蒼銀の水平線に勝利を刻め   作:KingArthro

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interlude

 

 

夢を見た

 

 

丘の上に立つのは黄金の剣を持つ騎士王。その後ろには、彼につき従う大勢の騎士たち。

翡翠の瞳が睨みつける先には夥しい量の蛮族。しかし、騎士たちの士気は高い。

 

彼の王は常勝の王、ついていけば恐れるものはない。

 

悪竜ヴォーディガーンを討ち滅ぼし、異民族より民を護る絶対の守護者。そうあれ、という願いの剣を振るい、彼は常に最前線で闘ってきた。私情を一切捨て、すべては王国のために。

実際、彼はその剣の名の通り、常に勝利してきた。蛮族のみならず、モン・サン・ミッシェルの巨人や白き竜といった幻想種にも、常に無傷で勝利を収めた。

華々しい騎士譚。アーサー王と円卓の騎士の物語

 

しかし、彼と配下の12人の騎士だけで国のすべてを護り切れるわけではない。

 

 

ある時は、一つ村を見捨てなければならなかった。

 

ある時は、略奪を防ぐためあえて村を焼き払わねばならなかった。

 

同時に二つの村は救えず、蛮族の手に落ちるのを見過ごすしかないこともあった。

 

 

 

全ては王国の為、その決断を、冷徹に下さねばならなかった。そうすることが「王」として求められている責務だった、はずだった。

 

 

 

「王は人の心がわからない」

 

 

そういったのは、誰だったか。

 

 

彼は正しかった、常に、王として当然の判断を下した。それは一切情に訴えるという事が出来ないという事。「王というシステム」として完璧である以上そこに一切の妥協はなく、氷のごとき冷徹さを以って「正しい」行いをする。

 

その様は、まさに怪物といえる。

 

正しさは彼の王妃グィネビアにも及んだ。不義を働いた彼女に、王は躊躇うことなく・・・少なくとも周囲はそう見た・・・処刑の判決を下す。

親族すら法に当てはめ躊躇なく殺す正しさの権化に、人々は徐々に恐怖する。そして・・・

 

 

 

 

 

堆く積まれた死体の丘。彼に似た顔を持つ騎士を槍で貫いたのちに、彼は丘の上で一人ひざを折り曲げてうずくまる。

 

 

一体どうすれば、この国を救えたのか・・・

どうすることが、真に正しくこの国を導けたのか・・・

 

 

 

 

場面は移り変わる。

そこは、響が知る世界とは、少しだけ違う東京の街。

 

 

 

「なるほど・・・貴方は正義の味方ではないのですね。」

 

長髪の男性、その名をヴァン・ホーエンハイム・パラケラスス。彼もまた、セイバーのマスターの危うさを感じ取っているもの。故に、彼女を討たないセイバーをこうして遠回りに責め立てる。パラケラススは彼女に従っているにもかかわらず、だ。

 

それでもセイバーは立ち止まるわけにはいかないのだ。万能の願望器、聖杯をもってして王国を救うために。

その願いが、人の理に背くとも知らず・・・

 

 

 

 

「さぁ来るが良い、世界を喰らう女神(ポテニアテローン)を護る騎士王よ!」

 

 

「俺はここまでだ。なあ、騎士の王。輝きの剣を栄光のままに振るう男よ――お前は、聖杯に何を願う?」

 

 

「優しいひと。優しいサーヴァント。そんなにも優しいと、私・・・困ります・・・」

 

 

 

 

 

「痛い、痛いわセイバー・・・とても痛いの・・・痛くてアナタが何を言っているのか聞こえない・・・」

 

「僕は間違いを犯した。君も、この聖杯も狂っている・・・」

 

傍らで泣きそうな目でこちらを見上げる少女に微笑みかけ、セイバーは彼の目の前にたつ、もう一人の少女に聖剣を突き立てる。

 

「・・・ここまでか・・・アヤカ・・・生き延びてくれ・・・」

 

 

 

 

 

 

そして、彼女は目が覚めた。

 

「これ・・・は・・・」

 

夢の前半、あれは間違いなく「アーサー王伝説」の一部分だろう。彼女も空いた時間にいくつか本は読んでるし、何より「本人」と行動しているせいで、印象に強く残って夢に見てもおかしくない。

 

しかし・・・後半のあれは、なんなのだろう?

