世界の終わりに咲く炎花   作:航鳥

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第10話 ある晴れた日の森の中

木、木、木。見渡す限りの碧。その中にある細っそりとした小道をシーラがアキを先導する形で進む。元々、立派な道だったらしいのだが経ち行く時間の中で繁茂する草木によってその面影は失われている。

 

図書館を発ったアキらは湖へと向かっている。体を洗い流すためだ。今、アキの手に抱えられている「光の大樹と七人の勇者」という今後のヒントとなり得る一冊を見つけるために全身が埃まみれになっている。

手はなんだか砂っぽく力強く握ったり離したりすると、ギチギチと音が鳴る。

髪も汚れておりアキの赤髪は所々灰色だ。

 

「大分歩いた気がするけどまだ?」

 

アキが言う。静寂を貫いていた森に音が生まれる。

 

「もう少しです」

シーラが簡潔に答える。

 

街と思わしき建物が見えなくなってから凡そ1時間が立っている。アキはもしかしたら結界の外に出たのではないかと小さく魔力を熾してみるが、何かに抑えこまれるのを感じ、小さく溜息を漏らす。

予想に反してエルフの結界領域は広大らしい。

 

「……」

 

帰って来た静寂がアキを刺す。

ここまでは終始黙々と歩いていたため気にもしなかった静かさに居心地が悪い。

 

「エルフって長齢と聞くけど180歳ってどれほどのものなの?」

 

何か話そうとアキはふとした疑問を口に出す。

 

「エルフは150歳で成人を迎えるので人間にして24、5歳くらいではないでしょうか?ちなみに年齢のことを訊くのはエルフとてタブーですよ」

 

少し、目がマジだった。これからは気をつけようとアキは肝に銘じた。

やはりエルフとて80年の孤独はくるものがあるのだろう。人族の自分としても11年と4ヶ月もの間を独りで生きてきたのだその寂しさは想像が及ぶところにない。ましてや時間は種族を問わず平等に流れているその孤独はアキには一生をかけても理解できるようなモノではないのだろう。

 

アキはゆっくりと口を開いた。

 

「シーラは俺を手伝ってくれてるけど俺が試練を終えて帰ったらどうするつもりなの?」

 

自分が訊くのはどうにもお門違いに思えたがそんなことに配慮する理性はどこかへ飛んでいた。

 

「うーん、そうですね…私はずっとこのまま森の中で…と思っていましたが…」

 

シーラは言葉をそこで切る。

実を言うとシーラは昔、忌み嫌われ避けられて私の存在は誰かを不快にさせる、私に価値などないと心を閉ざしていた。だから、この森を廃棄するとき置いていこうとしたエルフの皆の選択を甘んじて受け入れた。

しかし、長い時間を過ごす中で否が応でも寂しさは身を焦がす。剣を一人降り続ける毎日から80年が経ちそれはしっかりとシーラを蝕んでいた。

 

再びシーラが声を上げる。

「……アキに逢えて私は寂しかったのだと感じました。正直、もうあの日々には戻りたくありません…」

 

その表情は後ろを歩くアキからは窺えない。

 

「そっか…無責任なこと聞いてしまったね…」

 

軽率だったと我に帰る。

 

「ふふ、そんな改まらなくてもいいですよ。私もこれからどうするかについては、ゆっくりと考えていきますから」

 

優しい声音にアキは鈍い衝撃を受ける。

少し、自分が情けない。

 

「もう着きますよ」

 

シーラの一言にアキは急に現実に引き戻される。ふと眼前に意識を戻すといつの間にか大きな湖が広がっていた。

 

「スゲェ…」

 

それを見た感想はこの一言に尽きた。その反応にシーラは満足そうに頷く。

 

「はい。ここはファリレーナ湖といってエルフ領最大の湖にして、最上級の神聖地なのです!」

 

簡単にシーラが説明をしてくれる。最上級の神聖地だそうだが用途は風呂代わりだ。些か贅沢すぎるように思える。

 

「贅沢だな」

 

アキは素直な感想を口にする。

 

「まぁ、エルフの賢人様達が気にかけることもなく捨てていきましたし気にすることでもないでしょう」

 

そういうことらしい。まぁ、気にかけてもどうしようもない事を確認するとアキはもう一つの問題について言及する。

 

「それで、水着的なものは用意してあるのか?」

 

「えっ?」

 

空気が凍る。

どうやら彼女はすっかり忘れていたらしい。

 

「えっとですね…その…いつもは私一人なので一糸纏わぬ姿で済ませていたもので…忘れてしまいました」

 

とのことだ。随分開放的だなとアキは思う。ふと、そのシーラが一糸と纏うことなく沐浴している姿を想像して天女のようだなと感想を脳裏に浮かべ、馬鹿か俺は変態かとアキは雑念を振り払う。

 

どうしましょう?と少し恥ずかしそうにシーラが慌てふためく。

 

「覗かないから先に済ませといてくれ俺はここで休んでる」

 

「はい、お気遣い感謝します」

 

こうして信頼を簡単に寄せてしまう彼女にアキは一つ溜息をつく。

 

背後でバサバサと布の擦れる音が響きアキはひたすら平常心を保とうと心がける。まぁ、平常心であろうとするその姿こそ平常ではないのだが、みなまで言うまい。

 

「一人でいるとそういう所も疎くなってしまうのかね〜」

 

アキの独り言が冷たい空気の中に入り混じる。そろそろ日も傾倒し辺り一帯が橙色に変わる。

アキは腰を下ろす。腰に付けている大剣と細剣がぶつかり合ってガチャガチャと金属音を響かせる。

「フー」

またアキから溜息がこぼれる。自分は思ったより疲れているらしいアキはそう思うと目を閉じた。

 

すると今まで意識もしていなかった方向から何かの気配を感じる。

 

ザザッ……ガサガサ…

 

段々と強くなっていく気配にアキは再び目を開ける。そこには何の姿もない。再度、感覚を研ぎ澄ましてみると何者かの気配は移動していた。

 

「チッ、こりゃもう一つ骨折らなきゃな」

アキは足に力を込めると一気に気配の元へと駆け出した。

 

茂みに入り、木々を避け進む。

時々、止まって気配を探りまた進む。

それを繰り返して進む。

 

遂にアキは気配の正体を視認するまでに近づいた。

 

「なっ、なに…?」

 

それは人だった。少なくとも人型の何かだった。黒装束に身を包み、素早く走り回る何か。

更に一歩近づいたアキは腰からフルーレを抜刀し背後から一突きを放つ。

すると黒装束の彼は、凄まじい速度で振り返ると二本の短剣でそれを防いだ。

更に、黒装束の男はその二本の短剣を投擲し自身は身を翻しアキと距離を取った。

それは、明らかな強者の動きだった。

アキは投げられた短剣を避けようと回避に身を乗り出した。一本目を躱す、二本目を避けようとするが微妙に遅くその一本は頬を掠める。

 

「グッ…」

 

少しの痛みが走る。視線を急ぎ黒装束の男へと移すと彼はアキから更に距離を取って走り出していた。

 

「待て、この野郎…!」

 

アキは再度駆け出す。

この森に居るはずのない誰かが居る。それは冷たく静かにアキに恐怖をもたらしていた。

 




ご閲覧ありがとうございました。
フルーレ仕事しろ。
次回も今週中に投下できると思います。
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