電車の次にバスに乗り継ぎ、ようやく旅館に到着した時は既に日も暮れ出していた。
「ふむ、風情があっていい旅館だな」
「デジャブのような気がするが、言わせてもらう。それは皮肉か?」
「屋根がある、寝床がある、風呂がある。充分だろ?」
「……………」
やはり皮肉かと言う烏間のツッコミは入らなかった。
『さびれや旅館』
それがE組の宿泊する旅館だ。
「まずこの旅館は名前を変える必要があると思うんだが」
「どの道あの教師がいる時点で普通の旅館など無理に決まっている。むしろあの怪物を置いてくれてかつ、暗殺にも協力的なのには感謝すべきだ」
「それもそうだな」
「雄二くーんはやくー」
と、桃花が手を振る。
「行ってこい。暗殺を除けば、今回ほど普通の学園生活はないぞ」
「…ありがとう、烏間先生」
ふっと笑みを浮かべて雄二がE組の皆がいる方に向かう。
side烏間惟臣
「俺に何もできなくても、せめてこの時くらいは普通な青春をおくってくれ」
それは願い。去年の1月頃、とある事で俺は彼に助けられた。
俺はよかった。だが俺の周りにいるものに迷惑をかけてしまう。そこに何も言わず、たまたま『バイト』に入っていた彼はその状況を覆した。その礼を軽くでも良い返したかった
「普通の学校で、普通の学園生活がしたい」
ボソッと言っていた言葉の意味が今では少しわかる。同時にそれが不可能だとも。だから、それ以外に何か。そう考えていた時にこの地球存亡を賭けた任務が来た。
これは完全な偶然だろう。だが、本当に良いのか?そうした考えもあった。だがそんな考える時間はほんのわずかしかない。意見として出したものは会議に出され、ある条件のもと許可された。されてしまったと言うべきかもしれない。
余計な事をしてしまったと思う。だからこそ、後悔させない。俺も、彼自身も
sideフリーサイド
風情があるも旅館の名前通りさびれている。寝室は男女で大部屋2部屋。ちなみに他のクラスはホテルで個室だそうだ。
「まぁ、こんなのはいつも通りだな」
「風見、冷静過ぎだろー」
「もうこうなるといつも通りと思っていた方が気が楽だぞ」
「まぁ、これはこれで楽しいからいいじゃないかな。……それにしても」
スーと渚が視線を移すとそこにはソファでグッタリとしている殺せんせーがいた。
「新幹線とバスでグロッキーか」
「今なら殺せ………ないか」
「だな」と雄二は言う。実際さっきから何人かの生徒がナイフを振るもスイッとかわされる。
「まぁ、弱点の1つとしては使えそうだね」
「それはそうだが渚、何が役に立つかはわからないとはいえ、枕が変わると眠れないはいるか?と言うか、殺せんせーはその大荷物で忘れるのもどうかと思う。あと、曲線定規とかいるのか?」
「修学旅行には必須です」
「ふむ、それは知らなかった。後で烏間先生に頼んで外で買って来てもらう」
「「「「「いや、いらないだろ」」」」」
クラスからのツッコミを聞いていると雄二の隣で
「神崎も忘れ物か?」
クラスで話したりしている程度の仲ではあるが彼女が真面目な性格なのは理解していた雄二は意外だなと思っていた。
「ううん。来る時に何度か見て確認してたから、忘れたわけじゃないんだけど」
「何がないんだ?」
「修学旅行の日程表。コンビニとかでも売ってる小さな手帳みたいのなんだけど」
「最後に確認して、どこに置いた?」
「電車の中で1回見てから、ポケットの中にだけど」
当然確認しているだろうと判断した雄二は電車、あるいはバス内で落とした可能性が高いなと踏んでいた。
「神崎さんは真面目ですからねぇ、独自に日程をまとめていたとは感心です」
と、弱々しく殺せんせーは言いながら大荷物から電話帳のようなものを出す。
「でもご安心を。先生手作りの修学旅行のしおりを持てばすべて安心」
「「「「それ持って歩きたくないからまとめてんだよ‼︎」」」」
それは修学旅行の前に殺せんせーが自作したという無駄に気合の入りすぎたしおりである。
