南方海域中部
「怯むな!敵の防衛ラインもあと僅か、ここを突破すればアサシンの根城までの安全が確保できる!艦隊、この長門に続け!」
フラット艦隊旗艦、戦艦長門以下6人の艦娘達によるこの敵泊地の攻略は、最終局面に差し掛かっていた。
何度かの水雷戦隊による強行偵察の末に判明した敵戦力を分析、長門・金剛に二航戦、重雷装艦姉妹という重火力での制圧作戦がとられた。それだけ、この海域の守備は分厚かったのだ。それもそのはず、艦娘達の監禁場所でもあるアサシンの居城、監獄城チェイテを本格的に攻略しようとする場合どうしてもこの近くを通る羽目になる。深海棲艦側としてもみすみすここを抜かせてアサシンをセイバーの脅威にさらすつもりはない。
「全砲門、放てぇ!」
長門型のほこる41cm砲が火を噴き、はるかかなたの敵戦艦クラスを打ち抜く。爆炎があがり、敵を討ち取ったことを確認した長門は内心ガッツポーズを取った。この1体さえ落としてしまえば・・・あとは・・・
『長門!今すぐ撤退して!』
その通信はあまりに唐突だった。だが、今までにない切羽詰まったフラットの声。何かあるのは明白だが、それでも長門は聞き返してしまう。
「提督!?何を言っている!戦艦ル級を討ち取った以上あとは・・・」
『視界ジャックしてた飛龍の烈風が落とされた!一瞬しか確認できなかったけど、あれは間違いなく・・・』
ゴウン、という衝撃を受け、長門はその言葉を最後まで聞き取ることができなかった。
バカな、あのル級は確かに討ち取ったはずなのに、この砲撃は間違いなく奴の16inch砲・・・いや、それ以上の・・・
打ち抜かれた衝撃で吹っ飛ばされ、完全に穴の開いた艤装をその目で確認し長門は絶句する。深海棲艦の攻撃は負の感情が乗っている、などとは言われていたが、長門の装甲の穴からは黒い霧のようなものが上がっていた。こんなもの、今までのル級との戦闘では確認されたことはないのに・・・
『長門!聞こえているか、長門!金剛にも指示をだした、今すぐ撤退を!』
落とされた烈風の主、飛龍はいち早く事態を理解し長門の救援に駆けつける。金剛が威嚇射撃をしながら重雷艦たちを先に逃がし、蒼龍が後に続く。
「飛龍、長門は被弾してマス!曳航を!」
「分かってる!金剛もあまり長居しちゃだめだよ、あの長門の装甲が完全に打ち抜かれてる!」
「もとよりやりあう気はまるっきりないヨ!さぁ、早く!」
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
狂戦士の放つ絶叫が、泊地に響き渡った。
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長門大破、その報は衝鎮守府に激震をもたらした。
長門が常に無傷だった訳ではない。戦闘をすればどんなにうまく指揮を執っても、どんなにすばしこく動いたとしても損傷は免れない。
しかし、ただの一撃で、長門型の装甲をここまで貫く攻撃など、今まで想像だにされなかったのだ。
サーヴァントの出現と報告できない以上、フラットは何とかして大本営には偽の報告をでっち上げねばならない。よりにもよって長門がここまでやられたという点が、このでっち上げを余計に難しくいていた。
飛龍の偵察機がギリギリとらえた、不鮮明な画像を提示する事で「未確認の新型人型深海棲艦」という事にし、甲冑棲鬼、という仮称まで用意して、想定される戦力(これもでっちあげ)から討伐のためにセイバーの艦隊が必要と説得しなければ・・・とやることは山積み。普段のお気楽な彼からは想像できない程、書類にかかりきりになっている。
今回は出撃していなかった暁が必死にフォローして雑務を片付ける一方で、セイバー艦隊の艦娘達は静かに闘志を燃やし始めていた。
セイバー艦隊工廠
フラットが上層部を説得し出撃許可を得た時に備え、艦娘達は自分の艤装の点検に余念がない。
この状況に対処できる艦隊は彼女らとセイバーのみである。ほかの艦娘がいくら優秀とはいえ、サーヴァントの相手はどうしても勤まらない。
長門を長距離からとはいえ「砲撃」のレンジに捉えたこと(つまり周囲の島からの攻撃ではない)、および飛龍の偵察機の視界から見ていたフラットの証言により、敵のサーヴァントは正体不明の「バーサーカー」である可能性が極めて高く、しかもセイバーと同じく「水上を歩行する能力」を兼ね備えているとのことであった。
この事より敵軍は「サーヴァントを中核とする深海棲艦の部隊」を展開していることになり、こちらもセイバーに戦闘のすべてを任せているわけにはいかなくなった。
確かに深海棲艦だけなら、セイバーなら造作もなく倒せるだろう。
それでも数がいればそれなりに鬱陶しいことにはなるし、サーヴァント同士の場合は致命的な隙を生みかねない。
そこでセイバー艦隊の艦娘達も同時に戦闘に参加し、サーヴァント以外の戦力は全て彼女らに任せるのが今回の作戦の基本となった。
やっと提督の戦いに直接援護に入れる。
彼女らの心は、その一点で高揚していた。
ライダー、アーチャーともに、作戦遂行上仕方ないとはいえサーヴァント戦にはまったく触れることができなかった彼女たち。任務ならと割り切ることはできるが、それでも無念ではある。
だが、今度はともに肩を並べて戦うことができる。
「フフフ・・・不謹慎、だとは思うけどね。やはり陛下と共に戦場を駆け抜ける栄誉を授かったというだけで、こんなにも心が躍るなんて!」
前回のてつは二度と踏むまいと入念に舵のチェックをするビスマルクは、どうしても頬が緩むのを止められない、といった面持で言う。
「確かに。流石に気分が高揚します。私たちでなければ不可能な戦いですから。」
隣で弓の弦の張り具合を見ていた加賀は、彼女にしては意外なほど素直にビスマルクに頷く。物静かではあるが自分の実力への自負は強い加賀にとっても「自分たちの艦隊しかできない任務」というものには心が逸るらしい。
「あくまで提督の邪魔をする深海棲艦の露払いが主目的ですよ、加賀さん。」
「分かってるわ赤城さん。・・・でもね、露払い、というけれど・・・」
「露というには分厚すぎる戦力、だろ?通常の泊地の防衛隊にサーヴァントが加わってるっていう方が正しいもんな。」
対空砲の調子を見ながら、ニヤリとして摩耶が続いた。泊地防衛部隊である以上敵もいくらか航空部隊を擁している為、一航戦の艦上戦闘機部隊と共に彼女の対空砲が欠かせない。
「むしろ提督にサーヴァント・バーサーカーを抑えていただいてる間に泊地を撃滅、その後提督の支援に回るという方が正しいのではないでしょうか?」
