レンゲさんのいちにち!
以上!
誰かが来てくれる予感はしていた……誰かと言わず、はっきり言えばトウコさんが来てくれると信じていた、疑わなかった……
「やぁやぁ、ヤナ君、昨日ぶりだね~」
激しい爆発音の後、煙の中から現れた人物は、僕の予想とは随分かけ離れていた……その人は全身を黒いマントとフードで覆い、悪竜従え颯爽と……
「ケッホ!?ウェッホ!?埃っぽ!?」
……と、いうわけでもなく、いつも通り、騒がしく登場するレンゲさん……一瞬でもかっこいいと思ってしまった自分が恥ずかしい……
「……なんで、レンゲさんが……?」
「そんなことよりヤナ君!勝手にどっか行っちゃ駄目だよ!すっごい探したんだからね!?」
……そういえば、黙って戻ってきちゃいましたね……昨日からずっと探してくれていたんでしょうか……
「ご、ごめんなさい……好奇心に負けてしまって……」
「探す身にもなってよね!?心配し────てたわけじゃ、ないんだけど……その……」
後半になるにつれ、じょじょに声が小さくなっていく……うまく聞き取れはしませんでしたが、心配してくれていたようです
「ヤナ!大丈夫!?」
あ、やっぱりトウコさんも来てくれたんですね……後ろにはチェレンくんとベルさんも……僕の相棒も……一緒にいるのかな……?
「大丈夫……とはいえませんね……」
僕は歩美を横目で見た後、視線を戻す……戻す、というよりは戻せざるをえなかった……今、歩美の顔を直視することは、僕にはできなかった……
「……どういうことでしょうね、こんなに早く見つかるはず、ないんですけどね……ねぇ?兄様……」
気づいた、歩美は気づいた……彼女たちがこんなにも早くここに辿り着いた理由、それに早くも気づいたんだ……
「一匹、逃がされていましたか……さすがは兄様、あれだけのプレッシャーを受けても冷静に対処できるとは」
冷静に、とはとても言えたものではなかった……突然の歩美の登場に、僕の神経は一瞬にして磨り減ってしまった、それでも、最低限身を守ることだけは忘れない、本能のようなものだった……
「……形成逆転です、歩美……僕を解放してください」
これで勝ったはずです……状況としては1対4、僕を含めれば5、多勢に無勢、数の暴力で勝利をつかめるはず……
「……兄様は、どうしても私とは一緒にいたくたいのですね?」
「…………」
僕は答えない……答えないという答えを、僕は歩美に、暗に示した
「……分かりました、もう何も言いません……────
────実力行使、といきましょう」
その瞬間、部屋の空気が変わった……体が重い、そう錯覚させるほどの重圧が、部屋を包み込んでいた……
「一対四……数の上では不利ですね、なので私は……」
そう言った直後、ゴチミルの目が怪しく光る……
直後────地面に転がっていた工具や鉄の棒、ナイフやイスが、一斉に空中にフラフラと浮遊し停止している……
「ふふふ、ゴチミルの[サイコキネシス]……やはりエスパータイプは応用が利いていいですね」
歩美の手がゆっくりと標的を指差す、それに呼応するように、浮遊していた工具の一つが真っ直ぐに放たれる
「!?サザンドラ![守る]!」
キンっ!という金属音の後、サザンドラの生み出した薄緑の障壁を前に、工具は弾かれ地面に突っ伏した
「いきなりご挨拶だね、しかも今、完全に私自信を狙ったでしょ?」
「煙を絶つには元を消す……私はもっとも効率のいい方法で貴女方を排除します」
そう言い放ち、歩美は次々と物を飛翔させる……
「サザンドラ戻って!キリキザン!レディ!ゴー!」
「……!」
出てくるや否や飛来してくる鉄の武器を、木材の塊を、全てその両の腕で弾き返すキリキザン……さすがはレンゲさんのポケモン、こういった状況にも慣れている
「[きりさく]!」
「かわして[めざめるパワー]」
凄まじい速度で接近するキリキザンを、紙一重で回避し、橙色の光の塊を放つゴチミル……その光弾は、吸い込まれるようにキリキザンに命中し、吹き飛ばした
「ッチ!めざ格とかピンポすぎっ!キリキザン![アイアンヘッド]!」
「[サイコキネシス]」
頭を白銀に輝かせ、キリキザンは再び接近するのに対し、ゴチミルもまた、怪しく瞳を輝かせた
「どうして[サイコキネシス]なんだ?悪タイプのキリキザンにエスパータイプの技は効かないのに……」
チェレンくんが素朴な疑問を放つ……嫌な予感がした────
────次の瞬間、トウコさんがキリキザンとゴチミルの間で直立していた……
「っ!?!?キリキザン!!よけて!!」
「!?」
寸でのところで、キリキザンは左にかわす、が……体のバランスを失ったのか、そのまま転んでしまった
「お馬鹿さん、ゴチミル、[めざめるパワー]」
ゴチミルの放った光弾は、キリキザンの意識を完全に奪い去った……
[サイコキネシス]はキリキザンに向けられたものではなかった……始めから歩美は言っていた、元から絶つと……だから歩美は躊躇無く、トウコさんに向けて技を放った、始めから身代わりにするために……
「……キリキザン、ごめん、ゆっくり……いや、急いで休んで、すぐに元気な姿を見せてね……」
レンゲさんがキリキザンを戻そうとボールを取り出した瞬間────
「────ゴチミル[10まんボルト]」
ゴチミルの[10まんボルト]が無常に、無慈悲に、意識の無いキリキザンへと放たれた……体はビクンビクンと痙攣を起こし、泡をふきながら、レンゲさんの前まで吹き飛ばされた
「…………キリキザン」
「怒っているんですか?腸煮えくり返っているのは私の方なんですよ?私と兄様の貴重な一時を邪魔した罪……ただの死で済まされるとでも思っているんですか?」
