世界の終わりに咲く炎花   作:航鳥

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ヒロインなかなか出て来ませんね。
ごめんなさい、そのうち出ます。


第5話 連続する悪夢

優しい光が木々の間隙から零れる。

その木漏れ日を浴びてアキは目を覚ました。

 

「ああ…痛ってて…」

 

二日酔いのような感覚を感じてアキは額に手を当てる。しばらく待ってからふぅーっとアキは深呼吸をする。

すると、次第に思考が回りだす、昨日の記憶が蘇ってくる。

 

現状確認のために周囲を見回す。

視界に入るのは辺り一帯の木、木、木。

結論として森の中だった。

人が通ったような道らしい道はなく、獣道がひたすら多方向へ続いている。

結局、ここがどこかは分からなかった。

 

次に、身の回りの安全を確認する。

主となるのは忌雨の発生前に生じる上空の魔力値異常、魔物の索敵だ。

 

「探知開始」

小さく呟いてアキは魔法を使う。

 

が、しかし魔法が発動しない。

どこかでミスったのかと思いアキは再度いつもと同じイメージで魔法を放つ。

 

結果は同じだった。

 

「嘘だろ?」

 

焦燥感が募る。

 

今度は得意の火属性の魔法を使おうとする。

 

効果がない。

 

次に、日頃使わない詠唱を含めて再び火属性の魔法を使ってみる。

 

「盛りし炎渦の胎動よ、我が願いを聞き届けここに咲け『アマリリス』」

 

変化は依然、起きない。

魔法陣も試してみたがまず陣が描けない。

 

これで最後だ。そういう気持ちでアキは

全魔力を使い果たすつもりで魔法を放とうとする。

 

「盛りし炎渦の胎動よ、我が願いを聞き届けここに咲け『アマリリス』」

 

二度目の詠唱。但し、先ほどとは使った魔力がケタ違いだ。

 

すると、流石に効いたのかアキの指先から煙が上がる。そしてマッチの先に灯ったような、ひ弱な火がアキの指先にちょこんと乗る。

 

ドッと疲れが溢れ出る。魔力の使い過ぎだ。

アキは久しく忘れていた魔力切れの感覚に不思議な満足感に包まれる。

その場に倒れ込み空を仰ぐ。

 

『汝、我を奏する覚悟はあるか?』

 

不意に、あの時の問いが脳裏をよぎる。

そして、思い出したかのように手元にある大剣に話しかける。

 

「ここ、どこだ?」

 

返ってきたのは沈黙。

 

「昨日は喋ってただろ」

 

イラァッと頭に血が昇るのを感じたアキは思うがままに大剣の放り投げた。

そこそこの重さのせいで思ったよりも身近な所にゴトッと音を立てて落ちた。

 

「はぁ…」

 

音の余韻が次第に寂しさへと変わる。

そして、静寂に伴って段々と頭が回ってくる。

 

「魔法が使えない。いや、使えないって言うよりはかなり強い力で抑制され続けてるって感じか。それも俺の全力に近い力で常にか…」

 

並の魔法じゃねぇな。アキはそう考える。

アキは魔法使いだ。剣もそれなりには扱えるが所詮それなりにだ。

精々、街の衛士と張り合える程度だろう。やはり、それだけではコレクターになるには力不足だ。

アキがコレクターに選ばれた要因は、やはりその択一した魔術知識と多彩な魔法、そして底知れない魔力のためだった。

 

そして、そのアキに常時魔法禁止を迫る現状。

こんな状況を作れるのは人の技じゃないだろう。

 

「となるとここはエルフ領…か?」

 

エルフは魔法を得意とする種族だ。

エルフはあの忌雨から、《禁魔結界》という高等魔術で辺りの魔力の流れを止めるという魔力にモノを言わせる荒技で自分達の土地を守っていると云われている。

ここの状態を考えるとエルフが何かしらで関わっているのは、ほぼ決まりだろう。

 

「まぁ、禁魔結界の中ってんなら雨の心配はないな」

 

