蒼銀の水平線に勝利を刻め   作:KingArthro

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沖ノ島海域に踊る

反航戦、双方、重巡1・軽巡1・駆逐1の3vs3、だが、ご丁寧に通り過ぎる間に撃ちあうつもりなど、さらさらない。

 

「木曾、時雨!わかってるな、途中で反転からの奇襲をかける!」

 

「面白い、牽制用の雷撃は俺に任せな!」

 

「タイミングは摩耶に任せる・・・くるよ!」

 

相手チームはご丁寧に陣形を崩さない。指揮している神通は基本に忠実であり、しかし生半可な奇策では動じぬ徹底的な堅物だ。華の二水戦の旗艦は伊達ではない。

互いに射程内に入り、エンゲージ。摩耶が先頭に立ち木曾、時雨と続いてガンガン仕掛けるのに対し、神通は火力のある羽黒を護り、その隙は雪風がカバーする防御を中心とする。それぞれのリーダーの性格がモロにでた組み合わせとなる。

摩耶のチームは、全体へ砲撃することを早々に諦め、なんとか鉄壁の神通を落とすべく攻撃を集中させ始めた。

 

「ク・・・第二主砲損傷・・・魚雷発射管はまだ無事です、羽黒、そちらは!」

 

摩耶たちのチームが撃つペイント弾があたり、神通の一部艤装に使用制限がかかる。しかし、彼女が身を挺したおかげで羽黒はほぼ無傷だ。

 

「問題ありません!時雨、木曾を迎え撃ちます!」

 

羽黒の20cm連装砲が、木曾をとらえた。神通を攻めあぐね若干焦った彼女のうかつな踏込を、羽黒は見逃さなかった。

 

「当たってください!」 

 

放たれたペイント弾は木曾の顔面を直撃。「ぐえええ」という唸り声と共に木曾はその場でノックアウトされる。ペイント弾といえど、当たると結構痛い。

 

「木曾!ちっ!だが!」

 

お互いがすれ違い、一度射程距離外にでる、その瞬間の急激な反転での奇襲、しかし。

 

「そうはいきません、雪風がお守りします!」

 

摩耶の行く手を阻んだのは雪風。神通は摩耶たちのフリーな陣形より強襲を予期し、予め雪風に警戒させていたのだ。

 

「て、げぇ!?離れろこのハムスターめ!」

 

「誰がハムスターですかー!」

 

小動物的反応を返しながら摩耶に襲い掛かる雪風だが、その射撃そのものは正確だ。予想外の事にあてずっぽうにしか打てなかった摩耶に対し、雪風は正確に12cm砲を摩耶の艤装に叩き込んだ。

 

「摩耶まで・・・クッ、だが僕はあきらめない・・・!」

 

僚艦2人がリタイアし状況は不利だが、神通はすでに中破、羽黒に肉薄し接近戦を挑めれば、雪風との一騎打ちに・・・!

 

「持ち込める・・・そう思いますよね・・・ですが!」

 

「な・・・しまっ・・・!?」

 

 

時雨を迎撃しようとしていた羽黒をギリギリかすめるように撃たれていた、神通の魚雷。肉弾戦を挑もうとしたがゆえに、時雨はひっかかってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「状況終了、白組の勝利だ。各自、休息を取った後映像を確認して復習に役立ててほしい。」

 

堤防の上から響が僚艦たちに声をかける。模擬戦をしていたのは、響と同じセイバー旗下の艦娘達であった。

 

セイバーと響の出会いの日に建造された、神通、時雨、雪風。(フラット曰く、武勲艦ばっかだなおい!?)

