Another IS ―もう一つのIS― 作:colorless
「調子はどうかな?」
「いつも通り、大丈夫です」
「こっちもデータ取り終わったから、待機状態にしていいよ~」
機会越しに聞こえる声に返事をしながら、俺は身にまとっていたISを解除する。
ISが無事に待機形態である指輪に戻ったのを確認したところでさっき話していた女性がこちらに歩いてきた。
「いや~、これで『神王』もほぼ完成と言っていいかな」
「そうですね。特に不具合も見当たりません。データの方はどうですか?」
「うん、稼働率八八パーセント。同調率も六七パーセントだから、まあ充分じゃないかな」
女性――篠ノ之束さんの言葉に安堵しながら、俺は自分の右手に視線を落とす。
俺の専用機『神王』は現在待機形態の指輪として俺の右手中指にはめられている。紫色のそれは光を反射し、小さいながらも威厳に満ちた雰囲気をまとっている。
『インフィニット・ストラトス』。通称、IS。とある重大な欠陥を除けば、それまでの兵器とは一線を画す世界最強の兵器。
神王はそれに酷似した『ISであり、ISでないもの』だ。
「約三年。長かったですね」
「そうだねぇ。機体や武装はすぐにできたんだけどね~」
「コアの同調率が五〇パーセントから上がりも下がりもしないなんて、驚きましたよ。三年近くかけて、それでもやっと六五パーセント越えですし」
「一五パーセントでも上がったんだからいいんじゃないかば? あ、そうそう。これからアキくんにはIS学園に行ってもらうよ」
「……はい?」
IS学園。確かISの操縦者を育成する学校、だったはず。毎度のことだがこの人は何の前触れもなく突拍子もないことを言い出すからびっくりさせられる。
「なんでいきなり」
「いきなりでもないよ。なんのために神王を作ったと思ってるの?」
「知りませんよ。束さん、何も言わなかったじゃないですか」
「あれ、そうだっけ? まあいいや。今言ったもんね。今年は箒ちゃんといっくんが入学するからね~。アキくんも一緒に通っちゃいなよ」
箒ちゃんといっくん。本名は篠ノ之箒と織斑一夏。
篠ノ之箒は束さんの妹。といっても、姉とは違って生真面目な性格らしい。話でしか聞いたことがないからよくわからないが。
織斑一夏の方は世界的にも有名だ。ISの唯一の欠陥を克服した、世界でただ一人の人間。『女性にしか扱えない』という欠陥を乗り越えた『世界で唯一ISを扱える男』。
俺も男で神王を扱うことができるが、神王は『ISであってISでないもの』のため、ISを扱える男とはいえない。というか、俺と神王の存在自体、世間には知られてはいない。
「はあ、それはいいんですが……」
「心配は要らないよ~。ちゃんと話は通してあるから」
「いや、俺はまだ通うとは言っていないんですが。……まあ、俺も高校ぐらいは通わなくちゃいけないから別に構いませんけどね」
「あはは~、そう言うと思ったよ。じゃあ明日入試に行ってきてね」
「はい、わかりました……って明日ですか!?」
相変わらず話が唐突過ぎる。すこしぐらい前もって教えてくれてもいいのに。まあ、束さんはいつもこうだから今更とやかく言うつもりもないけど。
「神王の最終調整も終わったしちょうどいいでしょ?」
「まあ、それはそうですけど……。明日ってここからIS学園まで結構時間かかりますよ」
まさか神王で飛んでいけ、なんて言いませんよね。と聞くと束さんは笑って「そんな常識はずれなことさせるわけないでしょ」と答える。いや、あなたにだけは常識を説かれたくない。非常識の塊のようなあなたにだけは。
「だから今すぐしゅっぱ~つ! ってことになるね」
「はあ……わかりましたよ。行ってきますね」
「いってらっしゃ~い」
束さんの満面の笑顔で見送られ、俺はIS学園に向けて出発した。