オルガマリーからの連絡を受けた時点でレインヴェルたちに逃げられる可能性は無かった。何せ相手は幻想種の頂点である竜種、フランスなどその気になれば数分で横断する事ができるだろう。故にレインヴェルが選んだのは迎撃だった。どうせファヴニールからは逃げられない。であるなら迎え撃つ。ファヴニールは概念により守られている為に倒すことは出来ないがサーヴァントは別だ。最悪、アルトリアがカリバーすれば倒せる可能性がある。旗色が悪くなったと見れば相手も引くだろう。
ヴラド三世が見つけて来たサーヴァントを廃墟に隠し、レインヴェルたちは朽ちかけた城壁の上に立って待ち構える。アルトリアとヴラド三世はそれぞれの武器を構えて威風堂々と立っているが、ヒロインX・オルタは、
「セイバー殺すアルトリア顔殺すセイバー殺すアルトリア顔殺すセイバー殺すアルトリア顔殺すセイバー殺すアルトリア顔殺すセイバー殺すアルトリア顔殺すセイバー殺す……」
アルトリアと同じ、黒く染まったカリバーを片手にセイバーとアルトリア顔への殺意を昂ぶらせていた。凄い殺意である。ヴラド三世なんて、ヒロインX・オルタのことを視界に入らないようにしている。
そして数分後ーーー無数のワイバーンを引き連れて、ファヴニールは姿を現した。その背中にはジャンヌダルク・オルタとデオン・シュヴァリエ、ジル・ド・レェ、そして海魔に拘束されている黒い鎧のサーヴァントの姿があった。
「あぁ、ようやく見つけたわ。私のレイン。新しい首輪を見繕ったの、似合うと思うから着けてくれないかしら?」
「遠慮しておくわ。俺、首輪は着けるよりも着けさせたいタイプだし」
「レインが飼い主で私が飼い犬?……ありね」
「お前天才か」
「わんわん、マスターわんわん」
「……」
「おのれぇ……おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!レインヴェル・イザヨイぃ!!よくも、よくも純粋無垢なジャンヌを汚してくれたな!?私は許しませんよ!?首輪なんてそんなマニアックなプレイは!!着けると言うのならこの私に着けなさい!!」
「Arrrrrrrrrthurrrrrrrrr!!」
「誰かどうにかしてくれないものか……」
ジャンヌダルク・オルタが黒い首輪を差し出せばレインヴェルが衝撃のカミングアウト。それも悪くないとレインヴェルに好意を向ける3人は思い、デオン・シュヴァリエはより一層目から光を無くし、ジル・ド・レェはジャンヌダルク・オルタから首輪を取ろうとしてファヴニールから蹴り落とされてワイバーンに加えられて何処かに連れ去られ、黒い鎧のサーヴァントはアーサー王の名前を叫びながら海魔から逃れようと踠いていた。
ヴラド三世の目から光が失われつつあるのもしょうがない事だ。
「ねぇレイン、私言ったわよね?次に会う時には雌を縊り殺すって。だから、殺すわ。貴方のそばにいる二匹の雌も、裏切り者の領主も。そうして貴方を私だけの物にしてあげる」
「そいなら俺は抗うよ。そもそも俺はオルタと敵対する為にここに来たんだ。初めから敵対することは確定事項、だったらもう戦う以外には無い。俺は人類史を存続させる為にオルタを倒す。オルタはフランスを滅ぼす為に俺たちを倒す。それだけの話だ」
そう言いながら、レインヴェルは鞘に納めていた二本の武器を抜いた。1つは冬木の特異点でもエミヤとの戦いの際に使った礼装であるナイフ。もう1つはカルデアでの召喚の時に抽出された概念礼装である日本刀。
レインヴェルたちと、ジャンヌダルク・オルタとの間に緊張が高まる。レインヴェルは人類史を継続させたい、ジャンヌダルク・オルタはレインヴェルを捕らえてフランスを滅ぼしたい。どちらにもそれを成す理由があり、それを成そうと決めているのならばあとは争う以外に道はない。
「ーーー
「ーーー
先手を打ったのはヴラド三世とアルトリア。魔力のチャージ無しで放たれたエクスカリバーの闇の極光が放たれ、地面からはトルコ軍を串刺しにした槍が生える。
「ーーー蹴散らしなさい、ポチ」
「ーーーGaaaaaaaaaaaaaa!!」
先手としては悪くないのだろうがそんな小手先だけの物は幻想種の頂点たるファヴニールには通用しない。たった一度の咆哮、それだけでエクスカリバーの闇の極光が掻き消され、ヴラド三世の槍の大半が砕けた。