後日、艦隊を大きくする目的でセイバーの自前の資源で建造された、木曾、摩耶、羽黒。そして最後に一人。

 

「みんな、精が出ますね。間宮さんのお手伝いをして昼ごはんはすこし豪勢にしておきました。」

 

軽空母鳳翔。戦闘に参加する艦娘でありながら、こうして仲間たちのために料理を振る舞ったりもする、お姉さん的存在である。

 

「どうです?響さん。模擬戦の結果。」

 

「やはり、指揮という点で神通が抜きんでてるせいで摩耶チームは攻めあぐねてミスがでるね。摩耶も木曾も運動量、火力共に申し分ないんだけど、神通が鉄壁過ぎるんだ。」

 

「まあ、それは・・・船体が真っ二つになっても反撃してた神通さんですから。」

 

艦娘は自分が軍艦だった時代の記憶も、記録フィルムと資料を見るような感覚だが、理解している。当然他者の情報もある程度は把握している。

 

「華の二水戦の長は伊達では務まらないってことだね。」

 

生前?の神通は、世界最強の水雷戦隊、第二水水雷戦隊の旗艦を最も長く勤めあげた船である。その最後も鳳翔がいう様に壮絶であり、その誇りと経験が、摩耶と木曾の猛攻を見事にいなしていた。

 

「そういえば、大佐はご覧にならないのですか?」

 

「いや、今日は朝から会議ということでフラット提督と話し込んでるよ。近々大規模作戦があるみたい。あるいは、そこにあるのかもね。」

 

「聖杯、でしたっけ。私には未だに信じられません」

 

顔に手をあてて、困ったように鳳翔がいうが

 

「分かるよ。でも『見えない剣』でイ級をぶったぎる姿を見ればいやでも信じるよ」

 

経験者は、かたる。

 

 

 

 

 

 

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「沖ノ島海域に展開する敵機動部隊の撃破、という作戦の意図は理解する。私の艦隊が支援のために側面から敵増援をたたくことも理解する。しかし・・・」

 

目の前にはニコニコ顔のフラットと、紅茶を淹れてくれた彼の艦娘の一人、金剛。セイバーは拳を握りしめわなわなしながら、しかし努めて冷静に言う。

 

「なんで私が前線で戦うことを戦略に組み込んでるんだ、君は!」

 

 

 

 

 

初日に出会った神通たちに加え、摩耶たちも建造されたセイバー艦隊。日々のパトロールでハグレとの実戦をこなしつつ、訓練でさらに練度を上げる日々。

そんな日常に慣れてきたところに舞い込んできたのが、今回の沖ノ島あ号艦隊決戦の支援作戦への参加要請である。

それだけならわかる。フラットの艦隊は今や横須賀鎮守府で欠かすことのできない戦力となっているし、それを補佐するという形のセイバーの艦隊に任務が振られるのも当然だ。だが

 

「あ、セイバーは前線に出て艦娘と一緒に戦ってもらいます。」

 

作戦説明の最後に、このマスターはとんでもないことを言い出した。

 

 

 

「なんで、て、セイバーなら空母ヲ級クラスでも問題なくずんばらりんといけるし。」

 

「そういう事じゃない、なんで私を敵に態々晒すような真似をするんだ!」

 

フラットは「相手の戦力を測れない故に躊躇してる」と勘違いしたらしいがセイバーの心配はそこではなく、深海棲艦側にセイバーの存在を本格的に認識されることへの警戒であった。着任初日は襲ってきたイ級をすぐさま排除したためおそらく情報は出ていないだろ。

しかし、今回の決戦では敵にも空母クラスが混じる大規模なものとなる。自分の姿をみて、それを彼女らの本拠地に持ち帰るものは必ずでるだろう。真名がばれることはないだろうが・・・

 

「ああ、サーヴァントは兵器になるって相手に認識してほしいからですよ。だから、思いっきり暴れてください。」

 

あっけらかんと言い放つフラットにセイバーは一瞬言葉を失った。このマスターは何を言っているのだ。まさか、敵にサーヴァントを召喚させる気なのか、と。

 

「・・・敵に気取られる前に、情報をつかみ、聖杯にたどり着くのが理想ではないか。」

 

「ああ、もうそれ無理ですよ、多分。」

 

「根拠を示してもらおうか、マスター。」

 

さも当然のように最善の道を破棄するマスターに、セイバーは若干言葉が険しくなる。しかし、フラットは全く動じない。

 

「ユグドミレニアの襲撃の時生還しなかった魔術師の中で、『本当に死んだ魔術師』ってどれくらいだと思いますか?」

 