大和はあくまで艦娘の本分を口にする。生真面目な彼女らしい意見である。・・・が、最後の最後でやはり敵サーヴァントに一撃加えたいという欲求が漏れている。そこに突っ込みを入れたのは木曾であった。
「大和、最後に本音が漏れてるぞ。・・・まぁ俺も同意見なんだけどな。あの長門の装甲をぶち抜いた化け物とやらに、ぜひとも一太刀入れてやりたいもんだね!」
ぶんと軍刀が風を切る。彼女の刀は本来は艤装でもなんでもないが、フラットの計らいにより魔術礼装の一種になっている。艦娘と同程度には神秘を宿した霊刀といったところか。
「私も艦娘な以上高揚感がないわけではないんですが・・・ライダーのベルレフォーンを思い出すと、少し警戒してしまいます。」
「確かに宝具の一撃も怖いけど、それ以上に私は『バーサーカーなのに芸達者』なのを警戒すべきだと思いますよ。」
羽黒と鳳翔はおとなしい気質から、前衛ファイト組と少し違う視点で次の戦いに備えていた。
宝具の真名解放をするまでもなく、その神秘は容易に艦娘の装甲を貫く。ハルパーで滅多ざしにされた如月しかり。そして鳳翔の云う通り、このバーサーカーは狂戦士とは思えない『何か』を持っている。
長門の装甲を貫いたのは確かに戦艦ル級の主砲のはずだが、その弾丸は未知の技術で強化されていた・・・それ以前に、あのル級は長門が討ち取ったはずであった。そのル級が反撃してきたという事は、バーサーカーでありながら他者を回復する能力や能力向上をさせる力を持つ、指揮官型という事になる。・・・それはおかしい。そういうサーヴァントならキャスター(か、既に討ち取っているが傾向としてはライダー)になるだろうし、万が一そういう能力のあるサーヴァントをバーサーカーにした場合、能力が失われるはずだ。何か、仕掛けがある。
「もう一度、水の上を歩ける英雄という事でフラット提督達も情報を洗ってるみたいだけど、有効打がないんだよね・・・」
対空兵装を調整しながら口を開いたのは時雨。かつてセイバーの正体を探っているときは面白半分でもあったが・・・今回は表情が暗い。
「水上歩行、怪しい伝説を含めれば案外多いですよね・・・日本人だからサーヴァントとしてはないけれど、天草四郎とかもやったことがあるらしいし。」
「それってそもそもソコの宗教のよげんsモゴモゴモゴ」
危うく聖堂教会のところの人にケンカを売りかけた雪風の口をふさぐ神通。半分は冗談であるが、「人造人間」といえる彼女らは教会にもいい顔をされてないのは事実である。しかも魔術協会の息がかかってるとすれば猶更だ。
「モガモガ・・・わかりましたよう、発言は気を付けますって!」
「お願いよ雪風。あまり私たちには見せないけど、フラット提督、魔術協会関連のしがらみもあるのだから、きっと内心苦労してらっしゃるだろうし。」
ちなみに本当に苦労しているのはフラットではなくフラットの窓口となってるロード・エルメロイ二世とベルフェバンなのだがそれは彼女らの預かりしならない事実である。
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「もう三度目のサーヴァント戦になるけど、怖くはないかい響。」
戦場となる海域までの輸送船の中、響のみ、他の艦娘と違いセイバーと過ごしていた。
彼女の役割はあくまでマスター。故にサーヴァントとの連携の為にも必要な事である。・・・微妙な疎外感も無いわけではないが、一般的にはむしろ「特別扱い」と言われることも理解ている。(そんなことで響をひがむような艦娘などいないのだが)
そんな微妙な心情をセイバーも察し、少しでもリラックスさせようと声をかける。
「大丈夫だよ、私は。セイバーが強いことも知っているし、何も怖いことはない。やることと言ったら見守ることだけだし。」
彼は掛け値なしに最高位のサーヴァントだ。神代の英雄相手に真正面から斬りあえるものなど限られる。そんなサーヴァントに前衛を任せられる以上、不安など起こるはずもない。
正直仕事がなくて困るくらいさ、と響は笑って見せた。
「それよりも、今回こそはマスターは出てくると思うかい?」
敵魔術師を斃せればサーヴァントはそのまま消えるし、そこまで行かなくても魔術師が何かしら敵サーヴァントを援護しようとする行動を阻止できれば、それだけでセイバーに有利に物は動く。
「どうかな・・・もし出てくる場合、深海棲艦に守らせた船にのって前線に出てくるという事になる。」
ここは海の上。ライダーのようなハグレでない限り、マスターが前線に出てくるならセイバーの言うような仕掛けが必要になる。
もしくは遠見の水晶玉で状況を観察するくらいだが、その場合は敵が何かしらの細工をできる確率はぐっと減る。
「深海棲艦に守らせてる場合、艦隊のみんなに攻撃しても事になるから・・・やっぱり私に出番はない?」
先制で魚雷程度は撃っても良さそうだが、もし姫級だの鬼級・・・いや、そこまで行かなくても戦艦クラスでも、響一人で挑めたものではない。令呪を護るという大命題がある以上、響は一切の無茶ができないのだ。
「君がいてくれるという事が私の精神的支柱だ。そこを忘れないでくれ、響。」
「・・・はぁ、帰ったら次の出撃までに、フラット提督に簡単な魔術を習っておこうかな?治療の魔術とか。」
艦娘達の素体になったホムンクルスは「魔術師向き」の回路を持っている。普段はその魔力を艤装に廻しているが、砲撃能力などをカットし『水上を走ること』『装甲』程度に抑えれば簡単な魔術程度の行使は確かに可能だ。
「治療・・・癒し・・・か・・・」
響の中で、セイバーの出した「聖杯を破壊する」という結論はいまだに引っかかっていた。
勿論、魔術協会との衝突を避けるために必要というのは理解できる。
だが・・・あんな慟哭、あんな悲しみを抱え、異なる時代に召喚されてまで求めた救いを自ら捨てるという行為には、やはりいまだに納得はいっていない。
あるいは、その傷を「癒すほど」の救いを見たのか・・・はたまた、それ以上の絶望を見て願う事すらやめてしまったのか。
普段のセイバーをみれば後者じゃない・・・とは思う響ではあるが、あの無念を癒せる救いというのも想像できなかった。
彼女の中でも、先の大戦の無念は完全に消化できたわけではないのだから。
「ははは。でも彼は教えるのに向いてないと思うよ。直感型の天才だから。感覚で話しちゃって『何がわからない分からない』タイプじゃなかな。」
「あっ・・・あー・・・」
その時、船内にアラームが鳴り響く。決戦の海域近くに到着した合図であった。