「暇な時に全部読んだが、(((((すげぇ))))殺せんせー、この『旅館で有名な探偵に会って事件に巻き込まれないようにする対処法』はいるか?そのなんだ、いろんな意味で」
「修学旅行には必須です」
「なるほど、そうなのk
「「「「「ねーよ‼︎」」」」」
クラスの心からの総ツッコミを聞きつつ、諦めながらもカバンをもう一度だけ確認している神崎を見てほんの少し考えて
「なら、もう一度作るか?俺も手伝うぞ」
「え?あ、ありがとう風見くん」
「渚達も頼めるか?」
その問いに渚達はもちろんと言って了承した。
「でもいいの?」
「班は違うが、俺達はクラスメイトだ。クラスメイトを助けるのは、普通だろ?」
そうして7人で考えながら日程表を作り直す。当然最初と全く同じとはならない。その場のアドリブで書いたものもある。だが行動場所を決めていたこともありスムーズにできあがった。
「こんなもんだな」
「てか、本当によかったの?雄二」
「何か不備があるのか?お前は俺より頭がまわる。何より結局これはお前達の班のことだ意見はしっかり言ってもらえるなら嬉しい」
「いや、雄二もだいぶ頭がいいじゃん?まぁ、それはいいとしてさ。元の計画よりもこれ間違いなく可能性が上がるじゃん。今は殺せんせーいないから言うけど、よく2人目のスナイパーがいるとか聞けたね」
「曰く、相当無理を言ったそうだ。俺が言うのもなんだがよく受けたと思う」
雄二はそう言うとカルマを含め全員どこか納得する。当然といえば当然だ。世界中が躍起になっても殺せず、スペック的にも無理がある相手にわざわざ受けるスナイパーなど暗殺者でも
「まぁ、それもあるけど。他の班の可能性あげる必要とかある?寺坂あたりが文句言ってきたりとか」
「お前達の班に殺せんせーが行くのは俺達の次だ。こっちが失敗した時に今の作戦は動く。つまり、どうなろうと俺達の班には問題にならない。…とにかく、俺ができるのはこのくらいだけ後は本番次第だ」
「こんなにお膳立てしてこのくらいはねーだろ。前から思ってたけどお前自分を過小評価しすぎだろ」
「そうか?俺はお前達のしてきたこと、考えてたことに多少の色をつけただけだ。この前のスイングショットも杉野の考えてた音を出さず攻撃する作戦のもの。今回の作戦もお前達の元の作戦に付け加えをした程度だ」
「それができてるのが1番すごいと思う。この前も私の作った毒をバレずにせんせーに渡せたし」
「え、そんなことあったんだ」
奥田の言ったことに渚は知らなかったのか驚いていた。
「結局失敗したけどな。と言うより、効果がなかった。どういう構造なんだあの体は王水が効かないとは」
と、今度はブツブツと呟きだした。
「さすがにちょっとは変化があるだろうなーって思ってたらしく真顔になったから…一応前に試したことも言ったんだけどバレずに渡す事が目的だからって…その後結果を見てから」
「あんな感じになったんだ」
「わかってた、わかってたが…どういう構造を、そもそもどうやって王水を分解してんだ…」
「こ、こんな雄二は始めて見た」
「思い出すたびに2、3分はこんな感じになっちゃうんだ」
「そ、相当だな」
雄二は当然効かない事はやる前から判断していた。それでも真顔はないと思っていたぶんショックもデカかった。
「ゆ、雄二、気をしっかり」
「!す、すまん。兎に角、後はお互い明日は頑張ろう」
「う、うん。風見くん。ありがとう」
「あぁ。今度は無くすなよ」
神崎の柔らかな笑みに同じく笑みで返した。………4班全員はやはり雄二は天然タラシだと思った。
*
翌日。各班最初に決めた自由行動場所に向かう
「先生が来るまで時間がある。観光でもするか。とりあえず音羽の滝か」
「のんきだな。狙撃ポイントの確認しなくてもいいのかよ?」
寺坂の問いに雄二は小さな双眼鏡を渡しあそこを見ろと指差す。
「…五重の塔。あそこから狙うのか」
「普通ならあそこから狙う。だが、それで仕留められるならとっくに殺せんせーは誰かがやってる。このままじゃ失敗するが、もうひとりがねらうポイントで決まる。定石の五重の塔以外で狙うのなら産寧坂の入り口の付近にある建物2階からターゲットが出口についた時だろうな」
