仁義礼智信勇忠孝悌和に通じた火影といえど、執務室から出れば一人の男である訳で…。
行きつけのスナックで飲み、ベロンベロンになって帰ってきたときの妻の寂しそうな顔を見た瞬間、酔いが醒めたりする訳で…。
しかし、懲りずに飲みに出たくなる時も男にはあるのだ。
今日は10月9日。彼の親友が里に帰ってくる日だ。火影は親友を連れて行きつけのスナックに行く。知る人ぞ知る、そのスナック。その名は“蛇の巣”
10万UA達成してから一年ほど経ってしまいましたが、なんとか上げることができました。
お待たせして申し訳ありません。
忍里、木ノ葉隠れの里の片隅にあるスナック“蛇の巣”。
ここでは酒とママの上手い手料理を楽しむことの他にもう一つ、楽しみがある。凄い人生経験をしてきたママとの会話だ。他の人とは違った人生経験をしてきたママの意見は何者にも勝ると言っても過言ではない。木ノ葉の里長がこのスナックのママと懇意にしているのもその人生経験から語られる話が里の運営へのアドバイスにもなっていることが大きな理由だ。……それは少し言い過ぎであるかもしれないが。
そんな“蛇の巣”が今日も開店する。
外観は他の多くのスナックと変わりはない。雑居ビルの一室にある“蛇の巣”が知る人ぞ知るスナックと言われるのはここにある。ママの趣味として経営しているので、宣伝等はなく、口コミや常連客の紹介だけだ。それで、この場所に一見さんが入る事はないといっても過言ではない。そんな“蛇の巣”に入っていく者は常連客しかいない。
入口についているベルが軽い音を立てて来客を知らせる。
「いらっしゃい。……あら、今日は二人で来てくれたのね。ナルトくん、サスケくん。」
「おう!久々にサスケが里に帰ってきたから連れて来たんだってばよ!ママ、腹減ったからガッツリしたものも食べてェ。」
ドアの前には二人の男が立っていた。一人は金色の短髪、もう一人は黒色の長髪。この忍界で最も有名な二人である。七代目火影、うずまきナルト。そして、その最も親しい友であり生涯のライバル、うちはサスケ。彼らは世界を救った救世主として大人から子どもまで知らない者はいない。
スナック“蛇の巣”の店主は彼らを眩しそうに見つめる。そして、掌をカウンター席に向け、二人を促す。ナルトは笑顔を浮かべながら店主が示した場所、カウンターの前の椅子を引いた。
「この店はまだ潰れていなかったんだな。」
ナルトに続いてカウンター席に座りながら皮肉を口にするサスケ。
「ママ!お任せで!」
「少し待っててね。すぐ用意するわ。……その前に。」
スナック“蛇の巣”は上手い酒と料理が自慢だ。
「おっ!」
ワクワクが抑えきれないナルトはカウンターの上へ手を伸ばし、店主の手から美しい小麦色の酒の上に新雪のような泡が今にも溢れ出てくるかのような飲み物を受け取る。
「はい、サスケくん。」
「フン。」
ナルトとは対照的にサスケは静かにジョッキを待つ。特に動きを見せないサスケであるが、サスケの口元は柔らかい。
サスケも度々、蛇の巣に来ており、ここの料理と酒の味は覚えている。幼い頃、木ノ葉隠れの里、有数の力を持ったうちは一族で一族を取りまとめていたうちはフガクを父に持つサスケの舌は鋭敏な感覚を持つ。味覚は幼い頃に受けた味の影響が作用すると言われる。サスケは幼い頃より一族の、そして、家族の繊細な料理を口にすることにより、その味覚は鋭く研ぎ澄まされている。そのサスケをも唸らせる“蛇の巣”の料理は推して知るべし。
サスケの前にジョッキが置かれ、同時に二人の前にお通しの鳥のタタキと、小皿に入った醤油が出される。
「乾杯。」
「乾杯。」
二人はジョッキを軽く合わせ、それを煽る。喉が動く度にジョッキから消えていく生ビールは二人に幸福感を与えた。
