真剣で私に恋しなさい!AA   作:あんかけパスタ

2 / 10
感想がついた事と評価がついて事に有頂天となり、速効で書き上げました。
あずみさんは本当に可愛い。ついでに九鬼家全般が可愛い。


あずみの仕事の始まり

「あずみ先輩、こちらになりマス」

「おぅ」

 

 英雄から直々の命令を受けた後、あずみはこれからしばらく世話になるであろう自分の職場へと案内された。扉を開けたあずみの目に入ってきたのは、シンプルな作りの部屋で、机の上に置いてあるのはパソコンとその周辺機器、観葉植物や音楽機器など、見ただけでは仕事をする部屋だとは思えない。

 

「本当にここか? しかもあたい一人しか作業するスペースがねぇぞ?」

「英雄様からはココで仕事をする様にト……近くには揚羽様の部屋もありますシ、何かあっても対処しやすいと考えられたノデは?」

「あたいはまだ妊娠一カ月なんだがな……」

 

 近くに揚羽がいるという事は、恐らくクラウディオも側に着いているのだろう。確かに自分は妊婦であるが、そこまで心配されると逆に頭痛がする思いだ。主からの好意故に文句は言えないが、過剰に心配されすぎているとあずみは感じていた。

 

「まぁ……とりあえずあたいはこれから書類纏めて各支部に連絡するから、何かあったら無線で連絡しな」

「ハイ! 分かりまシタ!」

 

 そう元気に応える目の前の少女に目を向ける。序列994位モルカ=コーレット、最近九鬼に入ってきた新米従者だ。まだ日本語が苦手らしく、所々片言らしきものが生じている。

 

「おい、モルカ」

「!? わ、私の名前知ってたんでスカ?」

「ん? 従者の名前は知ってて当然だろ」

「だ、だって私なんてまだ入ってばかりダシ、失敗も多いシ……」

「関係ねぇよ」

 

 そう言い、あずみは持っていたメモ帳を一枚破って手慣れた様子で何かを書き込むと、モルカへと手渡す。モルカがそれ見て首を傾げるの見ながら、あずみは口を開いた。

 

「そいつは従者部隊の中でも日本語教えるのが上手くてな。今日の午後六時以降にここに来る筈だから、教えてもらえ」

「え……」

「あたいからの要望なら応えてくれる筈だ。九鬼は世界的企業で様々な国の言語が必要だが、本社が日本にあるから日本語はかなり重要だ。九鬼の為にもその片言直しとけ」

「あ……は、はい! ありがとございマス!!」

 

 何故か頬を赤らめて頭を下げる新人に、あずみは「はいはい」と応えながら部屋へと入り扉を閉める。これから働く環境だが、恐らく自分がここで働くと決まってから一気に掃除や改修を施したのであろう。新居や新しい部屋特有の臭いに、あずみは軽く溜息を吐く。ありがたいが、自分一人に大層過ぎると感じたからだ。

 

「まぁ、英雄様からの好意と考えたら悪い気はしねぇけどよ……」

 

 そう呟いて自分が仕事を行う机へと向かう。そこには九鬼が誇る最新鋭のパソコン、そして……

 

「何だこの椅子……!?」

 

 そこにあった椅子は普通の椅子では無かった。深く座りこめるようにデザインされており、それでいてシックな雰囲気と気品を感じさせるデザインだ。達人は魂の籠った作品などを見るとそのオーラの様なものを感じ取る事が出来るが、あずみにはこの椅子からそれがひしひしと感じられた。確実に一使用人が使う椅子ではあるまい。

 事前にモルカに渡されていたスイッチを押す。モルカ曰く「あずみサンが押せばその時近くに居る従者が向かいマス!」というスイッチだ。というか、これ自体も一使用人が持つ物じゃない。改めて自分は妙な程心配されているなとあずみは溜息を吐く。そして、ガチャリという扉が開く音と共に現れた姿を見て、口があんぐりと開いて呆然とした。

 

「フハハハ! 九鬼 揚羽である!」

「どうかいたしましたか、あずみ?」

 

 自分の主である「九鬼 英雄」の姉である「九鬼 揚羽」と、小十郎と共に揚羽に就く事の多い九鬼家従者部隊序列3位「クラウディオ=ネエロ」がそこにはいた。その事実に呆然としていたあずみだが、その顔を見てクラウイディオが口を開く。

