世界の終わりに咲く炎花   作:航鳥

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序編 新米コレクター編 〜始まりの火花〜
第1話 剣の雨が降る世界


百年前、突如この世界全土に『剣の雨』が降った。無数の剣が一斉に大地を木々をそして数多くの命を一思いに貫いた。

 

この異常災害によって現存していた生物の約八〜九割の命が死に絶えたという。

 

生き残った種族は数少ない。

 

魔術に長けたエルフ族。

 

硬い鱗と大いなる叡智を兼ね備えた龍族。

 

地中深くに住まうドワーフ族。

 

そして、絶対数が圧倒的だった人族だけだった。

 

残りの種族は発見されず絶滅したと言われている。

 

その後、死の星と成り果てた世界は酷く荒んでいった。

 

元々、陰に潜んでコソコソと過ごしていた魔物は堂々と地上を闊歩するようになり、その反面人々は魔物から隠れ、時には戦うことをも余儀なくされた。

 

更に、殺戮の雨が降り注いだあの日以来、不定期に『剣の雨』は猛威を振るうようになった。

この現象を人々は、《忌雨》と呼んだ。

 

それから百年の時を経て人族は頭上に天井を造り蓋をして街と空とを隔絶することで復興しようとしていた。

 

その忌まわしい数多の剣をその天井の材料として。

 

******************

 

古ぼけた小さい街の大広場。普段、閑散としているこの広場だが、今日は多くの人でごった返している。

まるで祭りか或いは日々街と街とを転々とするサーカスでも訪れたかのように。

実の所そのどちらでもなく、これはこの人族の国における一大的な職業の任命式だ。

 

燦然と輝く日の光それを塞ぐ天井の下。

非常に明るい日陰となったそこに、この日のために特設されたステージの上で高貴そうな礼装に身を包んだ白髪の老人と腰に細剣を携え、赤い宝石を施した杖を持つ赤髪の青年が向かい合っていた。

 

「アキ・エルクリア、貴殿の実力、叡智、その類稀なる才を讃え、ここに貴殿をコレクターに任命する。これより貴殿はこの国の繁栄の為にその力を存分に発揮してくれることを切に願う。おめでとう。」

 

白髪の老人から祝辞が述べられる。そうこれはこの国最大の名誉職、コレクターの任命式である。

 

コレクターとは国から認められた実力者だけが成り得る天井の外での活動を本文とする者達の総称だ。

 

主な仕事は天井の保全のために降り積もった魔剣を回収することだ。

 

魔剣というのは『忌雨』によって降る剣の総称でそれらは一概に魔力をその刀身に宿している。

しかし魔剣には魔力を貯めておくことができない物が数多く、結果時間とともにそれは消滅してしまう。

故に消滅前にそれを回収し、国に納品することそれがコレクターの役目だ。

 

そして、コレクターによって集められた剣は職人によって溶かされて、魔力を供給することで街と空の間を塞ぐ天井の一部となり、国民を『忌雨』から守る盾になる。

 

無論この役目には天井の加護の外へ出るので危険を伴う。

忌雨の被害を受けることも少なくなければ、街から一歩出た途端、魔物に襲われ、人生終了なんてことは割と普通の事だ。

 

魔物は原則として人より強い。

 

そのため、国があの殺戮の雨や魔物達の襲撃から自分の力で自分を守りきれる類い稀なる実力者を見極め、選抜し、コレクターへ任命するのだ。

現存するコレクターはここにいる新米、アキ・エルクリアを合わせても50人程度。

人族の全人口がおよそ1万2千人なのでその中で1%にも満たない。

そして、その少なさこそがコレクターの名誉の所以であり実力者たる証だ。

 

老人がアキへと任命状と銀色のブローチを差し出す。

 

