早く死神編いきたい実はそれだけは最初にどうするか決めてたから尚更に
(ふむ、思った以上に強いな。挑発されていたとはいえあのケヴィンをああも投げ飛ばすとは)
浅野は自軍の棒に背をつけジッと戦況を見る。
(それにチーム全体の指揮も良い。巧みな防御で攻撃の5人を封殺し、棒の土台に組み込んだ。おそらくケヴィンが倒されるのは想定していたができれば良い程度のものだったということか)
彼は他のA組同様、E組を下として見ているが、認める部分は認めることができる。そして冷静に物事を見る事もできる
(風見雄二、やはり厄介……でもないな)
だからこそそう判断した。
「両翼遊撃隊、
2人が場外に飛ばされ気絶、7人が防御にかかりきりなのを見て攻めの手を更にかける。温存していた部隊を使い数による突破を計る
「よし、こっちも出るぞ‼︎攻撃部隊‼︎作戦は“粘液”‼︎」
雄二、前原、カルマ、岡島、木村、杉野、そして司令塔の磯貝を含めた7人で両サイドからの攻撃でできた中央を突破する。だが、A組の目的は棒を
「おい、A組の攻撃部隊が転進して…こっちにくんぞ⁉︎」
「攻撃はフェイクかよ‼︎」
「いや、前からもくる」
残りの外人部隊の内2人を合わせた防御部隊も攻撃に移り、包囲網を形成したのだ
「おい風見‼︎さっきみたくできないか⁉︎」
「ムリ」
「まぁ、そうだよね」
風見雄二の戦闘能力は並外れたものだ。が、それは戦闘に特化した動きの時。この棒倒しではあきらかな暴力はできない。動きは制限される。おまけに相手は格闘家が2人。先程の光景を見たあとだ、警戒しつつ本気でくるだろう。A組はある程度暴力好意をしてもスルーされるかもしれないがE組はそうはいかない。どこでいちゃもんをつけられて退場になるかわからない。集団戦の混乱の中でなら尚のことだ
「じゃあ、予定通りに」
が、そもそもE組は事前にイトナのマシンで相手の目的は把握している。だからこの作戦も事前に考えることができた。A組攻撃部隊はE組攻撃部隊を追いかけてくるのも当然だ。彼らの目的は棒を倒す事ではなくE組を潰す事なのだから。E組は当然逃げるそして追われるから逃げるが、ここは壁に囲まれた闘技時ではないし、ルールに場外はない
「ちょ、おい、あいつら、こっちこね?」
「迫力ある場面見れていいじゃん」
「いやでも、どんどん…どんどん…」
椚ヶ丘中の体育祭は観客席が近い。先程吉田達がふっ飛ばされて観客席に突っ込むなどが起こるほど全ての競技を1番迫力がある距離で観戦できる粋な計らいだ。…それを利用する
「き、来たぞオイィぃぃ⁉︎」
「逃げろ⁉︎」
突然観客席に追い追われる選手達全員が入り込んできた。観客はパニックになり観戦どころではない
「来なよ、この学校全てが戦場だよ」
「それとも異国の方々にはこんなのやってらんねーってか?」
カルマが来いよと人差し指で雄二が中指を立てて挑発する。2人の外国人格闘家は日本語で喋ったカルマと雄二の言葉を理解したわけではない。だが指に動きと表情でだいたい理解して「上等だ」と向かってくる
「いくぞ‼︎粘液地獄だ‼︎」
これがE組の新たな陣形。名を、『粘液地獄』‼︎
「陣形もクソもねーけどなっと」
「ちょっと雄二〜独り言喋ってたら、やられるよ〜っと」
呑気そうに会話しながらも迫り来るA組生徒と外人部隊を時にイスを使い、時に観客の生徒を土台にしたり盾がわりにしたり常に一定の位置にとどまることなく、されど棒から離れ過ぎないようにぴょんぴょんと逃げ続ける。捕まったら終わりのゲームは今までの訓練でなんどもあった。使える障害物が多いならそれほど広くなくても充実に回避ができる。
(とはいえ、凌いでるだけじゃ勝負にならないし勝てない。それに相手の指揮官浅野ならこの状況を見ても……やっぱ焦りもしないか)
A組の棒のほうを見ても全く動転する事なくむしろ冷静にその様子を観察していた。この時点でA組の戦略が意味をなさなくなったのにだ。この様な作戦をE組がしてくると考えたわけではないがこの棒倒しが異形のものになる事は想定済みだったのだろう。
「橋爪‼︎田中‼︎横川‼︎3人は深追いせず守備に戻れ‼︎混戦の中から飛び出す奴を警戒しろ‼︎特に磯貝、木村、赤羽だ‼︎ジョゼ‼︎カミーユ‼︎君達は風見をマーク‼︎決してこっちに近付けるな‼︎」
(やれやれ、俺だけ特別ってか)
ポキポキと腕を鳴らして近付いてくるが当然雄二は逃げるし避ける。
