ーーー目が覚めた。頭が痛い、まるで耳元で大音量の音楽を鳴らされている様な程にガンガンと痛む。頭を押さえながら起き上がればそこは白く、清潔なベッドの上だった。こんなところで寝た覚えは……無い。最後に覚えているのはレイシフトをしようとコフィンに向かった所までだ。そこから先の記憶がまるで抜け落ちてしまったかの様に無くなっている。
そして自分の服が病人が着る様な緩い物になっている事に気付いた。どれだけ気が緩んでいるのかと軽く自分を叱咤してベッドから出て、外界と区切られているカーテンを開ける。
するとそこにはーーー
「ーーーお、起きたのか?」
ーーー備え付けられていたテーブルの上に大量の食料と瓶を用意して、凄まじい勢いで口の中に詰め込んでいる着流しの男性がいた。よく見れば食料は保存の利くレトルトだが瓶はアルコールーーーお酒だった。それも度数が高いものばかりを揃えてある。そしてその男性の顔には見覚えがあった。
「……イザヨイ、さん?」
「そうだよ。みんな大好きキッチーのレインヴェル・イザヨイだよ」
レインヴェル・イザヨイ、今回の計画で集められた魔術師の中で最も優秀でありながら一番の問題児であるキチガイ。ロマンやオルガマリーがまた彼のせいかと呆れていたのに対してレフだけが額に青筋を浮かべて激怒しているのはもはやカルデアの恒例行事だと言ってもいい。
「ちょい待ち、今片付けるから」
そう言ってレインヴェルは残っていたレトルトを全て口に詰め込んで酒で流し込んだ。普通なら急性アルコール中毒の心配でもするのだろうが彼なら大丈夫だろうと考えている辺り自分も毒されているらしい。
「色々と聞きたいことがあるだろうがそれは道すがら話そう。今は時間が惜しいからな。それに顔合わせも済ませないと」
それだけ言ってレインヴェルはタバコの様な物を口に咥えて部屋から出て行った。それに習い彼について行きーーーカルデアの現状について教えられた。
「ーーーはい、というわけで彼女が蘇生させたマスター候補生です。クラスで三番目位の顔だけど普通に考えれば美少女だからな〜虐めるなよ〜特にロマ」
「貴様ぁ!!」
カルデアにある会議室、そこに人間五人ーーーレインヴェル、黒野、オルガマリー、ロマン、そしてマスター候補生の少女ーーーと、サーヴァントらーーーマシュ、アルトリア、佐々木小次郎ーーーが集まっていた。
「えっとフランシスコザビ……いえ、十六夜美冬です。十六夜って名字ですけどそこにいるキチガイとは血縁関係は無いので」
「おう、いきなりのジャブかよ。これも全部ロマの責任だな、よし!!訴えよう!!」
「僕のせいじゃ無いから!!それとまるでちょっとそこまで見たいな感じで訴訟に走るのは辞めてくれないかな!?」
のっけからキチガイ扱いされたというのにレインヴェルは平常運行、流れでロマンが被害を受けるといういつも通りの光景が広げられていた。オルガマリーはそんな光景から目をそらして美冬に話しかける。
「知っていると思うけど改めて言わせてもらうわ。所長のオルガマリー・アニムスフィアよ。貴女はカルデアの現状について知っているかしら?」
「……はい、キチ……イザヨイさんから話は聞きました。初めはいつもの冗談だと思ってましたけど……」
「残念ながら事実よ。現在カルデアはスタッフとマスター候補生の大半を失っていて残っているスタッフは二十人も居ない、そして候補生も動ける状態なのは貴女だけよ」
「え?じゃあそこの二人は?」
「俺?俺はもうマスターになってるから。これ令呪ね」
「初めまして、岸波黒野です。俺もマスターなんで候補生じゃないですね」
美冬の疑問に答える様にレインヴェルと自己紹介をしながら黒野が自分の令呪を見せつけた。
「彼らのおかげで冬木の特異点は解決しました……そのせいで現状になったとも言えるのだけどね」
「気にするなよ。誰だって危険物が目の前になったら退けたくなるさ。退けた結果で大きな被害が出るなんて分からねぇよ」
「……あ、ありがと」
自虐気味に言ったことに対して即座にレインヴェルがフォローに入った。そして恥ずかしいのか顔を僅かに赤くしながらオルガマリーは礼を言う。その時、アルトリアの眼光が微かに鋭くなったが誰も気付かなかった。