漸く、漸く自分はコレクターになったのだ。

叫びたい。自分の力が認められた、自分の叡智が評価された、この狐につままれたような現実を自分は手に入れたのだ。この手で掴み取ったのだ。そう声を大にして叫びたい。そういう衝動に彼は駆られていた。

 

アキが高ぶる胸を抑えて任命状とブローチを受け取る。

その瞬間、周りでそれを見ていた人達から割れるような拍手が起きる。

しばらくアキは喝采を浴びて、再びこの現実を噛み締める。余りの喜びに打ち震える。

もう一拍おいてアキは自らに広がる喜びの波を制して口を開く。

 

「俺はコレクターになるべく日夜、修練に励んだ。そう、そして俺はコレクターに選ばれた。この瞬間は必然だ。これからの俺の活躍に期待していろ必ずその期待に応えてやる」

 

それを聞いて大衆の拍手は更に強くなる。

誰一人として誇張や妄言の類だと思う者は居なかった。

 

ただ一人アキ自身を除いては。

 

 

 

また、やってしまった。よりによってこのタイミングでやってしまった。

 

拍手の裏でアキは焦りと失念に自分の心臓の音が大きくなっていくのを聞いていた。

 

さて少し彼、アキ・エルクリアについて説明しよう。

彼は、ほとんど無意識のうちに大口を叩いてしまうという本人をも悩ます癖がある。

そのせいで今までは散々なほどに嘲笑を浴びせられて来たし、恥を掻くことも少なくなかった。

そして、その度に何であんなことを言ってしまったのだろうと後悔を繰り返した。

だから今日こそは気をつけようとアキは思っていた。

 

そう、思っていたのだ。

だが、アキの懸念とは裏腹に口から出たのは驚く程のビックマウス。

 

うあぁぁぁあああ!

 

アキは内心で叫び散らしていた。

だんだんと顔が火照り始めているのを感じてくる。

しかし、幸いにも大衆からの拍手は健在でアキのこのような内面に気づいている様子はない。

それを見てアキはなんとか平生を取り戻す。そして目立たないように深呼吸をすると、何食わない顔を装って特設されたステージから降り、やや早足で群衆の中を抜けていった。

 

こうして、この新たな英雄の任命式は風のように幕を閉じ、アキ・エルクリアは複雑な思いのもとにコレクターとなった。

 

******************

 

時は移り変わり任命式の終わった後の夜。

酒場の戸をアキは力強く押し開く。

戸が開くと中から酒の臭いが広がる。

しかも今日はいつもよりもそれがキツい。それはそこに他ならぬ彼がいる事をアキに示していた。

 

「なかなかいい演説だったじゃないか、アキ」

 

筋肉質で線の太い中年の男が、その太く大きい腕の手の平に泡立った黄色い酒を持ちニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべている。

それに対してアキは少し頬を赤らめ弱々しく答えた。

 

「やめて、思い出しただけで恥ずかくて死ねそう」

 

カカカッと笑い中年の男は続ける。

 

「変わらないな、テメーは」

 

「うん、本当に。嫌になるよ」

 

「口調だけはよりいっそう立派になったがな」

 

「ほっといて!」

 

その後もアキをいじる声ががひとしきり響く。

アキと親しげに話してるこの男、彼もコレクターだ。

名をルーファス・イネイン。コレクター歴にして10年の大ベテランである。

酒と女に溺れに溺れて溺死寸前と言ったところだがその実力は本物で、折り紙付きだとか何だとか。

まぁ、これはアキがルーファス本人から聞いた情報なので信憑性などあったものではないのだが。

 

「で、ルーファス、結局何の用なんだ?」

 

「なに、たまにはちゃんと師匠らしいこともしてやろうと思ってな」

 

グェと汚いゲップをかますとルーファスは再び口を開いた。

 

「アキ、おめでとう。これでお前も一人前だ、さぁ、今日は飲もう」

 

一瞬、ハッと驚きを覚える。

 

「ッたく、今日も、だろこの酩酊ジジイが」

 

