海上で活動ができる。そのくせ撃ってくる砲弾は6inch連装砲の概念で襲ってくる。ライフル銃ですら並みの魔術師では防げぬのに、大砲の連射など対応できるはずがあるまい?」
先代ロードエルメロイのもった魔術礼装、月霊髄液すら、ちゃんと防御態勢を取らねば狩猟用のライフル弾は防げない。ロードですらこのザマなのだ。一般の魔術師では推して知るべし.
「かくして世界の海は彼女らに席巻され、人類は海運ルートを失った・・・かに見えた。ここで、この艦娘計画の当初の発案、日本で動きがあった。」
日本の陰陽師達は、ロンドン時計塔の魔術師のように「神秘を秘匿して力を高め根源を目指す」という頭がない。当時の生き残りもいたため、逃げ出した深海棲艦たちの正体が「艦娘計画の成れの果て」と気が付いた彼らは、すぐさま合衆国政府に情報の開示(もちろん一般的にではない)を求めた。そして。
「スノーフィールドの魔術師たちが使ったホムンクルス技術と、かつて彼らが行おうとした付喪神の式神化、この二つが合わさり、戦後数十年たって初めて、正式な『艦娘』が誕生することになった。もっとも、表社会には最新のバイオテクノロジーと科学技術の結晶で戦う戦乙女、ということにしてるがな。」
くしくも、深海棲艦たちはアメリカ発祥のため、アメリカの船舶の概念を装備している。戦前は日本を・・・そして今度は、世界の海を守るため、同じ敵と戦うことになったのだ。
「ちなみにこの一件、一般社会に真実こそ公表されていないものの合衆国の失態である、ということは公然の秘密であり、この事件をきっかけにアメリカは安全保障理事会での発言力を大きく落とすことなった。」
逆に日本、そしてこの技術を取り入れることに素早く賛成したドイツ、イタリアの3国は常任理事国入りが認められている。(これに関しては聖堂教会が魔術協会の弱体を狙ったという話がある)
「かつての枢軸国に安全保障をすべて握られていることに、ロシア、フランス、中国、そして我が英国も当然面白くないという感情を抱いているが、神秘の秘匿にこだわって初動が遅れ、生活インフラを彼らに握られている今、そんなことも言っていられないのだ。」
現在、北海とバルト海はドイツ海軍、地中海はイタリア軍の管理下にあり、アジア地域の海から遠征で北アメリカ大陸までの安全保障を担っているのが日本だ。(おもにアリューシャン方面のルートを使う)大西洋を完全に封鎖されている現在、ここを失えばアメリカは即座に干上がる。まさに日本の機嫌ひとつというわけである。
「初期こそ船ばかりだったので航空機に支障はなかったが、現在は深海棲艦に空母型が出現したため、艦娘が安全を確保してるルートでない限り飛行ができない。物流は、ますますこの3国に握られているわけだ。」
魔術師とて(普通は)人間である。食料だって必要だし魔術用の触媒も遠方から入手する必要がある時もある。ロードエルメロイの趣味のゲームも日本からわざわざ輸入してるのであるし、ネットの用のインフラの防衛をしてるのも艦娘なのだ。
「教授!その艦娘達にはどこで会えますか!」
講義の一区切りで勢いよく手を挙げた少年が一人。見た目はお坊ちゃん風で、なぜか目をキラキラ輝かせてるせいで若干幼く見える。
「英国には艦娘はいない。この期に及んで、いまだにこの時計塔が妨害しているからだ。ドイツとイタリアはそこそこ数をそろえてきたようだが・・・本場ならやはり日本の鎮守府だろう。つまり、そんなところにおいそれといけない以上、見るのは不可能ということだ。」
後日、ロードエルメロイはこの発言をひどく後悔する。何故なら・・・
「さすがはロードエルメロイ、弟子を日本の鎮守府に潜入させてあまつさえ提督としての地位まで入手させるとは。英国生まれの天才指揮官登場となれば、これで東洋人どもに大きい顔をされっぱなしにならずに済みますな!」
「フ〇ック!」
質問をした彼、、才能だけは異様にあり余っているのが始末に悪いアホの子、フラット・エスカルドスは、どういうわけだか日本に潜入して艦娘たちの指揮官として大活躍しだしたからである。もちろんエルメロイはそんなことしろ、などとは一言も言っていない。
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大陸側から日本への貨物を運ぶ大型船、その甲板で、召喚されたサーヴァント・・・剣の英霊、セイバーはじっと海を眺めていた。英霊として強化された彼の視覚には、船の周りで「水上に立ち」、周囲の警戒に当たる艦娘達がはっきり写っている。セイバーのはなつ膨大な魔力の気配に、艦娘達も気が付いてるらしく時々こっちを伺うように見ているが、魔術教会の正式な依頼にして客人の為、それ以上の干渉はない。
