俺達、ツインテールになります。〜赤い勇気と白い絆〜 作:スターダストライダー
そしておかげさまで30話目に突入しました!
では、どうぞ。
「つ、遂に完成したのですね、トゥアール様! 愛しの巨乳ブレスが!」
「テイルブレスな」
「浮かれてんなー」
どういうわけかエレメリアンが襲来する事なく連休が終わり、平和な日々が不気味なほど続いた頃。予定通り、ドラグギルディのツインテール属性をコアにした、新たなテイルブレスがトゥアールの手によって完成した。
愛香はこの日を待ちわびていた事もあり、今朝から歓喜に包まれていた。総二や康太も呆れるほどに。
「さぁ、愛香さん。これが第3のテイルブレスです。お付け下さい」
愛香は元々つけていたブレスを外し、トゥアールから手渡された真新しい黄色のテイルブレスを腕にはめて、堂々と高く掲げて叫んだ。
「テイル・オン!」
……。
…………。
………………。
「……あれ?」
「反応なし?」
どういうわけか、変身コードをちゃんと言ったにもかかわらず、変化がなく、テイルギアを纏えない。様子を見ていた総二と康太も首を傾げていた。
「て、テイル・オン!」
何度も叫んで変身しようとするが、ブレスはうんともすんとも言わない。失敗しているというよりかは、反応している気配すらないように思われる。
「どうして変身出来ないのよ⁉︎ トゥアール、どういう事なの⁉︎」
遂に癇癪を起こした愛香がトゥアールに詰め寄ったが、本人はおふざけ無しにきっぱりと言い切った。
「いえ、そんなはずはありません! 変身は絶対に出来るはずです。私があれだけ頼まれて、その期待を裏切ろうなどとは思いませんし……!」
実際、何度も裏切ろうとした気配を総二や康太は見てきているような気がしているのだが、愛香は完全に落胆している。
期待した分の反動が大きい事を考えると、このままではトゥアールも今いる総二の家も無事では済まない。そう思った康太が慌ててトゥアールに質問した。
「な、なぁトゥアール。自分で最初に使ったブレス以外は使えないって事例はないのか? それなら……」
「いいえ。さすがにそのようなセーフティは、元々搭載されていません。もちろん無理やり奪われないようにある程度のセキュリティは組み込んでいますが、そもそも世界最高クラスのツインテール属性がなければ、使う事が出来ません。それではセーフティをつける意味はありませんから……」
「なるほど……」
トゥアールが力なく首を横に振る様子を見て、康太も唸った。
「あ、もしよければ、一応ではありますが、総二様も使ってみますか? もしかしたら、女の子にならずに済むかもしれませんし……」
「いや、そうだったとしてもそのコアが巨乳属性になってるって事は、なったらなったで色々とマズいかもしれないし、そもそも俺は……」
総二が断ろうとした時、ハッとした表情になった。そして、何故愛香が新ブレスで変身出来なかったのかを論じた。
「……俺は、このテイルレッドのギアがいいんだ。だってこれには、トゥアールのツインテール属性……つまり、トゥアールの想いが詰まってるからな」
「私の、想い……」
解釈を完全に間違えているのか、妙に涎を垂らしながらハァハァしているトゥアールを無視して、総二は愛香に顔を向けた。
「愛香。俺には何となくだけど変身出来ない理由が分かるような気がする。きっとお前も、心のどこかでテイルブルーのギアじゃなきゃダメだって思ってるんだ。だから、新しいテイルギアは装着出来ないんじゃないかな」
総二の意見を聞いて、康太も納得したように頷いた。
「確証は無いが、きっとそのブレスを俺達がつけても同じ結果になるだろうな。総二のテイルギアには、トゥアールの覚悟が託されて詰まっている。愛香のテイルギアには、姉ちゃんがいなくなってからも必死で頑張ってきたトゥアールの心がある。そして俺のテイルギアには、姉ちゃんの覚悟や託してきた心が凝縮されている」
康太は自身のテイルギアを愛香に見せつけるように言った。