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分厚い雲が立ち込める灰色の海に、13人の人影が次々と飛び出してゆく。作戦海域は、激戦を暗示するかのような雷模様であった。だが、彼女らはいささかの恐れも見せず、勇ましく水の上を蹴る。
作戦地域までの輸送船から、セイバー以下12人の艦娘全員が出撃をする。普段なら彼の艦隊から輸送船の護衛を出すところだが、今回はフラット艦隊で現在動ける金剛と暁についてきてもらい、総員で攻撃をかける作戦となっている。
「みんな、黒鎧なんてさっさとぶった押して早く戻ってくるですヨー!」
「そうしたらお祝いするんだからね!」
手を振る二人に見送られ、第二警戒航行序列を組み艦隊は出撃する。空母2に軽空母1の空母機動艦隊。鳳翔がさっそく偵察機彩雲をとばし、泊地への偵察を開始した。
「フラット提督、偵察機彩雲出撃しました。そちらの視界は?」
『・・・OKだ、彩雲の視界はこちらでも把握した。』
本来は相当危険な内地との直接の無線だが、魔術師のオブザーバーが彼しかいない上に、彼は平素から「偵察機」の映像を直接見て指揮を執っていた為なんとか都合をつけて通話を開通させている。フラットの艦隊の動きが良い原因の一つは、指揮官が艦娘の動きをリアルタイムでみられる事にもあったであった。
ちなみに普通の提督は魔術師ではないのでそんな真似できないし、そもそも魔術師だって空母艦娘の「使い魔」たる偵察機の視界をジャックするなど普通はあり得ない行為である。「ちょっとチャンネルあわせるだけ」とは彼の弁だが、艦娘側が了承してるとはいえかなり無茶苦茶な行為であることを追記しておこう。
「あちらの艦隊に居たときから破天荒な人とは思っていましたが・・・おかげで戦果が上がってしまうのが何とも言えないわね。」
「お気楽に見えますけどあの人程『計算、計略を本能でこなせる』タイプの人はいませんからねぇ」
フラット艦隊からの移籍組である加賀と赤城にとっては馴染みの戦略なのだが、実は最初はさすがに渋ったという。本来自分だけのビジョンをのぞき見されて良い気分はしないだろう。
「二人とも、そこまででです。1時方向に敵影。ヲ級1、リ級2、ホ級2。泊地の防衛前線部隊ね。敵航空機も確認されました。戦闘機の出撃をお願い。」
『了解!』
2名の空母艦娘が弓をさっと構え、空に向かって矢を放つ。放たれた矢は姿を艦上戦闘機、烈風へと転じそのまま敵艦載機迎撃へと飛び立ってゆく。
「あの子たちがいくら優秀でも撃ち漏らしは出るわ。摩耶、時雨、頼みます。」
赤城の声に2人が反応し、それぞれ自慢の対空兵装を構える。時雨は新調した高射装置と高角砲、摩耶は対空機銃。空をにらみ、来るべき敵を待つ。
「・・・来たぞ、時雨!」
「やらせない!」
烈風の防衛網を突き抜け、魚雷を見舞わんとやってきた敵艦上攻撃機。だが、ようやくたどり着いた先にこの2人がいたのでは、意味がないのだ。
「ぶっ殺されてぇか!!」
ハリネズミ、と称された摩耶の機銃が、まるで天地を逆さまにした雨の如く敵に降り注ぐ。それでもなお逃れた敵機は・・・
「逃げられたと思ったかい?残念だったね!」
電探と高射装置を搭載した時雨に片っ端から撃ち落とされていく。泊地という事で敵の航空攻撃の厚さを警戒してた以上、守りは万全である。
「敵の航空攻撃第一波、撃退を確認、これより砲撃戦を開始します。」
大和が厳かに宣言し、46cm砲を敵の方向に向ける。零式水上観測機を先にとばし、烈風たちが制空権を確保した上空より大和の砲撃位置を観測させる。狙うは敵空母、ヲ級。
「主砲・・・放て!!」
轟音が鳴り響き、3連装砲が火を噴いた。初弾は残念ながら命中せず、しかし挟叉を確認。観測機の報告をあわせ砲門の角度を調整・・・
「今度こそ、沈みなさい!!」
再び、轟音が轟いた。
一方こちらは前方警戒の随伴艦隊、水雷戦隊。
「大和の砲撃を確認、こちらも一気に距離を詰めて殲滅します!」
先陣を切ったのは華の二水戦の長神通。儚げな見た目に似合わず、こういう時は大抵一番やりを持っていく。
「木曾、雪風もついてきて!羽黒はビスマルクとともに遠距離からの砲撃支援を頼みます。!」
神通達が狙うのは魚雷の一撃だが、ある程度接近してからでなければ簡単に回避されてしまう。故に水雷戦隊には敵に肉薄する勇猛さと俊敏さが要求される。
敵巡洋艦の迎撃を滑るように躱しながら3人は距離を詰める。後方からはそれを援護するために、羽黒とビスマルクが主砲で敵の注意をひきつけていた。
「そらそら!目の前ばかり見てると、私たちが沈めてしまうわよ!!」
ビスマルクの言うとおり、水雷戦隊に気を取られ長距離砲撃への警戒を怠れば、戦艦の主砲に直撃される未来が待っている。リ級とホ級の4人は完全に身動きを封じられ、主戦力であるヲ級への援護行動すら取れなくなっていた。
航空部隊はすでに烈風部隊に鎮圧され、僚艦も防御行動をとれない。防御戦力のない空母など、戦艦の格好の餌食である。
「てぇー!!」
大和の主砲が3度目の爆音を上げた。放たれた弾丸は過たずに、ヲ級の胴体に直撃、そのまま完全に貫通し、かの敵を爆発四散せしめた。
護るべき戦力のロストに色めきたった巡洋艦達だが、その隙を逃す理由はない。
「貴様らの司令官は無能だったな!消えろ!」
「あたってくださぁい!」
肉薄していた木曾・神通・雪風の魚雷が4体の進路上を読むように発射されていた。慌てて航路を変えようとするも間に合わず、2体のリ級とホ級が直撃をうけ、そのまま海の藻屑と化す。残った1人は・・・
「逃しません・・・!」
魚雷の位置より敵の進路を更に読んだ羽黒とビスマルクの砲撃が、最後の1体を水底へと送った。
「・・・状況終了、敵前衛部隊すべて撃沈・・・一先ずは勝利、ですね。」
黒煙を上げながら水没していく敵を見ながら、あくまで冷静に神通が通信をかける。まだ敵のほんの一部、こちらは通常の作戦の倍の戦力の連合艦隊とはいえ、無傷で切り抜けられたのは行幸だ。
『お見事、華の二水戦からすれば朝飯前だったかな。」
通信から流れてくる響の声に、神通は「過大評価です」と笑う。本来なら響もここに加わりたかっただろうが、彼女の今の役目はセイバーのマスター。深海棲艦との戦闘に晒して被害にあうリスクは冒せない。空母部隊と同じく、セイバーと一緒に後方待機中。
『二人とも、無駄口はそこまでよ』
割って入ってきたのはクールな加賀の声。含まれる緊張感から、神通も響も「何が来たかを」一瞬で悟る。