本来なら正式な客船でもチャーターしたいところではあたったが、艦娘の護衛なくして船を動かせない現在、「人のみを運ぶ」船なんてよっぽどの事があってもまず出してもらえない。貨物船の一角に改装された客室をくっつけてあるだけでも破格の待遇といえる。
セイバーが日本へ向かっている理由・・・それは、召喚された彼に託された願い「冬木の聖杯の奪還、あるいは破壊」を遂行するためである。
事の起こりは1934年、日中戦争前の緊迫したじ情勢のもと行われた聖杯戦争にて。ナチスドイツが派遣した魔術師、ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアが大聖杯を強奪したことに始まる。「聖杯戦争の真のルール」が看破されてると思わなかった御三家は対応が後手に回り、まんまとナチスに持ち逃げされてしまった。
しかし、ナチスの予想以上に「魔術」による攻撃を重要視していた帝国陸軍は直ちに彼らを追撃、包囲網を形成した。聖杯とともに脱出することを断念したダーニックは、現地の一族相良家の所有していた霊脈に聖杯を隠し、そこで魔力を補充しながら脱出の機会をうかがうことにした。(この際、あたかも自分がすでに脱出したように偽装するため、解析した聖杯の情報を一族をつかい全世界に流した。それが今日の亜種聖杯戦争の源流である)
そしてようやく魔力が完全にたまり、ダーニックの本拠地たるルーマニアに聖杯を移送しよう・・・という段階で、深海棲艦による海運への深刻な打撃が発生する。
航空機もアウト、艦娘の護衛のある船は貨物検査がとんでもなく厳しく、一族を使って貨物検査をごまかそうとしてもどうしてもうまくいく気配がなかった。
そこで彼が考えた策が、艦娘の護衛のない、密航船を利用することだった。ダーニック自ら乗り込み、一族の中でも腕利きの戦闘魔術師を同伴させ、深海棲艦を迎撃するプラン。所詮歴史のないアメリカ人が御せなかっただけの戦闘用ホムンクルス、と高をくくっていた。
その結果が、聖杯の喪失である。
いや、実際には失われてはいない。だが、人の手にはない。
所詮人は水の上では深海棲艦に勝てない。船という、エンジンを破壊されればそれまでの領地しかない魔術師に対し、相手は好きに動ける深海棲艦。確かに戦闘魔術師たちはよく戦った。しかしそれだけである。彼らの乗っていた船は太平洋の藻屑となった。大半のものが爆撃で死亡した中、漂流して生き残った魔術師の証言により「ダーニック・ユグドミレニアの行方不明」と「聖杯の深海棲艦による強奪」が報告され、ユグドミレニア一族は大いに揺れた。
もともと、聖杯戦争を自分たちだけで開催する事で時計塔の支配からの脱却を目指していたのがユグドミレニアであった。その希望が断たれた。
聖杯を自分たちで奪還すべきと主張するもの、あきらめて時計塔に報告し庇護を求めようとするもの。そんな対立で、一族内部で血で血を洗う争いが勃発した。
最終的にはカウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニアという18歳の少年が一族をまとめ、姉とともに時計塔に事実上の人質として入る代わりに、時計塔が全力を持って事態の解決にあたること決着した。
しかし、ダーニックは確かに破格の魔術師というわけではなかったが優秀な人材であり、その彼と戦闘に特化した魔術師たちをもってしてもかなわなかったのが深海棲艦である。時計塔の魔術師といえ、何もなしに挑めばダーニックの二の舞だし、第一深海棲艦がどこに聖杯を運んだかもわかっていない。
かといって、日本の鎮守府に「なんでも願いがかなう魔術礼装(実際には仕掛け、のほうが近いが)の奪還」なんてほいほい頼めるわけもない。
その結果考えだされた苦肉の案が、「深海棲艦すら妥当しうる英霊を召喚し、それを日本の鎮守府に潜入させ情報収取を行い、しかるべき時に聖杯奪還、あるいは破壊を行わせる」というものであった。
幸いにも、鎮守府にはロードエルメロイがすでに弟子を潜入させており(私はそんな計画立てた覚えはない!byロンドンスター)あとは「長期間にわたって自由に動ける、水上でも戦闘可能な英霊」を召喚するだけになった。
聖杯戦争に特有の時間制限を無視するためにも、「亜種聖杯戦争の勝利者の願いとして、ほぼ受肉した英霊を召喚する」手法が選ばれ、水上でも戦闘可能な英霊という点では・・・時計塔のある英国にて、泉の精の加護をうけ、水上歩行が可能な英雄が選ばれた。もちろん、こんな手前勝手な願いも聞き届けてくれる人格者であることも考慮した。