 

「本来ならば私だけが来る筈だったのですが、揚羽様がどうしてもと申されまして」

「うむ! 我の仕事も一段落ついたしな。そこでちょうどあずみからの呼び出しがかかったのだ。休憩ついでに我も来てしまったわ!」

「お、お忙しい中私の為に申し訳ありません!」

 

 あずみにとって揚羽は尊敬する主の姉であり、ある意味雲の上の存在だ。そしてクラウディオも現在は序列があずみより下であるが、実際のあずみの序列は大体10位程度であり、若手主導の方針さえなければクラウディオの方が序列は上だ。正直モルカか、他の900位台(序列900以下の多くは本社での訓練を行っている)が来ると思っていたからそれほど重く考えずにスイッチを押したのだ。こうなると知っていれば絶対スイッチは押さなかっただろう。

 

「何、気にするな。我は休憩ついでに来ただけだ。あずみを困らせようと思ってきた訳ではない、表を上げよ」

「は、はい……」

「それで、あずみは何か用があったのではないのですか?」

「は、はい……それなんですが」

 

 クラウディオの促しに、あずみは自分の机の前に置いてある椅子へと視線を向ける。

 

「こちらの椅子なのですが、何かの手違いではないでしょうか? 少なくとも、私が座る様な椅子とは到底思えないのですが……」

「いや、何も間違ってはおらぬぞ。これはお前の為に父上が発注した椅子だからな」

「へぇ、揚羽様の父上が……って、は?」

 

 本来はクラウディオからの答えを期待していたあずみには揚羽が応答し、その中でも聞き捨てならない一言に、ついあずみの口から主に対する返答とは思えない反応が出てしまう。普段なら懲罰間違いなしの反応であるが、揚羽もクラウディオもイタズラが成功したかの様な表情を浮かべたままだ。

 あずみは混乱しきった頭を整理しようとするが、立て続けに与えられる驚愕の情報に脳が熱暴走を起こす寸前である。そんなあずみを見ながら揚羽は口を開いた。

 

「今回のあずみの配置には我等も関わっていた事を英雄から聞いているか?」

「は、はい」

「うむ、それで父上と母上が直江とあずみの恋愛話に感銘を受けられてな。若いのに大したものだと、そして今回の妊娠であろう? 父上と母上があずみに何かを送りたいと頻りに申されてこの椅子を、との事だ」

(まさかの局様まで関わっているとは……)

 

 揚羽の言葉から更にド級の驚愕情報が出ていたが、既にその事に対してツッコミを入れる気力も出ない状況だ。

 

「揚羽様、あの……少しクラウディオと話をさせて頂いてよろしいですか?」

「うむ、許す」

「ありがとうございます」

 

 そう言い、クラウディオを手招きして部屋の隅へと移動し、小声で会話を始める。

 

「おいっ、どういう事だよこれは……」

「どういう事も何も、見て聞いた事の通りですな」

 

 飄々とした調子でクラウディオがあずみにそう返す。大声を出しそうになるが、部屋にはこちらに笑顔を向けている揚羽がいる事を思い出し、一度息を吐いてゆっくりと口を開いた。

 

「そうじゃなくて、あたいに対してのこの対応だよ……! あたいは一使用人だぞ……」

「まぁ、確かにそうですが……別に問題はないでしょう」

「ありまくりだろ……!」

「ではどんな問題があるのです?」

 

 あずみはうっ、と返事に詰まる。一使用人に対してとはいえど、あずみは英雄の専属従者なのだ。そのあずみが多少贔屓されていた所で大した問題にはならない。ましてや現在は頭首の座を退いているものの、未だに絶大な力を持つ帝からの指示でもあるのだ。逆にこれに従わない方が不敬であると言えるだろう。

 

「それだけ貴方が愛されているという事でしょう」

「ッ……あのなぁ」

 

 笑顔を浮かべてそう返すクラウディオに対し、あずみも毒気を抜かれたかのように脱力する。最早自分が何を言っても椅子の変更はないし、この待遇が変わる事もなさそうだ。

 

「逆に心労が増えちまいそうだよ……」

「幸せ疲れ、という奴ですかな?」

 