 

強い調子でセイバーに挑む褐色の王、セイバーを揶揄する「パラケラスス」に、セイバーを援護し果てた弓使い、彼に執着する槍を持つ女性・・・

そして、最後のシーン。セイバーに貫かれながらそれを感じさせない、狂気じみた朗らかさをたたえたまま果てた少女と、その時のセイバーの言葉

 

「聖杯・・・戦争・・・?」

 

 

 

 

 

鎮守府には艦娘のリラクゼーションの為に図書室が併設されている。あまり表に出る機会のない彼女らの為に、雑誌や新書などといったものの購入を行ったりするために一般的に言われる「図書室」というよりは、書店に近い雰囲気を持つ。

とはいえ古い書物もそれなりの量があるため、文芸好きの艦娘が入り浸ったりする事もあった。響には、あまりなじみのない部屋だったが・・・

 

 

「神話・・・というか歴史なのかな?うーん・・・」

 

朝の、あまりにリアルな夢と、そこで見知った英雄達の名前がどうしても気になり、彼女にしては珍しく図書室に足を運んでいた。何か手がかりになる資料でもあれば、と思っての行動だ。

 

「アーラシュ・・・というのは先日中東の方の英雄と聞いたけど・・・オジマンディアスにブリュンヒルデ、ハサン・ザッバーハ、パラケラスス・・・やっぱり円卓は関係ないんだろうし・・・」

 

何かで聞いたことのある知識が夢に出てくるというのはあるかもしれないが、これらの英雄の名前はアーラシュ以外響には知識としてはない。そもそも、円卓の騎士の名前も実はあまり詳しくなかったのだが・・

 

 

「ああ、あった、アーサー王の死・・・いやなタイトルの名前だな。」

 

フランス語版アーサー王物語の訳本を手に取り、眉をしかめる響。英雄の一生を扱う伝奇であり、そのラストは「死」であるとすれば納得いくが・・・

 

「・・・ガウェイン、はしょっちゅうビスマルクが自称してる騎士・・・パーシヴァル、ガラハッド、ベディヴィエール、ランスロット、アグラヴェイン、トリスタン・・・本当に登場してるんだ・・・・」

 

 

となれば、少なくともあの夢の前半部分は、書物などではない「本当のアーサー王の物語」であることになる。そんなものを夢に見る理由はただ一つ。

 

(私が、マスターだからか・・・)

 

では、マスターがサーヴァントの過去を見るというのなら・・・あの聖杯戦争はいったい?

 

 

 

 

 

「あら響。珍しいわね?」

 

ふと後方から声をかけられる。振り返ると、数冊の書物を抱えた神通と羽黒が立っていた。

 

「ああ、ちょっと調べ物を・・・二人はよく来るのかい?」

 

「ええ、私は効率的なトレーニングの資料探しに。」

 

「私はその・・・ちょっと恥ずかしいですけど、古い童話とか、好きなんです。」

 

きりりとした神通に対しややはにかんで羽黒が応える・・・が、響が視線を落とすと、2人の持っている書物はそのどちらでもない。

 

「でも、今日は敵のサーヴァントの情報集め・・・と?」

 

「ええ・・・正式な発表は本日の会議で、ということでしたが。時雨と雪風が、ダン卿の会話を横耳で聞いた時に行っていた名前、なんとなく広がっていますから・・・」

 

言いながら、羽黒が手に持った書物に目を落とす。

 

ブラム・ストーカーの名作ホラー小説 「吸血鬼ドラキュラ」。同じく吸血鬼を扱った、前述のドラキュラにインスパイアを与えたシェリダン・レ・ファニュの「カーミラ」

 

 

「本当にあんな吸血鬼が相手とは思えない・・・けど。やはり何となく気になって。」

 

「もし吸血鬼を相手取るなら、三式弾にニンニクでも詰めるんでしょうか・・・私、ちょっと遠慮したいです・・・」

 

