ジャンヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!(挨拶)
ケータイが速度制限に引っかかってしまった……イベント明日までなのに……
「ジル・ド・レェか……今まで何してたんだ?ワイバーンに咥えられてから姿見えなかったけど」
「彼らの巣まで連れて行かれて子ワイバーンの餌にされかけました。我が盟友プレラーティから与えられたこの魔書が無ければ今頃私は彼らの餌になっていたでしょう」
そう言って表紙が人の皮で出来た一冊の本を取り出す。確かによく見ればジル・ド・レェの服はボロボロで、何かの液体が滴り落ちていた。
「で、何用かな?俺のことが嫌いなお前が俺に話しかけるだなんて珍しい」
「おや、流石に嫌っていることは分かっていましたか?」
「あれだけ憎悪の目で見られていて気付かないとか周囲に対して無関心か行き過ぎた鈍感野郎くらいだ」
ヘラヘラと笑い軽口を叩きながら、レインヴェルは魔術回路を密かに起動させる。
ジル・ド・レェの表情は一見すれば笑顔で、とても交友的に見える。だがレインヴェルはその目の奥にある隠されもしていない敵意に気づいていた。
「で、何用かでしたね。簡単なことですーーー貴方には、ここで消えていただきたい」
「ーーー
上から落ちてきた何かを強化した脚で蹴り砕く。手応えとしてはゴムの塊を蹴った様なものを味わい、砕いたそれを認識する。
それは冒涜的としか言えない存在だった。見た目はヒトデに似通った姿であるがサイズが小柄な人間程はある。蹴り砕かれたそれはビチャビチャと自分の血溜まりの中でもがきーーーそれの血肉から、新たなそれが生まれた。
「うへっ、気色悪い。何だよこれ、俺クトゥルフTRPGなんて参加した覚えは無いぞ」
「ふふふ、いかがですかな?この魔書により私は悪魔の軍勢を従える術を得たのです」
ビチャリビチャリと精神を汚す様な音を立て、上から下から新しい怪魔が現れる。ここでレインヴェルはどうしてジル・ド・レェがキャスターのクラスで召喚されたのか理解できた。
キャスターのクラスで召喚されるサーヴァントはそのクラス名の通りに魔術師である。ジル・ド・レェ本人は魔術師ではなかったものの悪魔召喚を目論んだ人物としての逸話が残されている。その逸話からジル・ド・レェは召喚魔術師としてキャスターのクラスで呼び出されたのだろう。もっとも、これを見る限りはキャスターではなくサモナーのクラスの方が相応しそうだが。
更にさっきの光景からこの怪魔たちは例え殺したとしてもその血肉を媒体にして増殖・再生を繰り返す様だ。そうなら定石としては狙うのは魔力切れなのだがさっきも言った通りにジル・ド・レェは魔術師では無い、つまり魔術回路を持たないはずだ。なのに召喚魔術が使えるということはーーージル・ド・レェが持っているあの魔導書、あれがジル・ド・レェの代わりに魔術を使っていると見て間違い無いだろう。おそらくあの魔導書そのものが大容量の魔力炉を備えてそれ単体で術を行使できる。そしてジル・ド・レェは呼び出した怪魔を使役しているだけ。それならば魔術師でも無いジル・ド・レェが大量の怪魔を呼び出して平然としている説明がつく。
四方は怪魔に囲まれ、上に目を向ければ矢を番えているアタランテの姿が見える。その鏃は真っ直ぐに此方を向いている。この状況を打破しようと思えば怪魔を使役しているジル・ド・レェ。彼を討つ、もしくはあの魔導書を破壊することが出来れば怪魔は消滅するはずだ。しかしジル・ド・レェとの間には怪魔によって肉の壁が作られている。それに妙な動きをすれば上にいるアタランテが矢を放つだろう。
ギリシャ神話に登場する女狩人のアタランテ。カリュドンの猪狩りやアルゴナイタイに参加するなどの数多くの冒険を成し遂げた彼女の一射は間違いなく無く自分を貫くとレインヴェルは確信していた。
そして何よりも致命的なのはーーーコートをジャンヌダルク・オルタが眠っている部屋に置き忘れたことだ。一応礼装であるナイフと爆発物の幾らかはズボンの方に入れてある。だが銃は対物理・魔術処理を行っているあのコートの方にある。これによって防御力はガタ落ち、その上に遠距離を攻撃する手段も無い……いや、無いわけでは無いがそれをしようと思えば時間がかかり過ぎる。今ここでそんなことをすれば怪魔に押し潰されるかアタランテの矢の餌食になるだろう。
思考を高速化させて幾つもの手段を考え、脳内で試行し、唯一成功率の高そうな方法が思い付いた。腹筋に力を入れ、予め飲み込んでいたある物を胃袋から押し上げる。
「俺が邪魔な理由は……オルタしか無いか」
「その通りです!!彼女は信じていた神に裏切られて正当な復讐に燃えていた!!しかし貴方が現れてから、彼女の中から復讐心が消えかけている!!ジャンヌダルクはフランスに対して復讐しなければならない!!故にレインヴェル・イザヨイ、貴方はこの怪魔に埋もれて生き絶えるがいいーーー!!」
ジル・ド・レェの合図に従って怪魔がレインヴェルに飛びかかる。数の暴力とはよく言ったものか、ジル・ド・レェが呼び出した怪魔は優に百を超えている。怪魔の飛びかかりは躱せる自信はあるが一、二度避けた瞬間にアタランテの矢が放たれ、動きが鈍った隙に怪魔に押し潰される。故に、レインヴェルは隠し札を切る。
ジル・ド・レェが長話をしている間に胃袋から押し上げた物を口から吐き出す。吐き出したのは五百円硬貨程のサイズの宝石。
「
詠唱を行うのと平行してレインヴェルは目を瞑った。それは諦めたからでは無く、宝石の被害から逃れる為に。詠唱が紡がれると宝石から太陽の様に強い光が放たれる。今の時刻は夜でこの場にあるのは僅かな月明かりのみ、そんなところで強い光を放てばどうなるか?
