妹に拉致されました
以上!
「さぁ兄様、ここですよ」
路地裏────そう表現するのが妥当とさせるそこは、表の明るいストリートとは違い、ジメジメとした陰湿な雰囲気を醸し出していた
「……ずいぶんと変わったところに住んでるんですね?」
「この方が何かと都合がよいのですよ」
歩美が足を止めたその場所には、質素なマンションが一軒、ひっそりと佇んでいた……外見は決して綺麗とはいえないが、特別ボロボロというわけでもない、『あぁ、マンションか』とそう思っただけでそのまま素通りしていく、その程度の印象だった
「ここの二階なんですよ、さぁどうぞ?」
「……おじゃまします、でいいのかな?」
「別に『ただいま』でもかまいませんよ?」
クスクスと笑いながら、僕を中へと誘う……中は思ったとおり、必要最低限の家具と照明……歩美らしいといえばその通りだった
「両親はどうしたんですか?」
「死にました」
平然に、釈然と、当たり前のように言い放つ歩美、そこには悲しみも、憂いも、怒りも感じられなかった
「まぁ、正確には死んでいたが正しいのですが……」
「死んでいた?」
僕は思わず聞き返した、死んでいるという事実にももちろん驚いてはいるが……
「私がポケモンの世界、つまりこの世界に来た時、初めて目にしたのは…………血だらけの女性と首を吊った男でした」
今の発言で、間違いなく僕なんかよりもHardモードで人生ゲームスタートだということは分かりました
「血が繋がっているからですかね……なんとなく分かったんですよ、この二人が私の両親なんだって……状況から見て、たぶん無理心中でしょうね」
ちなみに僕も、前世で何度か無理心中未遂を経験しています
「私が生きているのは……もしかすると、その人たちの、最後の良心だったのかもしれませんね」
両親だけに?
「……兄様、今くだらないことを考えましたね?」
「どうしてそう思うんですか?」
「声に出ていましたよ……」
僕ってばおしゃべりさん☆
「はぁ……兄様は相変わらずです、相変わらずテキトーです」
途中までは頑張ってました、でも長くは続かなかったようです、学生カップルのごとく
「そんな兄様じゃあ、周りの人に愛想を尽かされるのは必至です、私を除いて」
よりにもよってですか、他の人はともかくよりによってですか
「兄様……私は本気なんです……」
「僕だっていたってまじめですよ」
まじめに考えてなきゃ、とっくに社会的に抹殺されてます
「兄様のためにおっぱいだってこんなに大きくしたのに……」
「僕がいつおっぱいが好きだといいましたか?」
決して嫌いではないですが、決して嫌いではないですが!
「銀髪ロリ巨乳ですよ?襲えよ」
「もう少しお淑やかに育ってほしかったですよ……」
「兄様の好みに合わせようとした私の努力はなんだったんですか!?」
「その君の暴走を止めようとした僕の努力はなんだったんですか!?」
おかげでこんな耳年増に育って……お兄さんは悲しいよ……
「愛ゆえに」
「それ言えばなんでも許してもらえると思ったら大間違いですよ?」
なんでもかんでも愛のせいにされたら勇気くんとアンパ○マンが怒っちゃいますよ?
「……兄様こそ、いつまでも逃げられるなんて考えてないですよね?」
それは、少し棘のある言い方だった
「……少し喉が渇きましたね、なにがいいですか?」
「……コーヒーってあります?」
「コーヒー?カフェオレの間違いですよね?兄様はコーヒー飲めなかったはずですから」
コーヒーとカフェオレの違いを教えてくれませんか?
「……どうぞ、熱いので気を付けてくださいね?」
「さんきゅーです」
っていうか熱いって、沸騰してるよ?グツグツいってるよ?これ飲めるの?
