日は地平線と交わり辺り一帯は夕闇に包まれ始めていた。
アキは炎を纏った大剣を振り上げ黒装束の男へと突進する。男は軽いフットワークで斬撃を躱そうとする。
「甘い!」
刃を辛うじて躱した男にディルガーンを包む炎の渦が魂を宿したかのように追随し、その身を焦がす。
ディルガーンを介した魔力の扱いに少しずつ慣れを感じてくる。
「グオォッ…!」
男の口から初めて鳴き声以外の低い声が上がる。
見ると、彼の顔を隠していた黒いフードは焼け落ちて茶色い長髪が姿を現していた。他にもヤケに生を感じさせない虚ろな目に、如何にも血の通いが悪そうな病的な白い肌を露出させる。
「キヒャッキヒヒ」
また常時の声音に戻ると男は、恐らく持てる全てであろう投げナイフを何十ダースと投げ付け自分は逆方向へと駆け出した。
投げられた内の何本かは属性付与が施されたのを感じる。恐らくは結界内に入る前に既に付与していたのだろう。やはり黒装束の(だった)男はなかなかの実力者らしい。
感覚が最大限に引き上げられていることをアキは感じる。
アキはディルガーンを向かい来る刃物の群れへと向けると黄金色に輝くその剣へと魔力を流し込む。
「『開花』!」
すると、ディルガーンの黄金の刀身から先程よりもずっと強い勢いで炎が噴き出す。そして、その炎は八枚の花弁を形成する。
咄嗟に思いついたイメージだったのだがアキの炎に対する適性の高さや魔力操作の才能が功を奏し盾としての機能を充分に果たしアキへと向かい来る刃を無に還す。
視線を男へと移すと彼は木々をつたって逃走を開始していた。
「逃がすかよ」
頭上で木々の間隙を縫うように進む男を追い、アキは大地を強く蹴った。
男はそれを牽制するようにナイフを投擲する。絶妙にいやらしい場所を的確に突いてくるのでアキは回避と防御のために減速を強いられる。
際限なく降り注ぐそれにアキは『忌雨』を想起する。得も言えぬ不快感が込み上げるのを感じる。
「一体、どれだけ隠し持ってやがるんだよ!」
苛立った心内が言葉となって口から漏れ出る。事実、アキを襲う数多のナイフを避けたり防いだりする内にアキと男の距離は開く一方だ。
どうやら第一の目標を逃走成功に定めた男の戦い方はアキを攻めあぐねさせるのには充分で、そこには二人の実力差が現れていた。
やはり、実戦経験が二ヶ月程のアキには幾らか手に余る相手のように見られる。
アキは自分の未熟さに歯噛みする。
だが、そこにこのまま逃す、諦めるといった選択肢は毛ほども浮かんでいなかった。
「逃さねぇって言ってんだろ!」
魔力の出力を更に上げる。ディルガーンを包む炎の渦はその隙間を埋めて行き刀身は完全に炎に包まれ、炎の層を形成する。
アキは大きく振り被ると男が次の足場にしようとしている木に向かってディルガーンを投げ付ける。
「『散花』!」
ディルガーンが木に刺さる。すると、そこを目指し既に走り出していたアキが声を振り絞る。
途端、大剣を纏う炎が熱量を上げ爆破する。足場を失った男は地面に着地し、その勢いを相殺し切れずにたたらを踏む。
そこに、漸くアキが追い付いた。
アキは派手にぶっ放したディルガーンを引き抜き、男を追い抜き走る。
焼け焦げた木を走り抜け、次の一本を見つけると「コイツでいいか」と呟くと剣を突き立てながらより上へと登っていく。
ある程度の高度まで登り詰めるとアキは全力を賭して跳躍、ディルガーンを再度振り被ると男へとその牙を剥く。
一方、男はいい加減覚悟を決めたのか短剣を二本交差し、攻撃に備えた。
「お返しだ『残英』!」
アキは魔力を流し直し、男へと斬りかかる。まるでその斬撃はアキのフルーレをへし折ったその一撃を彷彿とさせた。男とアキの刃と刃がぶつかり高い金属音が森中に響き渡る。
残英の名の如く、散り残った花のように火花が舞い上がる。
アキがディルガーンを振り抜くとその火花は音を立てて爆ぜた。
確かな手応えを覚え、熱を孕んだ風圧を背中に感じる。
勝ちを確信しアキは斬り裂いた男の方へと振り返る。するとそこには胸に開いた傷から黒い影を放ち、魔物の様に消え去ろうとしている男の姿があった。
「何だったんだよ…」
訳も分からず口にした疑問は、風に吹かれ舞う埃のように空気一帯へと広がり見えなくなった。
ご閲覧ありがとうございました。まずはここまで付いてきて下さっている貴方様に感謝を。ありがとうございます。
少し、今回の補足を入れますと『開花』『散花』『残英』は全部、花にまつわる言葉です。
開花は有名どころですね花が咲く様子のことです。
散花も字の如く花が散ることです。
で、問題の残英なのですが、これは散り残った花を指す言葉です。
アキは魔法の詠唱のイメージにも使っているように花が好きです、同じく魔力を使うこの剣技に彼なりにイメージを与えようとして出来た技が上記3つです。
いつか、アキがどうして花が好きなのかという描写を書きたいですね。
さて、作者側からの解説ほど見苦しい物も少ないのでこの辺りまでとさせていただきます。