『鳳翔さんの偵察機が新たな敵の一軍を発見しました。ヲ級1・ヌ級1・ル級にチ級多数・・・そして・・・』
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
赤城が報告を読み上げるよりもはやく、その咆哮が艦娘達の耳に響き渡った。他の深海棲艦を軽く凌駕するスピードで肉薄する、黒き甲冑姿のサーヴァント。
「サーヴァント・バーサーカー・・・!!」
ゴクリ、と神通が唾を飲み込む。ベルレフォーンの一撃をあえて誘発した囮作戦をとったこともあるとはいえ、このバーサーカーの威圧感は尋常ではなかった。姿を確認する前からすでに、咆哮ひとつで艦娘達に極度のプレッシャーをかけている。
「提督、俺たちはあとから来る深海棲艦を叩く・・・この化け物は・・・」
木曾が通信でそう呼びかけようとしたその瞬間に、彼女の横を白銀の風が追い抜いていた。
「そのつもりだ、木曾!」
水雷戦隊がその背中を見送った後に、ようやく響が追い付いてくる。彼女もマスターとして、ここからは最前線を張らねばならない。
直接の砲撃こそしないものの、その責任と危険度は圧倒的に高い役だ、
「木曾、セイバーは・・・」
「ああ、もうあの黒いのとドンパチおっぱじめてる。」
木曾が指した先には、不可視の剣と、バーサーカーが両手に持った手斧の様な武器が切り結んでいる姿があった、
「アレは・・・斧か棍棒か、さすが狂戦士ってところか!」
「違う・・・何かおかしい・・・」
黒い靄につつまれた狂戦士の獲物を凝視する。柄の方が捕捉、先のほうが大きくまるいそれは、一見すればモーニングスターのようにも見えるが・・・
「あれは・・・あれはル級の16インチ砲だ、砲身を柄にして16インチ砲でセイバーと斬りあってる!」
「くっ・・・まさか仲間の艤装を武器に使うとはな!」
両手に一振りずつ持たれた武器を、セイバーも最初はモーニングスターの類と考えた。しかし切り結び、すぐにそれが間違いであったことに気が付く。響の見立て通り、バーサーカーは16インチ砲の砲身をその手に持ち、砲塔部分を柄頭にみたてて殴りかかってきていたのだ。
仲間の武装を引っぺがしたという行為にも若干の嫌悪感を覚えるが、それよりおかしいのが
「その装甲でよく私の剣と切り結ぶ!」
セイバーの剣は最高密度の神秘、現代武装に付喪神が付いた程度の艦娘、深海棲艦の装甲では、例え剣状になっても切り結ぶことなく、バターのように裂かれてしまうはずだ。
だが現に、目の前のバーサーカーはその「切り裂かれるべき」強度しかない筈の武器で、セイバーと対等に打ち合っている。手にした物質を強化するとでも言うのか?
「A――urrrrrr!!!!!!!!!!」
嵐のような二刀流の攻撃を、セイバーは剣一本で何とかさばいていた。通常、二刀流の弱点は片手もち故に一撃が軽い事、セイバーの力をもってすれば軽くあしらえる攻撃のはずであった。
しかし、このバーサーカーの一撃一撃は、片手でありながら両手武器のように重い。狂化にはステータスを強化する能力もあるというが、セイバーをして圧倒されるこの筋力とはいったいどれ程のものなのか。
そして更に恐ろしい事は、そんな出鱈目な力を振りかざしておきながらも、腕力にまかせた出鱈目な動きでは決してなく、フェイント、本命を織り交ぜた洗練された動きをしてくる点である。
(万が一正気を保っていれば、どれほど美しい動きをしただろうか!)
数度の打ち合いのすえ、バーサーカーは跳躍し大きく距離を取った。同時に、手に持っていた主砲二つをそのままセイバーにむかって投擲してきた。
「くっ!」
ガイィンという激しい音を立て、振るった剣が投げられた主砲を弾き返す。これで敵は素手・・・いや、むしろ本命の武器を出してくるか?
しかしセイバーの考えはすぐ裏切られる。
「AAaaaaaaaaaaaa・・・・」
バーサーカーは、先ほどの戦闘で沈んだと思しき重巡型深海棲艦の艤装を引っ張り上げていた。本体を貫通していたためか、艤装はまだ十分使えるように見えるそれ。
また主砲のように棍棒代わりに使う気かとも思われたが・・・しかし・・・その動きはむしろ・・・
「A――urrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!!」
避けろ、というセイバーの直観が自然と回避行動をとらせる。つい一瞬前まで頭があったその部分を「砲弾」が突き抜けていった。
「ッ・・・!ま・・・さか・・・!」
それはバーサーカーには使いこなせない筈。理論だって考えていれば、その不意打ちをモロに食らっていただろう。未来予知ともいえるセイバーの直観あってこその回避だった。
体勢を立て直しバーサーカーを睨みつけるセイバー。水面に立ち、両手にリ級の8inch三連装砲を装備した甲冑が、次の砲撃こそ命中させんと再び狙いをつけ始めていた。
「セイバー!!・・・そんな、馬鹿な・・・あのバーサーカー・・・!」
艦娘達、深海棲艦の艤装とは、サーヴァントにすれば宝具と言って過言ではない。概念礼装の追加により、本人のキャパシティ次第で砲や魚雷の追加はできるものの、例えば同じ駆逐艦でも時雨が響の艤装を使い水上に出ることはできないし、逆に響が時雨の砲を盛っても引き金を引くことはできない。艤装は付喪神と一体で形作られるもの。魔力パスが通っていないない以上、他人の艤装はただの鉄の塊でしかないのだ。
そしてそれは深海棲艦も同じシステムを取っている。もともと「人型兵器」として開発された手前、鹵獲対策もばっちりとられている為万が一艤装をうばわれても、そういう形の鉄くず以上にならないように設計される・・・大本の人型艦船計画より受け継がれているシステムだ。
だが、黒甲冑はそんなシステムをまるっきり無視し、ハッキングして重巡リ級の武装を奪った。最初に手斧や棍棒代わりに持ってたあの砲も、最初は主砲として使ったのではという推測も、簡単に立った。
「まさか、長門の装甲をぶち破った砲弾て・・・」
そう、あの時長門は確かに敵戦艦を討ち取っていた。討ち取っていたが、まだ艤装まで破壊できていなかった。そこにあのバーサーカーが現れ・・・
「だめだ、セイバー!そいつに艤装を拾わせちゃいけない!」
近代兵器が英霊に効かない最大の理由は「神秘を持たない」為触れることができないからだ。
艦娘達の武装は多少の神秘を得ているので一応は通用するものの、「ただそれだけ」で打倒せるようなレベルではない。
ではもし、サーヴァントが己の能力で近代兵器に高濃度の神秘を付加できるよになれば?
