断頭颶風の神殺し   作:春秋

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鉄也は現在、沙耶宮馨との会談に備えて待機している。

何かと顔を合わせる事が多くなった馨から、権能について教えて貰えないかと打診を受けたのだ。

 

待ち合わせの時間になって、玄関の呼び鈴が鳴った。

 

共にいた甘粕冬馬という黒スーツの男も交え、まずは定例の情報交換。

国内の自治やら国外の騒動やら、そういったものだ。

 

それに一段落ついて、遂に本題に入った。

 

「俺の権能ねぇ……」

「すべてを明かせと言っている訳じゃありませんよ。ただ、ヘカテーから簒奪した死の権能、としか情報がないですからね」

 

鉄也からすれば、一つしかない権能の情報は生命線だ。

おいそれと話すのも気が引ける訳だが……

 

「私たちからすれば、まぁ壊滅的な制約でもあれば事前に知っておきたいなということでして。触りだけで構いません、何卒ご教授願えないでしょうか」

 

馨に続き冬馬が頭を下げた。

そこまで言われて、鉄也も少し考える。

 

詳細を省いた大まかな説明くらいはしておくべき、と結論付けた。

 

なので強いて言うなら、と。

ヒント程度にとある言霊を紡いだ。

 

「ギロチンに注ごう飲み物を、ギロチンの渇きを癒すため――なんて」

 

十中八九分からないだろうから、追って解説しようと思っていたらだ。

 

ピクッ、と反応したのはスーツの男。

恐る恐るという風に、しかしハッキリと切り出した。

 

正義の柱(ボア・ド・ジュスティス)、ですか?」

 

この台詞に対してこの発言という事は、もしやこの男……

少し考え、間を空けてから唐突に呟く。

 

「……時間が止まればいいと思っていた」

「――今が永遠に続けばいいと思っていた」

「この日常が終わって欲しくないっ」

「いつか終わると分かっていてもっ!」

 

徐々に語調が強まり、終いには互いに身を乗り出して握手。

その後も確かめるべく次々と口に出していく。

 

「土台戦争、単体では成立せぬ概念よ」

「ならばこそ敵を、求めるゆえに部下を」

「愛し、率いて、壊すのみ!」

「私は総てを愛している!」

 

遂に歓喜してハグまでしだした。

まさか業界に趣味を理解してくれる相手がいようとは思っても見なかったのだろう。

 

互いに凄まじいはしゃぎようだ。

そして両者は更なる符丁を開示し始める。

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」

「五つの力を司るペンタゴン。我の運命(さだめ)に従いし使い魔を召喚せよ!」

「無限の時は鼓動を止め、人は音もなく炎上する」

「誰ひとり気付く者もなく、世界は外れ、紅世の炎に包まれる」

 

わあー、と興奮する二人に付き合いきれず、沙耶宮馨は静かに退室した。

 

 

 

「いやーごめんごめん、つい盛り上がっちゃって」

「いやー面目ない。石上さんがここまで話の分かる方とは思わず」

「……いや、いいんだけどね」

 

王と友好的な関係を築く分には文句はないと、先ほどの光景は忘れることにしたらしい。

懸命な判断である。

 

「つまり俺の権能は、三つの種類に分けられる。死の風を喚ぶ力と、死を腐食毒として撒き散らす力、そして不死殺し」

「不死殺し、ですか?」

「そう。冥府神の権能として、不死たる神でも冥府に連れ去る事ができる。ヘカテーはゼウスから天地海を自由に行動できる権限を与えられたりしているし、天界からだって冥界に引っ張っていけるって訳です」

 

故にヒントが罪姫・正義の柱(マルグリット・ボア・ジュスティス)

不死の英雄(エインフェリア)すら殺す断頭の女神。

 

むしろ不死殺しが本命で、後の二つは余技に過ぎない。

という言い方をすると激痛の剣(ザミエル)っぽくて格好良い気がする。

 

「どっちかというと、軍勢変生の天魔・悪路ですな」

「ですです。さすが甘粕さん、分かりやすい」

「……いや、いいんだけどね」

 

一応の概要は分かったし。

そう語り遠い目になる馨であった。

 

冬馬はその心中で普段の仕返しなどと思っていた、かは定かではない。

 

「にしても石神神道流とはまた、美味しい設定ですね」

「お陰で蝿声を練習しちゃいましたよ」

「ほう! それはそれは、お好きですねぇ」

「まあ呪力量が馬鹿みたいに上がりましたから、威力調整が大変でしょうけどね」

 

太極とは言わないまでも、畸形or唯我ブーストを受けてる感じだ。

 

「古参のカンピオーネは太極位と言われても驚きませんけどねぇ」

「そう言われると、否定できないような気も……」

 

ひょっとして神殺しの魔王ともなれば、下位の求道神くらいにはなるんじゃなかろうか。

 

噂に聞く侯爵閣下は狼的にシュライバー一択。

魔教教主は拳法的に紫織か、はたまた文武両道的にエレオノーレか。

ちょっと毛色は違うが、傲岸な天才で夜行様という線もあるか。

 

ここまで考え、あまり違和感がないのは何故だろう。

絶対に自分を曲げない超越者、という部分が似通っているからだろうか。

 

「なら目指すは斬滅の剣鬼という事ですね」

「それじゃ場合によっては教主と殺し愛に興じなきゃいけないじゃないですかやだぁ、顔を見た相手の目を抉り出す人とか嫌ですよ俺……」

 

……って、あれ?

廬山に引きこもってるから性別不詳なんだけど、教主って男女のどっち何だろうか?

 

「羅濠教主って、男性ですか? 女性ですか?」

「そのへんの情報は出回ってないですからねー」

「カンピオーネの方々ほど実態の分からない存在はないですからね。もしかしたら、絶世の美女という可能性もあるかもしれませんよ?」

 

どっちにしても物騒な噂の絶えない人は勘弁して欲しいと思う鉄也であった。

 

 





教主なら求道神と言われても疑わない。
生きるのに水も空気もいらず、成長しないが肉体年齢が可変で、武術と方術を極めているという事は蜃気楼さんみたいな真似もできそう。

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