 この髭野郎、とあずみは一瞬殴りたい衝動に駆られるが、無駄な事と気付いて溜息を一つ吐いて済ませた。

 

「おっと、揚羽様。そろそろ会議のお時間で御座います」

「む、最早そんな時間か。ではあずみよ! 無理せず仕事を行うが良い! フハハハ!」

 

 高らかな笑いと共に揚羽が退室していき、それに続いてクラウディオも揚羽に続く。一人部屋に残されたあずみはしばらくの間椅子を見つめていたが、このままでは仕事の遅れが出る。諦めたかのような表情を浮かべて椅子へとゆっくり腰を下ろした。

 

「うおっ……!?」

 

 座った瞬間、妙な声が漏れる。ゆったりとした座り心地、包まれるような材質と背もたれ、自分専用に一から作られたオーダーメイドと思われるその椅子は、あずみの身長・体重・体調等の全ての要素を支えるかのように座り心地であった。

 もうこの椅子以外に座る事など考えられない、むしろこの椅子こそが私の旦那なんじゃね? とあずみは自分の思考がおかしな所にぶっ飛んでるのを感じ、ハッとして頭を振る。危うく椅子に寝取られる所であった。

 

「……仕事、始めるか」

 

 目の前のパソコンを点け、あずみは椅子の心地よさを感じながら仕事を始めるのであった。

 

 

 

 

「インド支部はこんなモンか……中国支部は、202位と向かわせて対処するか」

 

 次々と届けられる案件に対し、あずみは的確な助言や指示を与えて対処していく。それらを書類に纏め、データ化し、九鬼の情報網の整備も行う。一般人からすれば殺人的な仕事量であり、普通なら一部署が必要な仕事であるがあずみにとっては大したものではない。むしろ普段通りならこれの数倍は仕事をしているのだ。逆に仕事が無さ過ぎて不安になるくらいである。

 

「おい、モルカ」

『はい、こちらモルカデス』

「何かあたいに回ってくる案件が少ないが、本当にこれで大丈夫なんだろうな?」

『ハイ、特に問題は起こってないみたいデス』

「問題が起こってからじゃおせーんだよ。あたいに気を回して仕事を少なくしてるなら、それは逆に全体の負担になる。欧州と南米の情報を回しな、あたいが片づける」

『わ、わかりまシタ! 伝えまス!』

 

 無線でモルカにそう言い、あずみは溜息を吐きつつパソコンへと視線を向ける。明らかに普段あずみが行っている仕事より少ない事を考えると、恐らく無駄に気を回した誰かが自分に来る仕事量を減らしているのだろう。心配してくれるのは良いが、それを職場に持ちだす事は許されない。

 

「ったく、皆してあたいを心配しすぎだ。それもまだ妊娠一カ月ちょいだぜ」

 

 そう言いながら自分の腹を軽く撫でる。まだ膨らんでもいないし、動きが感じられる訳でもない。だが、何故かあずみにはここに確かな命があると感じられた。自然と柔らかな笑みを浮かべ、ある男の顔を想う。馬鹿で、どうしようもない程真っ直ぐで、一途に自分を想い続けてくれた男。

 

「……お前の親父はな、すげぇ馬鹿だけど優しい男だ。きっとお前の事も全力で愛してくれるぜ」

 

 腹を撫でながら言葉をかける。それが意味のある事だとは、あずみは特に思っている訳ではない。胎教と呼ばれるものは無駄ではないと思ってこそいるが、このころはまだ聞こえる聞こえないの時期ではないからだ。それでも、あずみはこれだけは言いたかった。

 

「あたいも待ってるからな」

 

 それと同時に、腹の中が動いた気がした。あずみは軽く目を見開くが、すぐに勘違いだと結論付けて首を振る。仕事の続きでもやるか、とパソコンに視線を移した瞬間、二度のノックが鳴りあずみの返事を待たずに扉が開かれた。

 

「ローック! あずみ、昼休みだから飯食いにきたぜー!」

「お邪魔します、あずみ」

 

 金色の髪を二つに纏め、その豊満な体を揺らしながら入ってきたのはステイシー=コナー。黒い髪と落ち着いた雰囲気を纏っているのは李静初。二人ともあずみの部下であり、今回「あずみ(従者長)を休ませる会」とかいう訳の分からない団体と英雄に対する署名をした主犯の二人である。