だがレインヴェルたちからしてみればこれは計算通り、予想の範疇を出ない。そもそもチャージ無しで放たれたエクスカリバーの威力などたかが知れている。ファヴニールに容易く防がれることなど分かっている。
それでもした理由は、
「セイバーとアルトリア顔は死ねぇ!!」
「ッ!?バーサーク・セイバー!!」
カリバーの刀身から魔力を放出しながらヒロインX・オルタは空を駆けてファヴニールの背中に到達し、背後からジャンヌダルク・オルタとデオン・シュヴァリエを襲う。咄嗟の指示でデオン・シュヴァリエに防がせたので奇襲は防げた……ヒロインX・オルタの奇襲は。
「ーーーよぉ」
「ッ!?そんな!?」
まるで挨拶するような気軽い声をかけながらレインヴェルがジャンヌダルク・オルタに斬りかかった。分類上はただの人間であるレインヴェルがファヴニールの背中に現れたことに驚愕しながらも、竜の紋章を掲げた旗でそれを防ぐ。
レインヴェルがどうしてファヴニールの背中にいるのか?それは
ファヴニールは強い、まともに戦えばアーサー王であるアルトリアでも太刀打ち出来ないほどに。
実際、ジャンヌダルク・オルタの指示なのかファヴニールは飛んでいるものの大きく動くことは無かった。明らかにレインヴェルを落とさぬように気を遣っている。その代わりにワイバーンがレインヴェルを捕らえようとファヴニールの背中に群がるが、
「落ちろワイバーン!!」
「フハハハッ!!ストレスの解消に付き合ってもらうぞ!!」
アルトリアのエクスカリバーとヴラド三世が槍から槍を生やして串刺しにすることでワイバーンを次々に駆逐していく。ヴラド三世が良い笑顔なのはそれほどストレスが溜まっていたからなのだろう。
「セイバー死ねぇ!!」
「……」
ヒロインX・オルタが怒涛の猛攻を仕掛ける。その剣筋は元が同じであるが故にアルトリアの剣筋と同じ物。だが並々ならぬセイバーとアルトリア顔への殺意がそれを一層激しい物へと昇華させている。
それをデオン・シュヴァリエは狂化の影響からか無表情で、狂化の影響を感じさせない剣術で受け流していた。攻勢には出ない防戦一方、だがその守りは異常に硬い。すでに百を超えて二百は打ち合っているというのにデオン・シュヴァリエの身体にはかすり傷1つ付いていない。
それは当然、何せデオン・シュヴァリエは騎士なのだから。騎士は守るために存在している。一対一の状況なら攻勢に出ることを放棄して防戦に望めば何時間経とうとも全ての攻撃を防ぐことが出来る。
たとえ狂化したとしても白百合の騎士の剣技は衰えない。
「シィッ!!」
「くぅッ!?」
レインヴェルの攻勢を、ジャンヌダルク・オルタは旗で防いでいた。超近距離用のナイフと近距離用の日本刀というリーチの異なる武器を巧みに操るのは研鑽され尽くされた上に研鑽された人間の技術。俗にいう達人の境地に達している剣技。それをジャンヌダルク・オルタはファヴニールの背中という不安定な足場で攻められながらも完全に防ぎきっていた。
生前のジャンヌダルクの役割は兵士たちの指揮を執り、士気を高めることにあった。その為に戦争になれば前に立ち、旗を掲げて敵兵へと突入する。それ故にジャンヌダルクに求められたのは倒す技術では無く生き残る技術。たとえ敵兵に囲まれたとしても、無事にそこから脱出出来るような技術を実戦で身につけているのだ。
たとえフランスを憎悪し、反転したとしてもジャンヌダルクの身につけた技量は衰えない。
だがファヴニールは動けない。ワイバーンはアルトリアとヴラド三世によって生み出されたそばから駆逐され、デオン・シュヴァリエはヒロインX・オルタの相手、ジャンヌダルク・オルタはレインヴェルに攻められるという形だけではあるが拮抗している状況に持ち込むことが出来た。
ちなみにジル・ド・レェはワイバーンに連れ去られて行方不明で、黒い鎧のサーヴァントは未だに海魔に拘束されている。
レインヴェルたちの目的はこの場で勝つことではない。何とかしてジャンヌダルク・オルタを諦めさせて退かせる事なのだ。その過程でサーヴァントの一騎でも討てたのなら御の字程度にしか思っていない。ヒロインX・オルタは本気で
そしてその拮抗した状況が動き出す。それもレインヴェルたちに取って悪い方向に。
気持ちよくカリバーをブッパしていたアルトリアに目掛けて無数の魔弾と拷問器具が襲いかかってきた。
