私は(神座キャラの)総てを愛している!
同志たちよ――フローエ・ヴァイナハテン!
日本列島の本土より遠く離れた無人の孤島。
見晴らしの良い平地に佇む二つの人影。
和装の男女が緊張の中で向かい合っている。
一つは我らが羅刹王、石上鉄也陛下その人。
一つは地上に顕現せし神、まつろわぬ蜃。
それを四方八方に設置された呪符及び監視カメラを通し、近くの離島でつぶさに観察する人影もまた二つ。
こちらも男女であり、それぞれ部下と上司の関係。
誰あろう甘粕冬馬と沙耶宮馨であった。
「という事で対神戦の監視――もとい観測にやって参りました。実況は正史編纂委員会東京分室室長・沙耶宮馨さん。解説は私、甘粕冬馬がお送りいたします」
冬馬がいつもの笑みを向けた先には、小型の録音機材がセットされていた。
「面白そうだから実況はいいけど、これは誰かに見せるのかい?」
「ええ、石上さんのご両親に。ノーカット版の戦闘シーンと、私たちの解説が入った編集版の二種類を提出するようにと、彼のお父上から打診がありましてね」
「……なんというか、あの親にしてこの子ありの一種だね彼ら」
馨は呆れつつ横目で冬馬を見て、類は友を呼ぶでもあるかと嘆息する。
因みに彼女、時々会話に着いて行けなくなるので、一応右腕として知識は仕入れていた方がいいだろうと三つのPCゲームを取り寄せていたりするのだ。
……委員会に
「――っと、はじまるみたいですね」
「お互いに名乗り上げから、まさしく決闘という風情だね」
両者は初撃からぶつかり合い、設置されたスピーカーからも豪快な衝突音が響いて来る。
※以下、音声のみでお楽しみ下さい。
「お互いに後方へ弾かれ合ったけど、蜃気楼の方が……幻影? もしくは分身したね」
「ほうほう、可能性拡大が現実に起こるとこう見えるんですか。幻影か分身か。元ネタ的にどちらでもありどちらでもない、という感じでしょうかねぇ」
「分身の追撃を受けた石上さんが纏めて斬り払ったね。おっと、続けて冥府の風だ」
「馨さん、風ではありません。
「ん? だから風だろう?」
「いいえ
「分身が消えて本体だけになったね」
「いえいえ馨さん、彼女に本体とか分身とかの区別は関係ないのですよ」
「それはどういう……斬り付けたはずの切創がない?」
「ええ、あの程度では彼女の蜃は斬れても――芯までは決して届かない。なんて、ちょっと正田卿的な表現じゃなかったでしょうか?」
「……シン、蜃、蜃気楼。本体と分身の区別、可能性拡大…………なるほど、そういう絡繰りか」
「無視された上にネタバラシより先にネタバレした。な…何を言っているのかわから(ry」
「右拳を避けた先に右拳が、それを更に避けると今度は膝蹴り、最後に右肩に左踵落としを決めながら左肩に右踵落とし。随分と芸達者というか、奇天烈な神様だね」
「まつろわぬ蜃そのものはこんな異能を持っていないでしょうがね。彼女は異例であり特別、私や石上さんのような人種だからこそああまで強化されてしまった悪い例ですな」
「ねぇ甘粕さん、神速の権能っていうのは人間たる我々に目視可能な程度の加速じゃないよね?」
「この場合は石上さんが特別なのでしょう。能力の内容的に、加速率は精神状態に影響されてそうですしね」
「……それも例の作品が由来なのかい?」
「ええ、言うに及ばずその通りです」
「久々に見たね腐食の権能。実質、使用は二回目かな?」
「軍勢変生・無間叫喚! さすが石上さん、期待に応えてくれますね!」
「被害が大きいから本土では自重してくれていたけど、まぁあの島なら人的被害はないから構わないか。ところで甘粕さん、石上さんの雰囲気が急変したようだけど、なぜか分かるかい?」
「そうですねぇ、今の心情を端的に言い表すなら……『透けてんだよォ、霧に殴られて効くか阿呆がァ!』といった所でしょうか」
「神と魔王のリアル鬼ごっこ……」
「リアルで見る首飛ばしの
「っ! こんなところにいつから!?」
「――姿を隠すどころか認識を妨害すらしていますね、ここまでの隠形はとてもとても」
「石上さんも気付いたらしい、そっちに向かっている」
「おや、妨害を迂回するのに海上を走っていますね。やはりそれくらいは当然のようにやってのけますか」
「誘導されているっ、流石に巧みだなぁ」
「おおっ、陀羅尼孔雀王ですよ馨さん!」
「いや、言われても分からないんだけどね……」
「…………甘粕さん、衝突した力が飽和状態になっているようなんだけれど」
「…………均衡が崩れたら爆発しそうですね、周辺の海域も巻き込んで」
「逃げようか!」
「逃げましょう!」
一時間後、冬馬と馨は海を漂っている鉄也を確保(救助に非ず)する。
「さて甘粕さん、事後処理はよろしく頼んだよ」
「……かしこまりました」
甘粕冬馬の受難は続く!
羽撃鬼さんの感想を受けて、よし獣殿のように