「いやいや羽黒。それ以前に吸血鬼って流れる水の上に出られないんだし海渡れないんじゃないかな・・・」

 

響のつっこみに、それもそうですね、と頷いた羽黒が、今度は響の手に持っていた本に目を向ける。

 

「響の本は・・・アーサー王の死、キャクストン版の翻訳ね。日本人には一番なじみのある・・・提督の、伝記になるのかしら?」

 

何せ彼女らを指揮してるのがそのアーサー王本人なので、下手な文章を読むより本人に聞いたほうがいろいろ早そうではあるが。現に、ガウェインに関しては円卓の人間しかしえない面白エピソードを教えてもらった事もあるくらいだし。

 

「難しいね。少なくともガウェイン卿が味音痴で大量のポテトとパンとニンジンをお酢で平らげてたなんて話はのってないと思うよ。」

 

「ですよねー。」

 

ガウェイン卿にあこがれを持つビスマルクのいないところでコッソリ話してくれたエピソードである。尚セイバー本人は本当はそんな食事にうんざりしていたらしく、日本の鎮守府の食事があればイングランドはあと10年闘えたとこぼしていたりする。

 

「じゃあ、なんで態々そんな本を?」

 

「ああ・・・まぁ、うん。セイバーのおかげで興味を持ったから小説も読んでみようかな、と」

 

間違っても、彼の過去を夢で見てしまった、ということの確認とは言えない。何かおかしい感じがするし・・・抜け駆けのような感じも、する。

 

「では、貸出手続を済ませてしまいましょう。そろそろ会議の時間よ、羽黒、響。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府のセイバー艦隊執務室。円卓にかけるのはセイバ―以下12人の艦娘に加え、フラット、および彼の秘書艦の暁と、金剛、長門も同席していた。

本来サーヴァント関連の事柄は極力セイバー達に任せる方針だったフラットだが、敵の本拠地が割れた、となればそうも言っていられないのだ。

 

「君たちも知ってのとおり・・・サーヴァントアーチャー、ロビンフッドの勇敢な行動により、奪われた大聖杯の所在地と、敵のサーヴァントたちの能力の一部が明らかになった。」

 

一瞬だけ目を閉じ、人懐っこそうな顔のアーチャーの顔を思い浮かべ。そして、力強くセイバーが宣言した。

 

「まず、最終攻撃目標になるであろう冬木の大聖杯の隠し場所、それは。」

 

 

 

南海の孤島、アリマゴ島。20年近く前に、とある魔術師の研究の果てに、魔術協会と聖堂教会の双方が出動して住民を一人残らず駆除せねばならない大惨事が発生した今はすでに無人の島である。

 

 

「その事件の首謀者、衛宮矩賢という魔術師が作った工房に捕虜になったダーニックが目を付けたらしい。現在は島のかつての街をそのまま流用し要塞化、大聖杯はその魔術師の工房跡地に安置してある。」

 

「聖杯のために人の住んでる島を攻撃されなかったのは不幸中の幸い、だな」

 

しみじみという木曾の言葉にセイバーは頷きながら、手元の資料のページをめくる。ほかの参加者たちも同様にページをめくると、そこには一人の人物の詳細なステータスが書かれていた。

 

「そして、その聖杯を護るのが彼らサーヴァントを束ねる、ランサー、ヴラド三世だ。」

 

 

ワラキア公ヴラド。世界史に疎いモノであっても、別の理由でその名を聞いたことが一度はあるはずだ。

 

 

「ブラム・ストーカーの小説、ドラキュラのモデル、ですね。」

 

「うん、問題は、その『ドラキュラ』の知名度がそのまま英霊にまで変質をもたらした点で。」

 

神通の言葉に続く形で、フラットが口を開いた。サーヴァントのスキル、特性といった情報は、サーヴァントであるセイバーより魔術師である彼に軍配が上がる。

 

「無辜の怪物という『後のイメージが英霊に影響を与える』スキルが存在するんだけど、どうやらこのヴラド三世もこれを装備しているらしく『本当に吸血行為をしている』らしい。」

 

ロビンフッドの伝えによれば、捕虜になった魔術師数名はもとより『彼のマスター』までその餌食となったという

 