「兄様は相変わらずひどい発音ですね、Thank you ですよ?」
「しゃらっぷ!」
「Shut up」
馬鹿にしてるんですか?そうですか……
「ふーっふーっ……あちっ」
「兄様……猫舌も直ってなかったんですね……」
飲めるやつ呼んで来い、100℃近い液体を身体に流し込む化けもの呼んで来い
「そんな兄様のために、なんとアイスコーヒーもあります」
なぜ最初に出さなかったのか、嫌がらせですか、そうですか……
「んく……んく……おいしいです、ありがとうございます」
「いえいえ……あの、やっぱりちゃんと聞いてほしいことがあるんです」
そう言うと、歩美の表情はとたんに真剣な顔つきへと変わった……
「私は兄様が好きです、誰よりも、何よりも、貴方のことを愛しています……なのに、どうして答えてくれないんですか?」
「…………」
僕は答えることができない、なぜなら、その問いに答えなんて無いからだ
「私のことを愛していると、一言言ってくださればいい、それだけ、本当にそれだけなのに……!」
「……僕の気持ちは、どうでもいいんですか?」
「兄様の……気持ち?」
コテン、と首をかしげる歩美、可愛らしさはなかった……血走った目が、何よりも印象的だった
「兄様の気持ち、えぇ考えましたよ?私のことを愛してくれているんですよね?ただ口に出すのが恥ずかしいだけですよね?」
分かっているとでも言いたげな表情、クスクスと笑う彼女はやはり、僕の手には負えないと感じた
「……僕、好きな人がいたんですよ、初恋だったんです」
「えぇ、知ってますよ、今目の前にいるんですよね?兄様ったら大胆ですよ///」
手に負えない……いや、むしろ手に余ると言った方が正確なのかな?
「……その人はね、何度も僕を勇気付けてくれました……辛い時、苦しい時、逃げたい時……彼女がいなかったら、僕はとっくに首を括っていたでしょうね」
「そんな、兄様……照れますよ……///」
「その人は、僕が中学に上がると同時に行方不明となりました」
「…………あ?」
意味が分からない、そう言いたげな顔でこちらを見続ける歩美、いや、本当は僕のことなんて見ていないのかもしれない
「僕は今でもその人が好きなんです、だから歩美には答えられません」
「…………嘘」
ぽつりと呟く声が聞こえる……すぐにでも決壊しそうなダムが、そこにはあった……
「……嘘……だっておかしい……私の兄様が……私だけの兄様が……」
ダムは…………決壊した……
「嘘、嘘、嘘、嘘、嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘……」
突然、歩美のダムが塞き止められた…………?どうしたんでしょう、急に黙って…………あ……?──────
「────……盛り……ました、ね?」
「兄様、この十五年間は随分と平和な時間を過ごしていたようですね?向うではこうは行きませんでしたからね」
そういって、今までのことは無かったかのように振舞う歩美……全て、演技だった……
「薬の……時間稼ぎ、ですか?」
「兄様は薬に対しても鈍いようですね、ここまで手間取るとはおもいませんでしたよ」
あぁ……そうだ、こういう子でしたね……油断させて、不意打ちをするタイプ……なんで忘れてたんでしょう…………
「……信じてた……のに……」
「都合のいいこと言わないでくれませんか?兄様は私を一度も信頼してはくれませんでしたよね?」
「……じゃ、ぁ……今日が始めてだったんですね……」
凄まじい眠気が襲ってくる……もう、長くは持ちそうにありませんね……
「……安心してください、ただの睡眠薬です、死ぬことはありません」
「……死んだ方が、マシなんじゃないですか?」
「今だけですよ、すぐに私なしでは生きられなくなりますから……」
おやすみなさい────その言葉を最後に、僕の意識は途絶えた……
「……演技じゃ、ありませんよ……?」
倒れた自分の兄を見つめながら、少女は呟いた……
「私には……兄様しかいなかったんです……兄様しか……」
少女は泣きはしなかった、泣くことなど、彼女にはもうできなかった……
「私、がんばりますから……ごめんなさい……ごめんなさい……」
少女の声が、いつまでも木霊していた……
「あ~の~バ~カ~!」
ちょっと目を離したらこれよ!少しはジッとしてられないのかしら!
「見つけたらお説教10時間なんだから…………ってあれ?」
あそこに落ちてるのって……モンスターボールだよね……いったい誰が……
「まったく、自分の手持ちぐらいちゃんと管理しておきなさいよね!」
なんかすっごいガタガタしてるし……一回出してあげた方がいいのかな?
「……ま、いっか、中身も気になるし……よっと」
赤い光線に紛れて、そのシルエットがはっきりしてくる……四速歩行の、角のような頭……このシルエットは……────
「────モノ……」
「…………いやなんで!?」
第三十九回終了です!
ヤナ君には少しだけ、ほんの少しだけ痛い目にあって貰います(ゲス顔)
更新遅れて申し訳ありません!コメントの返信も遅れてしまい重ね重ね申し訳ありません……
コメントくださった方々、ありがとうございます!これで一応IFモノを書くことに決定します!投稿は……11月中にはきっと……すいません……
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます!