ジャンヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!(挨拶)
今回の邪ンヌは諦めます。その代わり復刻したなら何があっても呼び出します。
「ーーーシット」
朝、起きて一番に口から出たのは悪態。窓から差し込む朝日に柔らかな大きなサイズのベッド、そして心地良い温もりと普通ならば充実したそれだったが目元に薄っすらと隈を作っているレインヴェルからすればどれもが不快でしかなかった。
レインヴェルはどこでも寝れる。その気になれば銃撃戦が行われているIKUSABAのど真ん中でも敵意が近くに来れば目を覚ますものの熟睡出来る。そんなレインヴェルが隈を作るーーー眠れなかった理由は彼の隣で幸せそうに眠っている女性。
レインヴェルは幼い頃に母と眠って以来、異性と同衾した経験が無い。同性なら遠慮なしで眠った事があったがさすがに女性が隣で眠っていて寝られる程にレインヴェルは図太く無かった。しかもまだ幾らかの警戒を見せてくれるならまだしも、彼女は完全に無防備だった。レインヴェルが隣にいるというのに薄い上着を羽織った状態で眠っていることからそれが分かる。女性が朝日が眩しいのか身じろいだ事で白い脚が動き、上着の裾が捲れ上がって下着が見えそうになる。目に毒だと思いながらレインヴェルはそれから目を逸らした。
そして女性が目を覚ます。間抜けな表情で目を擦りながら身体を起こし、レインヴェルの事を視界に入れると破顔させて微笑んだ。
「ーーーおはよう、レイン」
「ーーーおはよ、オルタ」
無防備過ぎるだろうとレインヴェルは考えながら、女性ーーージャンヌダルク・オルタに挨拶を返した。
レインヴェルが転移した先には野良サーヴァントーーーいや、冬木の特異点で大聖杯によって汚染されたようなサーヴァントと似たようなサーヴァントが複数存在していた。黒い靄の様なものは纏っていないものの、彼らはこの特異点の聖杯によって召喚されたサーヴァントだと簡単に予想出来る。そして召喚されたサーヴァントの真名も、オルタが自慢気に語ってくれたお陰で簡単に知る事ができた。
セイバーのサーヴァント、シュヴァリエ・デオン
アーチャーのサーヴァント、アタランテ
ランサーのサーヴァント、ヴラド三世
ライダーのサーヴァント、マルタ
アサシンのサーヴァント、カーミラ
キャスターのサーヴァント、ジル・ド・レェ
そしてバーサーカーのクラスに挿げ替わったエクストラクラスルーラーのサーヴァントのジャンヌダルク・オルタ
少し歴史や宗教に興味を持っていれば名前が出てくるビッグネーム達の集まりである。しかもそれだけでは無く、呼び出したジャンヌダルク・オルタによって全員にバーサーカーのクラススキルである【狂化】が付与されている。黒野と美冬の二人に任せるには荷が重すぎたかと考えるがそれをすぐに捨てる。どちらにしても、いずれは強敵と戦う事になるのだ。それが早いか遅いかの違いでしかないのなら、早い内に経験させておいた方が良いと結論づける。
昨日と同じ様に血涙を流すジル・ド・レェを視界に入れながら黒焦げのジャンヌダルク・オルタお手製の料理を食べさせてもらう。見た目こそ悪い物のジャンヌダルク・オルタの料理の味は美味だ。どう料理すればこうなるのだろうと考察しながらジャリジャリと料理を咀嚼する。
レインヴェルの現在の立ち位置は恐ろしく微妙である。ジャンヌダルク・オルタがレインヴェルの事を気に入ったからここに居られるのであって、彼女が機嫌を損ねたら忽ち四面楚歌に陥る。幸いな事にジル・ド・レェを除いたサーヴァントたちはレインヴェルに無関心な様子で干渉はしてこない。ジル・ド・レェだけはジャンヌダルク・オルタに好かれているレインヴェルの事を血涙を流しながら睨んでいるがそれでも彼女に嫌われたく無いのか睨まれるだけで終わっている。