「・・・待ってくださいフラット提督・・・マスターを、殺したと?サーヴァントが?」

 

あまり知識のない加賀ですらわかる異常事態。・・・だが実は、聖杯戦争ならば割と起こり得る事態でもある。

 

「マスターとサーヴァントが仲たがいを起こして殺しあう例はいくつか報告されているよ。ダーニック・ユグドミレニアも、きっと臣下の礼を忘れるとかしたんじゃないかな?ほら、一族の長やってるうちに天狗になってたとか。」

 

「仲たがいについてはどこにでもあるでしょうが、問題は「サーヴァントはマスターがいなければ存在できない」という点ではないでしょうか?」

 

「普通は赤城の言うとおりなんだけど、それこそ魔力供給を「吸血と魂喰い」で補い、適当にその辺の深海棲艦に『依代』として最低限の契約を結ばせれば不可能じゃない。」

 

「つまり現状で最悪の想定としてはランサーのサーヴァントの能力を持った『悪鬼ドラキュラ』が、深海棲艦と結託、何の制約も受けずに暴れまわってる、というものだ。」

 

(もっとも、ダーニックの魔術を考えるとそう簡単に死んでなさそうなんだけどね。)

 

長門が力説する横で、フラットは他の者には配っていない、ダーニックの資料に目を落とす。

ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアの魔術は、魂という不定のものを糧とする大禁呪。この特性は応用すれば「英霊の魂に寄生する」という暴挙すら可能にする。令呪をバックアップ、および自己意識の保存のための保険に使えば、聖杯獲得の瞬間にダーニックの意識が表面に出て、その望みをかなえるために聖杯を独占する、という事態も考えられる。

むしろ、人間を虫けらのように殺す深海棲艦との共闘においては、サーヴァントの体内は生身よりもよほど安全な退避場所ともいえるのだ。

ただ、これは「聖杯戦争を知り尽くしているはずのダーニックがいきなり不手際を起こすはずがない」という仮定に基づいている推論であり、現状艦娘達に伝えるべき情報ではない。

 

「で、そんなドラキュラ伯爵の忠実な部下として前線の島に城を作ってるのが、これまた吸血鬼ってわけネー。」

 

「ああ、吸血鬼カーミラ・・・を自称しているが、このサーヴァントも小説の影響で無辜の怪物と化しているようだ。その前線の城、本拠地の名は『監獄城チェイテ』。血の伯爵夫人、バートリ・エルジェーベトこそこのアサシンのサーヴァントの真名と言えよう。」

 

金剛と長門の言葉に、艦娘達が若干ざわつく。

エリザベート・バートリーという発音のほうが有名なこの女性は、無実の少女たちを拷問し、その血を集めた風呂に入ることで若さを保とうとした狂人・・・というのが一般に出回っている理解であり、艦娘達「少女」の天敵ともいえる存在である。

 

「今からいう事実はこの場でのみの公表とする。資料がロビンフッドの証言しかない上で、今事実を知ってもどうもこうも動けないというのもあるからなのだが・・・

 この海域で『戦闘中行方不明』になった艦娘は、このチェイテに収監されているとのことだ。」

 

長門の言葉に艦娘達のざわめきが一気に大きくなるが、「静粛に」という彼女の言葉で静けさを取り戻す。艦娘は少女だが、軍人でもある。

 

「ロビンフッドが報告してきた名前・・・駆逐艦浦風、磯風、軽巡洋艦多摩、いずれもここ最近この海域で忽然と姿をけし、敵潜水艦により撃沈された・・・と思われていたんだが・・・彼を信じるならば、チェイテで虜囚となっている。」

 

「馬鹿な!多摩姉がそう簡単に捕まるか!」

 

机をバンとたたいて叫んだのは木曾。同じ球磨型軽巡洋艦としての姉妹意識が強いらしく、つい感情を表に出してしまう、が周囲に止められ、すぐに我に戻る。

 

「わ・・・悪い・・・いや、よく考えればいいことなのか、捕虜になっているなら、救い出すチャンスがある・・・」

 