「アサシンか!?」
余計なダメージを負うわけにはいかないとアルトリアが選んだのは回避と迎撃。拷問器具を魔力放出にて薙ぎ払い、死角から襲いかかってくる魔弾を直感にて回避する。攻撃されるまで知覚されなかった隠密性から気配遮断のスキルを持っているアサシンだと判断。実際、この下手人は万が一に備えてジャンヌダルク・オルタが配置していたバーサーク・アサシンことカーミラだった。
そしてその回避と迎撃を行動した時間、ヴラド三世と2人で駆逐していたワイバーンの中から生き残りが出てファヴニールの背中にいるレインヴェルとヒロインX・オルタに襲いかかる。
「邪魔をするなよトカゲ!!」
ワイバーンを鬱陶しく思いながらも右手にカリバーを持ってデオン・シュヴァリエに切り掛かり、左手に煌びやかな装飾の施された黄金の剣を持ってワイバーンを視界に収めずに切り捨てる。それでいてデオン・シュヴァリエへの攻めを一切緩めないのは流石はアルトリアと言う他あるまい。
だが、ヒロインX・オルタは平気だとしてもレインヴェルはそうはいかなかった。
「面倒だなぁおい!!」
ジャンヌダルク・オルタへの攻め手を緩めて背後頭上から襲いかかってくるワイバーンの牙と爪を受け流し、躱しながらやり過ごす。サーヴァントと戦えている時点で人間かどうか怪しくなってくるがそれでもレインヴェルは人間なのだ。ワイバーンの牙で一噛みされれば、ワイバーンの爪で一撫でされればそれだけで重傷を負う。この状況でそんな負傷をしてしまえば先にあるのは敗北でしかない。だから攻め手を緩めてでもワイバーンに気を裂かねばならなかった。
そしてそれはジャンヌダルク・オルタが自由になることを意味する。
「あら?さっきまでの威勢はどうしたのかしら?」
ジャンヌダルク・オルタの旗が守りだけでは無く攻めにも使われるようになる。流石にその攻撃には研鑽は見られず、力任せに振り回す様な物だったが、レインヴェルからしてみれば逆にそれが怖い。
研鑽が見られないと言うことは誰かに師事して習った訳ではないと言うこと、つまり我流になる。何かしらの武を修めているのならば次の行動は予想出来るのだが我流であるが故に次に何をするかが読めない。
「甘く見過ぎたな……」
旗色が悪くなったと判断してレインヴェルは素直に自分の見通しの悪さを認めた。この作戦を考えたのはレインヴェルで、これで行けると思ったのもレインヴェルなのだ。流石は英霊、反転しようが狂化されていようが人よりも上位の存在であることには変わりなかった。そう、この結果はレインヴェルが齎した物なのだ。
だから、
「退くぞ!!」
「次会ったら必ず殺す……!!」
躊躇うことなく撤退を選択。突き出された旗を弾き、
「うそっ!?」
ファヴニールがいるのは上空数十m。サーヴァントならば兎も角、人間であるレインヴェルが落ちれば転落死以外の未来はありえない。レインヴェルの身を案じて下を見たジャンヌダルク・オルタ。そこには……
「これが次世代のニューヒロインの力だ……!!」
カリバーの刀身から魔力を放出する事で飛行しているヒロインX・オルタに捕まっているレインヴェルの姿があった。そしてレインヴェルは覗き込んでいるジャンヌダルク・オルタに向かい、親指を下に向ける。
そしてジャンヌダルク・オルタは、ファヴニールが
確かにレインヴェルの見通しの甘さによりこの結果は訪れた。だがそのことを考えていなかった訳ではない。そうなることも予想して、対策を立ててある。
アルトリアとヴラド三世がいる城壁に人影が現れた。それはヴラド三世が見つけてきたサーヴァント。ボロボロだった身体はそのまま、レインヴェルが治療魔術をかけたが呪われているらしく、まともな効果は望めなかった。だが、それでも一度だけなら宝具の発動も出来る程度には回復していた。
「ーーー再び斃してやろうファヴニール!!
ボロボロの身体に鞭を打ち、サーヴァントは黄昏色の閃光をファヴニールに向けて放った。
VS邪ンヌ&バーサークサーヴァント。すまないさんの介入により痛み分け。
ジャンヌダルクは強いというよりも上手い部類の英雄だと思う。一騎当千とかイメージに合わないけど、兎に角生き残る感じで。だから邪ンヌもそれを意識した戦闘スタイル。アヴェンジャーならステータスにゴリ押されて相手になりませんでした。
それにしてもヒロインX・オルタの殺意が高いなぁ……