「かぁ~!」
「はっあっ~。」
満足そうに二人は笑い合う。
少年だった頃、初めての強敵と闘い、自分たちの力が遠く及ばないことを知り、その強敵に勝つために行った修行の後、その時も自分たちはこんな表情をしていたなとサスケはナルトの顔を見ながらもう一度、一人で小さく微笑みを浮かべる。
続いて、ナルトは席に用意されていた箸を手に取る。
鳥タタキ。小鉢の中に入った鶏肉が入っている。ナルトは器用に自分が好きではない玉ねぎを避け、箸で肉を持ち上げる。鶏肉を少し醤油に付け、それを口に含む。
表面を軽く焼いた後にスライスした肉。その表面の炭火の匂いがナルトの口内を刺激した。口を動かすと、コリコリとした食感が歯から頭へと骨伝導が繋がり脳を直接揺らす。しかも、それだけではない。卸したニンニクと醤油の匂いが鼻へと通り抜け、嗅覚を埋めていく。そして最後に、肉本来の味が咀嚼する中で際立っていく。
「旨いな。」
「ああ、丁寧な仕事だ。ママが違ったら、もっと旨く感じただろうがな。」
「サスケ、それは失礼だってばよ。」
「そうよ、サスケくん。」
二人の間に枝豆を置きながら店主は二人の会話の中にスルッと紛れ込む。
「昔の私と今の私は違うの。アナタたちと同じようにね。今の私は寂れたスナックの女主人でしかないわ。」
店主は二人を優しくじっと見つめる。カウンターの中にある調理台から油の跳ねる音が楽しげに彼らを包み込む。
「本当に大きくなったわね。」
「いつまでもガキのままじゃいられねェからな。」
「フフ、それもそうね。二人とも、父親だものね。」
「まあな。」
サスケはジョッキを再び傾ける。空になったジョッキをサスケがテーブルに置くと、既に空になっていたナルトのジョッキと共に店主が片付ける。そして、ナルトの前にビール瓶とコップを二つ置いた。
「ママ、サンキュー。……そういや、サスケ。お前、家には帰ったのか?」
ナルトは瓶を傾けてビールをコップに注ぎながらサスケに尋ねる。
「いや、まだだ。木ノ葉に着いたのが21時を回っていたからな。」
サスケはナルトからコップを受け取り、それに口を付ける。
「そっか……悪ィな。」
「気にするな。子どもは寝ている時刻だ。明日にでも会いに行くさ。」
「いや、今時の子どもは夜更かしするからな。ボルトもこの前、オレが帰ってきた時に起きていたし。」
「サラダは夜更かしをしない。サクラの躾は厳しいからな。」
「そんなことないってばよ。サクラちゃんがサラダを怒っている所は見たことがないし。」
「怒るだけが躾じゃない。」
「まぁ……分かるってばよ。」
枝豆の鞘を見つめながら、ナルトは頷く。何かをじっと見つめるのが、ナルトが考え込む時の癖だ。そして、最近になってそれは増えてきた。
チビリチビリとビールに口を付けながらサスケも枝豆に手を伸ばす。
きっと、親としての重責が肩に圧し掛かっているのだろう。ナルトは親と過ごした時間があまりにも短い。
月が地球に迫っていた事件を解決した後に、少ないがナルトと話す機会があった。サスケは、その時のことを思い出す。ナルトが父親、四代目火影と会ったのは、木ノ葉に“暁”が襲来した時と第四次忍界大戦でのほんの僅かな時間だけ。母親と会ったのは、九尾のチャクラをコントロールする時の修行だけ。
これだけでは、自分が親になった時に子どもにどう接していいか分からないだろう。自分は父フガクと兄イタチがいたが、女姉妹がいなかったせいか娘であるサラダへの接し方が上手く分からない。しかし、あの事件までではあるが、親が子に対する接し方というのはサスケは少しながら知っている。そんなサスケに対して、ナルトは家族と共に暮らした経験がほとんどない。そして、ナルトの妻であるヒナタも日向一族の宗家という特殊な家庭環境だった。