(真っ向から勝負に持ち込めればいいが、それはできない。やっぱ逃げるしかない……
「雄二、そろそろだからあとちょっとがんばりなって」
「ちょっとって言ってもなー…どっちにしても俺は攻められないし」
「風見、すまない。時間稼ぎ頼む」
磯貝もお願いをしながらチラリと逆サイドの観客席を見る。もう一度言うがこの学園の体育祭で観客席の近さが目立つそれを利用して作戦が2つあり、今雄二達がしている観客席へ逃げこむこと。これによって全ての視線は一時的に一方向へ向けられるそこに逆サイドからの伏兵
「⁉︎」
ここでようやく浅野の表情が驚きに変わった。まさか、序盤でケヴィンに吹っ飛ばされた吉田と村松がもう動けるとは思わなかったのだ。2人は棒に飛び付きその影響で棒が揺れる
「客席にまで飛ぶ演技はしっかり騙されててくれよかったぜ」
「こっちは受け身は嫌ってほど習ってんだよ。しかも今回はどっかの誰かが考案したバカみたいな訓練でな」
*
それは体育祭3日前。吉田と村松が伏兵になる為最初にやられる役をすると決めた後だった。
「…おい、なんだよこれ」
「見ての通り鉄柱に紐で吊るした大木だ」
「まさかと思うけどこれで練習しろってか?」
「大丈夫安心しろ烏間先生から許可はもらった」
「「そういう問題じゃねー⁉︎」」
ツッコミをせずにはいられない。なにせ人間1人分の大きさの大木を当ててくるのだから
「棒倒しでタックルありなら、まず間違いなくアメフト選手のケヴィンが最初の攻撃をしてくる。本物はこんなものじゃないぞ〜骨が折れたくないなら受け身の練習はしっかりな」
*
「まぁどう考えてもあっちの方が痛かったけどな、木に布付けて俺ら防具つけてたけど」
「その鬱憤晴らさせてもらうぜぇ」
ニマニマと笑い棒を起こされないようへばりつく。
「磯貝、こっちは任せた。行け‼︎」
「了解‼︎皆、逃げるのは終わりだ‼︎“音速”でいくぞ‼︎」
雄二の言葉を聞き、即座に行動を開始する。今A組の棒は攻撃部隊を追った部隊が離れ守りが手薄になり2人の奇襲で指揮系統が乱れた。そこに今まで逃げていた雄二を除く全員が懐に入る。これがE組の攻撃陣形『音速飛行』‼︎
「クソっ戻…」
「すとでも思うか?それとも、俺もあっちに行っていいのかなぁ〜」
いつのまにか2人の外人の前に立つ雄二は挑発をする。彼らに今与えられた命令は雄二を近付けさせない事。今雄二を向かわせればそれこそ危うい。とはいえ自軍の棒が倒されるかもしれない状況でこいつにかまけていいのかという疑問が頭をよぎる。だが
「2人ともそのまま風見を見てろ。心配はいらないサンヒョクが支えている。…残りは僕ひとりで片付ける」
浅野はその指示を出すとすぐさま吉田を投げ飛ばし、岡島は蹴り飛ばした
(武道の心得もあるのか。…しかもあいつらは皆訓練で受け身も攻撃対する回避防衛も習っているのに)
E組は決して浅野を舐めてはいない。だが想像以上に浅野は単体で隙なく強いのだ
「
「フランス語はあんまりなんだけどな」
迫り来る2人を避けつつ掴まれそうになるとどうにか手で払う。2対1、しかも攻撃を制限されているならなおさら不利だ。このままでは客席に散ったA組が戻って殲滅になる。守りが浅野1人だが上をとり蹴りで攻めを止めている。
*
「磯貝、本当に助けにいかなくていいんだな?」
「心配してくれてるのか?」
「…いや違う。俺に陽動をさせるんだから、助けて呼んでも来ない事を言っておこうと思っただけだ」
聞く人が聞けば冷たい言葉だろうが、それは違うと磯貝はわかる。雄二が信じるように、磯貝も信じるのだ仲間の存在を
*
磯貝は浅野の激しい攻撃で棒から離れる。だがそれはわざとだ最後の作戦、総攻撃の為に
「な、にぃ⁉︎」
浅野の動きが新たに攻めてきた渚、菅谷、三村、千葉の4人によって封殺されてしまう。さすがにこのタイミングで増援など思わなかった。なぜなら彼らは
「ってちょっと待てあいつら守備部隊だろ⁉︎」
「E組の守備は…ふ、2人だけ⁉︎」
守備は寺坂と孝太郎の2人のみ守備を捨てた特攻とも言える。抑えられている4人と意識が飛んでいたケヴィンもそろそろ動ける。それをしないのは目的が違うから。棒を倒すのでなくE組を潰す目的でここにいてそれに沿って浅野の指示で動く。ここにきてゴールの違いと連携の違いが仇となる。
「おいおい、行かなくていいのか?……まぁ、行かせないけどな」