その結果が今貨物船の上にいるセイバーである。
「恥を承知で陛下にお願いいたします。万が一・・・万が一深海棲艦どもが聖杯の使い方に気がついたら・・・正規の使い方でなくとも、サーヴァントを武器とすることに気がつけば・・・それは人類への脅威なのです!いかな艦娘が「現代兵器と神秘の両方を持つ」といえど、より古く、しかも破格の神秘たるサーヴァント相手では勝てますまい・・・陛下・・・何卒・・・!!」
魔術教会の中でもトップクラスの地位にいるはずの老魔術師が、額を地につけて頼む様に、セイバーは驚きを覚えた。この手の魔術師はとてもプライドが高い。内心は「所詮は英霊の現身」と思っていようとも表面上は臣下の礼をとる、なんてケースはザラにあるが・・・この魔術師のそれは、彼が本当に必死である、とセイバーに伝えるほど、鬼気迫るものであった。
ベルフェバンはそのあと、もし聖杯を奪還できれば、魔力をため込んだ後セイバーが優先的に使用できるようにする、などいろいろ有利な条件を出してきた。が、実のところ彼はそんなことに興味はなかった。
「過去にありて、そして未来に帰ってくる王」 彼はそういう風に信仰を集めている英雄だ。英国では、何か大がかりな災厄に見舞われ、しかしすんでのところで助かった時に、「かの英雄が自分たちを助けてくれた!」と証言するものが後を絶たない。最新の事例では第二次世界大戦の塹壕戦でも「陛下が我々を敵の砲弾から守ってくださった!」と証言した兵士がいるくらいだ。
だから、英国の人々が・・・いや、今は全世界の人々が危ないというのなら・・・彼は再び剣を振るおう、そう誓った。未来に帰ってきて、今度こそ国を守る英雄として。
「陛下、いかがなさいましたか。」
「ああ、ベルフェバン殿・・・いや、艦娘といものをみていた。船の前方で護衛してくれているようだが、見た目はほんとに少女なのだな。」
ふぶきちゃーん、むつきちゃーん、と仲好さそうに船団の前をいく艦娘をみながら、セイバーはしみじみという。西洋人の彼からすれば、東洋人の、更に少女となると、日本人が感じる以上に「幼い少女」を前線に立たせているように感じるのだろう。
「あれで、『口径が14cmの大砲』の概念を持つ弾丸を連射してくる、正真正銘戦闘特化のホムンクルスです。先代エルメロイのヴォールメン・ハイドラグラムですら防げるかどうか・・・」
「そのホムンクルスの司令官として着任するのでしょう、私は。『人としての』彼女らの側面を、知っておく必要があると思いますから。」
ベルフェバンからすれば、英国に「枢軸国に媚びなければ干からびる」という屈辱を与えた存在でもあるため、艦娘への感情は複雑だ。だがセイバーにすれば、これから共に過ごす同志なのだ。
英国での指揮も必要なため、ベルフェバンは日本に長居はできない。が、近くにいなければいざというときにセイバーを令呪でバックアップできないという問題がある。そこで、鎮守府にいるフラットにマスター権を委譲し、マスター、サーヴァントともに前線に揃った状態にしたうえで、フラットの分艦隊の司令官としてセイバー着任する、というのが筋書きである。だから、ベルフェバンは艦娘と触れ合うことはないので、どんな感想を持ってても別に構わない、のだが。
「・・・可憐な少女、とは思えませんか?」
「難しいですな。あれと同種の存在により、ダーニック・ユグドミレニアすら討ち取られたという恐怖。アレに頼らねば我が国が干上がるという恐怖。年を取るとどうしてもそういうものばかり考えてしまいます。」
むしろ陛下こそ、アレに肩入れしすぎることのございませぬように、と逆にくぎを刺されてしまい、セイバーは苦笑いを返すしかなかった。
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同時刻、日本、横須賀鎮守府。フラット艦隊の工廠
「司令官、今度着任してくる人ってそんなにすごい人なの?司令官の部下になるんでしょ?」
帽子をかぶったセーラー服の少女が、傍らに立つ金髪碧眼の少年・・・フラット・エスカルドスに語りかける。
名前の通り(?)ふらっと現れたかれは、いつの間にやら提督というとんでもない地位に上りつめ、艦娘達と日々スキンシップを図りつつも彼女らを的確に指揮し、戦果を挙げていた。
そもそも日本の組織になんで英国人がいるんだ、とかいうつっこみは、全部彼の暗示でなかったことにされた。才能と行動力が有り余った破天荒の行動とはそういうものである。