「サスケ?」
ナルトの声がサスケを現実に引き戻す。
「どうしたんだってばよ?」
「少し考え込んでいた。」
「子育てについてか?」
「まぁな。……ナルト、終末の滝で闘った時にオレが言った言葉を覚えているか?」
「覚えてるけど、どの言葉だ?」
「お前には家族がいないって言ったことだ。」
「ああ、初めて闘った時のか。あれはキツかったってばよ。サスケの言葉で、親も兄弟もいないオレがお前のことを分かってやれるハズがなかったって気づいた時は、な。」
「ああ。今、お前には家族がいる。そして、子どもも。オレが力になれることはないか?」
ナルトはサスケから目を外し、ビールを口に含む。
「こうして酒を飲んでくれりゃいい。オレってば、まだ良く分かんねェけど、子育ては子どもと向き合うことが大切なんじゃないかと思ってる。そんで、ぶつかり合って喧嘩もするかもしんねェけど……最後には分かり合える。お前と分かり合えたようにな。」
「……そうだな。」
「オレにとっちゃ、お前は兄弟みたいな感じだった。昔は、もしオレに兄弟が居たら、こんな感じなのかなって何回も想像したりしてよ。で、今はこうして本当の兄弟みたいな付き合いになってる。だから、お前とこうして酒を飲んだり、昔の経験を思い出したりしていたら、ボルトとヒマワリを育てる糧になるんじゃねェかなって思ってる。」
「そうか。なら、もっと飲まないとな。」
ナルトに微笑むとサスケは目の前のビールを煽った。
「飲むのなら、これはいかがかしら?」
店主は二人の前に一つずつ一合枡を差し出す。柔らかい色合いを醸し出す木目をなぞりながら、サスケは店主に尋ねる。
「これは?」
「ヒルゼンの恵。三代目火影が好んで飲んでいたものよ。」
「三代目の爺ちゃんが……。」
店主に勧められ、二人は枡を口に運んだ。
「なんか、キリッとする味だってばよ。」
「普通だな。火影ならもう少し高い酒を用意できるハズだが。」
「値段や美味しさよりも思い出の方が三代目にとっては大切だったのよ。昔に友と駆け抜けた時代を思い出すって言っていたわね。」
「思い出……か。確か、三代目は……」
サスケの言葉を店主が遮る。
「サスケくん。人は変わるものよ。ダンゾウもたくさんの人の死を見てきて変わっていったの。」
「そうか。」
「後悔……しているのかしら?」
「後悔はしていない、と言えば嘘になる。あの時、いや、オレが父さんを、母さんを、そして、一族を変えることができていればと何度も考える。」
「けど、そうやって想い続けることはアナタを傷つけ続けるだけよ。」
「それも分かっている。だが……。」
「痛みは忘れねェ。」
「ナルトの言う通りだ。」
サスケは大きく頷く。
「ダンゾウは敵だった。だが、ダンゾウのことを知った今では奴のしたことも理解はできる。だから、心が痛む。そして、その痛みがあるからこそ、オレは変われたのかもしれない。」
「オレの影響の方が大きいけどな。」
「……ウスラトンカチの言うことに頷くのは癪だな。」
「相変わらず素直じゃねーな。」
サスケは黙って酒を飲み込む。
と、サスケの鼻が匂いを捉えた。
「これは?」
「ヒルゼン焼そば。」
「さっきから何なんだ、ヒルゼンばかり。」
「そういう気分なのよ。それとも、私に準えて蛇酒がよかった?」
「やめろォ!」
「急に大声出して、どうしたんだってばよ、サスケ。」
店主から出された焼きそばを啜りながら、ナルトが不思議だという表情を浮かべる。
「蛇酒を飲んだら分かる。」
「フーン……ママ、その蛇酒っての頂戴。」
「分かったわ。」
「なぜ頼んだ!?」
「え?気になったし。」
「このウスラトンカチが!」
蛇酒。有名なものは猛毒を持つハブを酒に漬け込んだハブ酒ではないだろうか?