「何を言っている・・・生き残り以外は、皆海で・・・」

 

「捕虜になってる可能性、考えない?」

 

ありえない、とセイバーは一蹴しようとする。敵は憎悪と破壊衝動の塊と聞く。人間など、見つけ次第・・・

 

「うん、お偉方もそういうけどさ、本当はみんなわかってるはずなんだ。『そう思いたい』だけで、本当はあいつらが人間と同じくらい情報の重要性を認識していることを。」

 

 

 

 

 

ある時、暗号の解読キーを保持していた艦娘が襲撃を受け、キーを紛失してしまったことがある。その後しばらくして、深海棲艦がこちらの裏をかく、という事態が頻発するようになった。

上層部はあわてて暗号の解読キーを変更、事態は一応の収束を見せたが、今を持ってキー紛失と襲撃の増加は関係性不明・・・ということに、なっている。

 

そもそも「拠点を得て数を増やす」という戦術をとれるのが深海棲艦なのだ。情報戦も戦略の一端と認識していて何もおかしくない。

そして情報のために、捕虜を得る必要があることを司会していても、これもまたおかしくない、というのがフラットの持論だ。

 

 

 

「ダーニック・ユグドミレニアほか、船に乗っていた主要な一族のメンバーは全員、死体すら上がっていない。それに、深海棲艦ももとは優秀な魔術回路を備えたホムンクルス。魔術師の重要性を理解していてもおかしくない。」

 

そのうえで捕虜に掛けた魔術師を拷問にかけ、聖杯の使い方を説明させる・・・

ここまでの話には何一つ確たる証拠はない。しかし、その事態を想定して行動しても、大げさではないといえる説得力もまたあった。

 

「冬木の聖杯には、聖杯戦争が開催できるほどの魔力量がたまると、才能のあるものに勝手に令呪を配ってしまうという余計なシステムがある。日本を出る段階で聖杯の魔力は満たされる寸前だったらしいから、今満タンになっても何もおかしくないし・・・最悪、魔術回路を備えた深海棲艦に令呪が宿る場合も想定できる。そして、その意味を魔術師を拷問にかけてきく、とかね。」

 

更にまずいのが、深海棲艦の意志が基本的に「人類抹殺」で統一されてしまってる点だ。人間なら・・・セイバーを召喚するという共通の目的があるにも関わらず、その後の栄誉をあらって「聖杯戦争」が起きてしまったが・・・

 

「やつらは人類抹殺で統一されてるから・・・サーヴァントを一斉自害させてさっさと聖杯を起動してしまう可能性がある。」

 

そうなったら対処しようがないけど、とフラットが断るが、セイバーは背中に寒いものを感じた。深海棲艦が捕虜をとる。認めたくない事実は、こんな危ない可能性まで孕んでいたとは。

 

「だから、そうならないためにセイバーに派手に暴れもらって、サーヴァントは戦力になる、というアピールをしてほしい。」

 

ないし、対抗するためにはまずサーヴァントを戦力化しないといけないという脅迫観念を与える。

 

「いろいろ危ない橋なのは承知してるけど、セイバーならどんなサーヴァント相手でも負けないと信じてるし、敵のサーヴァントがこっちの管轄をはずれて減るのだけは阻止しないといけないんだ。」

 

この作戦では、万が一敵がサーヴァントを差し向けてきても全滅させられない。聖杯を完成させられないからだ。

 

「そんなまずい状況になるまでに、なんとか聖杯の位置はつかんで見せる。だからセイバー、この作戦、引き受けてほしい。」

 

フラットの目は本気だった。魔術の秘匿といった系統のルールには無頓着だが、この手の洞察力に関しては本物である。そうでなければ、外国人がこの横須賀で大きい顔などできない。セイバーも、そんな彼の説明を聞いてしまっては「深海棲艦がサーヴァントの存在に気付かない方にかける」なんて選択肢を取ることは、できなかった。

 

「私の旗下の艦娘には、私から話します。だからマスター、聖杯の位置を、一刻も早く。」

 

 

 

 

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「ヘイ、テートク、陛下が留守の間、陛下の執務室どうするノ?対外的には一応いることになってるんでショ?」