「2人の想いが詰まったものを託された以上、他のテイルギアを使うわけにはいかない。心の中で本能的にそう感じてるんじゃ無いのか?」
「康太、様……」
「そりゃあ小さな子供の姿じゃなくて普通の女の子になれれば多少はアイドル扱いも減るし、気持ちは楽になる。でもそんな恩恵じゃ、釣り合わないからな。……だから、その新しいブレスはもしものために取っておくべきだ。俺達はこれで充分だからな」
2人の意見を聞いて、トゥアールは不安な表情を浮かべながら呟いた。
「……分かりました。そうしておきましょう。ですが愛香さん、その……。申し上げにくいのですが、巨乳にさせるという願いは残念ながら……」
トゥアールが心底申し訳なさそうに呟くと、愛香は笑みを浮かべて立ち上がった。
「ううん、いいわ。あたしが間違ってたわよ。2人の言うように、これは気軽に着せ替えできるような、軽いもんじゃないもんね」
どれだけ口先で誤魔化せても、心は嘘がつけない。そう言わんばかりに、新しいブレスを外して、テイルブルーのテイルギアを見つめた。
それを見ていたトゥアールは意を決したように、静かに目を閉じて、軽く頭を下げた。
「……この際、白状します」
「「「?」」」
「私、本当は復讐するつもりでした。身体変化の為のエレメーラハイブリッドなんて、所詮は机上の空論です。意気揚々と真新しいブレスをつけても巨乳になれない愛香さんを指差して、『異世界の力を駆使しても、愛香さんは一生貧乳のままなんですよ、ゲハハハハハハ』って言って笑ってやろうというシチュエーションを考えてました。……ですが、笑われるべきは、私の方でした。私は何ら愛香さんの覚悟を感じ取れていなかったのですね……」
……やっぱりバカにする気満々だったのかい、と総二や康太はツッこもうとしたが、トゥアールの気持ちも考えて、黙っておく事にした。と、今度は愛香が口を開いた。
「あたしだって同じもんよ。目的のものさえ手に入っちゃえば、後はもう散々こき使ってくれた仕返しに、ギリギリ心臓が動いてるぐらいの瀬戸際で血祭りにしてやろうって考えてたの。……こういう事ばっか考えてるから世間に嫌われるって分かってるのにさ」
……そしてお前はまた暴力思考に陥ってたのかい、と2人はツッこもうとしたが、言えば自分達が血祭りにされかねない。
一歩間違えれば、冗談抜きの惨劇が起こりかねなかった事を考えると、改めて2人は身震いしていた。
「愛香さん……」
「トゥアール……」
2人が乾いた笑みを浮かべて、互いに笑いあっているその姿を見て、総二と康太は半分安堵、半分不安を感じていた。異様な空気に、総二の部屋は包まれている。
そんな空気を掻き消すかのように、突如としてアラートがけたたましく鳴り響いた。トゥアールが折りたたみ式の機械を作動してモニターを確認すると、険しい表情を見せた。
「エレメリアンです! しかもこれは、物凄い力のエレメーラをもつ者達が同じ場所に2体も!」
「何⁉︎」
「物凄い力って一体……」
「簡単に言えば、ドラグギルディのような幹部クラスが同時に2体現れたという事です」
「……!」
それを聞いて、康太の表情は引き締まる。ドラグギルディの強さを体験しているわけだが、不思議と気持ちは落ち着いていた。何故なら、彼には頼もしい仲間がついているからである。
「よおし、望むところよ!今日ならどんな奴が来たって負ける気がしないから!」
「おう、その意気だ!」
「総二、愛香! 行くぞ!」
「うん!」
「おう!」
3人は拳を固めて、叫んだ。
「「「テイル・オン!」」」
3人が光に包まれて同時に変身すると、トゥアールに見送られながら基地の通路を走り、転送装置で現場に向かった。
わずか1秒で総二の家から、幹部エレメリアンが現れた場所へたどり着いた時、最初に3人の耳に飛び込んできたのはこんな会話だった。
「おのれぇぇぇぇ! この摩天楼を颯爽と闊歩する、巨乳のツインテールはおらぬのかぁ!」
「否、違うぞ! 私達は正しく貧乳のツインテールを求めなければならぬのだ!」
