IKUSABA育ちのIKUSABA人   作:鎌鼬

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ジャンヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!(挨拶)

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第22話

 

「キチガイさん!!」

「何やってたんですかこのキチガイ。半裸で登場するとか変態ですか?」

「おう、キチガイは兎も角変態はやめーや。治療の為に上着は犠牲になったんだよ」

「それよりも……レインヴェル」

「あぁ、分かってるよ」

 

 

黒野と美冬の声に応えながらもレインヴェルはヴラド三世とカーミラがいた場所から、アルトリアはファヴニールがいた場所から目を離さない。そして爆煙が晴れーーーヴラド三世とカーミラがいた場所には黒い杭が乱立して壁となっていて、ファヴニールは無傷のまま悠然と空を飛んでいた。

 

 

あの杭はおそらくはヴラド三世の宝具だろう。ヴラド三世はかつてワラキア公国の君主であり、オスマン軍と対立していた。彼の所業として有名なのは串刺し公と呼ばれる所以になった串刺しの刑。オスマン軍であろうが貴族であろうが農民であろうが、罪を犯したならば容赦なく全てを串刺しの刑に処してきた。だからヴラド三世の宝具が相手を串刺しにする杭だとしてもなんらおかしいことでは無い。

 

 

杭が退かされてその奥から現れたヴラド三世とカーミラは無傷だった。ヴラド三世は自分を攻撃してきたレインヴェルを目視すると鋭い眼光を向ける。

 

 

「……貴様が余に歯向かうものか?」

「まぁそうなるわな。伯爵様が俺の前に障害として、敵として立つというのなら」

 

 

ヴラド三世の眼光に怯むことなく、レインヴェルは平然として言ってのけた。そんなレインヴェルの姿を見てヴラド三世は獰猛な笑みを浮かべる。

 

 

自分に歯向かうものがいるとするなら、それは彼にとって自分の領地を侵そうとする侵略者に他ならない。侵略者は串刺しの刑に処す。あの顔が恐怖と苦痛で歪み、それを肴に飲むワインは極上に他ならないだろう。そう、血の様に紅いワインをーーーレインヴェルの生き血をーーー吸血鬼(ドラキュラ)の様に啜ろう。

 

 

その考えに至った瞬間に、ヴラド三世の心がギチリと悲鳴をあげた。心の乱れは治ることなく大きくなり、身体を硬直させる。

 

 

「ーーー今、余は何を考えた?ーーー血を啜る?ーーーあの吸血鬼(かいぶつ)の様にーーー?」

 

 

ヴラド三世の動きが止まる。レインヴェルは不審に思いながらも警戒を緩めることなくヴラド三世から目を逸らし、上空にいるファヴニールーーー正確にはその背中で、嬉しそうに頬を緩めているジャンヌダルク・オルタに顔を向けた。

 

 

「あぁーーーあぁあぁあぁ!!レイン!!レインヴェル!!私の愛しい人!!また会えて嬉しいわ!!」

「うん、俺も会えて嬉しいよオルタ……だからその手に持ってる首輪は捨ててくださいお願いします」

 

 

ジャンヌダルク・オルタの微笑みは聖母の様に暖かで、先程黒野と美冬に向けた邪視はどこに行ったのかと問い質したくなるくらいに別人にしか見えなかった。レインヴェルも再会出来たことは素直に嬉しいらしいーーーだがジャンヌダルク・オルタの手にしている首輪だけはどうしても認められないらしく、彼らしからぬ敬語で手放す様に懇願していた。

 

 

「ーーーおいレインヴェル、あいつとはどんな関係だ?」

 

 

その時、レインヴェルの肩をアルトリアが叩いた。軽く乗せられただけの筈なのにその手は重たく、レインヴェルは後ろにファヴニール以上の威圧感の龍がいるかの様に感じる。

 

 

ギギギと錆び付いた様な音を立てながらレインヴェルが振り返ればそこにはとてもいい笑顔になっているアルトリアがいたーーーだが、レインヴェルは気付いていた。アルトリアの目が笑っていないことに。

 

 

「えっと……その……」

「ーーーねぇレイン、その女は誰?」

「Oh……」

 

 

アルトリアに説明しようかと思えばジャンヌダルク・オルタが反応を見せる。背中に感じる視線は物理的な熱を伴ってレインヴェルに突き刺さる。

 

 

まさしく前門の魔女(ジャンヌダルク・オルタ)、後門の(アルトリア)である。

 

 

「修羅場か?」

「修羅場ね」

「修羅場か!!良いぞ良いぞ!!」

「煽るなよランサー。修羅場は本当に辛いんだからな……!!」

「お、おう」

 

 

クー・フーリンがレインヴェルの修羅場を目の当たりにして生き生きしているとエミヤが目から光を無くしながらレインヴェルのフォローに入った。どうやら彼も修羅場を経験した事があるらしい。その言葉の重みは本当だった。