「そうだヨ木曾。・・・胸糞悪い話デスけど、こいつは『聖杯にくべる艦娘』を捕獲し、願いをかなえる十分な量が集まるまで生かして捕まえる、っていう任務がランサーから与えられてるらしいネ。だから・・・」

 

「今は環境最悪でも、提督がアサシンの野郎をぶっ飛ばせば必ず助け出せるんだな・・・!」

 

拳を握りしめ、必死に自分を抑える木曾に対し、セイバーは大きく頷いた。

 

「ああ、必ず救い出そう。」

 

「その為にもチェイテ攻略は必須なんだが、このチェイテに出入りしているのがキャスターのサーヴァント。その名を、ウィリアム・シェイクスピア・・・金剛、これ英国人?」

 

「Yes。長門も今度よんでみるといいヨ、リア王とか。」

 

「二人で盛り上がるのは構わないんだけど、長門、金剛。もう一度言って。『魔術師のサーヴァント』よね?『モノカキ』じゃなくて?」

 

明らかに不信の声を上げたのはビスマルク。

 

「間違いなく魔術師、キャスターのサーヴァントだ。・・・彼ほどの作家なら、その言葉に言霊を持っていてもおかしくないが・・・」

 

「東洋の考えにはそういうのもあるのね・・・でも私は納得いかないわよ?」

 

机を指でとんとんたたきながら不満げにビスマルクは言う。確かに、シェイクスピアは偉大な「作家」であるが「聖杯戦争」に勝ち抜ける魔術師か、といわれると疑問符はつけざるを得ない。

 

「いや、長門の指摘は正しいんだよこれが。優れた作家はそのあり方がそのまま宝具になって、キャスターのサーヴァントとしては面白い効果を発揮することがある。」

 

フラットが過去に調べた資料の中には、キャスターとして「H・C・アンデルセン」や「アレクサンドル・デュマ」の名前があったのだという。

 

「ええぇ・・・・・アンデルセンってアンデルセン童話のあのアンデルセンですか?」

 

童話好きの羽黒としては、自分の好きな作者があわや敵になっていたかもしれないという事態に悲嘆の声を上げる。

 

「うん。アンデルセンのほうはマスターの人生を作品として書き上げ、最終的に『書き上げた作品のままにマスターを強化する』能力を。デュマのほうは、他者の宝具を「模倣」したうえで「改良」するという能力を持ってたらしい。当然切った張ったなんてできないしその辺は立ち回りを考えてたようだけどね。」

 

「そうなると、そのシェイクスピアも何らかの特殊能力で・・・深海棲艦軍を支援している、と考えるべきですね。」

 

大和の推測通り、シェイクスピアの能力には書き上げた内容を物質に付与する「エンチャント」があり、この海域の深海棲艦の主力級の武装を強化している、とロビンフッドの報告書にはあがっていた。

 

「このシェイクスピアは非常に気難しいサーヴァントで、深海棲艦軍に屈した形で自分を召喚したマスターを『つまらない』といって見捨てて深海棲艦と再契約、マスターは・・・うん、まぁろくなめにあってないね。

 一方カーミラのほうは「セレニケ・アイスコル・ユグドミレニア」という黒魔術師と完全に意気投合して、チェイテで日々趣味の悪い事をしでかしてるらしい。」

 

一応ロビンの報告書は「趣味の悪い事」について仔細にわたって描かれているのだが、やはり気持ちの良い事ではないためフラットはあえてぼかす。

このセレニケは「黒魔術師」と言われたとおり、拷問と生贄をメインにする魔術の使い手。サーヴァントが拷問で名をはせたとなれば・・・マズイもの同士、響きあってしまうのも当然である。

 

「お次に、バーサーカーについてだが・・・これは、ロビンフッドでもわからなかった。黒い靄に包まれた、どこかの騎士の様なんだけどそれ以上は確認できなかったらしい。」

 

「分からない・・・ですか?バーサーカー、狂戦士のサーヴァントというくらいですからシンプルに戦闘特化と思ったのですが・・・」

 

鳳翔が首をかしげる。彼女なりに調べていたようで、確かに狂戦士バーサーカーは通常、意志を奪っている為からめ手を使えない代わりに正面突破力に秀でるサーヴァントである。