なんともまぁ汚らわしそうな言葉が乱舞しており、3人は同時に蹴躓く。見事なヘッドスライディングがアスファルトを抉り、ようやく止まると、開口一番テイルブルーがツッコミを入れた。
「な、何なのよ最近のこいつらは⁉︎ 何でまた乳ばっかにこだわるのかねぇ⁉︎」
「いや、とりあえず落ち着けブルー。今までだってブルマやらスク水やらで、大概だったと思うぜ? 今さらこの程度……」
「やかましい! あたしは乳を力に変えて戦う全ての存在が許せないのよ!」
総二や康太には永遠に理解出来ないであろう、愛香の怒りは咆哮と共に天を貫く。それを聞いて、2体のエレメリアンもレッド達が到着した事に気付いて正面から向かい合った。
「現れたな、ツインテイルズ!」
「中々に早い参上だな。その心意気、褒めてやろう」
レッド達の前に姿を現したエレメリアンは、現在総二達の世界に侵攻している部隊の隊長である、リヴァイアギルディとクラーケギルディだった。
その2体を見据えながら、ホワイトは周りの状況を把握して、苦々しい表情を浮かべていた。
リヴァイアギルディ達が姿を見せた場所は、都心のビル群の中の、大型プラザホールの目の前。何らかのオーディションが開催されていたと思われる所だった。早い話が、目的のエレメーラが狙われやすいような人集りが多い場所だった。加えてエレメリアンは物理的な危害を及ぼさないという微妙な安全神話が流布されているせいで、その場にいたほとんどが逃げ出す事なく、エレメリアンを撮影していたり、ツインテイルズの登場を今か今かと待ち構えていた。事実、こうしてレッド達が姿を見せた瞬間、辺りから歓声が上がった。
「こんだけ人が密集してる場所で幹部クラスとやり合う事になるなんて……!」
「このままじゃ、ドラグギルディの時以上に戦い辛いな。ギャラリーに被害が出る事だけは避けないといけないし。……さすがに幹部の考えは違うな」
レッドとホワイトがそう呟く中、リヴァイアギルディはレッドとホワイトを眺めて感心し切った様子を見せていた。
「おぉ……! あれが巨乳とツインテール、2つの力を秘めたる最強の戦士、テイルホワイトか……! こうして間近で見ると、確かにデータでは分かり得ないものが感じられる……! その隣にいるテイルレッドも三千世界に轟く究極のツインテールを持っているな……! だが、非常に惜しい! 成長したその時に出会えていれば、
「だから何でどいつもこいつも俺を巨乳と仕立て上げるんだ……? 後ブルー。その目で俺を睨まないでくれ」
「……なんか、前にもそんな表現で言われたような……」
レッドとホワイトがげんなりしていると、クラーケギルディが怒声をあげた。
「妄言はその辺にしておけ俗物め! 彼女らの美しさはすでに完成しているのが分からぬのか⁉︎ 神の造形に手を加えようなど言語道断! 破滅をもたらす傲慢だ!」
クラーケギルディに至っては何を言ってるのか理解出来ない始末。故にどうツッこめば良いのか分からない。
「それにだ、もう1人のツインテイル、ズ……は……」
不意にクラーケギルディが目を見開き、口を閉じた。その目線の先には、リヴァイアギルディの会話には一切出てこなかったテイルブルーが。が、本人はそれに気付いていないらしく、やれやれといった表情を浮かべている。
「はいはい。どうせテイルレッドやテイルホワイトなんでしょ。もー慣れたわよ。そっちがイチャイチャしてる間にあたしは……!」
「……! ブルー!」
ホワイトが突然叫んだのには訳がある。クラーケギルディはいつの間にかブルーの眼前に接近していたのだ。瞬間移動なのか、気配を完全に消し去ってからの接近だったのか定かではないが、それだけでもクラーケギルディの強さが本物である事が伺える。
「「……⁉︎」」
レッドやブルーは言葉を発する暇すらない。完全に致命的な隙を見せてしまっては、妨害しようとしても間に合わない。アルティメギルにとって一番厄介なブルーが確実に吹き飛ばされる。誰もがそう思っていた。
「……美しい!」
「……え?」
だが、クラーケギルディがとった行動は、レッド達の予想から大きく外れ、服従するかのように片膝をついて、礼をしたのだ。あまりにも意外すぎる行動に、レッドやホワイト、ギャラリー達も放心してしまっている。
