第4話 最悪の出逢い
アキの初仕事から二ヶ月。
最近、忌雨の降る頻度が上がったのではないか。そのような問題が上の方で提起されているようだ。
おかげで天井の消耗も激しく、それに比例してコレクターの仕事も日を経る毎に忙しくなってきた。
アキもそれなりの経験を積んで仕事にも慣れてきた。
そして明日、記念すべき十回目の仕事にアキは出向く。
「なぁ、ルーファス。いつまで俺はアンタと組んで仕事を続けなきゃならないんだ?」
男二人でなんてむさ苦しい。そんな意図を込めて質問をした。
「うわぁ、ウチの子も反抗期か…」
「子供扱いすんなって、俺はもう成人だ!」
「何度も言うけどお前なんてまだまだ子供だって。仕事だってまだ今日で十回目だろ?まだまだひよっこの域をでねぇよ」
ガハハハハと笑いながらルーファスはアキの背中をバンバンと叩く。
アキはルーファスにこういう風に舐められるのが嫌いだった。
「そんなことはねぇよ、もう慣れた大丈夫だ」
「ほう、言うじゃねぇか」
いつものニヤニヤ顔を見せつけて来る。
「この間の死霊戦、見えない相手に攻めあぐねいていたのは、誰だっけか?」
「初見だったんだしょうがないだろ!」
「それじゃあ、火が通りにくい水棲の魔物を強火じっくりコトコトコトコト煮込んだ挙句ほとんどノーダメージだったのは、どうなんだ?
あの日はどこのエリアまで回収に行くか前もって決めていたし、事前知識を得ることだってできただろ?」
「それは…」
「別に魔物に苦戦することぐらい大した問題じゃないんだよ。
でも、テメーは少しばかり調子に乗り過ぎている。
そんな調子で続けていると本当に死ぬぞ」
急に真面目な口調に移ったルーファスに上手い返答ができない。
「それじゃあ、明日は俺一人でやるよ。俺が成長したってところを目かっぽじってよく見てろ」
「それは危険だ、師として認められない」
アキもそれはわかっていた。
それでもここでは引くことができない。
「だいたい、この前みたいな魔狼の群れに追加で忌雨なんてケースに会ったら、俺でも一人で乗り越えられるか自信薄だぜ?」
「じゃあ、種を少し貸してよ。アレで居場所がわかるでしょ?」
ルーファスの種には主に場所とそこでの気候などの位置情報を伝えることができる。
また種を潰す、もしくは蒔くとルーファスの元へと信号が送られる。
ルーファスはしばらく難しい顔をして考えていたが、フゥーっと息を吐いて言った。
「そういうことなら構わねぇよ。但し、絶対に無理はするなよ。危なくなったら直ぐに呼べ」
「わかってるよ」
アキは手渡された三粒の種を小さな袋にしまうとそれをポケットに突っ込んだ。
「それじゃあな」
その日はそこで二人は別れた。
翌朝、アキは一人街の外へと向かった。
門番にコレクターを証明する銀色のブローチを見せて門を開けてもらう。
「今日は一人かい?気をつけろよ」
ここの門番とも見知った仲になったものだ。
「おう、了解した。今日もお務めご苦労様」
「ありがとう。お前もな」
門番の男はニッコリと笑ってそう言った。
*************
門をくぐり街の外へ出る。これで十回目となる経験だが、この緊張感はなかなか慣れる物ではないなとアキは思う。
深呼吸をして、少し落ち着くとアキはいつものように探知魔法を使用する。
すると、今回は衝撃の事態が用意されたようだ。
頭上に魔剣の反応が多数確認されたのである。アンラッキーエンカウントここに極まれり。
しかも、魔力値は高めだ。
街から一歩出たらこれだ、今日の運勢は最悪かもしれないとアキは思う。
「マジかよ!ああ、クソッ厄介だ《属性付与》付きじゃねぇか」
一人罵声を挙げる。
今回の雨には《属性付与》を受けた魔剣の反応がある。魔法で無力化を図るのは少しばかり難易度が高い。