 

「うん、そこは俺の暗示・・・って陛下って、金剛。セイバーの真名話してたっけ?」

 

「ううん、ただ、英国の人間がカミサマの次に頼るっていったら、あの偉大な騎士王しかいないデスからねー。あ、でも陛下の名前もらった王族ってみんな早死になんですよネー・・・」

 

「そりゃあれだよ。神頼みしたい位苦しい状況だったってことだよ。」

 

 

 

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「そんなわけで、次の作戦では私も同行する事となった。作戦海域までは輸送船に同乗し、戦闘指揮を直接取る。質問は?」

 

セイバーの執務室。旗下の艦娘を全員集めてのミーティング。提督机に座るセイバーの前に、8人全員が整列していた。

そして伝えられたフラットからの命令に対し、一番先に反応したのは摩耶だ。

 

「おもしろいじゃん、噂のイ級なます切り、この目で確かもらうぜ、提督!」

 

アネゴ肌でサバサバしている、俗っぽいことを言うとスケバンともいえるよな性格の彼女にとって、話でしか聞いたことのないセイバーの実力を見られるチャンスは、ただ単純に「楽しそう」なのだろう。

 

「提督の武器は剣と伺いますけど・・・私はどうすればよいのでしょう?」

 

鳳翔は軽空母、つまりアウトレンジからの攻撃が基本であり、接近戦しかできないセイバーとは戦闘距離が異なる。

 

「敵の中にも空母が確認されている。私は接近戦しかできないから、上空からの攻撃へは対処しにくいんだ。零式艦上戦闘機で、制空権を確保し敵に航空攻撃を仕掛けさせないよう努めてほしい。」

 

セイバーの説明に、それならお任せを、と鳳翔は柔和にほほ笑んだ。

 

「対空攻撃ならアタシの十八番でもあるんだぜ、提督!」

 

「摩耶は前線での対空砲火を頼みたい。私についてくると、敵の真っただ中だ。激戦区になるが頼む。」

 

「任せとけよ!アンタの頭上はアタシが守ってやるさ!」

 

胸をたたいて豪語する摩耶。巡洋艦摩耶も、対空攻撃に特化した艦であった。対空への誇りはその名残なのだろう。

 

「時雨、雪風は輸送船の護衛にあたってくれ。大事な足だ。安全圏においておくが、油断するなよ。」

 

「絶対大丈夫です。お守りして見せます!」

 

「分かったよ、僕たちに任せて。」

 

艦娘といえど長距離の航行は体力を使う。船団の護衛任務でもローテーションを組んで一定時間ごとに休息を取るが、今回のような遠征の場合、制海権を確保してる地域は輸送船を使い、そこから出撃して少しでも体力を温存するという手法がとられていた。もちろん出撃して無防備に船を残すことはできないので、このように護衛を残すことになるが。時雨も雪風も、任務の重要性は理解している。武勲を立てられるタイプの任務ではないが、守る、ということに意義を感じる二人なら、きっちりやりとおしてくれるだろう。

 

(それぞれの船の歴史、学んでおくと役に立つとは響が教えてくれたけど、本当だな・・・)

 

雪風は幸運艦というが、反面何度も目の前で仲間を失っている。「守る」という意識が強いだろうと歴史より推測していたセイバーであったが、適材適所と思うと同時にトラウマを利用してるような一片の罪悪感も感じた。

 

「明朝、06:00より作戦行動を開始する。各自、用意をしっかりしておくように。解散!」

 

 

 

 

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「いやー、とうとう見られるんだな、提督の見えない剣。」

 

「見えないのに見られるというのも、何かおかしいですね。でも、提督の戦ってらっしゃる場所というのは私も見てみたいです。」

 

部屋を出て、実戦が待ちきれないとばかりにはしゃぐ摩耶に、神通は微笑みながら返す。一見おしとやかな御嬢さんにみえて、その実彼女はガチガチの武闘派。摩耶はとは案外息が合うのである。摩耶は摩耶で、口調こそ軽いものの華の二水戦の長だった神通をそれなりに尊敬している。

