世界の終わりに咲く炎花   作:航鳥

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第14話 海を渡る者、海を統べる者

「これどのくらい歩くんだ?」

「うーん、あと二日くらい?」

「先に言えよ何故走らせたし!」

「ギャアー、ルー君が怒ったぁ〜」

 

少し、バテ気味のルーファスがピーニャに怒気を向けている。

 

ここはリギート大陸の大地を離れ、レントアー大陸へと続く氷柱と化した海の上だ。大陸間を繋げたのはいいものの平坦な道のりを二日間歩き続けるのは辛いモノがある。

 

「やるしかねぇか」

小さな独り言がこぼれる。

 

過ぎ行く時間と並び立ち、一行は一歩ずつ歩みを進める。半日ほど進んだだろうか。既に日は落ちかけている。

流石に冬真っ只中に氷の上を歩くと体力の消耗が激しく感じられる。

 

「冷えてきたな…」

「え、なにルー君寒いの?私が暖めてあげるよ!」

 

ルーファスの独り言に機敏に反応し、ピーニャが彼に抱きつく。

ルーファスは顔を引きつらせながらそれを躱す。

 

「そういうのは求めてねぇよ」

「う、うっ、ルー君が酷いぃー」

そう言いながらピーニャはレガーロに目線で助け舟を求める。

当のレガーロはというと…

 

「ハァハァハァ、アッ、イイ、もっともっと…」

と常軌を逸していた。先ほどの戦いから静かにしていると思えば、やはりまだ血塗れな顔で恍惚とした表情を描いている。

 

「お前、前よりも酷くなったな…そのなんだ、とりあえず顔でも洗えよ」

 

より一層、顔を引きつらせたルーファスが背中に背負ったリュックから水筒を取り出し、レガーロに向かってその中身をぶちまける。無論、真冬の氷の上でよく冷やされた水だ。

 

「わぶッ」

勢いよく放たれた水がレガーロに張り付いていた血糊を洗い流す。すると、レガーロは目の色を取り戻しどこか疲れたように息を吐いた。

 

「うっ、失礼しました。見苦しいとこをお見せしたようで…」

 

彼の顔は色付いた林檎のように真っ赤になった。

 

「あははは、俺は慣れてるからいいけどな。それより、お前の豹変体質前より酷くなってないか?」

 

「そうでしょうか?うーん、やっぱりゴールドになってからは天井の外で仕事をする機会も減りましたし、日頃のストレスも増す一方ですし、そんなことが影響してるのかも知れませんね」

 

苦笑いをするレガーロにルーファスも同じ表情を浮かべる。ピーニャはレガーロと物理的に距離を取り始める。ドン引きである。

 

「私、知らなかったもん。だって彼、五傑会議の時は一番冷静沈着で分別がありそうだったのに…」

ピーニャが呟く。それを誰もが通る道だとルーファスが遠い目で見つめる。

 

「ほれ、顔拭きな」

ルーファスがレガーロにタオルを渡す。

それを受け取りレガーロは顔を拭う。

 

「やっぱり、冷えてきたな。少し休まないか?」

「そうですね。大分歩いたみたいですし…」

振り返り辿った道を見てレガーロが賛同する。本当にここまでは意識がどこかへ行ってしまっていたらしい。

 

「ピーニャはまだまだいけるよ!」

 

「多数決でこちらの勝ちだ、ピーニャ。」

ピーニャが不服そうな顔をする。

 

「むぅー、しょうがないなぁ…『ホワイトセパレート』!」

 

ピーニャが注文通りに一節だけを呟いて無色透明の壁を彼女らを取り囲むように作り出す。

これは結界魔法の初歩の初歩だ。最初に通すモノと通さないモノを設定して、小さな部屋を作る。今回は冷気と風を通さないモノに設定している。

ちなみに、通さないモノの質量が大きくなればなるほど魔力の消費量も大きくなるという仕様だ。

今回は形の無いものを対象とするため大した消費ではない。

 

「ふぅー、疲れたな」

「そうですね、明日ぐらいには渡りきれたらいいのですけど」

「それじゃあ、ちょっと急がないとね。また競争する?」

「それはもう、ウンザリだ」

ひとしきり談笑が終わると三人はゆっくりと目を閉じた。

 

もう夜は深い。

 

 

 

 

彼らが目を覚ましたのは大きな音のせいだった。

それはキンキンキンやガンガンガンという聞き慣れた金属音。

彼らが職業上一番敏感で、一番忌み嫌うその音だ。

 