 

「へぇ~、思ったより良い部屋じゃんか。どうよ、仕事のやり心地は?」

「お前等これが終わったら覚えとけよ……ってか、もう昼か」

「えぇ、だから昼食を一緒にと考えたのですが」

「まぁ、一段落着けるにはいい時間か……あたいは弁当も何もないけど」

 

 普段ならあずみは弁当を持参するか、英雄の物を作るのに合わせて自分も軽い物を用意しておくのが日常だ。今日は初めての環境で仕事をするという事もあり、朝から説明やモルカの案内を受けていた為用意する時間がなかった。

 

「うーむ、適当に売店でも行くか」

「そう言うと思ってよ、持ってきてやったぜ」

「お前等が?」

 

 下にある従者達が使用する売店へと向かおうとするが、ステイシーがそれを防ぐかのように口を開く。それと同時にステイシーは手に持っていた袋から箱を取り出すと、あずみへと手渡した。

 

「何だ、これ?」

「何って、弁当だよ」

「私達が用意したものでは御座いませんけどね」

 

 李の言葉にあずみは眉を顰める。

 

「じゃあ誰が用意したんだ? しかもこれは……」

 

 蓋を開けると、そこには驚くべき程豪勢な弁当の中身があった。少なくとも、千円二千円程度で買える弁当ではあるまい。従者部隊は給料もそこそこの為結構良い昼食をとるものもいるが、それでもこれはやりすぎである。しかもただ豪勢という訳ではなく、栄養バランスが考えられていると思われ、日本食をメインにされたそれは一般人が見れば垂涎ものだろう。困惑したあずみの顔を見つつ、李はゆっくりと口を開いた。

 

「局様が用意して下さいました」

「へぇ、局様が……いや、あたいはもう驚かないぞ……驚かないぞ……」

 

 ブツブツと自らに暗示をかけているあずみを見つつ、ステイシーは自分の昼食であるハンバーガーを齧りながら経緯を語り始めた。

 ステイシーと李があずみの分の食事を買っておこうと提案している時である。偶然そこを通った「九鬼 局」が李とステイシーの会話を聞いたらしく、二人を呼びつけて食事の事について叱責したらしい(ステイシーはハンバーガー、李は中華をあずみに持っていこうとしてた)。局は九鬼の中でも屈指のグルメであり、そして数少ない子供を産んだ人間でもある。特にハンバーガーをあずみに持っていこうとしたステイシーは怒涛の如き叱責を受け、鬱が出かけたとか。そして出た結果が……

 

『良い、我の知り合いが近くで料理店を営んでおる。そこに頼む故、お前達は昼食前に受け取ってあずみに手渡せ』

 

「と、局様がおっしゃりまして……」

「何でそこで止めないんだよお前等は……」

 

 あずみが頭を抱える。

 

「別にいいんじゃねーの? 変な物食ったりするよりは全然良いだろ」

「そういう問題じゃなくてな……」

 

 あまりにも自分が気にされ過ぎていると感じる。いや、局の場合は息子である英雄の専属従者という事もあるのだから不自然ではないのだが。

 

「駄目だ、あたいはもう今日は新しい情報を頭に取り込むことか出来ねぇ」

「昼からの仕事はどーすんだ?」

「仕事とプライベートは別だ。それはきっちりこなすが、それ以外の事はもう無理。これ以上何か聞いたら老けそうだ……」

「あずみの皺が増えて、合わせて幸せ。李静初です」

 

 李の寒いを通り越して場の空気が白けるギャグを無視し、あずみ達は食事を始める。李は悲しそうな表情を浮かべた後、あずみ達に続いて自分の焼売弁当に手をつけるのであった。

 ちなみに、あずみが局から受け取った弁当の味は絶品であり、あずみが簡単に完食した事はこの三人の秘密である。

 




たまに従者部隊でオリジナルキャラを出すことはありますが、極端なメインキャラにはならないと思います。
そしてまさかの局様。あの人グルメって設定があったので、ちょっと使ってみた! 九鬼のキャラは満遍なく使用していきたいですね。
あと、全然甘々な話がないじゃないか(憤怒)、というのがありますが、大和が合流するか、もしくは外伝(外伝は過去話や出産後の話を予定してたりします)まで待って頂けたら幸いです。
今後もよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。