アサシンのチェイテすら偵察してきたロビンが、何故バーサーカーの事を見破れないのか、当然の疑問である。

 

「鳳翔の疑問には現段階では仮説しか返答できないんだけどね。多分、宝具。『正体を隠して戦った』とかいう逸話が有名で、それが常時発動型の宝具になってるんだ。」

 

「え、常時発動型?こう、技名叫んでズバー!っていくのが宝具じゃないのか?」

 

摩耶のしっている宝具はセイバーのエクスカリバーとライダーのベルレフォーンしかないためそんな理解になっても仕方ないのだが、宝具の中には「特殊能力や逸話が宝具になって、常に英霊を護る」タイプも存在する。

有名なものではヘラクレスの十二の試練(ゴッドハンド)、ジークフリートの悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファヴニール)が存在する。

 

「バーサーカーのサーヴァントは大体鳳翔の想像通り突撃するしかできないことが多いんだけど、この手の護りの逸話は本人の理性関係なしに発動するからね。」

 

「なるほど、性能を秘匿できる狂戦士の出来上がりというわけですね・・・深海棲艦軍、これ、分かって召喚してるとなると相当厄介です。ちなみにフラット提督、マスターは?」

 

分かっているのは深海棲艦というより、本来はユグドミレニア。彼らが召喚に使っている触媒は、ユグドミレニア一族の聖杯戦争のために用意されたものだった。

 

「ロシェ・フレイン・ユグドミレニアという、セレニケと同じユグドミレニアの生き残り。彼自身はゴーレム使いらしいけどね。シェイクスピアのように売られてはいないけど、バーサーカーなのでコミュニケーションが取れていないみたい。」

 

「ああ・・・そりゃ理性奪ってる相手と会話はできねーよな。事実上魔力タンクあつかいか。可哀そう、っていうのかね?」

 

「ダーニックはともかく他の魔術師が積極的に深海棲艦に協力してるかどうか・・・は本人よるからな、摩耶の言うように、巻き込まれた被害者と言えなくもないかもしれない。」

 

長門はそういうと、次の資料に目をむける。セイバーのサーヴァント、そこのページはいまだ空白。

 

「セイバーのサーヴァントはいまだに召喚していないらしいが、こちらの情報が漏れた以上、確実に「アーサー王」にぶつけることを意識したサーヴァントを召喚してくるだろう。実際、召喚の為の触媒選定中らしい。」

 

「意識するのは構わないけどね・・・提督は最強の騎士、アーサー王なのよ?それに勝てる剣士がいるなら見てみたいわね!」

 

熱烈なアーサー王ファンであるビスマルクは可能性を考慮するのすら不敬、とばかりに吐き捨てるが、

 

「ビスマルク、気持ちは嬉しいが、最弱が最強を倒すことも十分あり得るのが聖杯戦争だ。どんな相手でも気を抜いてはいけないよ?」

 

「陛下・・・仰る通りですね、心得違いでした、お詫び申し上げます。」

 

「本当忠義の人だね、ビスマルクって・・・」

 

「ですねぇ・・・っていうかさり気に提督、自分の方を最強においてますよね?」

 

「あの人もなんだかんだ負けず嫌いで自信家だよね。」

 

時雨と雪風がしみじみとつぶやくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵の内容を確認する会議は終了し、フラットはアリマゴ島までの進撃の戦略プランを練るために(一部の情報を擬装しつつ)大本営との会議に向かった。

部屋には、セイバーの響のみが残される。

 

「そういえば、セイバー。前から聞こうと思っていたのだけど。」

 

部屋の片づけをしながら響はさも思いついたように言う。実際、前からいずれ聞こうとはしていたが、実際に行動に移そうと思たのは今朝の夢が原因だ。

 

「アナタは、聖杯をどうするつもりなんだ?」

 

 

魔術協会よりかせられた任務は「聖杯の奪還、ないし破壊」である。場合によっては無傷の、しかも願いをかなえられるだけの状態になった「聖杯」を回収できるのではないだろうか?