「何と美しい事か! まさか、敵であるあなたがそうだったとは。何という神の悪戯、何という悲劇なる運命! 私はこれほどに髪に怒りを感じた事はない!」
「いや、あんた何言って……」
「申し遅れました。私の名はクラーケギルディ。唐突ではありますが、我が剣をあなたに捧げたい。我が心のプリンセス、テイルブルーよ」
「なっ⁉︎ ちょっと待てよ、あんた気は確かか⁉︎」
自分の武器まで献上しようとするクラーケギルディを見て、さすがのホワイトも待ったをかけた。が、クラーケギルディは断固として動じる事はなかった。
「もちろん本気である! 私は彼女の美しさに魅せられた! 幾多の世界を渡っても、これほどの気持ちになったのは初めての事だ!どうか、私のこの愛を受け取っていただきたい!」
「え、えぇぇ……」
全人類からの求愛(18禁クラスのものも少々)なら受けた事のあるレッドやホワイトも、ブルーが絶賛されている今の光景に困惑している。その証拠に、ブルーも戸惑いを隠せずモジモジしている。
その光景を見て、リヴァイアギルディが苦虫を噛み潰したような表情を見せた。
「むぅぅ……! とうとう出てしまったか、奴の悪癖が。騎士道を奉じる堅物であるが故、あぁなったら止まらん!」
「そ、そうなのか……?」
「このままでは埒が明かない。ここは1つ、巨乳属性とツインテール属性を兼ね備えたお前に決闘を申し込むぞ、テイルホワイト!」
「また名指しかよ……! つーか巨乳属性は持ってないって!」
そう叫ぶホワイトだが、対戦相手として指名された以上、自身にもそれ相応のプライドがある為、引き下がれない。
「お、おい。大丈夫なのかよホワイト?」
「しょうがねぇだろ。ここは俺が何とかする。レッドはとりあえずブルーの方に気を配ってくれ。何かあったら助けてやるんだ。……可能な範囲で」
「お、おう……」
ブルーをレッドに任せて、ホワイトはリヴァイアギルディに真正面に向かい合った。
「おっと。まだ名を名乗ってなかったな。俺はリヴァイアギルディ。いざ、尋常に……!」
「威勢だけは良いな。行くぜ!」
そう言って2人が戦闘態勢に入っている間も、クラーケギルディはブルーにプロポーズを続けていた。
「どうか、我が想いを! 愛しのプリンセスよ!」
「や、で、でもそんなの、困るし……」
「かつて我らが大いなる首領様に剣を捧ぐ誓いを立てた際、あのお方は仰いました。お前の剣に相応しい相手は、己自身の手で見つけよ、と! そして今、私はようやく首領様のお心遣いに報いる時が来たのです!」
「いや、気持ちは分かるけど、あたし達は基本敵同士だし……」
「最高の貧乳を持ちし、麗しきプリンセスよ、どうか!」
「……は?」
クラーケギルディの最後の方の言葉を聞いて、それまで顔を赤らめていたブルーは虚をつかれた表情になった。
「最強のツインテールは貧乳こそ相応しい。生涯をかけた私の想いが今、ようやく結実しようとしている。これほどの輝かしき貧乳属性をもつ者と出会えたのは幸運の一言に尽きます!」
遠巻きではあるが、大勢のギャラリーに見守られる中で、この会話は公開処刑に近いようにホワイトは感じられた。念を入れて、ホワイトはリヴァイアギルディに質問をした。
「……なぁ、リヴァイアギルディ。変な事を聞くけどさ。あんたは多分巨乳属性を糧にしてると分かるんだけどさ。あいつはひょっとして……」
「ほう! 察しが良いな。その通りだ、あやつは貧乳属性という下品な属性を兼ね備えている。故に俺とは相容れないのだ」
刹那、ホワイトは理解してしまった。なぜ愛香があのテイルブレスを使っても変身出来なかったのかを。そんな彼女の下に、トゥアールからの通信が入った。明らかに上機嫌な口調に変わっている。
『康太様も理解されてるかと思いますが、これで愛香さんが巨乳属性を受け付けない体質がある事がはっきりしましたね! あれだけ絶賛されてる以上、着々と貧乳属性が芽生えてるに違いありません! 心で嫌がってたけど、やっぱり体は……グッフッフッフッフ!』