「目がッ!!目がァァァァァ!!!!」
当然の如く目がくらむ事になる。怪魔の肉壁があったとはいえどこちらを観察していたジル・ド・レェは光を直視してギョロ目を押さえながらのたうち回っている。これと同時にアタランテも腕を使って光を直視しない様に目を庇っている。ジル・ド・レェが行動不能になり、アタランテの目も外れた。この隙に行うのはーーー逃走だ。迷うこと無くベランダの手摺に足を置いて飛び降りる。今の隙でジル・ド・レェを討つことは出来なくは無いが、そうした場合には間違いなく無く光が止んで視界の回復したアタランテに射抜かれる事になる。
ベランダから飛び降りたところで下にいるのは犇めき合う大量の怪魔。その中目掛けてベランダから飛び降りるのと同時に安全レバーを外していた手榴弾と宝石を二つずつ残して全て投げ込み、顔を腕で庇う。怪魔の中に落ちるのと同時に手榴弾と宝石が爆発する、が爆発音は一切しない。予め消音の魔術の宝石を一つ投げ込んでいたからだ。こうしなければ爆発音に気づいた新手のサーヴァントがやってくる。
そして落下しながら手榴弾と宝石の爆風を一身に浴びる。熱いと感じる物の痛みは感じない。どうやら阿片擬きの効果は続いていたらしい。そして爆風で落下速度を緩めて着地するのと同時にベランダの光が止む。これでアタランテの目は復活したが構う事と無く爆風によって怪魔のいなくなった地面を蹴る。
目指す先は目の前に広がっている森。アタランテがいる中で森を選ぶのは悪手にしか思えないのだがそれは理性のあるアタランテの場合の話。狂化が付与された事で理性がほとんど無いアタランテならどうにか巻けるだろうと考えていたレインヴェルだったがーーー背中に走る寒気を感じて反射的に身をよじらせる。そして放たれた矢によって脇腹の一部をごっそりと持って行かれた。
阿片擬きのお陰で痛みこそは無いが致命傷なのは変わりは無い。肉を締めて止血を行いながら、残して置いた宝石の一つを飲み込んで回復魔術を施行する。本当なら静止した状態でしたかったが今そんなことをすればアタランテの矢の餌食になってしまう。
幸いだったのはアタランテの武器が弓矢だったことだ。弓矢というのは銃に比べれば音を立てない武器であるが矢を番える、引く、放つの動作をしなければ使えない。達人級なら瞬く間に連射することが出来るがそれでも銃の連射速度に比べれば圧倒的に遅いとしか言えない。
レインヴェルが受けた矢は初めの一度だけ、その後の矢はアタランテの呼吸を読み切る事で躱す。それでも皮一枚で当てるのは流石はアタランテというべきか。頬を、腕を、足を擦りながら過ぎ去っていく矢を見る度にレインヴェルの肝が冷えた。
それでも、何とかレインヴェルは森にへと入る事が出来た。そして気配を森の中に溶け込ませる。消すのでは無く、元々森の中にいた生物の気配に混じらせる。二流の追跡者なら気配を消すことで対処出来るが一流にもなると消した違和感を感じとって追跡されるのだ。アタランテは狩人、獲物を追うことのプロフェッショナル。故に気配を溶け込ませ、レインヴェルは森の奥にへと姿を消した。
ギョロ目がレインヴェルのことを危険視したせいでレインヴェルは城から逃走しました。これにより邪ンヌがエライことになります。
そして今回の逃走劇でしたがアタランテが正気なら最初の一射でレインヴェルは絶命していました。やっぱりバーサークしていない方が強いね!!