・・・そもそも回収できるほどの大きさなのかどうかすら響には知らされていないのだが。

 

 

「うん?・・・そういえば伝えていなかったか。聖杯は確認し次第、 『破壊』するつもりだよ。僕の剣ならそれも叶うはずだ。」

 

「・・・ちょっとまって欲しいセイバー。どうにもならなくなれば破壊、という選択は分かるけど、破壊前提?」

 

もしもあの夢がセイバーの過去なら、彼だって聖杯に託す願いはあったはずだ。今回は『世界を救う英霊の召喚』という願いの下に現界したとはいえ、万能の願望器を前に何故そんなことが言えるのか。

 

「ああ、そうだよ響。僕には聖杯にかける願いがない。」

 

ごく自然に、セイバ―は微笑み返す。同時に響の脳裏に浮かぶのは、屍の山の上で自らに力不足を嘆き、血に濡れた彼の慟哭の表情。

 

「嘘だ・・・それは嘘だ、だって!」

 

思わず叫び、そしてはっと口を押える。これでは、響が彼の過去を知ったことがバレてしまう・・・が、当のセイバーは一瞬きょとんとした後。

 

「ああ、もしかして僕の過去を夢で見たかな?」

 

なんて、こともなげに返すのであった。返答に詰まる響を見かねて、セイバーは言葉をつづける。

 

「大丈夫だよ、サーヴァントとマスターは、互いの記憶を夢として見てしまうことがある。それは不可抗力だし、私だって『駆逐艦響』の戦いの夢を見たことがあるよ。今だから言うけどね。」

 

「え・・・ちょ、ちょっとセイバー!?」

 

「折角なんでいろいろ探検もさせてもらったよ。機関室とかにも・・・あいて!?」

 

突如、響が手に持っていた紙の束をセイバーにぶん投げてきた。その後へたり込みながら、両手で自分の体を抱え込む。完全に「よくある裸を見られた時の反応」だが・・・

 

「・・・変態!」

 

「え、えええええ!?」

 

セイバーとしてはおあいこというつもりで言った内容だったが、どうやら響からすれば裸体をみられるに等しい事だったらしい。

 

 

 

もっとも、セイバーが本当に見たのはそんな愉快なものではなく、最後の姉妹艦がボーンフィッシュによって沈められ、生き残った兵士たちを何とか救助しているという凄惨なシーンだったのだが・・・

 

 

 

 

 

 

結局なぜかセイバーのほうが散々あやまり倒し、響はようやく機嫌を直した。

どこからか持ってきたクッションを抱きしめ、いまだにふくれッ面になりながらも響は先ほどの会話を再開した。

 

「・・・私がセイバーの過去を夢に見たのは事実だよ。だから解せない。セイバーは『ブリテンを救いたい』って願いを持っているし・・・そのために、他の聖杯戦争にも参加したんだろう?」

 

「なるほど・・・響、一つだけ断っておくけど、君が見た聖杯戦争、それはこの世界で起きたことではないんだ。」

 

うすうす、響も理解はしていた。だが面と向かって言われるとやはり理解が追い付かない。

 

「英霊というのは時に、この世界とは違う歴史をたどった平行世界の記憶を持っていることもある。詳しいことは省くけど、その世界は、こことは違う世界だ。」

 

「うん・・・東京の様子が少し違っていた。それに、東京湾にピラミッドが出現したなんて、集団幻覚として処理されるような事件すらなかったから。」

 

「その聖杯戦争で、確かに僕はブリテンの救済を願い、とある少女のサーヴァントとして聖杯戦争に参加し・・・」

 

「そのマスターを裏切り、聖杯を破壊した・・・?」

 

鮮烈に思い出される、少女を後ろから切り捨てるセイバーの姿。傍らにへたりこんでいた別の少女を護るように、自らの願いごと、マスターを斃した蒼銀の騎士の姿。

 

「う・・・参ったなぁ、実際愛歌を裏切っているので反論のしようがない・・・」

 

「セイバー、貴方ほどの騎士が何もなくマスターを裏切るなんて、私は思っていないよ。」

 

困って頭をかくセイバーに、響はまっすぐな瞳を向けて言う。それは響が身をもって知っている。

直撃を受ければ自らの消滅しかねないペルセウスの「騎英の手綱」の一撃から、様々なリスクを負いながらも響を庇った姿を、響はちゃんと胸に刻んでいる。

 