「そんな場所からで気付かれるんじゃ?」
「2人いるならどちらかでいい。つまり意識がそちらに向くようにするのが最大の目的だろう。だが囮にとはいえ、その囮も狙撃してくるだろうがな。どの道俺たちは撃ちやすいところへ誘導するだけだ。原、予定通り注意をそらしてくれ」
話し合いの結果、殺せんせーの気を他に向けるのは
「でも、そんな事できるのかな」
「そう。それでいい。こんな奴にやれるわけないと思われることこそが大切なんだ。警戒されないとは油断しているということだからな」
肩をポンポンとたたき肩の力を抜くようにと言うと観光をはじめた。
「なんか、あのやろう楽しそうだな」
「そりゃ、修学旅行なんてそんなもんだけど」
いつもとあまり変わりはしていない。だが、それでもある程度見ていた彼らでもわかる。ほんのちょっと雄二がたのしそうだと。
そうこうしているうちに時間は過ぎる。
PM2:20
殺せんせーとの待ち合わせ場所に着くもなかなか来ない。まさか他の班がなどとは誰も思わない。単なる遅刻であろう事はすぐわかる。
「すみません。遅れてしまいました」
「遅いよ殺せんせー」
「舞子さんを卑猥な目で見つめてたのか?」
「にゅあ!?そんな事してません!まだ!」
「「「「「「まだ!?」」」」」」
「あ、いえ。なんでもありません」
口が軽いなと雄二は思い。弱点に加えるかどうかはわからないがとりあえず
「清水寺、もうとっくにまわったけど」
「ほう、では二寧坂でお土産探しといきますか」
「珍しいな。てっきり八つ橋とか甘いものを買うかと思ったんだが、そんなのも買うんだな」
殺せんせーが買ったのはひょうたんに入った七味であった。もちろん甘くなどない。
「えぇ。ちょっとね」
と言って懐にしまう。
「殺せんせー。今買ったあぶらとり紙使ってみなよ」
(いいぞ原。自然だ)
「ベトベト取れたら恥ずかしいですねぇ」
何がだと雄二が聞く前に原はあぶらとり紙を適当に貼っていく。この瞬間、確かに殺せんせーは気をそらせていた。五重の塔の5階がキラッと光ったと思った瞬間、こめかみに弾丸が当たる
「にゅ?」
ただしあぶらとり紙に包まれるかたちで
「言わんこっちゃない!こんなに粘液がとれ…」
さらに二寧坂の入り口付近にてまた何か光ったと思ったら逆のこめかみに
「見なさい!これ、この弾力性!どこからともなく飛んできた弾丸も跳ね返すレベル!」
当たる前にまるで偶然にもこめかみ部分に粘液のついたあぶらとり紙がくるように触手を動かし、ゴムに引っ張られ最後は弾き飛ばされるかのように弾丸が跳ね返っていった。
(全く人的被害のでない方に飛ばしてる。偶然とは思えない。狙うのなら狙えたとなると………先生のことだ、あいつが死ぬような事はしないだろうがやはりあいつには悪いことしたな)
心の中で詫びを入れ、きちんと手紙か電話でも詫びをいれようときめる
(あぶらとり紙で取れたら粘液は少しすると強力なゴムにもなるか…つくづくデタラメだ)
対処方法が見つかったと思えばそこからまた新たな問題が出てくる。そのことに頭を抱えたくなる。さてこれからどうするかそう考えた時であった。
「おや、渚君の班から電話です」
電話のあいてはどうやら渚らしいが様子が変であった。電話を切ると緊急事態だと言ってどこかに飛んで行った
「ハッ、結局は失敗かよ。どうする…っておい!聞いてんのか!」
寺坂の言葉は雄二には入ってこなかった。プライベート用のiPhoneにメールが入る。みると烏間からであった。
【トラブル発生。4班の2名拉致】
「せっかく京都に来たんだもう少し観光しよう。俺はあっちに行く」
と半分強引に班から離れる
(殺せんせーが動いているとはいえ、万が一がある。あいつら自身も動くだろうが人数が多くて困ることはない)
すぐさま雄二は渚に連絡を入れた
感想、意見はいつでもお待ちしてます
次こそは
早く出したい真面目な話、もっと時間が欲しい