「前方300メートル先、属性付与有、属性火、効果熱ってところじゃない?」

 

素早く状況を確認したピーニャが口を開く。

 

「えっ、ちょマズくね?」

「ええ、割と」

「そだねー」

「何でそんなに余裕そうなんだよお前ら」

 

そうこうしている間に、忌雨は音を立てて近付いている。

高温を伴った魔剣の雨はルーファス達の進む氷の道を溶かしながら彼等に迫る。

 

「女神の涙よ、我が身を守れ『蒼月』」

「『フリーズコフィン』」

 

ピーニャとレガーロが魔法を放つ。

海中から無数の水の柱と氷の柱が伸び、振り落ちる剣を向かい打つ。

しかし、熱を帯びる魔剣は振り払われて尚彼等の足場を蝕んで行く。

その熱に彼等の氷の足場は刻一刻と形を無くす。

 

「もう保たねぇぜ」

「しょうがないですね」

「寒中水泳とか趣味じゃないんだけど!」

「そんな気楽な話かよ」

 

足場が今、溶けきった。

三人はそれぞれ海に落とされる。

 

「『フリーズコフィン』」

 

なんとか再度魔法を発動させたピーニャが魔法で三人分の足場を組む。

人一人が座れるかどうかの小さな足場だ。

レガーロとルーファスは降り積もる熱を帯びた魔剣を振り払うことに専念する。

 

 

自然災害との攻防をすること約2分。剣の雨は降り止んだ。

 

「ふぃー、狙い済ましたかのような属性付与だったな」

 

「それを言うならタイミングとてそうですよ。全く、前までなら3日に一回降れば多い方だったというのに」

 

「まぁ、しょうがないじゃん。実際、国回りとこの辺じゃいつ降ったかも違うだろうし…」

 

三人からそれぞれ緊張の糸が緩んで行く。そして、その一瞬が大きな隙に変わる。

 

「ルー君、下!」

「なッ……」

 

瞬間、その青き巨体が姿を見せる。

それは海から現れルーファスに噛み付いた。間一髪、ルーファスは腰の双剣を抜き飲まれまいと刃をつき立てるが、口内の皮は硬く傷の一つも付くことはない。

お陰で彼としても自分一人が飲み込まれないようにスペースを確保するのがやっとの状態だ。

 

「アレは、リヴァイアサン…?」

「嘘、そんな」

 

二人から信じられないそんな驚愕を帯びた声が聞こえる。

リヴァイアサンとは、海の悪魔として古来より伝わる魔物だ。

それについてはこのように伝わっている。

海は其によって守られ、海は其によって荒れる。其は死を知らず、死を与えるものなりと。

 

そんな二人の驚愕を気にも留めず青き海竜はルーファスを口に挟んだまま海中へと引きずり込んだ。

 

「ルー君!」

ピーニャが声を上げる。途端、海上に二つの魔法陣が浮かぶ。

 

「複合魔法『ボルテックス』」

風と水の複合魔法。リヴァイアサンが潜り込んだ辺りを狙い渦巻を巻き起こす。

渦巻に体を取られ、海竜は動きを止める。

 

「レガーロお願い!」

 

「ええ、お任せを」

そこでレガーロは言葉を切り、詠唱を紡ぐ。

 

「女神の怒りよ、女神の祝福よ、大気を纏いて我が願いを聞き届けよ『竜砲』」

 

風と光の複合魔法だ。竜巻が起こり渦巻によって動きを止められた海竜を宙に巻き上げる。

 

「ルー君、もうちょっと頑張って!」

 

「チッ、冗談キツいぜ」

ルーファスはそう呟くと、奥歯を強く噛み締めた。

海竜に喰らわれかけ挙句、渦巻や竜巻に巻き込まれ息をする間も与えられず彼の表情は苦悶そのものだ。

 

「それじゃあ、私たちも行くよ!『トルネード』」

「はぁ…しょうがないですね」

 

ピーニャが魔法を発現させる。そして、レガーロとピーニャは自らが創り出した第二の竜巻に乗ってルーファスを追う。

 

二つの竜巻は唸りを上げて進む。

大分、荒々しい移動となってしまったが彼らの目的地は変わらない。

目指す先は陸地、向こう岸たるレントアー大陸だ。

 

 





ご閲覧ありがとうございました。いつもいつもありがとうございます。
次回少し遅れます。申し訳ありません。

この小説もかれこれ3ヶ月続けてこれました。これもひとえに皆様のお陰です。ありがとうございます。

質問、指摘、感想。細かい物から大きい物まで随時、お待ちしております。
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