断頭颶風の神殺し   作:春秋

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断章 黒の騎士団

 

 

 

イタリアはサルデーニャ島にて。

地域的に見れば珍しい、東洋人の少年。

 

日本からやって来た彼は、連れの少女の言葉に首を傾げる。

 

「せいそう……じゅうさんきしだん?」

 

随分と大仰な響きに困惑を覚える彼に対し、ブロンドの髪を棚引かせる美しい少女が頷く。

 

「ええ、某帝国の秘密組織を元にした創作物に登場する集団。それが聖槍十三騎士団黒円卓というらしいわね」

 

創作物の内容までは熟知していないのだけど。

そう続ける少女の顔に、遊びはない。

 

「それを流用した呼び名が日本では畏敬の念を込めて呼ばれているわ」

 

語る少女の瞳に貫かれ、しかし少年は戸惑いを隠せない。

 

「十三騎士団って、このご時世に、しかも日本にそんな数の騎士団なんて……」

 

言葉尻が小さくなっていくのは、この地で経験した超常現象ゆえだろうか。

事情の説明を求める意思を読み取り、赤の少女が説明を進める。

 

「十三騎士団というのは、騎士団が十三あるのではなく、十三人で騎士団を構成しているということよ」

 

それを聞き、少年は疑念を深くする。

 

「だったら尚更おかしいだろ、たかが十三人で――」

「たかが、ではないから畏れられているのよ」

 

少女の瞳は真摯で、澱みない。

常はからかい好きな彼女のそんな姿に、少年もすかさず姿勢を正した。

 

「私も詳細までは知らないけれど、創作の騎士団の首領と現実の騎士団の首領には、ひとつ絶対的な共通点があるのよ」

「共通点……」

 

それを口に出すことそのものが恐れ多いかのように、少女は告げた。

 

「――神殺し」

「――っ!!」

 

神殺し。

現実で聞くにはあまりに陳腐なその言葉。

 

だが少女には、そして少年には重く重い意味を持つ単語。

 

「日本国に君臨せし王者が率いし、殺神のための勇士たち」

 

陰ながら囁かれるその名は――

 

 

 

 

 

メダリオンを持って帰国した護堂の前に、背広を着た男が音もなく現れる。

 

「正史編纂委員会、甘粕冬馬と申します――草薙王よ」

 

その第一声から隠された怒気を汲み取り、頬を引き吊らせる羽目になった。

 

「本来は室長の補佐的な仕事をしているんですが、現在はある部署の特命係に出向中でしてね」

 

イタリアから持ち帰った代物を鑑定すると言い出した冬馬は、説明がてら自己紹介を進めていた。

 

「退魔部神霊対策課、現世に出現した神に対して強制処理を執行する……要するに、神様退治の部門ですよ」

 

その中の言葉に、護堂はギクリと身を固める。

 

「一部の者たちは俗に、極東(きょくとう)十三騎士団黒円卓……などと呼ぶこともありますねえ」

 

まさに危惧していた名称が飛び出し、彼は波乱の予感を抱いた。

 

 

 

 

 

まつろわぬアテナと対峙し、死の先制を受けた護堂。

口から吹き込まれた冥府の吐息に視界が霞む。

 

しかし倒れる寸前で足の踏ん張りが効いた。

どころか、気付けば何事もなかったかのように体調が快復している。

 

その疑問を解消する答えが、いま背後に到達する。

 

「冥府の権能には覚えがあってね、しかもギリシア神群のそれならお手の物だ」

 

軽快に響く声には、それ自体が質量を伴っているかのような重圧感がある。

このような埒外の存在が発する威圧に護堂は覚えがあった。

 

ならばそう、背後に立つ男の正体はひとつしかない。

 

「……初めまして後輩君、少しばかり手を出させてもらうよ」

 

ゆっくりと振り返る。

歳は成人して間もないように見えるが、纏う貫禄が並ではない。

 

護堂とて年の割には風格が垣間見える傑物だが、これはそんな程度の生易しさからは遠い。

 

「俺は石上鉄也という、仲良くしてくれよ?」

 

凄みを見せて威圧している部分もあるのだろう。

だがそれでも、ただ思ったのだ。

 

(――――綺麗だ)

 

とても綺麗な、芸術のような刃の波紋を見ているような。

それが本質を突いた並々ならぬ感性と直感の成せる技だというのを、彼は自覚していない。

 

だが、その姿に強く憧れた。

そのことだけは、よく理解していたのだった。

 

 

 

 

 

 

そして彼は遂に――

 

「エリカ、俺はあの人に近付きたい。あの高みへ俺も行きたい」

 

だから、そう言って左手に愛しい重みを抱き抱えた。

 

「頼む。俺の女だというのなら、俺に知識(ちから)を貸してくれッ」

 

赤の少女は……忠義(あい)を捧げし女は彼にその身を委ねた。

 

「ええ護堂、わたしの護堂――わたしが導いてあげるわよ、あなたは天に君臨する王なのだから」

 

斯くして魔王の片割れは、象徴たる黄金を抜き放つ。

 

 

 

 

 

「歓迎するよ後輩君、特命係にようこそ」

 

朗らかに笑い、次に高みから睥睨した。

 

「ああ、本当に歓迎するぞ――我が盟友(こうはい)

 

玉座に君臨する彼は、躊躇いなく右手の席を指さした。

 

同格(おまえ)が座るべきはこれ、ⅩⅢ(ドライチェーン)しかないだろう」

 

未だ半数近くが空席の黒円卓を見渡し、それも満足げに笑う。

 

「最も難関たる双首領の席が埋まったとなれば、後はいずれ揃う。その時を待つのもまた楽しみだ」

 

颶風の王は笑いに笑う。

黄金を象徴とする魔王が己と並び立ち、そして副首領の座に着く事実を寿いで。

 

「さあ、今宵の歓迎会(グランギニョル)を始めようか」

 

 

 






なお、後で盛大に赤面した模様。

という事で、思いついたIFネタを投稿しました。
護堂は出そうかどうか悩んでやめた記憶があったけど、これを思うと出すのもいいかもしれないなんて思うように……タイトルはミスリード狙い的なアレなので、お気になさらず。

はい、本編もちゃんと近日中に再開します。
息抜きに積みゲーを消化したらハマったという罠。違う、これは孔明の罠だ! だってやってたゲームの題材が三g――何とは言いませんが、とりあえず一言だけ。

おのれ袁紹ォ――ッ!!



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