「と、兎に角!!現状、私たちの中でレイシフトに適性があるのはレインヴェルと黒野、そして美冬の三人だけです。そうなれぼ必然的に貴方たち三人にレイシフトをしてもらい、観測されている特異点に向かってもらう事になります……でも、強制はしないわ。予定よりも人数が減ったせいで危険は大幅に増している。断っても誰も責めはしない。断るならバックアップに回ってもらうけと……どうする?」
本当なら強引にでも作戦に組み込みたかったのだが美冬の心境を考えた上でこう提案した。元々レイシフトの為に集めた人材ではあるが今回の件で彼女は死にかけた。なら多少なりとも精神的に負担が掛かっているはずだ。遊ばせる余裕が無いからバックアップに回る道も提示したのだが本来ならメンタルカウンセリングを受けさせて休養させなければならない。
だが、美冬は大きく深呼吸をして真っ直ぐにオルガマリーを見返した。
「……私は、そういった危険性を理解した上でこの作戦に参加しました。命の危険なんて百も承知です。なので、私の考えは変わりません。私も、マスターとして戦います」
そう言った美冬の目には隠しきれない恐怖があった。それは人間なら誰もが持っているもので、あったとしても恥じる様なことでは無い。その恐怖を見せながらもーーー美冬は戦うことを選んだ。
「ーーーわかりました。十六夜美冬、貴女をオルガマリー・アニムスフィアの名において三人目のマスターと認めます」
「おう、人が増えたな!!よろしく、
「ちょっと待てそこのキチガイ。今なんていう字に振仮名つけた?」
「肉盾」
その言葉が言い終わるや否やに右手を銃の形にして迷う事なく言い切ったレインヴェルに銃口に当たる人差し指を向けてガントの魔術を行使する。発動したガントは真っ直ぐにレインヴェルに向かって飛んで、額に命中した。
ガントは軽度の風邪程度の呪いを相手にかける簡単な魔術なのだがグオォっと床に転がっていて余裕そうなレインヴェルを見る限りでは
そして数秒程、床に転がっていたレインヴェルは何事もなかったかの様に立ち上がる。
「ーーーよし、さっさとサーヴァント召喚して戦力増強するか」
「ええ、そうね」
「僕もそれには賛成だね」
当たり前の様に言われた言葉に黒野と美冬はついていけなかった。オルガマリーとロマンが反論していない事を見ると事前に二人には知らされていたか、二人も似た様な事を考えていたかに違い無い。
「すいません、話についていけないです」
「こっちもです、説明プリーズ」
「簡単な話だよ。美冬ちゃんはマスターになったとはいえまだサーヴァントを持っていないマスター(笑)状態、黒野んの方はシールダーのマシュとアサシンの小次郎が居るけど盾役と正面切って戦える暗殺者で正直言って遠距離ができそうな奴が欲しいところ。こっちもアルトリアがセイバーで、俺はその気になればなんでも出来るけど負担を減らす為にセイバー以外のクラスのサーヴァントが欲しかった。なら
「あ、魔力に関してはカルデアの方で回すから心配しないでね」
レインヴェルの説明は一応筋が通っていた。サーヴァントを持っていない美冬は勿論、黒野は
「筋は通ってますけど……キチガイの癖に」
「キチガイだけどレインヴェルさんは凄いからね、キチガイだけど」
「おう、キチガイ連発するの止めえや。照れるだろうが」
「褒めてません!!」
「褒めてないからぁ!!」
ところ変わってカルデアに設置されているサーヴァント召喚システムのある部屋、そこにレインヴェルと黒野、美冬は三人で集まっていた。オルガマリーとロマンは召喚のサポートをする為に、アルトリアとマシュと小次郎は召喚されたばかりのサーヴァントを刺激しない為に別室にいてもらっている。
「召喚の仕方は分かってるよな?」
「頭の中には入れてあります」
初めに召喚するのは美冬。二人と違ってサーヴァントを持っていない事から優先的にさせる様にとオルガマリーから言われていたのだ。レインヴェルは言われなくてもそのつもりだったし、黒野も文句を言わずに美冬に譲った。
「そもそもチームで動くからサーヴァントのクラスは重複しても問題無い様に思いますけど」
「何があるか分からないから最低でも各マスターで行動出来る程度の戦力にしといた方が良いだろ。考えてみろよ、後方支援に特化したサーヴァント集めて孤立して敵に囲まれたら悲惨な事にしかならねぇよ。それならある程度は分散させた方がいい」
「……確かに、そうですね」
「だったら俺が狙うのはアーチャーかキャスターが良いですかね?」
「そうだな、聖晶石の関係で俺と黒野んは一度ずつ、美冬ちゃんは二度しか召喚出来ないけどそうなったら良いよな」
