やってきたのはBW!   作:エレンシア

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前回のあらすじ~!

砂漠の横断に成功しましたっ!


以上!


第四十七回~よいことわるいこと~

最悪だ……今まで何度もそう思う場面はあったが、これは群を抜いて最悪だ……

 

「なんで……ここにいるんですか……?」

 

目の前の銀髪の少女に、僕の心は戦慄する……

 

「愛ゆえに、ですよ……兄様」

 

そう言って微笑む少女に、僕は今すぐ逃げ出したい衝動に駆られる

 

逃げないと決めた、確かに決めました……でもこれは、いくらなんでも早すぎませんか?

 

「……まぁ、正直な話、帰る家が半壊してしまったので途方に暮れていたんです」

 

そういえば……レンゲさんの一撃により、歩美の家は半壊……全壊により近い状態になっていたことを思い出した……

 

「いい機会でしたからね、こちらに住居を移そうと思ったのですが……中々手頃な物件が見つからなくてですね、しばらくはポケモンセンターを利用しようと思ったわけなんですよ」

 

ベッドに腰掛け、足をぶらぶらさせながら、少女はあっけらかんと、そう言った……それで僕と相部屋になるってどうゆうことですか……

 

「やはり、私と兄様はどこか惹かれあっているんですよ」

 

「とりあえず漢字の間違いだけは訂正しないといけない気がします」

 

しかし……これはどうしたものだろうか……冒頭に話したように、現状は、最悪なのだ……

 

レンゲさんのいないこの状況で、僕はどうやって目の前の少女から生き延びればよいのだろうか……

 

「……安心してください、今はまだ、なにもしませんよ」

 

今はね────そう言って、少女はニコリと微笑む……嘘は、無いように思えた……

 

「……まぁ、今回は偶々ですからね……歩美を責めるわけにもいきません」

 

それでも、警戒心だけは解かないように気を付けないといけませんね……気が変わって何かする、という可能性だってないわけじゃないんですから……

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ、兄様の貞操に誓ってもいいです」

 

なんてものに誓ってるんですか!?むしろ今ので警戒するなとか無理ですよね!?

 

「フフッ……さぁ、兄様?」

 

ポンポンと、少女は自分の座っているベッドを叩く……え、どゆこと?

 

「寝ましょう?」ポンポン

 

「……ベッド、二つありますから」

 

「…………」ポンポン

 

「あの、ですからね?僕はこっちのベッドで寝ますから」

 

「…………」ポンポン

 

無言で、ただ微笑みながらベッドを叩き続ける……なにこれ、なんですかこれ……

 

「兄様?兄妹で添い寝をすることぐらい、世間では普通ですよ?」

 

「僕と歩美は今は血がつながっていませんよね?」

 

「じゃあ後ろめたいこともないじゃないですか」

 

そういって、歩美は僕の腕をつかみ、ぐいっっと引っ張る……僕の体が動くことはなかった

 

「……頑なですね」

 

「お互い様、ですよね?」

 

そういうと、歩美はクスっと笑い、掴んだ腕を放した……

 

「まぁいいです、今は何もしないと明言しましたからね」

 

歩美はゴロンと横になり、足をバタバタとする……今日の歩美はどこか違和感を感じますね……

 

どこが、と聞かれれば困ってしまうのですが、何かこう……押しが強くない?と言いますか、決して弱いわけでは無いのですが……う~ん……?

 

「寝ないんですか?」

 

僕が考え事に深けていると、歩美がこちらを無表情に覗き込む……相も変わらず、表情のパターンが乏しい妹ですね……

 

「いや、寝ましょうか……」

 

違和感の正体は分かりませんでしたが、別に気にする必要もないでしょう……意味もなく気にしすぎて結局何も無いなんてことはよくある話です、ソースは僕……

 

半ば投げやりに納得し、僕は眠りにつくため、ベッドの中へと体を忍ばせた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……兄様、もう寝てしまいまいしたか?」

 

毛布に包まって30分が経過した頃でしょうか、歩美は突然、何の前触れもなく僕に話しかけた……

 

「いえ……起きてますよ」

 

起きている、というよりは寝付けない、と言った方が妥当な気がします……どうにも落ち着かない……まぁ、相手が相手というのもありますが……

 

「兄様……申し訳ないのですが、少しお話ししませんか?どうも寝つきが悪くて……」

 

そういって、歩美は体を起こし、壁にもたれかかる……どうやら歩美も僕と似たような状況に陥っているご様子……

 

「いいですよ、僕もすぐには寝付けそうにありません」

 

僕も体を起こし、その場で胡坐をかく……時計を確認すると、短い針が11を少し越えた辺りを指している……まだ日を跨いではいないようだった……

 

「…………」

 

「…………」

 

おかしい、お話をしようと言っていたのに会話がない……なんでこの妹は黙ってるんです?