とにかく、味が独特で飲む人を選ぶ。それに、酒瓶の中に浮かんでいる蛇の白い目と目が合えば、初めて蛇酒を見た人は食欲が減退するのは請け合いだ。標本のように酒瓶の中で蜷局を巻く蛇。少年で、そして、純粋だったサスケには刺激が強すぎた。
過去を思い出すサスケは身震いをする。
「はい、ナルトくん。」
「おお、すっげーキレーだってばよ。」
ナルトの言葉にサスケは思わず首を傾げる。サスケの知る蛇酒は濁っていた。そして、特有の匂いが感じられたハズだが、今、ナルトが持つ猪口からはその匂いが感じられない。
それを不審に思ったサスケは隣からナルトの手を覗き見る。透き通りながらも確かに存在感を感じられる酒が入っていた。
「ママ、これはなんだ?蛇酒とは違うようだが。」
「そうね、違うわ。蛇酒は、まだ漬けてそんなに経っていないから今は出せないの。まぁ、どうしても飲みたいっていうなら出すのも一興だけどね。」
「やめろ。」
「ハイハイ。じゃあ、ナルトくん。それを飲んでみて。最近、仕入れたんだけど、それはウチで出せる最高のお酒よ。」
「分かったってばよ。」
猪口を煽ると、ナルトの舌に酒が絡みつく。
「んん!?」
瞬間、口の中を蹂躙するように香りが弾けた。その香りはナルトの口の中で出口を求めて暴れまわり、様々な方向に回転を始める。
もう待てない。
ナルトは口に入っている酒を喉に流し込んでいく。しかし、酒の勢いは止まらない。口から喉、そして、胃へと流れていく酒はナルトの満足を更に超えた感情を彼に与える。
「はぁー。」
感嘆。それだけがナルトにできる唯一のことだった。
「ナルト?」
「無茶苦茶、うめーってばよ。」
「ママ、オレにも頼む。」
「そういうと思って準備をしていたわ。どうぞ。」
サスケもナルトに続いて、猪口を煽ると普段はほとんど動きのない彼の表情が驚きと興奮、そして、喜びに彩られる。
「フフ。フフフフフフ。……旨いな。」
「ああ。」
大きく息を吐き出す二人。
「銘は“咸臨”。私の舌を唸らせた数少ない銘柄ね。それと、おいしいお酒にはおいしい料理を合わせなくちゃいけないわね。」
二人の前に腕によりを掛けた料理を次々と並べる店主。それを見て笑顔が零れるサスケとナルト。夜は料理と酒と笑い声を幸せの調味料にしながら、その色を深めていった。
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「う~呑み過ぎたってばよ。」
「全く。お前は羽目を外し過ぎる。」
肩を組んでナルトとサスケは千鳥足で木ノ葉の里の中を歩く。
「少し休憩するぞ。」
「あぁあ。」
「しっかりしろ。」
サスケは公園にナルトを連れ、公園のベンチに彼を座らせる。
「ん?ここは?」
「公園だ。新しく作ったのか?」
「んにゃ、オレは何も指示出してねーってばよ。長門の時に新しく作ったんじゃねーかな、確か。」
「フラフラだな。少し待っていろ。」
サスケは自動販売機に向かう。
「んーと、ここはあれだ。トネリと初めて会った時の公園だってばよ。アイツ、どうしてっかな……。そういや、安安のデート情報とか役に立たなかったし。ヒナタは街に出るよりピクニックの方が好きだったし。」
一人で呟くナルトを怪訝な目で見つけるサスケ。自動販売機のボタンを押すと、ガタンと音がして水のペットボトルを落ちてくる。それを取り、ナルトに近づく。
「ナルト、水だ。飲め。」
「おう、サンキューなぁ。」
サスケからペットボトルの水を受け取ったナルトはフタを回そうとする。
「開かねぇー。」
「貸してみろ。」
「んー。」
サスケはフタを開けたペットボトルをナルトに渡しながら、彼の横に座る。
「ナルト、今まで色々あったな。」
「ああ、たっくさんいろんなことがあったってばよ。」
「
「どうしたんだってばよ、サスケ。今日のお前、妙に素直じゃねェか?お陰で酔いが醒めちまったぞ。」
「素直にもなるさ。なんせ今日は……。」
サスケはチラと公園の時計を確認する。時計の針は12時を回っていた。滅多に見せない微笑みを浮かべたサスケは優しく声を掛ける。
「お前にとって大切な日だ。」
「へ?」
「誕生日、おめでとう。……ナルト。」
「は?あ…あ!」
「いつまで経ってもウスラトンカチだな、お前は。」
「うっせぇ。色々あって忘れてただけだってばよ。」
そう言って笑い合う二人はまるで少年同士に戻ったかのようだった。
「フフフ。」
見ていた。
人影が公園に隣接している雑木林の中から二人をじっと見つめていた。
「なかなか見応えがあったわよ、サスケくん、ナルトくん。……あら、もうこんな時間。片付けを終わらせないとねェ。」
その場から音もなく立ち去る歴戦の強者。
かつては、木ノ葉の三忍として名を馳せた人物は、今、趣味のスナックのママとして悠々自適に過ごしている。
その者の名は……大蛇ママ。