レンゲさんはキリキザンを優しく撫でた……撫でた手のひらから、ジュウ、という音が聞こえた……電流が流れたことにより、高温の熱を帯びていたのだろう、それでもかまわず、レンゲさんは撫でることをやめなかった……
「…………ごめんね、こういう戦いだって、分かってたのにね……」
いつものレンゲさんには似つかない、あまりにも優しすぎる声に、僕はレンゲという人間の本質を垣間見たようなきがした……
「……ゆっくり、たくさん休んでね……どれだけ時間がかかってもいいから、また元気な姿を見せてね……」
「っ!!歩美っ!!!」
僕は叫ばずにはいられなかった……目の前の少女は、相も変わらず無表情で、不思議そうにこちらを見ている……
「?どうかしましたか?兄様」
「どうもこうもありません!!キリキザンはすでに戦闘不能だったはずです!どうしてあんなことしたんですか!?」
「……えぇ、戦闘不能だった、ですよね?ってことはまだ死んでないってことじゃないですか」
もう、目の前の少女が何を言っているのか、僕には理解できなかった……
「にしても、しぶといですね……虫の息、というのでしょうか……」
まぁ、再起不能には変わりませんが……そんな言葉が放たれた……
目の前の少女が誰なのか、僕にはもう、わからなかった
「……ひどいよぉ……どうしてこんなことするの……?」
「…………」
ベルさんとチェレンくんは、目の前の惨劇に耐えかねて、目を逸らし、膝から崩れ落ちてしまった……しかし……
「……────…………」
トウコさんは依然、ゴチミルの前から動こうとしない……それどころか、指先の動き一つ、瞬きの一つせず、ただ、佇んでいた……
「…………トウコさん?」
呼びかけに応じない……トウコさんの目は光を失い、瞳孔が開いていた……
「っ!?トウコさん!トウコさん!!どうしたんですか!?」
返事はない、わずかな反応すらも……普通じゃなかった
「あぁ、この雌は今、私の人形ですよ?[サイコキネシス]で体の自由を奪い、ゴチミルの催眠術で意識を奪いました」
そういって歩美はトウコさんに近づき、髪の毛を掴んで地面にたたきつけた
「この雌も……この雌も兄様を惑わせる病原菌……しっかり消毒しないといけませんね……まぁ病原菌でも役には立ちましたけどね……」
でも……そう続けて、歩美はトウコさんの腹を蹴る……何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も……
「こいつはもう十分に役立ちました……なので、もういりません」
ゴチミルは手のひらに光弾を作り出す、その矛先は、倒れているトウコさん……
「歩美!!いいかげんにしてください!!もうこれ以上僕の大切な人を傷つけないでください!!」
「大切な人なんて、私がいれば十分でしょう?」
クスっと笑いかけてくる少女、その表情に、これから人を殺す、そんな杞憂や憂鬱感をまったく感じさせない、そんな笑顔だった……
「どうして……!どうして歩美はいつもそうなんですか!?どうして殺すことでしか解決しないんですか!?」
「……私は一番効率の良い方法で物事を進めるているんです、この先邪魔になる可能性の高い蛆が、蝿になるのを待つほど、私は暇ではないんです」
そう────歩美はいつもそうだった、可能性を潰してきた……僕の、歩美自信の、そして……
「……ゴチミル、[めざめるパワー]」
光弾は放たれた、まるでスローモーションのように、ゆっくりと、ゆっくりと、トウコさんに向かって迫っていく……そして……────
──────かたきうち
目を覚ました────自分でそう、意識が意識であると感じ取れていたとき、歩美の部屋は半壊していた
当の歩美の姿は見えず、レンゲさん以外の三人はまだ気を失っていた……レンゲさんの前には赤く染まった、両手に石柱を携えるポケモンの姿があった
「……ありがとう、ローブシン……」
ローブシン、そう呼ばれたポケモンの色が、赤色から、ゆっくりと肌色に変色していく……いや、あれが本来の姿なのだろう……
「……レンゲさん……」
「……キリキザンは、大丈夫だよ……なんてたって、私のポケモンだもん……」
レンゲさんの声は……震えていたのだろうか?僕には判断できなかった……
「……手錠、外すね?」
「あ、これ、歩美じゃないと外せないって……」
バキっ!そんな音が、僕の手首から聞こえる……音とは対照的に、僕の手首に痛みはなかった
「外し方なんて人それぞれだよ……ようは外れればいいの」
めちゃくちゃだった……でも、どこか安心したのもまた事実だった
「レンゲさん、歩美は……」
「……キミの妹は爆発に紛れて逃げたよ……たぶん、この街にはもういないんじゃないかな?」
逃げた────その一言を聞いただけで、僕は脱力し、肩の力が抜けた……張り詰めていた糸が切れ、僕の心は、ようやく開放されたのだった
「……妹さんはね、どこまでもヤナ君────キミを追い続けるよ……必ずね」
レンゲさんはそう確信しているようだった、この一戦で、歩美という人間を少し、理解したようだった
「…………レンゲさん、お願いがあります」
「……ん?」
僕はずっと考えていた……僕は強くならなくちゃいけない、チェレンくんとも、トウコさんとも、Nさんとも違う……僕自身を、皆を守る強さ……
「────僕を鍛えてください」
第四十二回、終了です
更新が遅くなってしまってすみません;
どういうわけか筆が進まなくなってしまいました;気合が足らないのでしょうか……
皆さんの期待には応えたいと、強く思っているのでどうか最後までお付き合いください
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!