これは僕が話を振らないといけないんですか?いやでも話があるといった手前なにかしら話したいことがあるのでしょう……それを待つべき?むしろこちらから聞くべき?というよりも、なんで妹相手にこんなに気を使わないといけないんですか、寝たふりしておけばよかったです……

 

 

 

 

「……兄様は、自分が死んだと知ったとき……どう思いましたか?」

 

 

 

…………

 

 

 

「……死んだ、と思いました」

 

これはあながち嘘ではない……他に思うところもあるだろうと言われるかもしれませんが、真っ先に思い浮かべたのはそんな気持ち、怒りや悲しみ、というよりは虚無感?脱力感?そういった気持ちが大半を占めていた……

 

「兄様らしいですね、こっちに来てからはどうですか?」

 

「最初は大変でしたよ……しばらくの間は状況整理でいっぱいいっぱいでしたから」

 

自分の小さな手を見て、自分の体も支えられない足を見て、言葉が発声出来ない声を聴いて……もう大パニックですよ……異様に涙腺も緩くて泣き出してしまいましたよ

 

「まぁ、それも数日の間には慣れてしまいましたけどね」

 

 

「……慣れた、ですか……」

 

歩美は自身のモンスターボールを手で弄びながら、ポツポツと口にする……

 

「兄様はとても平和な家庭に生まれ育ったんですね、きっと、こちらに来てからは何不自由ない生活を送ってきたのでしょうね……」

 

言葉に棘のある言い方だった……それも、この少女の人生を考えれば理解でき……いえ、理解なんて、きっとできないのでしょう……だって、僕はそうやって過ごしてきたのだから……

 

「私はその日その日を生きることに必死でした……親のいない私がこれまで生きてこられたのは、私のパートナーのおかげでしょうね……」

 

モンスターボールをじっと見つめる……表情からは何も読み取れなかった……

 

「生きるためなら何でもしました、何でもです……兄様に再び会えると信じて、兄様とずっと一緒に居られる信じて、ただひたすらに生きてきました」

 

表情は崩れない……ただ一点にのみ視線が注がれていた……

 

 

「頭の悪い大人を騙しました、

 

 食べ物を盗みました、

 

 家具を奪いました、

 

 私に手を出そうとした大人を脅しました、

 

 偽善を振りかざす愚か者の人格を壊しました、

 

 邪魔な人間は潰しました、

 

 人間関係を引き裂きました、

 

 それらの人間の人生を終わらせました……」

 

 

ただ淡々と、自分の行いを口にする少女を前に、僕はどんな言葉をかければいいのだろうか……

 

 

「……兄様……私は兄様さえ居てくださればいいんです……誰が、なんと言おうとも……」

 

そう言って、懇願するような表情で僕を見据える……

 

歩美の行いは、世間一般的に言えば【悪】だろう……どんな理由があろうとも、誰かを傷つけてもいい理由にはなりえない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────そんなわけがない

 

 

 

こういったことを口にする人の多くは、客観的に、他人事で、自分とは無関係だからそう言えるのであって、主観的に、私事で、自分がその立ち位置になった時のことなんて考えもしないのでしょう……誰だって死にたくはないし、出来ることなら永遠に生きたいとまで考える人だっている、自分が生きるために、歩美は自分のできる全てをした、責めたてる理由がどこにあるのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────それもちがう

 

 

 

こういったことを口にする人の多くは、加害者で、蹴落とす側で、大義のためには犠牲がつきものとか言ってしまう人たちであって、自分を【大義のための犠牲】にはしないからそう言えるのでしょうね……少なくとも、歩美が生きるために、多くの罪のない人が傷を負った……この傷は身体的かもしれないし、精神的かもしれないが、少なくとも、本来は負う必要のない傷であったことには違いない……生きるためとはいえ、その人たちは果たして納得するのだろうか……

 

 

 

 

僕は言葉をかけることが出来ない……歩美の行いが正しいと称賛することが出来なければ、間違いだと糾弾することもで出来ない……

 

何も出来ない、してやれない……

 

 

「……兄様、泣いているんですか?」

 

「……ッ……!」

 

泣いていた……僕は無意識のうちに涙を流していた……僕はきっと、もっとも残酷な返しをしてしまったのではないのだろうか……

 

「フフッ……兄様は 優 し い で す ね」

 

憂いを帯びたその表情は、ニコリと僕に微笑みかける……

 

この涙の正体は…………同情、憐れみ……そんな最低の感情だった……

 

そして少女の笑顔の正体は…………僕を蔑む感情に他ならなかった……

 

「……ごめん……歩美……」

 

「……相も変わらず、兄様は兄様ですね」

 

そんなところも好きですけどね────そういって、少女は僕の目の前まで歩みより、その指で涙を拭った……

 

「優柔不断で、鈍感で、逃げ腰で、ネガティブで……優しい優しい兄様」

 

そのままその指は僕の頬を這い、その指は一本から二本、三本となり、最後には掌全てが、僕の頬を包みこむ……掌は、思ったよりも暖かかった……

 

 

「でも……兄様は私を見てくれない、私がどんなに兄様を思っていたとしても……兄様は私を見てくれない」

 

 

僕の前にストンっと座り込み、覗き込むように僕の前に顔を出す……笑っている、ようには見えなかった……

 

 

「でしたら……兄様が私しか見られないようにすればいい、私以外見ることが出来ないようにしてしまえばいい」

 

 

「……今度は、何をするつもりですか……」

 

僕は胡坐を崩し、歩美から少し後ずさる……嫌な予感……予感なんて生易しいものではない何かを、歩美から感じ取ることができた……

 

 

「私が報われるように、私たちが報われるように、その努力をするだけですよ」

 

 

ハイライト消えた瞳のまま、口元を大きく吊り上がらせる……僕はこれを、笑顔とは決して認めたくなかった

 

時計の短針は、12をとうに過ぎていた……




第四十七回、終了です!

今回のお話は正直意見が割れるのではないでしょうか?書いている自分ですらどうすることが正しいのかは、正直分かりませんでした
そもそも、これを善悪で判断すること自体が間違いなのかもしれませんね

因みに、万が一僕が歩美と同じ状況になったとしたら……きっと野垂れ死んでますね、人を騙したり傷つける度胸なんて僕にはありません、ビビリなので

ここまで読んで下さった方、ありがとうございます!
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