「A――urrrrrr!!!!!」
ドガン、ドガンと両手の砲を連射するバーサーカーに対し、セイバーは回避を一方的に強いられていた。
斬りあいの時に見せた手並みは射撃をしても失われず、狂化してると思えない正確さでセイバーの動きを捉え、よけようとする先まで読んでくる。技量でも引けを見せず、レンジが圧倒的に広いとなれば、バーサーカーが有利なのは当たり前であった。
「くそ、これでは近づくことすら・・・!!」
二丁の砲台というのが曲者で、通常ならば反動でできないであろう連射も難なくこなしてしまう為発射のスキに近づくことすらままならない。
「響、こっちに近づいてはいけない!この砲弾、駆逐艦の君では掠めただけで行動不能にされるぞ!」
神秘、というよりは憎悪の魔力を帯びてる砲弾。長門の装甲すら抉ったそれを、駆逐艦たる響が受ければどうなるかは自明の理。
「く・・・私は・・・!」
何もできない、という焦りを必死に抑える響。彼女と令呪は切り札、出番がない事こそ本来は最上、そしてセイバーにとっても精神的保険なのだ。
「フォイアァァァ!!」
ビスマルクの主砲がうなりを上げ、敵ル級を正面から捉える。山なりの軌道を描いた砲弾が突き刺さり、その装甲を貫通した。
耐え切れず、ル級は爆発轟沈し海の藻屑と化す。これで残りの敵は・・・
「戦艦はビスマルクが仕留めました!赤城さん加賀さん、ヲ級は!?」
大和の通信に対し、帰ってきた返事は『とっくに無力化しています、ご安心を』という加賀のクールだが、心強い返事。これで残りは巡洋艦のみだ。
『こちら羽黒、敵水雷戦隊を捕捉し雷撃戦に突入しました!大半の敵の無力化に成功しています!』
「こちらの戦闘は、理想的展開ね・・・雪風、余裕があれば提督の戦いの状況について教えてもらえますか?」
だが、この流れに水を差すように、雪風の声が重い。
『ちょっと、良くないように見えます・・・!なんか敵のバーサーカー、深海棲艦の武装を乗っ取る能力を持ってるらしいです!』
「深海棲艦の武器を・・・?馬鹿な、敵は『狂戦士』なんでしょう?!なんでそこまで器用な芸当を・・・」
『で、でもでも!実際に敵の巡洋艦の主砲で提督を司令を追いつめてます!映画のガン=カタみたいな動きで!』
「・・・!赤城さん加賀さん、鳳翔さん!偵察機を飛ばして少しでも情報を!他の者で、提督を援護できるものは・・・」
『む、無理ですよ!あんなアクロバットに動き回る相手に命中させるなんて!第一司令に誤射しかねません!』
「く・・・折角手が空いたのに、見ていることしかできない・・・これが英霊と、現代の付喪神の差という事なの・・・!」
「A――urrrrr!!!!!!!」
バーサーカーの唸りを聞きながら、大和は一人ほぞを噛む。見送る、見守るしかできない事のもどかしさ。よもやこのタイミングで再び味わうとは・・・!
バーサーカーの雨あられからの砲撃を躱し続けていたセイバー。やがて、バーサーカーが両腕の主砲を捨てたことで『弾切れ』が発生したことに気が付く。攻めるなら、今しかない。
「射撃武器は有効だが、残弾と距離を考えるべきだったな!」
吠えて、セイバーは水面を駆け滑る。一気に肉薄し、次の武器を得る間に斬り伏せる!