かと言ってずっとここにいる訳にもいかないのだが。

 

大剣は言った。

 

『その覚悟を見せて貰おうか』

 

恐らく、この状況はこの黒き大剣が俺に示した試練なのだろう。アキはそう結論付ける。

 

「魔法無しで何かを成せと」

 

そういうことなのだろう。

アキは大剣を広い上げて背中の青い箱へと収めると近辺探索へと進み出した。

 

未だに慣れない木々の匂いや風の音。

天井の下でもある程度の自然は残されているが、アキは生粋の都会っ子だ。

アキは田畑とは無縁の商業街で育った。

だから、アキは感じる物全てが新しく思う。

これだけでコレクターになって良かったと思える、そうアキは思う。

 

しばらく歩き回っているといつの間にか日が暮れていた。

アキは探索の最中に見つけた湖のほとりで休みを取ろうとする。

幸い、食料は少しだけ持ち合わせているので明日一杯は大丈夫だろう。

 

「だけど、早めに誰かしらと接触しないとなぁ、結界張って守っているくらいだから誰かしらはいると思うんだけど…」

 

果たして話が通じるかどうか。

干し肉とパンを口に運びながらアキはそう考える。

 

バチッ

一瞬、アキの背中に緊張が走る。

殺気だった。

それも、本能的で動物的なモノだ。

 

「魔物⁉︎」

 

警戒を高める。

探知魔法が使えない現状がもどかしい。

意識を尖らせる。

敵の位置を探る。

 

一陣の風が吹く。

 

動いた!

 

左側から黒い霧をまとった馬が駆けてくる。

 

「ナイトメアか‼︎」

 

ナイトメア、馬の悪霊の魔物だ。

その名に悪夢を冠する通り、夜に紛れて襲いかかってくる素早さが厄介な魔物だ。

 

「何で、結界内で魔物が沸いてんだよ」

 

ものすごいスピードで突進してくるナイトメアをアキは寸前のところで避ける。

そして、腰に備え付けられていたフルーレで背後から一刺し。

 

しかし、その突きの刺さりは浅い。

 

ナイトメアが引き返して向かってくる。

スピードが格段に上がっている。

 

間に合わない。

そうアキが考えると咄嗟に魔法を発動させようとしていた。

 

無論、火は起こらない。

 

アキはナイトメアに跳ね飛ばされた、勢いをつけて飛び、一本の木に当たって止まる。強烈な痛みがアキを襲う。

 

ナイトメアは加速を続けアキへ。

アキは痛みを堪えて左側へと跳ぶ。

対象を失ったナイトメアの突進は前方の木をへし折って止まる。

 

その光景にアキは戦慄する。

 

しかし、その戦慄は思いの外、早く消えた。

ナイトメアが動かないのだ。

否、動けないのだ。

見ると、ナイトメアの足元から一本の蔓が伸びて足の自由を奪っていた。

 

ルーファスの種だ!

アキは腰に携えた小さな麻袋の中を見る。

三粒あったルーファスの種が一粒無くなっていた。

さっきの衝撃で弾け飛んだのだろう。

 

「なるほど、中から魔法は使えないが持ち込みはオーケーって事か」

 

アキはフルーレで心臓が有るであろう位置を一突き、ナイトメアは闇となって消え去った。

 

多分、この魔物も結界の外から入ってきた魔物なのだろう。アキは想像より過酷な場所に一人追いやられたのを自覚する。

 

ハァハァハァ

呼吸の音が不規則に乱れる。

助かった助かった助かった。

アキの頭が同じ言葉を反芻する。

ただの幸運だったがそれでも生きていた、それだけで今は満足だった。

 

ふと、空に昇った月が雲の隙間から顔を出す。

月明りがアキとその周囲を照らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、晴れ晴れとした充足感は絶望へと変わった。

 

新たに五体のナイトメアが月明りに照らされて闇の中から姿を現した。

 




ご閲覧ありがとうございました。
次回は10月25日に投稿する予定です。
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