 

「でも、水の上を歩ける英雄って誰なんだろうね?」

 

時雨の興味は、戦闘力よりもセイバーの正体の方に焦点がいっているようだ。ただ「英国人の常識」で正体を推測できた金剛に対し、メインの逸話ではない「水上歩行」ばかり気にしている為、かえって正解がみえなくなっている。

 

「たしか剣が見えないのも、有名すぎる剣だから隠してる、ですよね?そんな伝説をもった剣てありましたっけ・・・」

 

「私は聞いたことないですね。っていうか私、三国志なら詳しいんですけど西洋の伝説はちょっと・・・」

 

羽黒と雪風の2人も推理に加わるがあまり進展に有効な情報は出ない。雪風が三国志に詳しいのは戦後の彼女の立場故か。

 

「日本刀なら俺が詳しいんだけどなぁ。抜けば玉散る氷の刃、村雨の犬塚信乃とかね!」

 

「いやいや木曾、提督はイングランドの人だってば。」

 

鞘に入れたままの刀を振り回してポーズをとる木曾に突っ込みの響。もっとも、木曾のそれは、軍刀、西洋のサーベルのデザインも交じったものなのだが(本人はいつか給料をためて本物の刀を買うつもりらしい)

 

「イングランドねぇ、そういえば大海賊フランシス・ドレイクなんかは、スペイン船を襲った功績で「サー」、つまりナイトになったらしいぜ?」

 

「木曾は刀剣のほかにそっちにも明るかったんですね。」

 

「ああ、実際の犯罪行為を擁護するつもりは、艦娘としてはないさ、でも、ロマンはあるだろ?海賊って。なぁ、鳳翔」

 

「そうですね、活動写真にもなっていますし、何かしら人を引き付ける・・・あら、私何か変ことを?」

 

全員の顔に書いてあった。「活動写真ってなに」と。

 

 

 

 

 

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「・・・そんな流れでさ、みんなで司令官の真名予想クイズなんてやってたんだ。」

 

沖ノ島海域への輸送船の中、簡易ベッドがならんだ殺風景なその仮眠室。ベッドに腰を掛けた響が話しかけるのは、噂の渦中の人物、セイバー、今は鎧姿、である。響の隣に腰掛け、いずれ始まる戦いに備えて今は少しでも体力温存という形。一応司令という立場ではあっても快適な空間など用意してもらえないのは世知辛いが、(装備も同時に運ぶとはいえ)人員のみの輸送船が出してもらえるだけでもこの時代には破格なのだ。もちろん、警備は自前だが。

 

「そんなに私の真名に興味をもたれるというのは、まぁ、慕われていると思っていいのかな。」

 

戦略上秘密といったのに何やってるんだか、という気持ちもしないではないが、壁をつくり距離を取られるよりは数倍良いだろう。万が一正解を出されてもしらばっくれればいいのだし。なにより、初日は怯えてた響がこのように笑顔で話しかけてくれるのはやはりうれしい。

 

「うん、それでね司令官。水上をあるけるというと、オリオンとか、ギリシャのポセイドンの子孫に多い話なんだけど、イングランドの騎士というとリチャード・ライオンハートとかになって、まったく話がまとまらないんだ。」

 

そのうえ木曾が延々と刀剣話を始めてしまい、脱線に脱線を重ねてただの神話・逸話談義なってしまったらしい。

 

「木曾、そんなに剣が好きなのか・・・覚えておこう。」

 

「うん、村正だのバルムンクだの、ダインスレイフだのフラガラッハだの、よくあとからあとから出てくると感心したよ。」

 

万が一、木曾が自分の剣の姿を見た日にはどうなるか・・・きっと子供のようにべったりとはりついて「うわー!すげー!」と繰り返すのだろう。ほほえましくはあるが、見せるわけにはいかない。

 

「ジークフリートにデンマーク王ホグニ、太陽神ルー・・・こりゃまたすごいものを想像してるんだね・・・まぁ、がっかりさせな程度には期待に応えるとしよう。」

 

「大丈夫だよ司令官。貴方と戦えば、皆わかるさ。」

 

