真剣で私に恋しなさい!AA   作:あんかけパスタ

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あずみさんの妊娠直後、もしくはしばらくしてからの話。
超絶ネタバレ注意です。あずみさんは可愛いです。


あずみとの未来の始まり

 九鬼家従者部隊。

 世界中から集められ、日々その力を研磨して九鬼の為に尽くす。世界に数多くいるであろう従者達の中でも、正に生え抜きのエリート集団である。1~999番までの従者が存在し、その力はあの川神とも肩を並べるのではないかというほど強大な組織なのだ。

 そして九鬼の従者は人種、性別、思想などの要因を全て無視した編成を行っている。つまり敵対している国の人間がいたり、トップは女性であったり、とある国では危険思想である、と断言された人間までいるのだ。九鬼が従者部隊に求めているのは唯二つ、九鬼に相応しい能力と九鬼に対する忠誠心のみである。それ以外の要素を全て無視する事によって、九鬼の従者は高レベルの人材で纏まっているのだ。無論、この思想が九鬼をここまで強大にしたと言っても過言ではないだろう。そして、そんな猛者達が集う九鬼従者部隊の中で、一際異彩を放つ人物がいる事をご存じだろうか?

 彼の名は「直江 大和」。九鬼従者部隊序列21位、「薔薇の従者」という異名(本人は不服である)を持つ。元々は九鬼の一人である「九鬼 紋白」が専属従者として招き入れたのが、九鬼従者部隊に入る事になったキッカケで、何か特殊な能力を持ったり、身体能力が格段に優れていたりした訳ではない。事実、「直江 大和」が「九鬼 紋白」の従者というだけの立場であったなら、従者部隊の21位などという地位に就く事はなかったであろう。

 そんな彼が努力し、全てを懸けて九鬼の中でも確固たる力と地位、そして強さを求めたのは……たった一人の女性の為であった。

 これは、一途にその女性だけを求め続けた「直江 大和」という青年と、一途過ぎて不器用な女性の取りとめもない話の一幕である。

 

 

 

 

―九鬼 本社ビル前―

 

 川神に立つこの巨大建造物は、九鬼が所有するビル……それも現当主である「九鬼 英雄」やその姉である「九鬼 揚羽」、そして今や世界中の人材を網羅していると言われている末の妹、「九鬼 紋白」が拠点としている、名実ともに九鬼の本部とも言えるビルなのである。当然、テロや誘拐等の要素を警戒してかその警備は尋常ではなく、従者部隊の1~100位以内……九鬼従者部隊の上位陣と呼ばれるメンバーが常に控えており、最新鋭の警備システムや、つい最近開発された量産型クッキーと呼ばれるロボットも徘徊している。それもあってか稀に観光客は来るものの、普段は波の音以外は非常に静かなのが、九鬼ビル周辺では常識なのだ。

 しかし、今日に限ってそれは崩されていた。いや、正直に言えば別に五月蠅い訳ではなく、端から見れば分の九鬼ビルの様子と変わりないだろう。しかし、九鬼ビルの玄関前にいるメンバーだけは、明らかに普段と違う様子を垣間見ていた。

 

「あずみさん、絶対に無理しちゃ駄目ですよ。もうあずみさんだけの身体じゃないんですからね!」

「あぁ、ハイハイ。分かったっつーの」

「昨日の分のデータは昼までに纏めて送ります、ついでにあずみさんの石鹸は俺の部屋の風呂場にある右の小物入れに。あとそれから……」

「分かったって言ってんだろ! 良いからさっさと行け、このタコス!」

 

 九鬼の玄関前で妙な言い合いをしているこの二人……一人は「薔薇の従者」こと九鬼家従者部隊序列21位「直江 大和」、もう一人は「女王蜂」の異名を持つ九鬼家従者部隊1位の頂点に立つ女性……名を「直江 あずみ」という。大和は今からどこかに行くのか鞄を持ち、あずみはそれを見送りに来たのか特に何も持たず、普段の仕事着であるメイド服である。この二人の口論(基本的にあずみが罵声を浴びせている事が大半であるが)は特に珍しいものではないが、流石に九鬼のビル前で行うのは珍しい。そんな二人に興味津々といった様子で通りがかる従者や社員は立ち止まって視線を向け、この口論の発端とも言える人物……大和の主である「九鬼 紋白」はそんな光景を見て笑顔を浮かべている。が、紋白の後ろに控える男性……「ヒューム=ヘルシング」は普段と変わらない様子で紋白の後ろに着き、小声で呟くように口を開いた。