「……トゥアール。これ以上総二と一緒にお前を擁護出来る自信が無いから、命が惜しかったら止めといた方が良いぞ?」
ホワイトがげんなりと呟きながら横目で様子を見ていると、ブルーがフォースリヴォンに無言で手を当てて、ウェイブランスを握った。不敵な笑みが周りにいる人々の恐怖心を植え付けている。
「……はは。こんなもんよね、エレメリアンなんてさ。……もうどうでもよくなっちゃった。みんな避難した? 思いっきり暴れまくりたいし、この辺更地にしても、一応保険は利くよね?」
「無茶苦茶言うなよ⁉︎ 国が色んな意味で傾くぞ⁉︎」
レッドが、地球の終焉を迎えないように最後の抵抗を見せている中、リヴァイアギルディが痺れを切らしたのか、大声をあげた。
「じゃれ合いもそこまでだ! 向こうで勝手にやっていろ! ここから先は我々だけの戦いを始めるぞ、テイルホワイト!」
「えっ⁉︎ あ、あぁ!」
ホワイトも気を取り直して、ファイティングポーズをとった。その2秒後には、テイルホワイトとリヴァイアギルディ、両者は同時に飛び出していた。
「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「ふんっ!」
ホワイトの俊敏な動きに対し、リヴァイアギルディはその図体に似合わないような素早さを見せて、ほぼ互角の勝負を展開していた。周りのギャラリーからもどよめきが起こっている。
「ダァッ!」
「むっ!」
ホワイトがリヴァイアギルディの拳を受け流すようにいなして、カウンターの回し蹴りを決めても、少し後ずさるだけで、余裕が見られる。両者は横に動いて攻撃のチャンスを伺い、フェイントを入れて一気に詰め寄り、パンチを決めた。互いの拳が直撃し、両者は吹き飛ぶ。リヴァイアギルディはそのまま人がいない駐車場に落下してアスファルトにクレーターを作った。一方のホワイトはギャラリーの真上、つまりビルの壁に足をついて衝撃を最小限に和らげた。とはいえビルの壁面にヒビが大きく入ったところから見て、リヴァイアギルディの一撃の重さが理解出来てしまう。
「(こいつ、強い……! 他の事とか気にしてたら、一発でやられる……!)」
リヴァイアギルディが起き上がって再びギャラリーの輪の中に入ると、ホワイトも勢いをつけてリヴァイアギルディに向かってジャンプした。リヴァイアギルディはホワイトの着地点を予測して、そこに拳を突き出した。対するホワイトは地面に降り立つ直前で右手を地面に当てて、右腕の腕力だけで飛び上がり、リヴァイアギルディの頭上を越えた。
「なっ……!」
これにはリヴァイアギルディも反応出来ずに拳が何も無い地面を抉る。その隙にホワイトは一回転して蹴りを入れた。リヴァイアギルディは地面を転がり、ホワイトは一旦距離を置いた。リヴァイアギルディは膝をつきながら、ホワイトを絶賛した。
「ぬぅ……。さすがはテイルホワイトだな。テイルレッドと共にドラグギルディを倒しただけの事はある」
「そいつはどーも……!」
ホワイトがそう言うと、右腕を前に突き出した。その理由は至極簡単だった。
「オーラピラー!」
直後、テイルブレスから放たれた光がリヴァイアギルディの頭上から降り注ぎ、身動きを封じた。
「! なるほど、これがオーラピラーというやつか……!」
リヴァイアギルディの動きが鈍くなっているのをチャンスと見たホワイトは必殺技の態勢に入った。
「ブレイクレリーズ!」
ホワイトは飛び上がり、右拳をリヴァイアギルディに向けて突き出すと、ブースターから火が噴いて加速した。
「シャイニングフィスト!」
これで決まる。誰もがそう思っていたその時、リヴァイアギルディは咆哮と共に、
「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅっ! はぁっ!」
オーラピラーを自ら打ち破り、両腕をクロスしてシャイニングフィストを受け止めた。
「なっ……⁉︎」
「ぐぅぅぅぅぅぅ……!」
