IKUSABA育ちのIKUSABA人   作:鎌鼬

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第10話

 

 

アルトリアがヘラクレスと戦っている頃、レインヴェルとエミヤの死闘は佳境を迎えていた。エミヤの見た武器を解析し、保有する固有結界【無限の剣製(UNLIMITED BLADE WORKS)】の中はエミヤの体内だと言っても過言では無い。エミヤの内包した世界だからエミヤの意思が優先される。剣を作る才能しか無かったが為に辿り着いたエミヤだけの世界。究極の一を持つサーヴァントなら問題無いだろうが人間に過ぎないレインヴェルはこの剣製をこれられるはずが無いーーーはずが無い、のに未だにレインヴェルは五体満足で生きていた。

 

 

エミヤが振るう夫婦剣干将・莫耶を()()()()()()()()。ランクは低いとは言えど宝具相当の剣を容易く切り裂くナイフがレインヴェルの魔術礼装。

 

 

ナイフは間違いなく武器のカテゴリーである。ならばエミヤの解析からは逃れられぬ筈だが、どういう訳か幾ら凝視してもあのナイフの構造も、材料も解析することが出来ない。ならば壊せばいいとエミヤは干将・莫耶を投擲し、近くに刺さっていた剣ーーーデュランダルの複製を引き抜き、レインヴェルに斬りかかる。

 

 

左右から弧を描きながら飛翔する干将・莫耶をマグナムの弾を同箇所に二発ずつ、計四発を当てることで()()()()()()。始めの頃は干将・莫耶の片方で受け止めることができたというのにだ。そして斬りかかったエミヤのデュランダルはーーーナイフとぶつかり、抵抗を感じること無く()()()()()()

 

 

「どういうことだ……っ!!」

 

 

悪態を突きながら近づき過ぎた距離を開けるために上から剣を降らせて盾にする。無論その剣もナイフに切り裂かれたが目的である距離を取ることは出来た。

 

 

手数という面では固有結界を展開したエミヤが勝っている物のレインヴェルの武装が不明すぎる。複製の剣を容易く切り裂くナイフに威力を増しているマグナム、後者の方はまだしも前者が厄介だった。

 

 

「ねぇねぇどんな気持ち!?固有結界展開してドヤってたけど悉く切り裂かれるってどんな気持ち!?ねぇねぇ!!」

「息をする様に煽ってるんじゃない!!」

 

 

エミヤが地面に刺さっていた剣を浮かせて射出、それをレインヴェルはマグナムで迎撃する。感情を逆立てる様に煽っているレインヴェルだったご内面では追い詰められていた。

 

 

その原因はエミヤと対峙すると同時に起動させた魔術刻印による物。レインヴェルが先代から引き継いだ魔術刻印の効果は【学習】、文字通りに習って学ぶ。完全な人間の完成を目指している為に人の行える事をすべて出来るようにと編み出された魔術刻印。これを引き継いだ者は起動させている間は有らゆる事を学ぶことが出来、起動させていなくても学んだ出来事を継承者の経験として引き出すことが出来る。レインヴェルが歳の割に戦い慣れし過ぎているのは幼い頃から戦場に連れて行かれていたこととこの魔術刻印が原因だった。

 

 

無論メリットだけでは無くデメリットも存在する。まず経験を引き出すことが出来ると言っても継承者の身体能力的に出来ないことは出来ない。例えば過去の継承者が100メートルを9秒台で走った経験をしたとしても、その時の継承者よりも身体能力が劣っていれば100メートルを9秒台で走ることは出来ない。そして何より、魔術刻印を起動させることで、使用者に大きな負担が掛かる。エミヤの一挙一動を見逃さぬ様にとレインヴェルの脳は限界ギリギリで働き、エミヤの一挙一動を学んだ魔術刻印がそれを記憶する為にレインヴェルの魔術回路を酷使させる。外でヘラクレスと戦っているアルトリアにも魔力を回さなければならないのでレインヴェルの魔力は異常なペースで消費されている。

 

 

それは黒野が消費する魔力量が一般自動車並ならばレインヴェルの場合は戦車並の消費量。それを解決する手段は簡単だ、アルトリアへの魔力の供給を減らすか魔術刻印を停止させれば良い。だがそうした瞬間に終わるのは目に見えて分かっている。アルトリアなら魔力を減らされても戦えるだろうが無事に勝てるかどうかは不明、レインヴェルに至っては魔術刻印の【学習】のおかげでエミヤの攻撃を捌けているので停めた瞬間に剣で斬られるか射抜かれる。

 

 

死を回避する為に死に急ぐという矛盾した現状が今のレインヴェルだった。

 

 

マグナムへのリロードを終え、エミヤに迫ろうと一歩目を踏み出した瞬間ーーーレインヴェルの魔力が急激に持って行かれた。

 

 

「なーーー」

 

 

尽きた訳では無いが急激に持って行かれた事でレインヴェルの身体から力が抜ける。こうなった原因は一つしか考えられない、アルトリアが宝具を使った。使う事は予想していたが加減無しで使った場合ここまで魔力が失われるとは予想外。何とか踏み止まる事が出来たものの今のレインヴェルは隙だらけーーーその隙を逃すエミヤでは無い。

 

 

「貰ったぞーーー!!!!」

 

 

近くに刺さっていた剣を引き抜いて隙だらけのレインヴェルへと斬りかかる。崩れないことに全力を注いでいたレインヴェルにその一撃を回避する余裕は無くーーー肩口から脇腹まで、バッサリと斬られた。

 

 

「あーーー」

 

 

斬られた傷口から感じる燃えるような痛み、そして再び魔力が持って行かれた。アルトリアの二度目の宝具の解放、これでレインヴェルの魔力は底尽きた。

 