「そう願うよ。」

 

そう返して会話に一区切りがついたところで、セイバーは外の様子を小窓より伺った。波は穏やか。海が深海棲艦などという化け物に蹂躙されているとは信じがたい。だが、自分がこれから討ちに行くのは間違いなくその化け物である。ふと、生前の化け物退治を思い出す。あのときは輸送用の乗り物などなかったから皆馬に乗って行軍していたが、技術のいる乗馬とと比べて、現代は簡易とはいえベッドの上にいられるというのは、技術の進歩とはすさまじいものだ。

 

「どうしたんだい、司令官。」

 

「いや、私の時代の化け物退治と比べて、変わったなとね。行軍からしてね。討伐する敵も、化け物でありながら人対人に近い。」

 

「深海棲艦は確かに化け物だけど、同時に軍事組織でもあるからね。司令官が昔戦ったっていう【1匹が強いけどそれだけ】という怪物というのは、現代ではほぼみないね。」

 

人類の火力は地形を変えるほどの火を手に入れ、個体がいかに優れていようが戦闘レベルで戦略をひっくり返せる、英雄の時代は終わりを告げた。・・・だというのに、こうしてサーヴァントを頼りにしてるのは何とも皮肉である。

とはいえ、そんな「英雄」でも今の時代を生きる人の希望になるのは悪くない。

 

「ならば、そんな『飛びぬけた一』の矜持を見せるとしよう。響、そろそろだろう、行こう。」

 

すっとセイバーが立ちあがり、響が続く。これより彼らが向かうのは戦場。一たびそこに入るならば、余計な考えは生還してから。まずは駆け抜け、生き残ることである。

 

 

 

 

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輸送船の甲板から直接飛び降りた先には、すでに艦の護衛で出ていた艦娘達が揃っていた。ローテーションで休息中だった響、鳳翔なども後から艤装を装備してやってきたことで、全員がセイバーの前に揃う。

全員、まっすぐな目でセイバーを見つめていた。まるで彼が率いた騎士団のように。

 

「・・・みんな、まずは私を信じてくれていることに礼を言おう。フラットの司令とはいえ、私のような存在を前提にした作戦に従事してくれて感謝している。」

 

艦娘たちの常識からすればいかに自分が非常識的な存在か、身に染みている。だからこそ素直に慕ってきて、指示を聞いてくれる彼女らの存在はありがたい。それはセイバーの偽りのない本心だ。

 

「私も、君たちの信頼に応えねばなるまいと身が引き締まる思いだ。・・・さて、当初の予定通り、時雨と雪風は帰りの足でもあるこの艦の護衛を任せる。2人で対処できないときは、すぐさま救援を呼ぶこと、それでも持ちそうにない場合、すぐに撤退するように。私含め、別にこれがないと本当に帰れないわけではないからな。」

 

みすみす船を失う真似はしないが、それのために部下に命を駆けさせるのは論外だ。まず生き残ることを第一に。

 

「了解です!みなさんの帰る舟、この雪風がお守りします!」

 

「無理はしない。でも、やって見せるさ。みんなも御武運を!」

 

敬礼する2人に見送られ、一度はセイバーを先頭に輪形陣の形で進撃を開始した。ここからは敵圏内。潜水艦が出たという話こそ聞かないものの、敵の偵察機は飛んでると考えておかしくないだろう。

 

「羽黒、鳳翔、偵察機を飛ばしてくれ。エンゲージした時点でその場に固定、制空権の安定と鳳翔の護衛に専念してくれ。」

 

この任務で彼らが標的とするのは、沖ノ島海域に侵攻してきた敵侵攻中核艦隊、の前衛を務める機動部隊である。空母ヲ級2、軽空母ヌ級2が確認されており、鳳翔1人の部隊だけで制空権を完全に確保するのは不可能だ。だが、同行している摩耶は対空ハリネズミと言われるほど対空砲撃に秀でた艦であり、セイバーが突進しヲ級を潰すまでの援護は十分こなせると判断された、つまり「サーヴァントならこれくらいの援護で敵を潰せるよね!」という乱暴極まりない作戦である・・・だが、それだけの戦力差が艦娘・深海棲艦とサーヴァントには確かに存在する。

