断頭颶風の神殺し   作:春秋

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ずっとキーボードと格闘していて思いました。
私は戦闘描写より日常描写の方が苦手だったみたいです。委員会参入後の日常業務とか書こうとしたのですが、全然指が動いてくれません。

ということで、さっさと次の敵を出しちゃいましょうねー。





 

 

 

式神(しきがみ)

陰陽師が使役する人ならざる鬼神、式鬼(しき)式鬼神(しきがみ)とも書かれる

 

ここで言う鬼神とは文字通りの妖怪変化であり、時には神霊や荒御魂(あらみたま)も指す。

鉄也的に表現すれば「丁禮(ていれい)爾子(にこ)のこと」という一言で済ませるだろう。

 

つまり何が言いたいのかと言えば……

 

「この仔を式神にしてやりたいんですが、かまいませんねっ!」

「構いますよ何を言ってるんだあなたは」

 

沙耶宮(かおる)が即答で斬って捨てた。

石上鉄也がこんなことを言い出したのは、数時間まえの騒動に担を発する。

 

 

 

 

プルルルルルルルルルルルルルルル!

 

東京の一角に建つビルの一室に電話の音が鳴り響く。

多くのデスクが並ぶ中で、その一つに男が一人だけ座っている。

 

プルルルルル――ガチャッ!

 

その一人だけの男、黒いスーツを着た鉄也が受話器を取った。

 

「はいもしもし、コチラ特命係ぃ」

 

この名乗りはふざけている訳ではない。

 

正史編纂委員会東京分室、退魔部神霊対策課、特命係係長。

この春から増えた鉄也の肩書きである。

 

神霊対策課自体が新しく作られた枠組みであり、特命係とは即ち討伐による処理を行う部隊を意味する。

つまりは神殺し専門の部署ゆえに鉄也しか所属していない。

 

その特異性から、部下を持たない某警視庁特命係に似た特別待遇だ。

この場合の特別待遇は、もちろん良い意味で。

 

そんな訳だから、基本的には通勤だけして簡単な事務処理を手伝って帰るような毎日だ。

 

『どうも石上係長、僕です。こうして仕事用の内線でかけている事からわかるように、なかなかの事件ですよ』

 

こんな電話が来ない限りは。

 

相手は沙耶宮馨東京分室長。

鉄也の上司であり雇い主であり、裏政治的には部下で右腕と言えるだろう。

 

欧州魔術界の方々には、サルバトーレ卿に政務を任されたアンドレア卿と言えばイメージしやすいかもしれない。

 

「こんにちは沙耶宮室長、とりあえずまつろわぬ神ではなさそうですね」

『ええ、連絡があったのは埼玉の三峯(みつみね)神社から。神使(しんし)として祀っている狼が顕現したとのことです』

 

神使とは、読んで字の如く神の使い。

神の意を代行する眷属であったりを意味する。

 

三峯神社で守護者として祀られる狼が、神獣として顕現しているらしい。

今は在中だった巫女たちが神社の結界で抑えているが、それもどれだけ持つか分からない有様だという。

 

『そんな訳で、そちらに車を回して貰ってます。急いで向かってください石上係長』

「了解しました、沙耶宮室長」

 

と締めくくったはいいが、ここで鉄也が流れを切って脇道に逸れる。

 

「しかしまぁ、何というか……特命係の係長とか言われると某ただの(・・・)係長を彷彿とさせますね」

『それはそうでしょうとも。なにせ、係長にしようと言い出したのは甘粕さんですから』

「あの人ちょっと俺をおちょくり過ぎじゃねえ!?」

『ちなみに、特命係と命名したのは僕です』

沙耶宮室長(ブルータス)、アンタもか!」

 

本当に愉快な職場である。

色々と退屈はしないようでそこに不満はない鉄也であった。

 

 

 

 

 

修羅曼荼羅・豺狼(シュライバー)キタ━(゚∀゚)━!」

 

現場に到着した鉄也の第一声である。

色々と酷いのはいつものことだ。

 

「ゴホンッ……戯れ言は後にして、先に片付けた方が良さそうだな」

 

神獣を抑えている巫女たちに礼を述べ、結界を解いて体を休めてもらう。

時間にして一時間弱と言えども、人間にはかなりの重労働だったはずだ。

 

刀を持たず丸腰のままで近付くと、それでも警戒しているのか唸りを上げて姿勢を低く身構えている。

 

「言葉が理解できるか分からないけど、とりあえず俺の心構えとして聞いておく。このまま牙を仕舞って不死の領域に帰る気はないか?」

『ウゥゥゥガアアアアアアアアア――ッ!』

 

神社の屋根とそう変わらない高さにある大口が咆哮する。

 

どうやら帰る気はないらしい。

となれば、もうやることは決まっている。

 

「退魔部神霊対策課、特命係係長、石上鉄也。護国の任を受けし者として討伐を開始する」

 

この名乗りとて意味がある。

魔王が正史編纂委員会という組織に組みしているというアピール。

 

委員会の権威を誇示し、魔王への畏怖を緩和する目論見だ。

まあ当の鉄也とて、カッコ付けたいという思いがないではないが。

 

何はともあれ、初の実戦となる布都御魂のお披露目だ。

 

梵天王魔王(ぼんてんのうまおう)自在大自在(じざいだいじざい)除其衰患(じょごすいがん)令得安穏(りょうとくあんのん)

 

手中に収まったまつろわす霊剣が大狼を前に鳴動する。

守護を請け負う神使と言えど、無辜の民を襲うならば化外(けがい)として討つのみと。

 

葦原中国(あしはらなかつくに)を平定した神代の宝剣が戦意を高めた。

 

諸余怨敵(しょよおんてき)皆悉摧滅(かいしつざいめつ)――首飛ばしの颶風・蝿声」

 

静かなる宣誓により放たれた刃風。

敢えて権能を使わず己の斬気のみで撃ち放ったそれは、確認の意味を込めたある種の当て馬に近い。

 

現に神獣は巨体でありながら軽やかに躱し、被害は石畳を穿つ程度に留まる。

 

(やっぱり、蝿声は強くなったけど弱くなったな……)

 

その光景から矛盾した事実を確信する鉄也。

 

甲の第二・蝿声は使用者の殺意・戦意・斬意によって威力を増す。

逆に言えば、戦いに乗り気でなければ自然と規模は低下する。

 

神殺しとなった事で膨大な呪力により火力は底上げされているが、神が相手でなければ斬気が絶頂に至らず振れ幅が大きい。

 

まつろわぬ神と相対すれば最高潮のコンディションとモチベーションで安安と限界を超えて行くのだが。

これではそれ以外に対して、剣技としては欠陥品となってしまった。

 

真なる殺意が込もらない剣などまさしく木偶の剣。

実力差を鑑みれば確殺するべき相手でも、万が一、億が一くらいには生き延びられるかもしれない。

 

そう、例えば御前試合の龍水のように。

 

この先、これが致命傷とならなければいいのだが。

嘆息した鉄也は、それでも隙を見せぬまま灰狼の前に立つ。

 

神の使いは、静かに隙を伺っていた。

 

 

 

 


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