 

「紋様、これ以上遅延しては飛行機に間に合わなくなります。あの二人の会話が楽しいのは分かりますが……そろそろ時間の限界かと」

「む、そうであるか?」

 

 ヒュームに向き直り、紋白は少しふてくされたように口を開く。無論、その表情は演技である。九鬼たる者が時間に遅延などする事は許されず、紋白もそれは理解しているのだ。ただ、この二人の夫婦漫才が紋白の楽しみの一つという事に変わりはないが。

 

「本当なら、我はこの時期にあずみの傍に大和を置いてやりたいのだ」

「分かっております、紋様はお優しい」

「しかし、今回の仕事に大和の力は欲しい。色々と頼りにしているのでな」

「直江は赤子ですが、紋様の期待に応えてはくれるでしょう」

「うむ! で、あるな! 大和、そろそろ出発の時間であるぞ、供をせい!」

 

 紋白のハッキリとした声が響き渡る。

 

「ほら、紋様を待たせてるぞ、あたいは大丈夫だから、早く行きな」

「うん、分かってるよ。でもとにかく……」

「大丈夫だって言ってんだろ。体に不調はねぇし、何より李やスティシーもいる。英雄様にも言われてるし、無茶しねぇさ」

 

 そう言ってあずみは不敵に微笑んで大和額を小突く。それに笑顔を浮かべると、今度こそ大和は紋白が待つ車へと向かっていった。運転席の後ろにいる紋白の隣に座ると、車が発進する。

 

「すみません、紋様」

「気にするな。何より、こんな時期にあずみと引き離してしまうのは本当にすまんな」

「いえ、私は紋様の従者ですから。それに、本社にいる限り心配はそれ程してませんよ」

「それでも、だ。大変な時期であるからな」

「はは、それでも紋様は出かける前にあずみさんと話す時間を作って下さいました。それだけで気持ちに整理がつけれましたよ」

 

 今回、紋白は欧州方面へのスカウト、及び九鬼の欧州支部への視察を含めた仕事をしにいくのだ。当然、紋白の専属従者である大和はそれに着いていく必要がある。また、大和の父は欧州方面で莫大な影響力を持っており、それらも必要であるのだ。

 

「ふふふ」

「どうされました、紋様?」

「いや、何。我の専属従者も父になるのだと考えて、少し嬉しくなってしまってな。それに楽しみで仕方ない自分がいるのだ」

「紋様……」

 

 「忍足 あずみ」が「直江 あずみ」と姓を改めたのは、およそ三カ月前の六月一日の事である。そしてつい先日、あずみの懐妊が判明したのだ。現在妊娠一カ月と少しであるという。

 

「従者の子は我の子も同然、それが嬉しくて嬉しくてつい笑顔が零れてしまったわ!」

「勿体ない言葉です、紋様」

「フハハハ、気にせずとも良いぞ。大変めでたい事であるからな!」

 

 紋白の快活な笑いが車内に響く。

 

「……だからこそ、今回大和をあずみから離してしまう事を本当に申し訳ないと思っておる。が、我は今回の仕事にお前の力が必要であると感じた。勤めをしっかり果たせ、大和」

「心得ました、紋様!」

「うむ! 頼りにしているぞ!」

 

 主から頼りにされている。あずみの事は心配であるが、まずはその心にしっかりと応えなければ、従者失格どころかあずみにも呆れられてしまうだろう。まずは目の前の事からしっかりとこなしていく。

 大和はそう心に決め、一度だけ九鬼ビルへと視線を向ける。そこにいる愛しい人の事を思い浮かべ、今回の仕事を最良の形で終わらせようと決めるのだった。

 

 

 

 

「ったく、やっと行ったか」

 