「セイバー、いまだ!」
「避け続けた提督の勝利です、今こそ・・・!」
響も、艦載機ごしにみていた赤城も、セイバーの勝利を確信した。いくら武器を乗っ取れると言えど、武器そのものがなければどうにもならないはずだ、と。
まさか、彼の真名に迫れる『切り札』の剣がまだ隠されているなどと、思いもよらなかった。
「……Ar……thur……」
その唸りを耳にした瞬間、セイバーは耳を疑うと同時に、思わずその歩みを止めてしまった。
今奴は何といった?確かに、アーサー、と・・・
「Ar……thurrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!!」
騎士を覆っていた黒い靄ははれ、その兜までもが解除されていく。今は知る由もないがこれこそこのバーサーカーの宝具、正体隠蔽の逸話『
武器の乗っ取り能力、なんでも自分の武器とする逸話『
その名は
フランスの湖の精が、とある騎士に送った三振り目の『星の聖剣』にして、仲間を裏切りその格を喪失した魔剣。
「そんな・・・まさか、何故、何故君が・・・・!!!」
「Arthurrrr!!!!!」
円卓の騎士が一人、ランスロット卿の剣である。
「そんなにも・・・狂気に身を任せる程にも、僕が憎かったのか!!ランスロット卿・・・!!!!!」
「ランスロット・・・陛下・・・今確かにランスロットって・・・」
残存の水雷戦隊勢力を駆逐していたビスマルクは思わず反応し、振り返る。アーサー王に心酔し、しかも基本的にフランスと仲の悪いドイツ出身となれば、ランスロットは不倶戴天の相手と言える。
「ビスマルクさん、あのバーサーカーに心当たりが・・・?」
羽黒が控えめにきくが、ビスマルクはギリリと歯ぎしりをし、吐き捨てるように答える。
「もし陛下が仰ってる事が本当なら・・・アイツは円卓の裏切者!キャメロット崩壊の原因のフランス人!仲間殺しの騎士のランスロットよ!!」
ビスマルクの気性を考え、今までセイバーも彼の話題を上げることはなかったため、羽黒にとってはほぼ馴染みのない名前であった。
「え、えええええ!?じゃ、じゃあバーサーカーも円卓の騎士!?」
「しかもタチの悪いことに、礼節はからっきしの癖に武芸だけはぴか一ときた!!ああ憎たらしい!!」
実際にはランスロットは礼節においてもとても優秀な騎士なのだが、円卓崩壊の原因が・・・アーサー王に仕えるガウェインを自認するビスマルクには、到底許せるものではないのだ。
彼女は知る由もないが、ランスロット討伐をアーサー本人より強く望んだのは、他でもないガウェインであった。
「羽黒、残りの敵はさっさと片付けるわよ!せめて周囲の掃除を済ませねば!!」
「Arthurrrrr!!!!!」
「ぐ・・・ランスロット卿・・・!!!」
一瞬立ち止まったそのスキこそが致命的だった。無毀なる湖光は遠距離に斬撃を放つ能力こそないものの、接近戦の攻撃力を増大させる剣の宝具。
約束された勝利の剣とまともに打ち合う事の出来る剣が、狂化により圧倒的に増幅された筋力で、撃ち込まれてくる。
「ぐ・・・があああああああああああ!!!!」
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
激しいつばぜり合いからバーサーカーはセイバーを突き飛ばす。崩れた体勢からなんとか防御を図るセイバー。
「A――urrrrrr!!!!!!!」
一合、もろ手上段からの一撃、剣を横に構え、弾く。
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
二合、弾かれた勢いで大きく右に振りかぶり、横一文字の一閃。脇をしめて剣をたてにもちどうにか弾くことに成功する。
「A――urrrrrr!!!!!!!」
三合、そのまま逆回転からの一閃、しめる脇を逆にし、何とかこれも弾く。だが、これ以上は反応が間に合わない・・・!!!
「Arthurrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!!」
四合、絶対に回避不可能な距離での、宝具による刺突。身をよじるにも限度がある。無毀なる湖光の切っ先が、騎士王の脇腹を捉え、刺し抉った。
「う・・・・・・そ・・・・・・」
目の前の事態を、響は一瞬受け入れることが出来なかった。だってセイバーはいつだって無敵で、無傷で勝利してきた。
深海棲艦相手なら十把一絡げに両断し、神話の大英雄相手でも一歩も引かず聖剣で切り抜き、弓兵の罠にも臆することなく立ち向かった彼が。
狂戦士の刃に、その体を貫かれるなんて
白銀の鎧は大きく抉られ、傷口からは鮮血が迸っている。つばぜり合いで突き飛ばされた拍子の、追撃での1撃。即死こそ免れたが、セイバーの体は海面に仰向けに倒れ、動かない。
そのような隙を、バーサーカーが見逃すはずがない。
「Arthurrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!!」
剣を逆手もち、跳躍。かの騎士王にトドメの一撃を刺さんと天より強襲をかける。
勝負は、決した。
「セイバー!鎮守府まで今すぐ退避を!!」
響が右手を天に掲げとっさに叫ぶ。狂戦士の剣がセイバーを貫かんとしたまさにその瞬間、セイバーの体は赤い魔力の光に包まれ。忽然と消え去った。
「はっ・・・あぁ・・・間に・・・合った・・・!!!」
あってはいけない事態を目にした次の瞬間には、響はこの結末と、自分が何をすべきかを理解していた。
この戦闘において、セイバーはこのままでは負ける。ならばセイバーを、対サーヴァントの切り札を離脱させること・・・そのための奇跡を使用することこそ、彼女がこの場にいる意味であった。
艦娘でありながら一切戦闘に参加せず、戦闘を見守った故に出来た事。役目は、果たせた。
「A――urrrrrr!!!!!!!」
突如怨敵を失った狂戦士が、聞くものが思わず身震いするほど、怨嗟のこもった咆哮を上げる。そして周囲を見回し・・・戦場にぽつんと立つ、銀色の少女を見つけた。
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
貴様の仕業か
言葉にならぬ絶叫だが、響には確かにそのように聞いて取れた。
セイバーですら往なし切れなかった猛攻を、彼女が捌ける通りなど存在しない。
「不死鳥の名も・・・ここまでかな・・・令呪は返せなかったけどフラット提督なら・・・あとは・・・」
死を覚悟する。完璧な任務完了とは言えないが、セイバー本人が無事ならあとはあの破天荒な魔術師がどうにかしてくれるはずだ。
目の前の狂戦士がこっちに飛んだ瞬間、彼女の命など軽く刈り取られるだろう。目いっぱい抵抗しても・・・数秒あがければいい方・・・だが
『避けなさい、響!』
ビスマルクの声にとっさに反応しその場を離れる、直後に38cm連装砲改の砲弾が響が元いた場所の近くに着弾し、大きく水柱を上げてバーサーカーの視界から響を隠した。
「この攻撃は・・・ビスマルク!!」
周辺の敵艦隊を駆逐し終えた、仲間たちの攻撃。だが、次に耳にはいった言葉は、響を更なる絶望に落とす。
『我々が何としてもバーサーカーを抑えます、駆逐艦響、連合艦隊旗艦、戦艦大和が命じます。令呪を護り、何としても鎮守府に帰還しなさい』