「うん、形式上はね。書類もそうやって作ったし。でも、実際には俺なんかよりずっとすごい人なんだよ、暁。」
暁・・・彼が着任したその日から秘書業務もこなしてくれている相棒・・・の頭をなでながら、フラットが答えた。「レディとして扱いなさいよー!」という抗議は無視する。
「そんなにすごい魔術師なの?確か、時計塔っていう魔術師の本拠地からおくられてくるんでしょ?」
フラットは暁に自分の出自について話してある。艦娘も基本は「神秘」の側に属するものであり、魔術師であるということはすんなり受け入れてくれた。もとより、神秘の一部たる降霊術を使ったということで時計塔は幾度も文句を言ってきているのだから存在自体は知っていて当たり前なのだが。
なので、暁も当初「文句を言ってくる煩い組織の構成員がなんでしれーかんなのか?」と非常に疑問を持っていたのだが、艦娘と一緒に過ごしてみたい、彼女らを指揮したい、以上の欲求を本当に持っていなかったフラットと、暁の子供のような素直さはとてもよく組み合わさり、今では抜群の信頼関係を築いていた。
「魔術師じゃないんだよ暁。実際には騎士とかそっちの人なんだ。」
「騎士?お馬さんにのって槍とか剣持ってる人?」
そりゃどっちかというとライダーじゃないかなーとフラットが苦笑していると、二人の目の前の工廠で作業完了をしめすアラームが鳴った。
「騎士・・・かぁ。そんな人の秘書になる艦娘って誰なのかしらね。しれーかん、建造作業完了よ、出迎えましょ?」
そう、2人が今日ここにいるのは、これから着任してくるセイバーの最初の相棒たる艦娘を建造し、先にちょっとしたお使いで任務になれさせることを目的にしていた。
「さて。あちらも最初は近海の任務だろうし駆逐艦を想定した触媒を用意したけど・・・」
作業室の扉が開き、なかから小柄な人影が現れる。その髪は、雪のように透き通った・・・
「・・・やぁ、艦娘として目覚めて、最初に会えるのが姉妹で私もうれしいよ、暁。」
「あ・・・!響、響じゃない!」
「暁の妹かー。うん、いい子だろうし、これなら安心して新任の司令官でも任せられるね。」
数ある特型駆逐艦の中で、最後まで生き残った不死鳥が、再びこの世界に舞い戻ってきた。
・艦娘
「国を守るために散って行った軍艦」として、戦後に人々の信仰を集めた船を「付喪神」として、戦闘用ホムンクルスに「降ろした」モノ。日本で古来より伝わる「式神」の術をベースにしており、人の姿、大きさでありながら船舶の装甲、攻撃力、速力を誇り、なおかつ水上を問題なく移動できる。
付喪神は神といっても、アミニズムにおける精霊といった具合のものである。つまり、ギリシャ神話や北欧神話の神々を下すといった無茶でなく、使い魔、降霊術と同等。また船は古来より女性として扱われてきたため比較的早く疑似人格として信仰を獲得し、現代でも「神秘足り得る」術となった。(艦娘がみな女性なのもこれに由来)
厳密には異なるが、「魔術精製能力をもった肉体に憑依したサーヴァント」。平行世界におけるルーラーが近い。英霊の座から引っ張ってきたわけではないので依代の必要もなく、召喚期限もなく、魔力生成もホムンクルスの肉体が優秀なため問題なく行える。ただし、神秘としての能力は限りなく低い(年月が浅い上に一般に知られてしまっている)。
また、擬人化であるためサーヴァント以上に「実際会ってみないと性格がわからない」という不便さもある。中にはトラウマ故に性格がひねくれてしまった艦娘もいるとか。それでも命令には従うらしいが、司令官は年頃の少女たちのまとめ役という、普通の軍人ではありえない気苦労を強いられる
・セイバー
剣の英霊、亜種聖杯戦争を経て時計塔が召喚した聖杯奪還の切り札。亜種聖杯戦争の願いの結果、ほぼ受肉した状態で召喚されている。
「過去にありて、未来に帰ってくる王」「金髪碧眼」「水の上を歩ける」等のキーワードでわかる人は分かるが一応名前は伏せておく。尚、Fateシリーズでは「一般的に女性」であるが、男性であるパラレルワールドも存在するので今回はそちらということで。また、その場合メガネっこ魔術師はどうなるかという話だが、「冬木に聖杯がある」場合彼女は戦いに巻き込まれず、エルメロイに師事して謎の山ガールとして元気に暮らす。
東洋の魔術観・スノーフィールド本拠地の連中の生態・二つの世界観を合わせるにあたっていろいろ無理も出てきてますが「この時間軸ではそうだったんだろ」で温かく見守っていただき、楽しんでいただければ幸いです