 大和とその主である紋白が乗った車を見送ったあずみは、溜息を吐きつつ呟くように口を開いた。大和が自分を心配してくれる事は嬉しい事だが、だからといって仕事中に私情を持ちこんで良い訳が無い。紋白が何も言わなかった(むしろそれを見て和んでいた)から良いものを、普段なら懲罰ものだ。

 

「お前等もいつまで見てんだ、サッサと仕事に戻れ!」

 

 周囲で先程の自分達を見物していた従者達に檄を飛ばすと、蜘蛛の子を散らす様に仕事へと戻っていく。これは仕事のマニュアルと規律を今一度厳しくする必要があるな、とあずみは考えながら仕事場である英雄の元へと向かう。自分や李、ステイシー、大和等がここまで仕上げた若手主導の体制を、小さなミスで台無しにする訳にはいかない。ただでさえ未だに年寄衆は若手主導の体制に不満を持っている者も少なくはないのだ。

 具体的な内容を考えながら進み、英雄の部屋の前に到着する。そこであずみは軽く息を整え、服装の乱れや髪の乱れがないかをチェックする。特に問題がないと判断し、あずみは部屋をノックする。

 

「英雄様、あずみで御座います。入ってもよろしいでしょうか?」

「む、あずみか? 遠慮はいらん、入るが良い!」

「失礼します、英雄様!」

 

 扉を開けて部屋に入る。そこでは空中に浮かぶディスプレイに視線を向け、それらを操作している「九鬼 英雄」の姿があった。あずみは満面の笑みを浮かべて口を開く。

 

「英雄様、ただいま戻りましたぁ!」

「うむ、直江の見送り御苦労であったな、あずみ」

「いえ、むしろ気を使って頂きましてありがとう御座います、英雄様!」

「気にするな、従者の状態に気をかけるのも主の務めよ!」

「勿体なきお言葉です!」

 

 朝方、欧州へ向かう大和の見送りにと、英雄はあずみを指名したのだ。紋白ならばともかく、一従者に対して見送りを命じるなど、普段は有り得ないことである。あずみ自身最初は断ろうと思っていたのだが、英雄や紋白が行け(来い)と言うので、仕方なく見送りに行ったのだ。無論、その主の心遣いや、大和の見送りは純粋に嬉しかったのだが。

 

「して、あずみよ。体調の方はどうなのだ?」

「はい、特に問題はありません。昨日は休みをとってしまい大変申し訳ありませんでした」

「フハハハ! なぁに、有給をどう使おうが何の問題もないぞ。それに腹の子の事ならば有給がなくとも許可してやるわ!」

「い、いえ……流石にそこまでして頂く訳には……」

 

 あずみは昨日、胎児と母体の様子を見る為に病院へと行っていた。九鬼が所有する病院で検査を受け、母体、胎児共に健康ですよと太鼓判をもらってきたのである。その結果が良好ということもあり、あずみは普段よりも機嫌が良い状態だ。もし普段通りなら、先程大和とあずみを見物していた従者達に折檻を与えていたかもしれない。

 

「体調の方も健康そのものだということなので、今日からまたよろしくお願いします!」

 

 そう輝かんばかりの笑顔を浮かべて口にする。そう、今のあずみは幸せ絶好調なのだ。今なら例え壁を越えた者が相手でもそこそこ戦える気がする! そんな気分なのである。

 

「うむ、その事だがな。あずみよ、話がある」

「へ……あ、は、はい! 何でございましょうか!?」

 

 だが、英雄から返って来たのはいつもの豪快な笑いとともにある了承の言葉ではなく、あずみを見つめる瞳と落ち着いた雰囲気の言葉だった。あずみは困惑しながらも英雄に言葉を返しながら視線を返す。

 

「あずみよ」

「は、はい!」

「しばらく、お前にはこの本部での仕事をしてもらう。無論、人力車や遠征をする我に着いてくる事、まかりならん」

「はぁ……」

 

 英雄の言葉を聞き、その内容を噛み砕く。

 しばらく本部での仕事、これは構わない。

 人力車を操作しなくても良い、英雄様に着いていかなくて……

 

「って、ええぇぇぇぇ!!?」

 