それは、別れの言葉である。
「そ・・・まって大和・・・私は・・・!」
『今何をすべきか分からぬ貴女ではないでしょう?守るべきモノを守る。その為の我ら艦娘です。命令拒否は認めません・・・大丈夫よ、私たちも必ず帰るから。さぁ、時雨を先導に着けました。早く!』
羽黒や摩耶も砲撃に参加し、バーサーカーの注意は完全に響から外れた。彼女の速力なら、離脱は可能だろう。
その約束が、守られるはずのない、儚い願いと理解しても。
響はそれ以上反論することはできなかった。彼女もすべきことを理解し、一分一秒を惜しんで離脱せねばならないのだから。
「ッ・・・!!!必ず、必ず帰って来て・・・みんな・・・!」
『私を誰だと思ってるの!当代の円卓のガウェイン、ビスマルクよ?響は従騎士、ベディヴィエールなのだから、陛下を待たせるなんて言語道断よ!!』
ビスマルクの声に押され、響は海域を離脱し始めた。後ろは、振り返れない。その瞬間に戦場に舞い戻りたくなってしまう。それだけは、やってはいけないから・・・
「本当ガウェイン卿が好きなのね、ビスマルクは。ちなみにガウェインとランスロットって決闘とかで戦ったことあるのかしら?」
響と時雨の離脱を確認した大和は、バーサーカーに主砲を向けながらそう軽口をたたいた。
「ええ。決闘どころか本当の戦場でよ?なんせアイツは裏切り者ですもの・・・ただねぇ・・・」
「ただ?」
「午前中いっぱい凌がれたあげく返り討ちにされて、しかも見逃されてるよね・・・」
ランスロットがフランスに逃げ帰った後、追撃を強く主張したのはガウェイン本人。しかしいざ直接対決の場で彼はついぞガラティーンをランスロットに喰らわせることはできなかった。
「今回も見逃してくれませんかね、あれ。」
「そんな理性、アレにあるとおもう?」
「ですよねー。」
あはは、と笑うも覚悟はすでにできている。ビスマルクも、それは同じだった。
「水雷戦隊の様子をみながら砲撃します。何としても、響への追撃を食い止めます!!」
「でええええええええやあああああああああああああ!!!!!!」
20.3cm連装を両手に構え連射し、魚雷もばら撒きながら摩耶が水面を滑る。狙うは当然、バーサーカー。
「くたばりやがれってんだよっ!!!!!」
ひらひらと躱すバーサーカーになおも肉薄する摩耶。例えサーヴァントと言えど、接射で砲撃を受ければただでは済みまい。多少なりともダメージは通るはず。真正面からそんな無茶ができるのは現状気性的に、彼女しかいない。
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
宝具である剣をしまい、兜をかぶり直すバーサーカーを見て、摩耶は忌々しげに言う。
「チッ・・・アタシらは本気を出す必要がないってか・・・その油断、後悔させてやる!!!!」
今現在奴は素手だ。大してこちらは重火器・・・このチャンスを生かさないわけにはいかない!
「オラオラオラァ!!!!!」
本来対鑑にはあまり意味をなさない機銃すら掃射しながら突っ込む摩耶を、バーサーカーは一瞥し・・・
「がっ!?」
回避に専念してたはずなのに、逆にいきなり距離を詰めてそのまま摩耶の首を右手み、つるし上げた。
「ッ・・・(な、なんて馬鹿力・・・!)」
息ができない程に締め上げられながらも、それでも両手の主砲をバーサーカーに向けようとするも、空いた左手に砲塔を『握り潰されて』叩き込まれ破壊されてしまう。
「そのスキもらったぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
叫び、軍刀を構えとびかかってきたのが木曾である。あえての剣での攻撃という意表を突いた一撃。だがバーサーカーは、落ち着いて摩耶を投げすて・・・
「ッ・・・・!!!!駄目だ木曾、艤装を前面に出して、防げ!!」
とっさの摩耶の声に木曾も反応し、攻撃を捨て防御態勢を取る。その刹那
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
摩耶から艤装を文字通り「もぎ取って」いたバーサーカー。両手で抱えていたのは、25mm連装機銃。
「ぐ・・・ああああああああああああ!!!!!」
ダダダダダダ、と憎悪の魔力に侵された機関砲が火を噴き、弾丸を次々と木曾に浴びせかけた。宝具の能力で威力まで上がげられているその弾丸の前に、木曾の装甲は瞬く間にズタボロにされ崩れ落ちる。
「一人と油断しましたね・・・!!」
その背後から忍びよったのが、神通だった。接近しての雷撃、砲撃は彼女の最も得意とする事。今、この機会をおいてほかにない!
腰の艤装より魚雷を放ち、一糸報いんと突撃をかける!!
それすらも、バーサーカーにとっては予想の範疇の話である。
一度機関砲を投げ捨てると、神通の放った魚雷をそのまま「つかんで」見せ・・・
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
「そんな!?しまっ・・・っ!」
まさか自分の魚雷を投げ返してくるなど思いもよらず、雷撃の直撃を受ける格好になってしまう。爆風で大きく吹き飛ばされ、水面をごろごろと転がっていく。
「羽黒さん、木曾さんと摩耶さんを!私が神通さんをつれて離れます!」
『二人とも急いで退避を。艦攻の攻撃を開始します。これで少しでも時間を・・・』
鳳翔の通信が入ると同時に、航空機のプロペラ音が聞こえてきた。赤城・加賀・鳳翔の3つの空母による一大攻撃隊だ。
バーサーカーは少しでも撃ち落とさんと再び機銃を構えるが、四方八方に分かれて攻撃を開始する航空機をすべて落とすことなど不可能。本格的な航空隊の対処は、航空機に任せるのが本筋だ。
その隙に、まだ無事だった羽黒と雪風が倒れた3人を引き連れ大和とビスマルクの後方まで下がる。
一方バーサーカーは機銃による迎撃をあきらめると、機銃をかなぐり捨て・・・
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
大きく跳躍し、加賀に所属する航空機を数機、そのまま『鷲掴み』し投げ返した。
「・・・おかしい・・・同士討ち・・・!?」
航空機たちが混乱している。絶対ありえない、一航戦所属の航空機の同士討ちなどという事態に、加賀は内心激しく動揺した。
だが上がってくる報告は確かに「味方同士で撃ち合っている」という。艦攻は通常雷撃がメインだが、一応後方機銃もついていう。それで、撃ち合っているというのだ。
「ありえない・・・赤城さん・・・!」
「加賀さん落ち着いて、空気に飲まれてはだめよ!」
状況はまったくもって絶望的である。これならまだMI作戦のほうが「慢心さえなければ」と言えるものがある。こちらの攻撃が、片っ端から塗りつぶされていくなど悪夢でしかない。表情に出ない割に感情の揺れが大きい加賀。何とか彼女を落ち着かせたい赤城だが、赤城本人がすでに狼狽しきっているといって過言ではない。
それでも、航空隊の報告を受けながら指揮を執るが・・・
「・・・加賀さん、赤城さん、戻ってきた子か・・・!」
鳳翔の言葉にはっと上を見る赤城。『帰還せよ』と命じたことも『帰還するという報告』も受けていない。同士討ち・・・つまり!