 

 

「ーーーランサー、そこの雌を殺しなさい……ランサー?」

「余はーーー余はーーー」

 

 

ジャンヌダルク・オルタがヴラド三世にアルトリアを殺す様に指示を出したが反応が返ってこない。不審に思いヴラド三世を見ればそこには何やら葛藤しているヴラド三世の姿があった。

 

 

「どうしたのかしらバーサーク・ランサー?目の前に極上の獲物が居るわよ」

「余はーーー」

「王様、彼女の肉と血、そして臓物は私の物よ。私より美しいものは許さない。私よりも美しいあれの血を浴びたなら私はより美しくーーー」

「ーーー余はっ!!」

 

 

ヴラド三世の杭がカーミラを襲う。まだ精神が不安定だからなのか杭の狙いは正確さに欠けていてカーミラの肌に傷を付ける程度で外れてしまう。ヴラド三世の杭は周囲から彼を遮断するように生え続ける。

 

 

「ーーーふん、興醒めね。引きましょう、これ以上ここにいてもつまらないわ」

「ま、待ちなさーーー」

「じゃあねレイン、次に会う時はそこの雌を縊り殺してあげる。そうしたら一緒にこの国の終焉を見届けましょう」

 

 

そう言ってジャンヌダルク・オルタはジャンヌダルクを無視してカーミラを回収し、暴れているヴラド三世を残して去っていった。

 

 

ジャンヌダルク・オルタとファヴニールという脅威が去ったものの、この場に平穏が訪れた訳ではない。際限無く生え続けるヴラド三世の杭が徐々に黒野たちに迫って来る。

 

 

「一体何があったというのだ!?」

「気づいちゃったんだろうよ……自分が忌み嫌っていた化け物に成り下がっちゃったことに」

 

 

杭から距離をとるエミヤにレインヴェルは哀れむ様に言った。ヴラド三世は吸血鬼のモデルとされているが吸血行為に準ずる行いをしたという記録は無い。彼が吸血鬼とされているのはドラキュラと呼ばれていたから。今の時代ではドラキュラ=吸血鬼という認識をされているがそれは間違っていてドラキュラ=(ドラクル)の子という意味なのだ。新約聖書において悪魔サタンは蛇や竜として描かれる事が多々あり、竜=悪魔であると同一視され、ドラクルは竜公ではなく悪魔公などという不名誉な見方をされるに至った。

 

 

余談ではあるが、ヴラド三世の串刺し公の所業からヴラド三世は悪魔の子、であるならその父は悪魔であるに違い無いという飛び火なのだが……

 

 

ともかくヴラド三世は不名誉なはずの吸血鬼の呼び名を甘んじて受け、そしてその通りの行動をしてしまった。もし狂化のスキルが正常ならその事に気付かなかった筈なのだがどういうわけか今の一瞬だけ狂化が働かなかったらしい。そのせいでヴラド三世は暴走しているのだが。

 

 

「ーーーエミヤ、契約破りの宝具って投影できる?」

「……出来なくは無いが、やるのか?」

「見ていて哀れだ。なら、名誉を挽回させる機会をくれてやらないとな」

 

 

レインヴェルの横顔を見て何を言っても無駄だと判断したのか、エミヤは溜息をついて稲妻のような刀身の短剣を手渡した。

 

 

レインヴェルが一歩、ヴラド三世に近づく。それに反応するように無規則に生えていた杭が一斉にレインヴェルに向かっていく。そしてーーーレインヴェルはその杭を跳躍して躱し、すでに生えていた杭の穂先を足場にしてヴラド三世に向かっていった。

 

 

「余はーーー吸血鬼などでは無いーーー!!」

「ーーーあぁ、知ってるよ」

 

 

ヴラド三世は吸血鬼などでは無い。串刺し公のイメージから吸血鬼などと連想されているがそれはもっとも卑しい刑である串刺しの刑罰を課すことで君主としての絶対性を示すため、オスマン帝国の脅威から民を護るために他ならなかった。

 

 

彼にとって吸血鬼という呼び名は侮蔑の呼び名に過ぎない。それなのに自ら吸血鬼などと名乗りを上げ、吸血行為に及んだなど彼にとっては屈辱でしか無いのだろう。そんな彼の姿を見ていられないと思ったレインヴェルは串刺しの杭で出来た城壁を乗り越えてヴラド三世の前にたちにーーー

 

 

「ーーー俺はあんたの事を尊敬しているよ、領主様」

 

 

ーーー契約破りの宝具を、ヴラド三世の霊核に突き立てた。

 

 

 




正妻戦争第二回戦の開幕の予感、今回は顔合わせで終わった模様。所長も参加したかったけど諦めました。


そしてエミヤの言葉には謎の重みがあるな……

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