 あずみの悲鳴が九鬼本社に響き渡り、英雄が難しい顔をしながら口を開く。

 

「あずみ、やかましいぞ」

「っふ!? は、はいすみません……あ、あの、英雄様。差し出がましい事ですが、質問してもよろしいでしょうか?」

「ん、何だ? 何でも申してみよ」

「そ、それでは……何故英雄様の専属を外れるのでしょうか? あずみは何か粗相をしましたでしょうか?」

 

 泣きそうな顔であずみが口を開く。英雄に恋していた頃とは違うが、あずみにとって英雄は永遠に仕えるべき主であり、尊敬してもしきれない人物である。例えそれは大和の嫁となった今でも変わらない。

 そんな人物から、遠征に着いてこなくてもよいと宣告されたのだ。専属従者というものは常に主の傍にあり、主と共に進む事が重要な事である。それをしなくても良いと言う事は、専属を破棄するという事に等しい。ブワッ、と体から冷や汗が噴き出、足が震える。

 しかし、そんなあずみの言葉を聞き、英雄は訝しげな表情を浮かべて口を開いた。

 

「何を言っている? お前は我の専属従者であるぞ、あずみ以外の専属など考えた事もないわ!」

「……ッ! あ、ありがとうございます!」

 

 その言葉にあずみの震えが治まる。心に充足感と安心感が満ちていくのを感じながら、あずみは英雄の言葉に耳を傾ける。

 

「うむ、言い方が悪かったかな。あずみよ、お前の中には今、新しき一つの命があるな」

「は、はい!」

「そんなお前に激務を任せる事は出来ん。勘違いしてもらっては困るが、別にあずみが出来ないと言っている訳ではない。むしろ、お前ならば普段と変わらず仕事をこなしてしまうのであろう。フハハハ! 言っていて、やはりあずみは素晴らしい従者であると言う事を自覚するわ!」

 

 英雄はそこで言葉を区切ると、真剣な眼差しをあずみに向けた。

 

「だからこそ、お前は無茶をするのが目に見えている。よって、しばらくは本部で多方面への指示、連絡……従者部隊の訓練を担当してもらおうと思ってな」

「わ、私の体に気を配っていただいてありがとうございます! しかし、まだ妊娠一カ月程度でありますし、職務に支障は……」

「フハハハ! まさに従者の鏡であるな! だがな、それでも我は否と応えよう。お前を信頼しているからこその采配なのだ。これは姉上や紋、父上も了承している」

「み、帝様や揚羽様まで……」

「あずみよ。今お前の体に宿っているのは確かにお前の子だが……我は自分の子の様に嬉しく、感謝しているのだ。お前の子は直江であり、九鬼でもある」

「英雄様……」

「それに、従者達から嘆願書が届いておってな!」

 

 そう言いながら英雄が机の上にあった書類を手に取り、あずみへと手渡す。そこには自分の体を考えてetc……と様々な用件が記されていた。署名されている名前の筆頭に李とステイシー、ティンカオの名前があるのを見つけ、あずみを目眩が襲う。

 

「あ、あいつら何を勝手に……!」

「フハハハ! 愛されておるな、あずみ! 流石は我が従者!」

「あ、ありがとうございます……」

 

 引き攣った顔で何とか応答しながら、今度時間を見つけて懲罰決定だな。と心の中で呟く。

 英雄が一歩あずみへと近づく。その瞳を見て、あずみはその場に膝を突いて頭垂れた。

 

「あずみよ」

「はい」

「しばらく本部での仕事を任せる。そして子が産まれたら、また我の専属となれ」

「はいっ! 英雄様、ありがとうございます!」

 

 そう返し、あずみは自分の腹を軽く撫でて心の中で毒づく。

 

(お前はな、こんなに偉大な人や、優しい連中から愛されて生まれてくるんだ。恩返しに、必ず元気に生まれてこい。あたいも、頑張るからな)

 

 そう考え、頬笑みを浮かべた。




初投稿でドキドキしながら書いてました。
稚拙な内容ですが、感想など書いてくれたら嬉しいです。文章の書き方や誤字などの指摘や気になった点なども、お待ちしています。
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