両足は陥没しているが、これまでのエレメリアンとは違い、完全に耐え切っている。やがて、ブースターの勢いが弱まったところで頃合いと見たリヴァイアギルディは押し返すようにホワイト弾き飛ばした。
「うわぁ⁉︎」
ホワイトは地面に着地したものの、バランスを崩して両手を前についた。端から見ればか弱い乙女のようなポーズをとっているみたいで、普段なら女子からの黄色い歓声が聞こえて来そうだが、周りからはどよめきが起こっていた。それだけホワイトの必殺技が破られた事に動揺している証拠である。
「ぐっ……! た、確かに良い拳だ。だが、この程度で押し倒されるほど、俺も甘ちゃんでは無いからな……!」
「な、なんてタフネスな野郎だ……!」
「ホワイトの技が、全然効いてないなんて……!」
ホワイトが息を荒げる中、ブルーを押さえつけていたレッドも驚きの表情を浮かべている。
「このままではホワイトお姉様がピンチですわ!」
「頑張れー! テイルホワイトー!」
「お姉様ぁ〜! ファイトォ〜!」
「テイルレッドも、負けるなー!」
劣勢に見えるこの状況を何とかしようと、周りの人々は精一杯の声援を送っている。出来ることなら危険だから逃げてほしい、と言いたいところだが、今のホワイトにそう叫ぶだけの余裕はなかった。
「(くっそ……! ただ勢い付けて殴り倒すだけの攻撃じゃ通用しないって事か……! とんでもなく厄介な野郎だ……!)」
ホワイトにはもう1つの必殺技、「シャイニングナックル」があるが、今しがたシャイニングフィストを破られた事を考えると、その技も通じるかどうか、確信が持てない。
ホワイトが打開策を考えている間も、皆からの応援は鳴り止まない。そんな中で、ホワイトやレッド、ブルーの耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ツインテイルズ〜! 頑張ってくださいましー!」
どことなく幼げに聞こえるその声のした方を振り向いてみると、予想通り、そこには生徒会長の慧理那が必死に応援している姿があった。その傍らには最近総二達のクラスの副担任になったメイド長の尊もいる。
「また会長がいるし⁉︎」
慧理那の登場が功を奏した(?)のか、ブルーが怒りを抑えつけて、見知った顔を案じた。
「ま、マズイわね。会長の存在に奴らが気づいたらこのバカ騎士に狙われちゃう! だって会長はあたしよりも胸が小さいし、……そう、結構あたしよりも小っちゃいし……!」
「何故繰り返す必要が⁉︎」
失礼な言い方になるかもしれないが、確かに貧乳で尚且つ強力なツインテール属性を持つ者として、愛香の次に狙われるのは、間違いなく慧理那だ。現に、何度も彼女はエレメリアンと遭遇しては狙われる立場にあるのだから。
慧理那を優先的に守ろうとしてレッドやブルーが動いたのを見て、2体のエレメリアンも慧理那の存在に気づいてしまった。最初にリヴァイアギルディは目を細めてこう言った。
「中々のツインテールだな。だが巨乳でないか。せめてその隣にいる女ほどなら良かったのだが……。ままならぬものよ」
ホワイト達もこの答え方はある程度予想できた。何故ならリヴァイアギルディが追い求めているのは巨乳属性。今の慧理那には目もくれないだろう。だが問題は貧乳属性のクラーケギルディだ。格好の餌、もしくは絶賛の的に見えてもおかしくない。
が、クラーケギルディはそんな彼らの考えとは裏腹に意表を突く発言をした。
「確かに良きツインテールの持ち主だ。だが貧乳属性を芽吹かせる可能性は、万に1つもないと断言出来る」
「へっ……⁉︎」
クラーケギルディが抜き身の剣を慧理那に突きつけて高らかに告げると、尊が警戒しながら言及した。
「何だと貴様! 突然お嬢様に向かってその言葉遣いは……!」
「幼き少女の胸が小さいのは百も承知。故になんらときめく道理がない」
それがクラーケギルディの騎士道。その姿は刃の如く鋭い信念を感じさせるものだった。これにはさすがの慧理那や尊も何も言い返せずに押し黙ってしまった。
だが、ブルーの怒りが最高潮に達してしまう事にも繋がってしまった。