「危ない!鳳翔さん!!!!!!」
水柱が上がり、魚雷が赤城の装甲を貫いた。
とっさに戻ってきた攻撃機と鳳翔の間に割って入った赤城。果たしてその艦攻を雷撃を「鳳翔」に向けて放ち、赤城が庇わなければ完全に油断したところに直撃、轟沈さえあり得た攻撃だった。赤城が大破で済んだのは「何とかマシな場所に当てよう」としたからである。
「赤城さん!?」
悲鳴にも似た声を上げる加賀だが、赤城は気丈に立ち上がり、加賀に言って聞かせる。。
「私は動けます・・・!それより加賀さん、戦闘機を出して・・・あの子たちはもう、バーサーカーの支配下・・よ・・・」
この攻撃で確定した。同士討ちをしている艦攻は、機銃や主砲と同じくバーサーカーに「乗っ取られ」、今やアレの意識にコントロールされた移動砲台と化している。
「クッ・・・聞こえたわねみんな・・・すでにあの子たちは亡き者と同義・・・撃ち落としなさい!!]
加賀の弓が空に向かって矢を放ち、対航空機に特化した戦闘機部隊が顕現する。任務は、直上の護衛。
「こんな無法・・・こんな無茶苦茶・・・これが、サーヴァント・・・!」
彼女らは初めて対峙する神秘を前に、加賀と赤城はつぶやくことしかできなかった。
「くっ・・・ふざけるな、裏切り者がぁ!!!」
結局空母部隊の攻撃すらしのぎ切り、バーサーカーは再び機銃を構えて次なる獲物を探し始める。
ここで一番前に出たのはビスマルク、彼女にとってもフランス騎士のランスロットは怨敵と言え、加えてこの暴れようである。敵わないとわかっていても、せめて一矢報いねば気が済まない。
「当代に迷い出てまで陛下の前に立ちふさがり、あげく亡霊どもの走狗にされる!!湖の騎士がきいてあきれる!!」
38cm砲・副砲の全火力を持っての攻撃だが、バーサーカーは全く意に反さず水面を滑り、機銃の照準をビスマルクに向けた。
「対空用の豆鉄砲が、このビスマルクに通じると思うな!!」
ビスマルクも一歩も引かず、ただ狙いをつける事のみに専念する。確かに彼女の装甲なら、「普通の機銃」ならある程度無視できるだろうが・・・
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
獣のような雄叫びと共に機関銃が火を噴き砲弾がバラまれかれる。もとは「剣士」でありながらも、大よそ『武器』である限りこの騎士は遜色なくあつかうことができる。
機関銃において言えば、反動などを考慮したうえでのエイミング。過たずにビスマルクを捉える。
「ぐ・・・ああああああああああああ!!!!」
直撃を受けたビスマルクの艤装が次々爆発し、炎上していった。主砲にも被害を被り、攻撃続行が不可能にされ、膝をついた。
それでもビスマルクは闘志を失わずに叫んだ。
「この、程度・・・く・・・ならばせめて体当たりでも・・・!」
それを制したのは、大和だった。肩に手を置き、首を振る大和。
「大和、何故止めるの!せめて、せめて・・・!」
喰いかかるビスマルクだが、それでも大和はまっすぐに言う。
「ビスマルク、私たちの任務をはき違えないで。響のために一分一秒でもこの場にとどまり奴を足止めるする。・・・出来ればもう一人くらい逃がして、実際戦闘した艦娘の情報を持ち帰らせる。」
一瞬うめいたビスマルクだが、ふと後ろを振り返ると・・・
赤城、神通・摩耶・木曾が大破。加賀と鳳翔、雪風羽黒は大破艦のカバー、自分が中破、敵はなお無傷のバーサーカー。ここから全滅しない算段を探す方が難しい。
「・・・私と大和が少しでも持ちこたえる・・・逃げられるものは、離脱しなさい・・・!」
それでも、ビスマルクは何とか一人でも逃がすべく、再び立ち上がった。主砲は使えないが、まだ生きている副砲はある。少しでも回避行動をとらせ、足を引っ張れれば・・・
「雪風・・・加賀さん・・・今見たことを、ありのまま提督達に・・・」
大和もまた、ビスマルクと共に前進する。坊ノ岬沖海戦とどっこいの絶望的戦況だが、引くわけには・・・
だが、ここで彼女らの予想は大きく裏切られた。
「Ar……」
バーサーカーが突如、赤い光に包まれて消滅したのだ。一瞬何が起きたか理解できず呆ける艦娘達だったが
『敵増援が来る前に撤退するんだ!』
「ふ、フラット提督!?何を・・・」
響いたのは、フラットの声。ここまでの戦闘は彼が口を出しても何も好転しない故に見守るしかできなかったが、艦娘達には理解不能でも実は好機となれば話は変わる。
『バーサーカーは撤退したんだよ!だけどまだ敵艦隊は奥に残ってる。大破してる艦も多い以上、今しか撤退チャンスはない!早く!』
「それってつまり・・・」
「生き残れた・・・という事ですか・・・?」
雪風と羽黒が顔を見合わせ、最初は信じられないという表情から、やがて涙を浮かべお互いを抱きしめあ。
「そ、そうですよ!なんかよく分からないけど逃げ切れるんです!」
『喜ぶのはまだ早いわ。ここは敵勢力圏内よ。雪風、羽黒、先導をお願い。航空偵察は私が。鳳翔さん、赤城さんをお願いします』
クールな加賀の通信に一同はいったん落ち着くも、それでも生き残れたという事実は、彼女らの心を明るくさせた。
理由は分からない、だが情けを駆けてくるような相手ではない。そんな敵を相手に、生存を勝ち得たのだ。
「摩耶はビスマルクがカバーを。木曾と神通は私が。・・・はぁ、帰ったらどうやって響にあやまりましょう。」
彼女が一番してほしくなかったこと、再び戦艦大和に「自分だけ生き残れ」との命令を受けた事、軍人として必要とは理解してくれるだろうが、人間として許してくれるかは別問題だ。
「良いじゃない。謝れるんだから。」
「あら?あなたにしては随分殊勝なもの言いですねビスマルク。」
「そりゃそうよ・・・あんな化け物目の前にして生き残ればそんな気分にもなるわ。・・・一通り落ち込んで・・・そしたら、今度こそあの裏切り者の鼻っ面をぶんなぐる方法を考えないと!」
FGOのバーサーカーは自分も時々使いますが、あのガション>ババババというノリが好きです。せっかく機関銃があるなら使わない手はないと思った。
ランスロットも湖の精の加護を受けている(少なくともアロンダイトはその剣)のだし水上歩行可能という事にしました。
乗っ取られた加賀さんの流星はきっと小林みたくなってます。