2人とも指示通り雄二の妨害をしていたが今度は雄二が妨害する立場になる。前に立ち2人の道を塞ぐ
「まぁ、いま戻ってももう遅いがな」
その言葉はわからないだが雄二が親指を向けた先には助走をつけている男子、イトナがいた。外人部隊はわかりやすい脅威だったが、1番の脅威はそれが脅威と思われない事。イトナは触手外したとはいえ、その身体強化は未だに残っていた。勢いのまま磯貝が組んでいた両手に片足を乗せてそれを軸にし、磯貝も力のかぎり持ち上げるようにイトナを飛ばした。立てられた棒のてっぺんに届くその跳躍に観客とA組は釘付けになる。勢いのまま棒を掴み、一気に傾いていき、地についた
静寂はほんの少しですぐに歓声があがる
「やったな、磯貝」
グーサインをしている磯貝に同じくグーサインをし仲間達の元へゆっくり歩く。どう見ても不利な戦いを塗り替えた。その歓声はまるで英雄を称えるかのようだ。一体誰がこの状況を予見できるだろうか?誰もできない……いやただひとり
[3年A組浅野くん、理事長先生がお呼びです。留学生の皆さんと理事長室に来てください]
理事長だけは予見していたのかもしれない。
*
体育祭も終わり、片付けに勤しんでいると下級生が磯貝に声をかけていた。これはいつも通りだが全体的に、特に下級生達のE組を見る目が変わっていた。
「手のひら返しってのはこういう事なのかもな」
「こんだけ劣勢を引っ繰り返したんだし、当然だろ……嬉しくねーのか?」
「いや、嬉しいさ。自分の事以上にな」
E組の評価が上がったのは雄二のおかげでもあるがどうもしっくりこない彼の答えに首を傾げていると浅野がやって来た。理事長と話して何があったかわからないが担架が4つ運ばれいるのを雄二は見逃さなかったが、あえて何も言わない事にした
「おい浅野‼︎二言は無いだろうな?磯貝のバイトの事は黙ってるって」
「………僕は嘘をつかない。君達と違って姑息な手段は使わないからだ」
ただ前原の問いにイラついた表情をするも冷静な口調で答えるのを見るとリベンジには燃えているようだ。ただ、言ってることは「おまえが言うな」的な発言でありE組の皆は口に出さないがそう思っていた
「…浅野、さすがだったよおまえの采配。最後までどっちが勝つかわからなかったまたこういう勝負しような」
爽やかな笑顔で磯貝は言うが、差し出された手をスルーして進む
「消えてくれないかな
(次…か。なんらかんら言って好敵手って認めてるあたり、できるやつだ)
「ケッ負け惜しみが」
「いーのいーの負け犬の遠吠えなんて聞こえないもーん」
「緊張感は持っておけよ次はテストだ。そこが真の本番だ」
「雄二君はクールだねぇ。まぁ、そこが良いんだけど」
雄二とて嬉しいが浮かれ過ぎないように寺坂達と自身に言う
「にしても、なんか理事長室から戻ってから随分表情に雲があったな」
「彼も苦労人なのさ。境遇の中でもがいている。磯貝と同じでね」
A組に一時身を置いていた孝太郎はその辺の事を理解していた
「いや、俺なんてあいつに比べたら苦労人でも何でもないよ。皆の力に助けてもらった今日なんかさ、貧乏でよかったって思っちゃったよ」
「…知ってるか磯貝、金持ちが絶対に手に入れられないもの」
「?なんだ、大切な友達か?」
「いや違う。答えは貧乏だ」
「ってなんだそりゃ?またいつものジョーク?」
「そういうわけじゃない。ただ、そこでこそ手に入り、わかるものがある。それを知れていて、脱する為の環境を持ってるおまえは間違いなくこの先大成するさ」
貧乏が良いわけではない。でも最初から持っている者が背負う物と持っていない者が背負う物は違う。浅野と磯貝はそれぞれ違うがどちらも乗り越えていく力はある。ただ、磯貝は共に進む仲間がちゃんと居る。それだけだが大きな違いだ
「なんか照れくさいな」
「リーダーなんだ。甘んじて受け入れろよ」
磯貝は頬をかきつつ皆の笑顔を見ていた。とそこにカラカラとカートを押す音がしてみると台の上にケースがあり中にはパンが敷き詰めてあった
「うわっ‼︎パン食い競争の余りがある‼︎これ持って帰って良いかな?ねっねっ?」
「磯貝、貧乏に慣れるなよ…」
締まらないが皆は苦笑し、雰囲気は悪くない。次に向けて幸先のいい勝利だった
次回、わかばパーク編……の前にちょっとやっときたいことあるのでオリジナルでいきます
前書きのあれはなんだったのって言わないで
感想意見は遅れても基本返信しますのでよろしくお願いします