言葉にしてみればそれだけだと思うかもしれないがそれが案外怖かったりする。何せジャンヌダルク・オルタの視界に入らずにレインヴェルの視界に入って血涙を流しているのだ。お前本当にキャスターかと突っ込みを入れたくなる。
「どうしたのかしら?レイン」
「ん?……ああ、なんでも無い」
食後の運動ということでジャンヌダルク・オルタに連れられてレインヴェルは彼女たちが拠点にしている城の中を歩き回っていた。ジャンヌダルク・オルタはレインヴェルの右側に立ち、彼の指に自分の指を絡めて握っている。それだけ、たったそれだけのことで、ジャンヌダルク・オルタは実に幸せそうに笑っている。だが、それもジャンヌダルクという英雄の人生を考えれば当たり前だと感じられる。
ジャンヌダルクは特別な人間ではなかった。フランスの農家に生まれた村娘で、家族と共に農業に従事しながら暮らしていた。このまま穏やかに成長していき、そして村の男と結ばれて家庭を持つと誰もが思っていた。だが、彼女は神のお告げを聞き、オルレアンを奪還するために立ち上がった。そしてオルレアンをイングランド軍から奪還する事に成功した。それだけならば良くある英雄譚で終わるのだろうが彼女の悲劇はここからであるーーー教会から、魔女だと糾弾されて異端者認定されたのだ。敬虔な信者であった彼女が魔女であるはずが無いと民は思っていたが当時の教会の権力は強大であった。そして最悪なのはーーー魔女だと糾弾した教会ですら、彼女のことを魔女では無いと理解していた事である。彼女はただフランスという国にとって不要になったから処刑されたのだ。それもただ殺すだけでは兵の士気に関わるからと、異端者という烙印を押し付けて。
初めて彼女と出会った時に目的はフランスに対する復讐だと聞いているが、レインヴェルと過ごすようになってからどうにもそれが薄れているように感じられる。レインヴェルからすればどちらを選んだとしてもジャンヌダルク・オルタの意思を尊重するだけだ。彼女の復讐は正当なものであり、それをするのもしないのも彼女が決めるべき事だからだ。
「オルタさんオルタさん、これ外してくれませんかねぇ……」
幸せそうに微笑むジャンヌダルク・オルタに不満げな顔をしながらレインヴェルが指差したのは自身の首に付けられている首輪だった。その首輪から伸びる鎖はしっかりとジャンヌダルク・オルタの空いた手に握られている。
「あら?苦しかったかしら?」
「そういうわけじゃ無いけど首輪なんてつけた事ないから違和感が凄い」
「そうですジャンヌ!!そんな男に首輪を付けるなんて私が許しません!!付けるのならば私めに!!さぁさぁさぁ!!」
音も無く天井から落ちてきてレインヴェルから首輪を奪い取ろうとする血走ったギョロ目を見てしまい、思わず唾をギョロ目目掛けて吐き付ける。唾と侮る事なかれ、レインヴェルの吐いた唾は弾丸の様な速度でギョロ目に突き刺さり、目玉をやられたギョロ目がギョロ目を押さえながらのたうちまわる。ジャンヌダルク・オルタは何処からか取り出した旗が付いた槍をバットの様にフルスイング。結果ギョロ目は城の窓から飛び出してたまたま通り掛かったワイバーンに咥えられて何処かに行ってしまった。
「まったくジルったら、人の恋路を邪魔するとドラゴンに踏み潰されるって知らないのかしら」
「ソーデスネ……」
本来なら敵であるサーヴァントに囲まれるという状況に加えてジャンヌダルク・オルタに擦り寄られているという現状で疲れているレインヴェルは本当だったら否定しなければいけない事を肯定してしまった。そんな彼を批判することは酷としか言えないだろう。
レインヴェルは楽しそうに笑いながら鎖を引っ張るジャンヌダルク・オルタについて行くしかなかった。
邪ンヌといちゃいちゃ、ただしレインヴェルの精神はガリガリと削られている模様。
黒野んと美冬ちゃんはジャンヌと合流してる辺りです。