 

身体から飛び散った鮮血が一つ一つ鮮明に見える。死に間際の走馬灯なのか、剣を振り切ったエミヤの動きがゆっくりに見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ーーーあぁ、そうか)」

 

 

その時にレインヴェルが感じたのは悔しさでも後悔でも無い。

 

 

「(ーーー()()()()()())」

 

 

《喜びだった》。

 

 

死にかけている自分よりも、宝具を二度も解放して魔力の供給が減った結果からアルトリアの勝利を確信して喜んでいた。

 

 

「(だったらーーー俺も勝たないとな)」

 

 

ならば勝たないといけない。それがアルトリアのマスターとなった義務でもありーーー男としての矜持でもあった。

 

 

「ーーー過剰回復(オーバーヒール)開始(スタート)

 

 

魔力が底尽きて休眠状態に移行していた魔術回路を強引に稼働させる。それは間違い無くやってはいけない事、無理矢理魔術回路を動かして魔力を発生させた事で斬られた痛みを塗り潰す程の激痛が発生する。

 

 

「グギィーーーッ!!」

 

 

その激痛を歯を食いしばって堪えて回復魔術を行使する。それは正式な手順で行われる魔術では無く咄嗟に使った滅茶苦茶な物、強引に肉を増やして傷口を縫合させる。その代償として血管や魔術師にとって何よりも代えがたい魔術回路の一部がデタラメに繋がってしまったーーーそれでも、生き長らえることは出来るし、動くことは出来る。それで十分だった。

 

 

勝利を確信していた表情から驚愕に顔を変えたエミヤの胸にナイフを突き立て、強引に持ち上げる。鍛えられた肉を切り裂く感触と共にエミヤの肩からナイフが出て行った。

 

 

普通の人間なら間違いなく致命傷だが相手はサーヴァント、この程度では死なない。サーヴァントを殺すならば霊核を壊すしか無い。その霊核があるのは心臓の部分と頭部。

 

 

切り裂かれた肩を押さえながらエミヤは後退した。無論ただ逃げるだけでは無く投影された剣群を射出しながら。この機会を逃せば勝機は無いと、レインヴェルは限界をとうに超えている身体を更に酷使する。

 

 

「武芸百般『武芸の極み』より抜粋ーーー『八艘跳』」

 

 

全身から力を抜いた状態で跳躍、そして()()()()()()()()()()()()()()()()。それは源平の世に生まれた義経公が編み出したとされている技術にして奥義。この技は言ってしまえば驚異的なバランス感覚、乱戦混戦の最中に敵将の元に向かう為に不安定な船を足場として迫る為には並外れたバランス感覚が不可欠だった。

 

 

故に、支えも無く向かってくる剣群を足場にするなど容易い。まるで地面と変わらぬ踏み心地を靴裏から感じながら驚愕で動きを止めているエミヤに迫る。

 

 

そしてエミヤの前に辿り着いた。すでに傷口から手を退かして莫耶刀を握っている。

 

 

それを確認して一歩踏み出しーーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。距離的に躱すという選択肢など無く、できる事は弾く事のみ。ナイフを弾かれた物の、エミヤの莫耶刀は砕けて無防備な状態であった。

 

 

それに対してレインヴェルもまた無手、絶好のチャンスでありながらエミヤを倒す為の武器を失っている。だが、武器など必要では無い。サーヴァントを殺す手段ならすでに講じてある。

 

 

「硬化ーーー強化ーーー」

 

 

人一人を殺すのに大袈裟な攻撃方法など必要無い。それは人型であればサーヴァントですら同じ事だ。

 

 

ただ速く、ただ深く、確実に、ただーーー心臓(れいかく)のみを貫く。

 

 

「加速ーーー相乗ーーー!!!!」

 

 

複数の魔術が施されたレインヴェルの貫手が放たれるーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー俺の、勝ち、だな」

「ーーーあぁ、私の、負けだ」

 

 

崩れるエミヤの世界、元の大洞窟に戻ってきた時にレインヴェルの貫手がエミヤの心臓(れいかく)を正確に貫いていた。ヘラクレスの様な例外を除いて霊核を壊されたサーヴァントは消滅する。それはエミヤとて変わらない。だが、だというのにエミヤの顔はとても穏やかな物だった。

 

 

「全く、何だあの武装は。一体どんな礼装を用意していたんだ?」

「手の内教えてたまるかよ……お前がカルデアに召喚されたら教えてやるよ」

「そうか……なら、別れの言葉を言うのは正しくは無いな」

 

 

自分の胸を貫いているレインヴェルの手を優しく労わるように抜く。エミヤの身体から光の粒が立ち上がっていて消滅が目前だと報せていた。

 

 

()()()、レインヴェル。今度は貴様と共に戦いたいものだ」

()()()、エミヤ。俺もお前と一緒に戦いたいよ」

 

 

別離では無く再会を誓っての言葉。エミヤは柔らかく、少年の様な笑みを浮かべて消滅して行った。

 

 

 

 






レインヴェルVSエミヤ、結果はレインヴェルの辛勝。アルトリアへの魔力供給が無ければもう少し楽には戦えていた。

レインヴェルの魔術刻印の効果は【学習】、起動させてるとどんな事でも記録して、そこから引き出して使う事ができる。今回のVSエミヤではレインヴェルはこれを使う事でエミヤの攻撃をすべて記録する事で、知らなかったエミヤの攻撃を知る事でサーヴァント相手にも立ち回る事ができた。

これはエミヤクラスのサーヴァントだから出来たことで、もしアルトリアクラスのサーヴァントが相手だった場合は記録したところでそれがどうしたと叩き斬られて終わる。


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