 

「私の零式偵察機が、敵影をとらえました・・・結構な部隊です、引きかえさせます!」

 

羽黒は偵察機が未帰還になるのを防ぐために呼び戻す命令をだし、鳳翔に敵の航空部隊の位置を送信。情報を受け取った鳳翔は、矢筒から21型、と書かれた矢を引き抜き、弓に番える。

 

「相手の頭を押さえて頂戴。数の上で不利な以上、無理をしないでね。さぁ、行きなさい!」

 

大空に向かって放たれた矢はそのまま小型の戦闘機へと姿を変える。空母艦娘は、この様にさまざまな形で艦載機を「射出」することで発着を行う。

 

「戦闘用式神の射出・・・まさにアーチャーだな・・・羽黒、鳳翔の護衛を頼む。鳳翔の舞台は制空戦に敵の目を少しでもひきつけてくれればいい。あとは私が敵の目を引く!」

 

「了解しました、司令官さんもお気をつけて!会敵した場所はここより1時の方角です!」

 

この場に残す2人に指示をだし、先を急ぐ。足に魔力をこめて、飛ぶ。

 

「摩耶、響、木曾、神通、遅れるなよ!」

 

「誰にものをいってやがる、私は摩耶様だぜ!」

 

軽口で返す摩耶だが、顔は真剣。彼についていくのがやっとというありさまである。摩耶より速力があるはずの響と神通、木曾にも余裕は全く見られない。

 

「ったく、うちの司令はとんでもないお人らしいな響!」

 

「ああ、とんでもなく常識外れで頼もしい人だ!」

 

 

 

 

「頼もしい、ですか・・・でもわかります。あの人の背中見るだけで、ああ、この人についていけばいいって気分にさせてくれますよね。」

 

「鳳翔さんもですか?実は私も・・・不思議と自信がわいてくるんです。頼もしい背中ですよね。」

 

一国を治めるに十分と言えるレベルの「カリスマ」は、確かに艦娘達の士気をも向上させていた。

 

 

 

 

 

ヌ級の艦上攻撃機は、その眼下に異様なものをとらえた。5人の艦娘が複縦陣のようにこちらに進軍してきている。それだけなら獲物として襲うだけだが・・・その中の人はどうみても艦娘には見えないのだ。どちらかというと、騎士。

なんだ、奴は。確かめねば・・・!

偵察機でもないのにそんな無茶をしたその攻撃機は、しかし近寄る前に

 

 

 

「!?」

 

そのど真ん中を、摩耶の対空砲撃で撃ち抜かれた。

 

 

 

 

 

「流石だ摩耶。君、アーチャーに向いているんじゃないか?」

 

「はぁ?弓兵?アタシは対空機銃だっての!空母じゃねえよ!」

 

敵撃墜をセイバーも確認し、素直に称賛する。この場合セイバーがいうのは「遠距離攻撃が得意なタカの目のサーヴァント」というだけだが、摩耶からすれば鳳翔と同じになれ=空母になれという意味不明な褒め言葉である。

 

「それより、わんさかきてるぜ提督。こりゃヲ級共が近い。確認できないか?」

 

先ほどの攻撃機の撃墜から場所が知れたのか、あわてて増援を出したのか。見上げると、うんざりするほどの敵機が。だが、確かにこれなら敵機敵機は近いといえる。

 

「・・・電探に引っかかった。このまままっすぐ、距離20000にヌ級2、そのちょっと横、ここから2時方向に23000にヲ級がいる。」

 

「分かった・・・摩耶、木曾と響、神通を守れ。その間に雷撃と砲撃でヌ級を討つんだ。」

 

位置を把握しただけで、もうセイバーはヲ級を倒せる気でいる。危険だ、と3人が反論するが・・・

 

「大丈夫。ヲ級に突撃すればヌ級の部隊もこちらに向くさ。逆に早いところヌ級を仕留めてくれた方が私も助かるからね・・・よし、行くぞ!」

 