「なるほどね。……って事はあたしは当たり前では無いと?」
こうなってしまってはもう止められない。レッドはクラーケギルディの破滅を覚悟した。
だが、クラーケギルディは不意にブルーの方に目線を向けてこう言った。
「おっと。話が逸れてしまいました。プリンセスよ、私がいかに本気であるか、見せて差し上げましょうぞ! とくとご覧あれ!」
中々返事を貰えずにいたクラーケギルディは証拠を見せようと、両手を八の字に広げ、凄まじい闘気を漲らせた。
途端に、彼の身をまとっていた鎧……否、そう見えた、無数の触手が意志を持ってうねり始めた。それはまさに、海の魔獣、クラーケンを彷彿とさせる姿だった。
「こ、こいつがクラーケギルディの戦闘形態なのか⁉︎」
以前、ドラグギルディが竜の翼のようにツインテールを生み出したのと同様に、自らの信念をかけて多量の触手を見せつけているのかもしれない。レッドが手に持っていたブレイザーブレイドに力を込めていると、
「い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎」
突然、それまで鬼神の如く振舞っていたブルーが絶叫と共にその場にうずくまったのだ。これにはレッドやホワイトも目を見開いている。
「お、落ち着けブルー! 一体どうしたってんだよ!」
「し、触手……! 触手が……!」
確かに不気味な感じはするが、見た目ほどグロテスクさは感じられない。生理的嫌悪を引き起こしているブルーを見て、レッドやホワイトだけでなく、クラーケギルディも困惑した表情を浮かべている。
「な、何故怯えてらっしゃるのですか、姫⁉︎ これは我が求婚の儀であり、あらん限りの愛の証明なのですよ⁉︎」
「いぎゃあぁぁぁぁぁぁっ⁉︎ 触手にプロポーズされたぁぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎」
「そ、それほどにまで拒絶されるなんて⁉︎」
クラーケギルディは随分ショックを受けているようだ。どうやらクラーケギルディのそれは、自らの信念というよりかは一種の求愛行動だったらしい。ブルーは絶叫の最中、レッドに向かって喚いた。
「うぇぇぇぇぇん! あんたのせいよ! あんたがいつまで経っても何もしないから、初プロポーズがあんなのに〜!」
「えっ⁉︎ 俺のせい⁉︎」
「酷いよ、こんなのあんまりだよ……!」
「お、落着けよ! 俺やホワイトなんてこの数日で何十回とプロポーズされてんだぞ! ……エレメリアンも含めて」
「その中には美人も含まれてたでしょ⁉︎ あたしなんて触手なのよ⁉︎ うぅぅぅぅぅぅっ……!」
発狂しているブルーに、彼女をなだめようとしているレッド、更にショックで何も言えずにいるクラーケギルディを見据えて、リヴァイアギルディはわざとらしくそっぽを向いて舌打ちし、ホワイトに告げた。
「ちっ……! 興がそがれたな。ホワイトよ、今日の勝負はまたに預ける! 次の戦いまでに、その不甲斐ない仲間の涙を拭いておけ!」
「あぁ、そうさせてもらう」
「言っておくが、俺は此奴ほど甘くは無いぞ」
義理の堅さは中々のものらしく、悪態こそつけど、ブルーを泣かせてしまった仲間の責を感じているようだ。悔しいが、今回の戦いにおいてはリヴァイアギルディの方が圧倒的優位に立っていたと、ホワイトは実感せざるを得ない。
そのリヴァイアギルディは、クラーケギルディを強制的に帰還させようとした。
「ぐぅぅ! は、離せリヴァイアギルディ! 姫にまだ返事を……!」
「貴様それでも武人か⁉︎ 相変わらず往生際の悪い奴だな!」
それでもなお引きずられていくクラーケギルディは、最後の抵抗のつもりなのか、一本の触手がブルーめがけて伸ばされて、それは右手の甲にピトッと触れた。まるで恋人との別れを惜しむかのように。
「……!」
2体のエレメリアンがその場から消えた瞬間、ブルーの体が発光し始めた。
「マズい!」
『総二様、康太様! 愛香さんを……!』
「分かってる! レッド、捕まれ!」