アキは強く言い返した。

それは明らかな強がりで、そんなことは泣きそうなアキの顔を見れば一目瞭然だった。

それを見るや否やルーファスはまたニヤニヤと表情を変え

 

「やっぱり可愛いなこのやろう」

 

などと言った。

その後は祝いの酒を酌み交わし、一晩中ヤンヤヤンヤと騒ぎ散らした。

 

******************

 

それから三日たった夜、辺り一帯に忌雨が降った。

その夜は天井を貫かんと剣の雨が天井と交わり街中に金属音を響かせた。

この異常な金属音こそがコレクターの仕事の合図である。

アキは自室でこの音をいつもと違う気持ちで聞いた。興奮と期待そして少しの緊張。

あの任命式から三日。

「まさか、こんな早くに『天井の外』へ行けるなんてな」思ってもみなかった。

とそんなことを考えた。

天井のせいで斜陽が差し込む黄昏時以外に浴びる事が出来ない陽の光。それを真上から、青空から浴びる事が出来ること。

突き抜けるような蒼天。

手付かずになって繁茂した草花。

外の世界のことを想像する。何度も夢に見た光景だ。

幼かった頃は未熟な望遠魔法や透視魔法を駆使して、なんとしても外を拝んでやろうとしたものだった。

それからコレクターという職を知り、外に跋扈する魔物のことを知り、アキはコレクターを目指すことを決意した。

そして今、念願の夢を叶え、スタートの合図が鳴ったのだ。高鳴る胸の鼓動を確かにアキは感じた。

そして、それを押さえつけ明日の為に休息を、とその一心で眠りについた。

 

 

夜が明けると、アキはルーファスと合流した。

そして、ルーファスにとっては久々の、アキにとっては初めての仕事の打ち合わせを開始した。

 

「いいかアキ?おさらいをするぞ。まず一つ、忌雨がやんですぐ、まさに今だな。に気をつけるべきは何だ?」

 

アキは小さく頷いて答える。

 

「《余雨》だよね」

 

「ああ、正解だ。忌雨が降ってからすぐに、また降ることがある。これが《余雨》だ。コレクターの傷因第一位だからお前も気ぃ抜いてっと足の一本や二本すぐに持って行かれるぞ」

 

「わかってるって」

 

「さすが、俺の弟子だな。では次だ。余雨に振られた。さてどうする?」

 

「上から降る剣を防御又は回避しつつ魔物への警戒を強める」

 

「そうだ。なぜか忌雨ってのは魔物を貫くことがねぇからな、雨と魔物に同時に出会えば危険度も倍増ってわけよ」

 

「このくらいコレクターの常識だよ」

 

と今更確認することじゃない。と含みを込めてアキが言う。

 

「いいや、百里行く者は九十を半ばとすというからな一を聞いて十を知ったつもりで油断している大事な弟子にはこの確認は必須事項だ」

 

「油断なんてしてないけどね。それ、どこの言葉?」

 

「昔会ったドワーフが使ってた。多分ドワーフの言葉だな」

 

「ふーん、まぁいいや。決行は明日の朝五時、集合は南門ね」

 

余雨は雨から一日以内に降ることが多いのでそこは回避させて仕事にありつくのはコレクターの定石だ。だから決行は明日へとズラす。

 

「おうおう、解ってるじゃんアキ。オーケーそうしよう。初心忘れるべからず俺も気合入れて行くか」

 

「それもドワーフの言葉?」

 

「ん?あぁ。それじゃあ明朝にな。準備は怠るなよ?」

 

「わかってるって、じゃあな」

 

「おう!」

 

こうして二人は解散した。

各々明日のために装備とアイテムの確認をするのだろう。

 

ついに明日、アキの初仕事が始まる。

 

「よし、頑張ろう」

 

そう呟くと、アキはドキドキしながら帰路についた。




ご覧いただきありがとうございました。
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