本来ならマスター候補生48人全員にサーヴァントを召喚させてなお有り余る程の聖晶石がカルデアには集められていたがレフのせいでその大半が損壊してしまい使い物にならなくなってしまった。今回の召喚に使われる聖晶石はなんとか無事だった物と、冬木の特異点でレインヴェルと黒野が見つけた物とでなんとか成り立っている。
「さっきから気になってたんですけど黒野んってなんですか?」
「あだ名」
「恥ずかしいからやめて下さい……」
レインヴェルに弄られて恥ずかしそうにしている黒野を放置して美冬は聖晶石を投げる。すると聖晶石から光球が発生して、三本のラインに変わった。これがサーヴァント召喚の証、これご一本のラインの場合は概念武装が召喚される事があるのだ。とは言ってもサポートに回っているオルガマリーとロマンのお陰でよっぽどのことが無い限りはサーヴァントしか召喚されない事になっているはずだ。
そして三本のラインが中央に集まり召喚されたのはーーー赤い外套を着込んで白髪を逆立てた、浅黒い肌の男性だった。
男性は無言で辺りを見渡してレインヴェルの顔を確認するとーーー無言で部屋の隅に行って手で顔を隠して蹲ってしまった。レインヴェルも彼の隣で同じ様な事をしている。
「……え?」
「何かあったんですか?」
「……いやね、俺、冬木の特異点でこいつとバトってきたばかりだから」
「……それで臭いセリフと共に別れたというのに直様召喚されてしまった訳だ」
「「恥ずかしい……!!」」
確かにそれは恥ずかしい。だがそのまま恥ずかしがられても召喚されたサーヴァントのクラスも分からないのでそれだけでも聞き出す事にした。
「とりあえずクラスだけでも教えてもらえませんか?」
「アーチャーだ……」
大の大人二人であるレインヴェルとアーチャーとして召喚されたエミヤが部屋の隅で恥ずかしがるというのは中々シュールな光景だが進まないので放置する事にする。
そして二度目の召喚。聖晶石を投げて現れたのは三本のライン。そしてラインが集まってーーー召喚されたのは青いタイツに身を包んだ男性。
「ーーーよう。サーヴァントランサー、召喚に応じ参上した。ま、気楽にーーー」
召喚の口上を口にしていたランサーだったがランサーの声を聞いて部屋の隅で蹲っていたレインヴェルが立ち上がったのを見て固まる。
「ーーーよう、ランサー!!俺だよ!!」
「ーーーノォォォォォォォォォォォォォ!!」
ダブルピースを決めながら反復横跳びを決めるキチガイを見てランサーが絶叫する。美冬はそれを見て困惑、黒野は事情が分かっているので落ち着いてランサーとして召喚されたクー・フーリンに向かって合掌した。
そして合掌した後に聖晶石を投げる。現れたのは三本のライン。ラインが収束された召喚されたのはーーー紫のローブを着込んだいかにも魔女という言葉が似合いそうなサーヴァントだった。
「ーーーサーヴァントキャスター、召喚に応じ参上したわ……あら、随分と可愛らしいマスターなのね」
「あ、初めまして、岸波黒野です」
召喚されたのは狙っていたクラスのキャスターのサーヴァントだった。その事に安堵しつつ、自分の名を告げて簡易的な自己紹介をすませる。
そして次に召喚するのはクー・フーリンをイジれて上機嫌になったレインヴェル。イジられたクー・フーリンは部屋の隅で真っ白に燃え尽きていて、立ち直ったエミヤに同情的な視線を向けられている。
「さぁて、何が来るかなっと。俺としては偵察様にアサシン辺りが欲しいところだけど」
意気揚々とレインヴェルが聖晶石を投げる。そうして現れたラインの数は−−−一本。
「ーーーへ?」
ラインが収束されて召喚されたのはーーー鞘に納められた一本の日本刀だった。
その後、レインヴェルの絶叫がカルデアに木霊したのは言うまでも無いだろう。
マスター候補生復活〜マスター認定〜鯖召喚の流れでした。
新しいマスターの十六夜美冬の見た目ははレインヴェルの紹介で気づくかもしれませんがエクストラのザビ子です。でも中身は別物で、それなりの教育を受けた魔術師です。
鯖召喚に関してはバランスを考えました。遠近両方できる様にしつつ、なおかつストーリーでの影響を考えて……疲れた。
↓一覧表
黒野;マシュ、アサ次郎、キャス子
美冬;エミヤ、槍ニキ
レインヴェル;アルトリア
レインヴェルだけが礼装なのには理由があります。それは特異点終了後に鯖召喚をさせる為です。
べ、別にキチガイ虐めて愉悦ってる訳じゃ無いんだからね!!