レッドが気絶したブルーを抱き抱えると、ホワイトがその2人を掴み、オーラピラーを薄く展開させると、ギャラリーのいる所から全速力で立ち去った。あまりの速さに、ギャラリー達は急いで追いかけようとしたが、途中で見失ってしまった。
ほとんどの人がそのまま引き返していったのだが、黄色い髪の少女だけが、諦める事なくホワイトが立ち去っていった方向に走って行ったのを、誰も気に留めていなかった。
ホワイトは2人と共に人気のない路地裏に駆け込み、ようやくオーラピラーを解除したと同時に、ブルーの変身が解けて、愛香の姿に戻った。
「あ、危なかった……!」
レッドとホワイトは深く息をついて、その場に座り込んだ。後少し遅かったら、ブルーの正体が全国ネットどころか、世界中に晒される事になっただろう。
『そういえばドラグギルディとの戦いの後も、力尽きて強制的に変身が解けてましたよね。危険な事ですし、次のメンテナンスで対策を講じておきます』
「あぁ、そうしてくれると頼む」
申し訳なさそうに通信するトゥアールに対し、ホワイトはそう呟く。
「ところで、ホワイトは大丈夫だったのか? 結構ヤバそうだったけど……」
「……まぁ、はっきり言ってあのまま続いてたら、無事じゃすまなかったかも」
ホワイトの脳裏には、先ほどまでの戦闘が思い起こされていた。これまでの戦法がまるで通じていなかった。もちろん徹底的にデータを調べ上げ、それなりの対策は練っていただろうが、ホワイトには、それだけとは思えない、リヴァイアギルディに備わっていた実力がものを言っていたように感じられた。
「(こりゃあ一旦、初心に戻って鍛え直す必要があるな……)」
ホワイトが今後の事を考えながら、レッドと共に変身を解除しようとしたその時、通信にトゥアールを大声が響いてきた。
『い、いけません2人とも!変身の解除をすぐに止めて……!』
「えっ?」
が、時すでに遅し、2人は変身を解除してしまった。そして、総二は勘付いてしまった。今まで何度も体験した、ツインテールの気配が、すぐそこに迫っていた事に。
康太も不意に人の気配を感じ、2人が同時に振り返ると、そこには……。
「……あ。あなた方が、ツイン、テイルズ……」
後を追いかけて、偶然目に留まった先で、変身を解除する所を目撃してしまった慧理那が唖然とした表情で見つめている姿があった。
総二が咄嗟に言い訳をしようとする前に、慧理那は緩やかに壁にもたれかかってそのまま崩れ落ちた。あまりの衝撃に気絶したらしい。
総二は慌てふためき、康太は舌打ちしたが、過ぎてしまったものは仕方ない。
「……しょうがない。どこかに運ぼう」
「そ、そんな事言ったって、まだギャラリーがうろついてるかもしれないのに……!」
「ならば私が手を貸そう」
その声と共に、慧理那が入ってきた路地から姿を現したのは、尊だった。2人の表情が強張っているのに気付いたのか、安心させるように口を開いた。
「お嬢様は私に任せろ。今、他のメイドに手配して逃げ道を確保する」
「あ、ありがとうございます……」
「その代わり、私やお嬢様にも聞かせてもらいたい」
その口調には、威圧感というよりも、懇願するようなものが含まれている。
「世間の乱痴気騒ぎを見れば、隠したいという気持ちはよく分かる。だが、お嬢様はこれまでに何度も狙われている。これ以上傍観者ではいられないよ」
「……分かりました」
「康太……!」
康太が同意した事に総二は驚いたが、康太は首を横に振って、諦めた表情を見せた。
「でも、約束してください。この事は2人以外には話さない事を。もちろん他のメイドさんにもです」
「あぁ、もちろんだ。これでも口は堅いからな」
そして尊は慧理那をおんぶして、空いた片手でA4サイズの紙を見せた。
「この、私の名前を妻の欄に記した婚姻届を出しに誓ってな」
「それは結構です、いやマジで」
久し振りに1万字以上超えました。
もうすぐ放送される「WIXOSS」と「リリカルなのは」の新シリーズが楽しみです!
それでは、次回「第4の適格者?」に、テイル・オン!