静止する間もなく、セイバーはヲ級に向かっていってしまった。こうなったらもう指示通りにやるしかない。

 

「お前らの頭上はアタシが守ってやる!ヌ級にしこたまぶちこんでやれ!」

 

 

 

 

 

 

単騎でつっこんでくる馬鹿がいる。最初、ヲ級が受けた報告はそういうものだった。戦闘の時に一人で突出するなんて、なんて不用心。ならば望み通り海の底に沈めてやろう。

そう思って艦載機に攻撃指令を出す・・・しかし、突出してきたバカのはずのその相手は、攻撃の尽くをまるで分身でもしているかのようにかわす。

いや、もっと早く気付くべきだった

 

「こんな速度で動いている艦娘などいない!」と

 

 

なんだあれは。なんだあれは。もはや偵察機の言葉など信用できぬ。自分の目で確かめねば。

つい先ほどまで15000はあったであろう距離がもう5000を切っている・・・ジェット戦闘機機かなにかか、アレの速度は、ともかく、少しでも観察して・・・報告せねば・・・!報告して、艦載機に持ち帰らせなければ。

 

 

すでにヲ級は本能で、自分が生きて帰れない事を悟っていた。人間と艦娘達が圧倒的に身体スペックが違うように・・・このナニカも、圧倒的に生物としての出力に差がある。もちろん、この場合弱いのは自分たちだ。

 

視認できた。蒼い服装に銀の鎧、中世の騎士のようにも見受けられる・・・男?新型の艦娘ではなく、騎士の男?混乱しながらも情報を刻みつける。

その最中、ヲ級は彼らの本拠地で行われていた、あることを思い出した。もしや、これは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵の戦闘機が豆鉄砲を撃ってくるが、対魔力Aを誇るセイバーに「神秘の概念を付与した」程度の弾丸なぞ通るはずがない。

攻撃機の雷撃はこう来るであろう、と魚雷のコースも直感で感じ取ってすべて回避。ここまでのレンジに入れた時点で、勝利は約束されている。

 

「はあああああああ!!!!!!」

 

咆哮、そして一突き。見えざる剣を、ヲ級の胸に突き立てる。傍らにたっていたもう一人のヲ級はただ見ていることしかできない。それだけ圧倒的な戦闘。

騎士は剣を引き抜くと、もう一人のヲ級のほうを向き直し、構える。あとは、振り下ろすだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

仲間を屠った・・・分厚い装甲の概念で身を守ったはずの仲間を「見えない何か」の一突きで。

ああ、こんなデタラメな戦闘力、アレしかないじゃないか・・・アレの前に立ったら、自分が生きて帰れるはずなど・・・ないではないか。

 

 

 

 

 

 

 

「キサマ、サーヴァントカ・・・」

 

 

 

 

 

「・・・!!」

 

 

 

 

 

 

 

ヲ級のもらしたその怨嗟。それは、彼女らがサーヴァントを・・・聖杯戦争を知っているという証。

 

 

フラットの危惧は、より悪質な形で、すでに進行していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スキル: カリスマ 軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。Bランクであれば国を率いるに十分な度量。

 

 

スキル: 直感  戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。Aランクの第六感はもはや未来予知に等しい。また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。

 

 

喋るヲ級:素体が完成されたホムンクルスなので、ある程度理性を持っている深海棲艦は普通にしゃべる(そうでなければ尋問などできない)

 




敵深海棲艦相手に無双できるのはここまで。聖杯探索に強大な敵はつきものであり、聖杯戦争においてそれは「ライバル」である。

2-4クリアしてやったー!からの次の話で急転よりは、ここでヲ級に情報開示のほうが自然に感じたのでこのような〆になりました。

摩耶ばっか目立ってしまったので時雨雪風をすこしフォローしたいところです。メインヒロインはメインなんで大丈夫、の予定。

>陛下の名前もらった王族ってみんな早死
これのせいで、このセイバーの名前は「ジョン」と同じくファーストネームとしては英国王室では禁止されてるとか。

10/13早朝・誤字・一部展開修正。すまない・・・神通を忘れてて本当にすまない・・・
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