《属性付与》とは剣自体に火や水、土といった属性が付け加えられている状態のことだ。
「魔法陣組んでる暇はないからな…」
魔法陣は広範囲に魔法を使うときや敵の数が多いときに有用な位置指定の効く魔法の使い方である。
これには発動までに時間がかかるので今のような差し迫った状況では使えない。
上空より魔剣の雨が降り始めた。
「クソッ、火以外は得意じゃないんだけど」
アキは覚悟を決める。
スピードを重視して、所々端折って詠唱を開始する。
詠唱とは魔法を使うためのイメージを掴むものだ。
何かしらのイメージと魔法を結びつけることによって発動までの魔力の流れをスムーズにできる。
イメージは人によって様々だ。
例えばアキなら魔法を色と花でイメージしている。
「聖なる水の奔流よ我が願いを聞き届けここに咲け、紫炎よ立ち上がれ。複合魔法《トラデスカンティア》」
複合魔法とは文字通り二種類以上の属性を組み合わせて放つ、上級の魔法だ。
アキは得意の火属性ならば無詠唱で魔法を使えるので、水と火の複合魔法は、ほとんどの火の要素を省略することで比較的スムーズに使える。
アキの切り札の内の一つだ。
紫色の火柱が立ち上がり魔剣の雨と衝突する。
煙が上がり紫色だった柱は次第に青色へと変わっていく。
火属性と相性の良い魔剣の数が多かったためにアキの魔法の火属性の部分が押し負けているのだろう。
これ故に《属性付与》のかかった魔剣の対処は厳しいのだ。
魔剣の雨が止む。
自分の周辺以外の地面が蜂の巣になっていた。
最後は完全に水魔法をぶつけていただけになっていた。
「危ねぇ…」
あと少しで自分も蜂の巣だったのだと考えると恐怖心が今頃になって湧き出てくる。
本当に天狗になっていたなとアキは実感する。
ルーファスが言っていた事も全て正しいかった。ここに魔物がいたらと思うとゾッとする。間違いなく死んでいただろう。
俺はまだまだ未熟だ、アキにそう思い知らされるのに充分な出来事だった。
アキはしばらく呆然としていた。
「探知開始」
少し落ち着いてから探知を開始する。
降りたて魔剣から魔力値の高い物を選抜して持ち帰らなければならない。
正直もう帰りたかった。
そうして、感覚を尖らせていると一つとんでもない反応を示す魔剣があった。
「なんて魔力値だ、伝承の龍の角にも劣らないじゃないか」
急いでそこへと向かう。もし、この値が真実ならこの一本で三年分の天井として街を守ることができる。大功績だ。
今更、功績なんてどうでもいいが一介のコレクターとしてはそこに向かわない選択肢はなかった。
反応のある方向に向かって歩を進めるとそこには刀身が黒く輝きを放つ大剣が突き刺さっていた。
その大剣の周りは窪んでいて、一つの大きなクレーターを形成していた。
これが自分の頭上に無くて良かった。
アキは心からそう思った。
あながち本日の運勢はそこまで悪くないのかもしれない。
そんなことを考えながらあと一歩の所まで、剣へと近づく。
大き過ぎる魔力に肌が強張る。
最後の一歩を踏み出し、アキは魔剣の柄へと両手を掛ける。
「問う。汝、我を奏する覚悟はあるか?」
その大剣はアキに語りかけた。
アキは突然の問いにパニックに陥る。
少しの間、静寂が訪れる。
そして、迷いや悩み、色々の思考を経てアキは口を開く。
「ああ、いいだろう。どんな魔剣にだって屈するものか。俺がお前を導いてやるよ」
そこで出たのは、もう何度目かもわからない失言だった。
「そうか、それではその覚悟見せて貰おうか」
すると、刀身の黒く輝く大剣は光を放ちアキの意識はそこで途切れた。
結局、今日の運勢は最悪だったらしい。
ご閲覧ありがとうございました。
次回は10月21日投稿予定です。