「戦いの最中に何かあって願いがなくなったとしても、セイバーはマスターを裏切るなんてしないと思っている。だから・・・問題があるとすれば、あのマスターか、聖杯そのものか・・・」

 

「ありがとう響。あまり気持ちの良い話ではないので端折らせてもらうけど、あの聖杯は根本からして使い方が狂っていた。そして・・・愛歌と聖杯が狂っていると知りながら、僕はギリギリまで自分の願いの成就の為だけに動いた。・・・ああ、そのくらい、ブリテンの事は今でも無念には思っているよ。」

 

「なら・・・!」

 

響にも、理解できてしまう。あの戦争の・・・いや、もっと小さくてよい。あの戦闘のあの瞬間・・・目の前で潜水艦に屠られた末妹、見送ることしかできなかった戦艦・・・それらの結末を何とか良い方向にかえたいと、ましてや彼は為政者でもあった。それを願う事のどこが罪だというのか?しかしそれでも、セイバーは首を横に振る。

 

「それでも、教えてくれた少女がいるんだ。その過去を否定するということは、ともに生き、全力を尽くしてくれた人々の心も否定すると。」

 

セイバーが愛歌を突き刺したそのシーンで、恐怖におびえ切った眼で二人を見ることしかできなかった少女。

愛歌の実の妹。姉ほどの魔術の才能は持ちえなかった代わりに、人としての優しき心で騎士王の正義を呼び覚ました少女、名を、綾香といった。

 

 

本来、サーヴァントとして現界した時の記憶を、次の召喚に引き継ぐということはほぼない。英霊たちの大本にデータとしてフィードバックはされるものの、さまざまな時代、各種平行世界で召喚される彼らにとって、いちいちそんなことを覚えている余裕などないのだ。召喚された英霊は何度も「生き直す」。何度も人生を繰り返せば1度1度の印象など、どうしても薄れてしまう。

 

それでも時に、例え煉獄の炎で焼かれようとも決して色褪せることない程に、強く心に刻まれる記憶というものも存在する。沙条姉妹との出会いは、まさにセイバーにとってそれであった。もともと持っていたはずの宿願すら変えるほどの、強く心に残った出会い。その記憶はこうして他の世界に召喚されたとしても今も鮮明に思い出せる。

 

セイバーに恋し、彼の願いの成就のために「世界を喰らおうとした女神」。セイバーが正せなかった少女。

無垢かつ優しい心で、毒の娘ハサン・ザッバーハの心すらとかそうとした少女。

この世界にいるはずのない二人の事を思い出し、一瞬だけセイバーはどこか遠くを見るような表情をみせ、しかしすぐにいつもの彼に戻った。

 

 

「僕がこの結論に至ったのは、あの聖杯戦争での様々な出会いと別れがあったからだ。だから、いきなり賛同してほしいなんてことは言わない・・・けどね、僕には『聖杯にかける願いはない』。これはゆるぎない事実だよ。だから僕は、聖杯を破壊する。それがこの作戦の最終目標だ。」

 

言い切られてしまい、響としてはなにか釈然としないままに頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにこれはもっと実務的問題なんだけど・・・万が一、万能の願望器を無事確保した、などと時計塔に知られた場合、どうなると思う?」

 

「どうって・・・適切に管理するとか・・・元の場所に戻すとか?」

 

「まず間違いなく暗殺部隊が送り込まれて僕ら全員・・・下手をうてばフラットまで皆殺しだと思うよ。アリマゴ島で何があったか、この資料にあるから読んでみるといい。」

 

衛宮矩賢の所業の独占の為、手遅れの住民どころかまだ助かったであろう一般人まで町ごと焼き払ったという報告書を見て、響も「聖杯の破壊」を固く決意するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




セイバーが記憶を引き継いでいるのは、アタランテが死界魔霧都市でジャックを鎮魂するクエストがあったのと同じ原理という事にしました。

ゼロイベが始まる一方さりげなくああいうイベントで重要な設定がぶっぱされるので結構ひやひやしてます。
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