Another IS ―もう一つのIS― 作:colorless
「というわけで、ISは宇宙での作業を想定して作られているので、操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアーで包んでいます。また生体機能も補助する役割があり、ISは常に操縦者の肉体を安定した状態へと保ちます。これには心拍数、脈拍、呼吸数、発汗量、脳内エンドルフィンなどがあげられ――」
「先生、それって大丈夫なんですか? なんか、体の中がいじられているみたいでちょっと怖いんですけど……」
「そんなに難しく感じることはありませんよ。……人体に悪影響が出るわけではないので」
山田先生の言葉がちょっと詰まった。何か例えを上げようとしたけど、俺や一夏を見てやめたみたいだ。何を言おうとしたんだろう。
「そ、それともう一つ大事なことは、ISにも意識に似たようなものがあり、お互いの対話――つ、つまり一緒に過ごした時間で分かり合うというか、ええと、操縦時間に比例して、IS側も操縦者の特性を理解しようとします。それによって相互的に理解し、より性能を引き出せることになるわけです。ISは道具ではなく、あくまでパートナーとして認識してください」
確かに、ISは操縦すればするほど馴染む。操縦者の特徴やクセを認識して、それ以降の操縦がよりしやすくなる。それは神王も同じだ。
女子が挙手する。
「先生ー、それって彼氏彼女のような感じですかー?」
「そっ、それは、その……どうでしょう。私には経験がないのでわかりませんが……」
経験というのは男女交際のことだろう。赤面してうつむく山田先生を知り絵に、クラスの女子はきゃいきゃいと男女についての雑談をはじめている。
そんな雑談が盛り上がってきたところで、授業終了を知らせるチャイムが鳴る。それを聞いて、山田先生はうつむいていた顔を上げた。
「あっ。えっと、次の時間では空中におけるIS基本制動をやりますからね」
ここIS学園では実技と特別科目以外は基本担任が持つらしい。たった十五分の休み時間のためにいちいち職員室まで戻らないといけない先生たちには、なんというかお気の毒だった。
「ねえねえ、織斑くんってさあ!」
「はいはーい、質問しつもーん!」
「今日のお昼ヒマ? 放課後ヒマ? 夜ヒマ?」
昨日の様子見は終わったらしく、山田先生と織斑先生が教室を出るなり女子のほぼ全員が一夏にスタートダッシュ、席に詰め掛ける。
「いや、一度に訊かれても――」
一夏は一度に色々なことを訊かれて、少し慌てている。
それよりも、なんか向こうで整理券を配ってる女子がいるぞ。しかも有料のようだ。商売をするなよ。
もちろん、俺のところに来る女子はいない。のほほんさんは、友達らしき女子に捕まっていた。
今日は暇つぶしのために本を持ってきたので、それを読みながら困り果てている一夏を観察していると、女子はどんどんとヒートアップし、一夏への質問も多くなっていく。
「千冬お姉様って自宅ではどんな感じなの!?」
「え。案外だらしな――」
そこまで一夏が言ったところで、パアンッ! という音が一夏の頭から鳴り響いた。
「休み時間は終わりだ。散れ」
いつの間にか織斑先生が包囲網を突破し、一夏の背後に。このタイミングでの叩きということは、個人情報をばらされたくないのだろうか。
「ところで織斑、お前のISだが準備まで時間がかかる」
「へ?」
「予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」
「???」
「せ、専用機!? 一年の、しかもこの時期に!?」
「つまりそれって政府からの支援が出てるってことで……」
「ああ~。いいなぁ……。私も早く専用機欲しいなあ」
女子はかなり驚いているみたいだが、一夏はまったく意味がわからないようで首をかしげている。
「本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられない。が、お前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意されることになった。理解できたか?」
「な、なんとなく……」
「先生~。すーくんのISはどうするんですか~?」
のほほんさんが、織斑先生相手だというのに俺の名前をあだ名で呼びながら質問した。あの人相手によくマイペースでいられるな。感心するぞ、本当に。
まあ、質問の内容はごもっともなもの。専用機が一夏には用意される。ということは余った俺はどうなのかという単純明快な疑問だ。
「須藤は既に専用機を持っている」
織斑先生は神王を束さんが作ったことを知っている。どうやら、束さんの名前は出さないでくれるようだ。
そんな説明を聞いて、クラスの女子たちがざわめき始める。どうせそのほとんどが俺の悪口につながるだろうということが容易に想像できるので、耳を傾けることはしない。
「静まれ! 馬鹿者どもが」
織斑先生が一喝。すると騒がしかった教室が一瞬で静かになっていく。さすがは織斑先生。
「あの、先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか……?」
騒ぎも収まり、女子の一人がおずおずと織斑先生に質問する。
「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」
現在、超国家法に基づいて絶賛指名手配中の人物の個人情報をばらしていいのか? 犯罪者ではないが、IS技術のすべてを掌握している人間が行方不明というのは各国政府、機関関係者とも心中穏やかではないらしい。
そんな指名手配中の人と俺は一緒に住んでいたわけだが。
「ええええーっ! す、すごい! このクラス有名人の身内が二人もいる!」
「ねえねえっ、篠ノ之博士ってどんな人!? やっぱり天才なの!?」
「篠ノ之さんも天才だったりする!? 今度ISの操縦教えてよ」
授業中だというのに、篠ノ之の元にわらわらと女子が集まる。
もし、俺が束さんと一緒に住んでいたことを暴露したらどうなるだろうか。そんなやる気もしない、ありえないであろうことを想像してみる。……俺への悪口につながるな。
そんな自己完結に苦笑していると、教室に篠ノ之の大声が響いた。
「あの人は関係ない!」
突然の大声。篠ノ之に群がっていた女子は、何が起こったのかわからないようだった。
「……大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」
そう言って、篠ノ之は窓の外に顔を向けてしまう。女子は盛り上がったところに冷水を浴びせられた気分のようで、それぞれ困惑や不快を顔にして席に戻った。
「さて、授業を始めるぞ。山田先生、号令」
「は、はいっ!」
山田先生も篠ノ之が気になる様子だったが、そこはちゃんと教師として授業を始めた。